2008年05月11日13時16分掲載  無料記事
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ビルマ民主化

日本は国民投票にNO!を ビルマ人弁護士らが民主化支援を訴える

  ビルマ(ミャンマー)軍事政権は10日、サイクロンの被災者救援を優先すべきだとする国連などの要請を無視して、新憲法草案の賛否を問う国民投票を強行したが、国民はこれをどう見ているのか。国内で声をあげることを封じられている国民の気持ちを、国外で民主化運動を展開しているビルマ人2人が同日、東京での集会(主催・ビルマ市民フォーラム)で代弁した。タイからかけつけた弁護士のアウントゥ(ビルマ法律家協会事務局長)と在日ビルマ市民労働組合(FWUBC)代表のティンウィンの両氏は、「新憲法は法的にも政治的も合法性を欠いており、これが施行されればビルマ国民の苦しみはさらに深刻になる」と強調し、たとえ軍政が賛成多数の発表をしても日本をはじめとした国際社会は新憲法を認めないでほしいと訴えた。(永井浩) 
 
▽新憲法はなぜ合法性を有しないか 
 
 アウントゥ氏は1974年から民主化運動に参加、2度の拘束の経験をもつ。88年の全国的民主化蜂起のリーダーの一人だったが、軍のクーデターで国民の願いが血の海に沈められた後、逮捕・拘束の危険から国外に逃れた。現在はタイ西部のメーソトを拠点に、民主化のために闘う人びとを法的に支援するビルマ法律家協会(http://www.blc-burma.org)でロースクール開設の準備などを進めている。 
 
 軍政は新憲法を民主化へのプロセスの一段階としているが、その非民主的内容についてはすでに多くの問題点が指摘されている。たとえば、国家元首として新設する大統領の資格には「軍事知識」が求められ、二院制議会の4分の1の議席は軍に任命権がある。大統領や議員は外国の影響を受けていないことが条件とされ、民主化運動の指導者アウンサンスーチーさんは亡夫が英国人だったため大統領就任も総選挙への立候補もできない。その他、軍の権益と維持するための条項が多く盛り込まれている。 
 
 アウントゥ氏はこの日の集会で、これらの点にくわえ、そもそも草案の起草・審議の過程が法的な正当性を有しないと批判した。軍政はクーデターで実権掌握後の第1号布告で、90年に総選挙をおこない選出議員による制憲議会を召集するとした。また選挙結果を尊重して勝利した政党に政権を委譲すると約束した。ところが選挙の結果、アウンサンスーチー書記長の率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝すると、軍政は政権移譲の公約をホゴにして権力の座に居座りつづけるだけでなく、制憲議会の召集もおこなわなかった。代わりに軍政は93年にお手盛りの国民会議を開催して、新憲法草案の審議を開始した。 
 
 「第1号布告はまだ生きているのに、軍政はみずからそれに反して憲法制定作業を進めた。だから国民投票で賛成が多数を占めても新憲法は正当性をもたない」とアウントゥ氏は主張する。 
 
 また、国民投票に有権者の何%が参加し、何%の賛成が得られれば憲法案が承認されるのかの施行細則は事前に国民には明らかにされていない。にもかかわらず、草案のなかにはすでに「2分の1以上の有権者が投票し、2分の1以上の賛成で成立した」と記されている。そうだとすると、有権者100人のうち51人が投票すれば国民投票は成立し、その過半数の26人の賛成で憲法は成立することになる。つまり国民の26%の賛成で憲法は成立可能なのだ。 
 
 しかも、ビルマでは僧侶を除く18歳以上が選挙権を得ることができるが、どの地区に何人の有権者がいるのかは国民に発表されていない。さらに軍政はあらゆる不当手段で有権者に賛成票を投じるように強制している。(くわしくはhttp://www.burmainfo.org)。国際監視を拒否しているので、公正・公明な選挙は期待できない。 
 
 それでもいったん成立した憲法の修正は可能なのではないかという問いに対して、同氏はきわめて困難だと答える。修正には議員の75%の賛成が必要だが、議員の4分の1は軍によって任命されることになっているからだ。 
 
 たしかに新憲法案には言論・表現の自由や人身保護などの権利も盛り込まれている。しかしそれらの条項はすべて、「国家の安全と治安に反しないかぎり」という前提つきだ。大統領には最高裁長官の更迭の権限があり、司法の独立も保障されていない。 
 
 アウントゥ氏は、「憲法とは国民の権利を保障し、為政者の権限を制限するものだ。だがビルマでは、その逆に国民の権利を制限し為政者の権限を保障する憲法が施行されようとしている。これは国民にエイズのような災厄をもたらすものだ」と軍政をきびしく批判した。 
 
 同氏は今回、在日ビルマ人の招きで来日し、日本の国会議員や外務省などを訪れ「このような憲法を絶対に認めないでほしい」と訴えた。 
 
▽日本には民主化支援の責任 
 
 ティンウィン氏も1988年の民主化運動で指導的な役割を担った一人で、その後もNLDの役員として憲法の起草に関わるなどの活動をしてきた。しかし軍政による逮捕・拘束の危険から96年に来日、難民認定を受けた。現在、日本で働くビルマ人たちが結成した在日ビルマ市民労働組合の代表をつとめるとともに、祖国の民主化運動をつづけている。(http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200704281542076) 
 
 同氏は国民投票のインチキさの一例としてみずからの体験をあげた。軍政は合法的出国者としてパスポートをもつ者には海外でも投票権があるとしている。ところが東京のビルマ大使館に投票に行ったところ入館を拒否された。ティンウィン氏だけでなく、日本で民主化運動をおこない反対票を投じようとしたビルマ人はいずれも排除された。 
 
 ティンウィン氏はNLDの憲法起草作業に参加した経験から、ビルマの軍人たちがいかに国民を欺く才にたけているかを痛感したといい、「軍政はウソの民主化憲法が国民投票で信認されたとウソの発表をするだろうが、わたしたちは絶対に認めるわけにはいかない。これを認めれば、国民はさらに百年、軍政の下で苦しみつづけることになる」と述べた。 
 
 そのうえで同氏は、「日本はアジアで民主主義を成功させた国として、アジアで民主主義を広めていく責任がある。暗闇のなかに一筋の光を求めて闘いつづけるわたしたちとともに、日本の人びとは国際社会のなかでビルマの国民投票と新憲法に積極的にNO!の声をあげてほしい」と民主化運動への支援を求めた。 


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