2008年04月10日20時55分掲載  無料記事
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イラン情勢

米国のイラン攻撃はありえない話ではない ポール・ロバート

  ブッシュ政権の対イラン武力行使を排除しない姿勢に最も強く反発していたとされる米中央軍のファロン司令官が、さる3月11日に事実上更迭されたとき、さまざまな外交専門家が、米国によるイラン攻撃の可能性が高まっていると警鐘を鳴らした。米軍がイラクで多くの犠牲をはらっている今の状況で、さらに隣国に先制攻撃をしかけるなど常識では考えられないことではあるが、多くのウソを重ねて戦争行為を続けてきたブッシュ&チェイニーのこと、「可能性はゼロ」と楽観できないことも確かだ。今週、首都ワシントンでの公聴会に出席するために帰国したイラク駐留米軍のペトレイアス司令官についてのいくつかの記事が発表されたが、その一つをここに訳出した。訳者は昨年、10日間ほどイラン国内を旅行して、その親切で良心的な国民性にふれる機会が幾度もあった。訳者が住むこの米国が、新たな愚行に走らないよう、ただ祈るばかりである。(TUP速報/翻訳・パンタ笛吹) 
 
ペトレイアス司令官の証言は、イラン攻撃の合図になるか 
 
ポール・クレイグ・ロバート 
2008年4月7日 
 
4月5日、ロンドンの新聞テレグラフ紙は、以下の記事を掲載した。 
 
「昨日、英国政府高官は、イラク駐留米軍のペトレイアス司令官が今度の公聴会で、『イランが、米国が援助するイラク政府に対して戦争をしかけている』と宣言するだろうと警告した。イランによるイラクへの干渉に関してのこのような強気な発言は、米軍によるイラン軍施設への攻撃のお膳立てとなりえると英国政府は査定している」 
 
ネオコンの召使いとなったペトレイアス司令官は、チェイニー副大統領に書いてもらったこの筋書きを今度の公聴会で発表するだろう。その片棒を担ぐのは、バグダッドでグリーンゾーンの主を務める戦争好きのネオコン、ライアン・クロッカー大使だ。もう一人のネオコンの宣伝マンであるキンバリー・ケイガンが、「イラク国内で、イランが米軍に対して本気で代理戦争を仕掛けていることを米国は認識するべきだ」と述べたように、イラン攻撃への道はウソで着々と塗り固められている。 
 
だが米議員たちに平和への舵取りを期待してはいけない。彼らはイラン攻撃をそそのかしこそすれ、反対はしそうにないからだ。4月3日付けのヘラルド・トリビューン紙は、上院議員やその代理人たちが、国防企業に合計1億9千6百万ドル(約200億円)を投資して、すでに何百万ドルもの利益を貪ったと報じている。 
 
下院軍事委員長である民主党のアイク・スケルトンはすでにイラン攻撃に乗り気である。英テレグラフ紙はスケルトン委員長が、「イランは他人の迷惑も考えないで乱暴だ。政治的だろうと軍事的にだろうと、イランはあらゆる意味においてイラクのシーア派グループと繋がりがあるようだ」と語ったと記している。 
 
スケルトン委員長は、戦争犯罪を犯しているブッシュ政権から言われるままにそれをすべて鵜呑みにしている。もしイランが、イラクのシーア派とそんなに深い繋がりがあるのなら、ワシントン政府はイランを脅すのをやめてもっと友好的になり、イラクの安定化に協力してもらうのが筋であろう。そうすれば米国はイラクの悪夢から解放されるのだから。 
 
4月4日付けのテヘラン発ロイター伝によると、マリキ政権の後ろ盾であるイラクイスラム最高評議会のリーダー、アブデュル・アルハキムの息子モーセン・ハキムは、「テヘランのイラン政府は、イラクへの影響力を積極的に使い、混乱を平和的に解決する橋渡しをしてくれている。バスラでの戦闘が終結できたのも、イラン政府の努力のおかげだ」と述べている。 
 
