2008年03月03日00時07分掲載  無料記事
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時事英語一口メモ

【43】米大統領選挙と「満洲の候補者」

ブログ版 
 “Obama: not a Manchurian candidate”(ロサンゼルス・タイムズ紙、2007年12月3日)、“The Manchurian Conservative”(ニューヨーク・タイムズ紙、2月19日)。前者は米大統領選挙の民主党候補者オバマ、後者は共和党候補者マケインについての記事の見出しである。米大統領選挙とManchuria、満洲(中国東北部)とどのような関係があるのか?(鳥居英晴) 
 
 Manchurianは”Manchurian Candidate” (邦訳「影なき狙撃者」ハヤカワ文庫)というベストセラー小説にちなんでいる。同じ題名で2回、映画化された。”Manchurian Candidate”について、Amazonは次のように説明している。 
 
 Richard Condon's 1959 Cold War thriller remains just as chilling today. It's the story of Sgt. Raymond Shaw, an ex-prisoner of war (and winner of the Congressional Medal of Honor) who, brainwashed with the rest of his unit by a Chinese psychological expert during his captivity in North Korea, has come home programmed to kill. His primary target is a U.S. presidential nominee. 
 
 (リチャード・コンドンの1959年の冷戦スリラーは、今日においてもぞっとするものである。それはレイモンド・ショー軍曹の物語で、彼は朝鮮戦争で捕虜になり、議会名誉勲章を受けた。北朝鮮で捕虜になっている間に彼の部隊は中国人の心理学専門家により、洗脳を受け、人を殺すようプログラムされて帰国した。彼の主な標的は米大統領選挙の指名候補者である) 
 
 小文字の”Manchurian candidate”は「洗脳された人」という意味を持つ。この小説は1962年にジョン・フランケンハイマー監督によって映画化された。キューバ危機の最中に公開され、翌年にはケネディ大統領の暗殺事件が起きた。日本では「影なき狙撃者」「失われた時を求めて」という題名で公開された。 
 
 情報史研究会のブログに同映画について、次のような解説がある。 
 
 「この物語は、中国共産党人民解放軍が、朝鮮戦争中に捕虜としたアメリカ陸軍軍曹レイモンド・ショー(Laurence Harvey)らを満州に連行する場面から始まります。解放軍はショーらに洗脳を施し、トランプのダイヤのクイーンを見ると直ちにマインド・コントロールにかかるように暗示をかけます。このマインド・コントロールにかかったショーは、自らが洗脳されたことは気付かないまま解放され(ここが中国流でしょう か)、本国に送還されます。 
 
 そこに待ち構えていたのが、アメリカに潜伏している、あるいは、アメリカの政治中枢に浸透している、中ソのケース・オフィサーやエージェントです。 ショーの監視役として北朝鮮のエージェントらしき人物も出て来ます。ショーは彼らに操られ、アメリカにおける共産主義活動を推進すべく、要人暗殺を行います。 
 
 この洗脳工作の最終目的はアメリカ大統領候補の暗殺による政権奪取です。何故、大統領候補を暗殺すれば、政権が奪取できるのか。そして、CIAやFBIとの連携の下、事態の解明に乗り出した陸軍情報部に所属するベネット・マーコ中佐(Frank Sinatra)は、暗殺を阻止できるのか。それは、実際に映画をご覧からのお楽しみです」 
 
 2004年には「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミ監督によってリメイクされた。日本語のタイトルは「クライシス・オブ・アメリカ」。舞台は朝鮮戦争から湾岸戦争に置き換えられた。湾岸戦争の英雄にされ、副大統領候補となる二世議員。洗脳するのはマンチュリアン・グローバル(Manchurian Global)という軍需企業だ。 
 
 Wired News(2004年8月3日)でJason Silvermanはリメイク版について、次のように評論している。 
 
 What's most notable about Demme's Manchurian Candidate, in this election year, is how unabashedly subversive it is. This is as vicious an indictment of big business and the American political system as Hollywood has released. 
 
 Democracy, the movie predicts, will soon be completely contaminated by greed. Some possible side effects: U.S. raids on Indonesia, Belarus and Guinea. Giant military conglomerates creating private armies to rent out to the U.S. government. And American citizens reminded repeatedly to prepare for the next terror attack. 
 
 Liberals will have a field day playing connect-the-dots between the film and the Bush administration: President Bush as the pre-programmed pawn of big business, Halliburton as the evil Manchurian Global Corporation. 
 
 日本語版では、次のように訳されている。 
 
 「大統領選挙の年に公開されるこのリメイク版の最も注目すべき点は、臆面もなく破壊的な内容になっているところだ。ハリウッドから出てきた、大企業や米国の政治体制に対する批判としては、とりわけ激しいものだ。 
 
 デミ監督によるリメイク版は、民主主義が近いうちに、強欲によって完全に汚染されると予測している。その結果、起きる可能性があると考えられているのは、米国がインドネシアとベラルーシ、ギニアを侵略すること、巨大軍需産業が米国政府に貸し出すための軍隊を編成すること、そして、米国民が繰り返 し、次なるテロ攻撃に備えるよう言い聞かされることだ。 
 
 リベラル派は喜んでこの作品とブッシュ政権を結びつけるだろう。ジョージ・W・ブッシュ大統領は大企業からプログラムを組み込まれた手先に、米ハリバートン社は映画に出てくる邪悪な企業、マンチュリアン・グローバル・コーポレーションになぞらえられるはずだ」 
 
 今回の大統領選挙で”Manchurian candidate”という言葉はsmear campaign(中傷戦)でのキーワードになっている。勢いを増しているオバマに対し、保守派は”Muslim Manchurian candidate”という言葉を投げつけている。「隠れイスラム教徒」という意味である。ロサンゼルス・タイムズ(12月3)によると、 
 
 So it's worth considering the persistence of the Internet rumors that Obama, well known to Chicagoans as a Christian, is actually a stealth Muslim, a "Manchurian candidate" who would take the presidential oath with his hand on the Koran. 
 
 (シカゴ人にはキリスト教徒としてよく知られたオバマが実際には隠れイスラム教徒で、大統領の宣誓にはコーランに手を置くであろうというインターネットのうわさを検討することは価値がある) 
 
 The rumors first surfaced during Obama's run for Senate but took off in a viral e-mail campaign in 2006. One e-mail called Obama "The Enemy Within." GOP strategist Ed Rogers also pointedly mentioned Obama's middle name, Hussein. In January, the Obama campaign was forced to denounce Fox News for repeating a false Insight magazine report that he had spent fours years in an Indonesian madrasa, an Islamic school. Though CNN sent out a reporter who found that the school Obama had attended had nothing in common with the Pakistani incubators for jihadists, and though his campaign has set the record straight repeatedly, last week the Washington Post ran a front-page story about Obama's "Muslim ties." 
 
 (そのうわさは最初、オバマが上院に出馬したときに浮上し、2006年にウィルス性のEメールで攻撃が始まった。あるEメールはオバマを「内なる敵」と呼んだ。共和党の戦略家、エド・ロジャーズはオバマのミドルネームのフセインをあからさまに言及した。1月には、インドネシアのイスラム教の学校であるマダラサに4年すごしたといインサイト誌の誤った報道をフォックス・ニュースが繰り返したことをオバマ陣営は非難した。オバマが通った学校はジハードの戦士を育てるパキスタンの学校と何の共通性がないことをCNNの記者が確認したのにかかわらず、また、彼の陣営が事実関係を何度もはっきりさせたのにもかかわらず、ワシントン・ポストはオバマの「イスラム教との関係」について、一面で報じた) 
 
 インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙(2月10)のコラムニスト、ロジャー・コーエンによると、 
 
 The attacks, mainly anonymous e-mails, have woven together various threads ― his middle name “Hussein;” schooling in Muslim Indonesia; his Chicago pastor’s embrace of the anti-Semitic leader of the Nation of Islam, Louis Farrakhan; and his calls for dialogue with Iran ― to portray Obama as the Muslim Manchurian candidate. 
 
 (攻撃は主に匿名のEメールで、オバマを隠れイスラム教徒に仕立てるために、いろいろな筋を織り合わせている。彼のフセインというミドルネーム、イスラム国インドネシアでの教育、彼のシカゴでの牧師が、反ユダヤ主義のネイション・オブ・イスラムの指導者、ルイス・ファラカンを信奉していること、イランとの対話を呼びかけていることである) 
 
 また、オバマがターバンを巻いた民族衣装姿の写真が2月25日、インターネットの情報サイト「ドラッジ・リポート」に掲載された。写真は、オバマが2006年に父方の故郷であるケニアを訪問したときに撮影された。ニューヨーク・タイムズのMaureen Dowdは2月27日のコラムで次のように述べている。 
 
 Hillary and her top aides could not say categorically that her campaign had not been the source on the Drudge Report, as Matt Drudge claimed, for a picture of Obama in African native garb that the mean-spirited hope will conjure up a Muslim Manchurian candidate vibe. 
 