ところが、外交的に仲裁に入ってイラクに安定をもたらしてくれたイランに対して、ブッシュ政権は感謝するどころか、軍事攻撃をしかけてその悪夢を拡大しようとしているのだ。イラク駐在大使クロッカーは、前述のハキムの発言にすばやく反論した。「バスラでは、イランが先に戦いを始めたのだ」とクロッカーは発言したが、この主張のばかばかしさは明白である。ネオコンに影響された米国のメディアでさえ、「バスラの戦闘は、米軍とマリキ政権がサドル師の率いるマフディ軍を掃討するために開始した」と伝えているのだ。またおおかたの専門家はこの掃討作戦の実の目的を、「米軍がイラン攻撃に踏み切ったときに備えて、クェートからバスラを経由してバグダッドに向かう米軍の補給路線をマフディ軍の妨害から守り、前もってその脅威を取り除くためのものだった」と捉えている。 
 
クロッカー大使はまた、バスラでの戦闘の最中にバグダッドのグリーンゾーンに落とされたロケット弾は、2007年のイラン製だったと言い張っている。しかしもしイランが本気でイラクの武装勢力に武器を与えようとしているのなら、抵抗勢力は今ごろ最新鋭のハイテク対戦車砲や対空ロケット弾を持って米軍と戦っていても不思議がないことくらい、無関心なアメリカ人にさえ分かろうというものだ。もちろん、イラクの武装勢力はそんなものは持っていない。 
 
ネオコンが主張する「イランがイラクの武装勢力に武器を供与している」というウソは、サダムフセインが大量破壊兵器を持っているというウソや、アルカイダとの繋がりのウソや、アフガニスタンのタリバーンが9/11のテロを仕掛けたというウソと同じように、ブッシュ政権がつき続けてきたウソのひとつにすぎない。 
 
ブッシュ政権は中近東で「仕事を終わらせる」ためには、どんなウソでもつき、どんな暴挙でもうまくまとめあげるだろう。 
 
では、「仕事を終わらせる」とは実際にどういうことなのか? それは、イラクとイランとシリアがパレスチナ人に援助をする能力をぶちこわし、南レバノンのヒズボラがイスラエルの侵略行為に抵抗できないようにすることだ。もしイラクとイランが混乱に陥ったなら、シリアは素直に抵抗をあきらめ、アメリカに依存する親米国になるだろう。そうなればイスラエルは、ガザ西岸の残りの土地を奪い取り、南レバノンの水利権も手に入れることができるだろう。これがすなわち、「テロとの戦い」の本当の目的なのだ。 
 
世界中がこの企みをすでに知っているから、米国やイスラエルは本当のところは孤立している。米国があてにできるのは、金銭供与によって支持を得られる国々だけだ。 
 
4月4日にルーマニアのブカレストで開かれたNATO北大西洋条約機構とロシアのサミットで、ロシアのプーチン大統領はこう語った。 
 
「まさかイランが米国を攻撃するなどと、まじめに考える者は誰一人としていないだろう。だからイランを窮地に追いつめるよりも、イランが今よりももっと透明で分かりあえる国になるために我々に何ができるかをともに考える方がよっぽど賢明だと思うのだが」 
 
もちろんその通りだ。しかし戦争好きのブッシュが欲しいのはそんなものではない。 
 
たぶん英国政府は、米国によるイラン攻撃への道筋を回避させるため、前もってテレグラフ紙に「チェニー副大統領が、ペトレイアス司令官やクロッカー大使の下院議会での共謀の筋書きをすでにお膳立てしている」という情報を意図的に流したのではなかろうか。 
 
それとは裏腹に、米国のメディアは、真の意図を覆い隠したまま、ペトレイアス司令官による、「イランがイラクで米兵を殺すために武装勢力に武器を送り続けるのは、すでに米国に宣戦布告をしたも同然だ」という主張を高らかに吹聴するだけだろう。 
 
この木曜日には、ペトレイアス司令官とクロッカー大使によるつまらない見せ物が議会とメディアでどう取り扱われるか知ることになろう。イランを攻撃することによりブッシュ政権がまたひとつ戦争犯罪に手を染めるかどうかが分かるのだ。 
 
(原文) 
Petraeus Testimony May Signal Iran Attack 
by Paul Craig Roberts April 7 2008 
http://www.antiwar.com/roberts/?articleid=12644 


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