 (ヒラリーと彼女の側近は、マット・ドラッジが主張しているように、彼女の陣営がオバマがアフリカの民族衣装を着ている写真の提供元ではないとははっきり否定していない。その写真は悪意を持った期待によって、隠れイスラム教徒という雰囲気を呼び起こすであろう) 
 
 シカゴ・トリビューン紙(2月28日)によれば、フォックスTVはオバマへの中傷攻撃を続けている。 
 
 The only reason to say "Barack Hussein Obama," as radio talk show host Bill Cunningham did repeatedly Tuesday in warming up a John McCain campaign rally in Cincinnati, is to try to excite anti-Muslim, anti-Arab prejudices (though Obama is neither Muslim nor of Arab descent) and not so subtly suggest that Obama's actually a slippery foreigner. 
 
 (シンシナティのジョン・マケインの集会を盛り上げるために、ラジオ・トークショーの司会者、ビル・カニンガムが26日に何度もしたように、「バラク・フセイン・オバマ」と言う唯一の理由は、反イスラム、反アラブの偏見を刺激しようとし(オバマはイスラム教徒でもアラブ系でもないが)、オバマは実際には信頼できない外国人であるとはっきりではないが示唆するためである) 
 
 Obama is "a stealth candidate, a Manchurian candidate," Cunningham said later on Fox News Channel, his reference being to a book and movie in which a presidential contender has been brainwashed into becoming a sleeper agent for the Communist Party. 
 
 (オバマは「隠密の候補者、Manchurian candidate」であるとカニンガムはフォックス・ニュース・チャンネルで言った。彼は、大統領候補者が共産党の潜伏スパイになるよう洗脳された本と映画について言及している) 
 
 一方、マケインは右派からは“unreliably conservative”(信頼できない保守)と見なされてきた。共和党内外の保守派はマケインについて、彼の不法移民や減税、温暖化、選挙資金規正などの過去の立場を嫌っている。右派評論家のアン・コールターは「マケインが指名候補になれば、クリントンを支持する」とまで言った。右派のラジオ番組司会者、ラッシュ・リンボー、ショーン・ハニティ、ローラ・イングラムも反マケインの論陣を張っている。彼が”Manchurian candidate”と中傷されるのは彼の経歴からである。 
 
 作家のクリストファー・バックリーはニューヨーク・タイムズ(2月19日)で”Manchurian Conservative”と題し、次のように述べている。 
 
 It may strike some conservatives today as odd, if not absurd, to see John McCain being subjected to an auto-da-fé conducted by such Torquemadas of the right as Rush Limbaugh, Ann Coulter, Sean Hannity. The other day, he even endured jeers at a conservative gathering in Washington, by otherwise well-behaved exemplars of conservatism. Indeed, turn on the TV at any hour of the day and you’ll find Mr. McCain being excoriated in harsher terms than he endured from his jailers at the Hanoi Hilton ― variously denounced as a) not conservative, b) really, really not conservative, or even c) so not-conservative as to make you wonder if he isn’t just the latest re-issue of the Manchurian Candidate. 
 
 (今日の一部の保守派には、マケインがラッシュ・リンボー、アン・コールター、ショーン・ハニティのような右派のトルケマダたちによる異端者の火刑に処せられていることは、ばかげてはいないにしても、変な感じがする。先日には、彼はワシントンでの保守派の集会で本来なら保守主義の行儀のいい手本となる人々のやじを耐え忍んだ。実際、テレビをつけると、マケイン氏がハノイ・ヒルトンでの看守から受けたのよりきつい非難を浴びているのを目にする。a)保守派ではない、b)本当にまったく保守派でない、c)彼がManchurian Candidateの再上映ではないかと思わせるように保守派ではない、などの非難されている) 
 
 トルケマダは15世紀のスペインで異端審問所の長官。ハノイ・ヒルトンとはベトナム戦争中に撃墜された米軍兵士が収容されていたホアローの収容所のこと。マケインの乗ったA−4は1967年10月に撃ち落され、彼は北ベトナムの捕虜として5年半を過ごした。 
 
 “Vietnam Veterans Against John McCain”(ジョン・マケインに反対するベトナム帰還兵)なる団体は、マケインは”The Manchurian Candidate”であるとする、キャンペーンをしている。 
サイト 
 
 Time(2月25日)のMark Halperinは、”Things McCain can do to try to beat Obama that Clinton cannot”(オバマを負かすためにクリントンはできないがマケインができること)と題し、16項目を挙げた。その11番目は次ぎのようなものである。 
 
 11. Emphasize Barack Hussein Obama’s unusual name and exotic background through a Manchurian Candidate prism. 
 
 (Manchurian Candidateのプリズムを通して、バラク・フセイン・オバマの変わった名前と異国風の背景を強調すること) 


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