2008年05月16日13時15分掲載  無料記事
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経済

世界が飲み込まれる「静かな津波」 飢饉の中、アグリビジネス大手は収益急増

  「サイレント・ツナミ」──英国を初めとする各国のメディアは、「静かな津波」として世界中で1億を超える人々が飢饉に苦しんでいることを報道している(原文1)。基本的な日用品の物価の上昇、とりわけ食糧品価格の急激な上昇は、世界各国の多くで抵抗闘争と暴動を引き起こしている。穀物類や食用油、ミルクなどの基本的な食料品の世界的な価格は2000年から漸進的に上昇しているが、2006年米国で金融危機が始まって以降劇的にはね上がった。2006年初頭からコメの価格の世界平均価格は217%上昇、小麦、穀類は136%、とうもろこしは125%、大豆は107%上昇する中、アグリビジネス大手は莫大な収益を上げている。(スウェーデン南部ルンド=Mポワチャ) 
 
 「世界はなぜ飢えるのか」に対する回答として、「人口の増大」「地球温暖化などの気候の変動」「肉消費量の増加」「原油価格の上昇」「中国やインドなど新興工業国の中産階級の増大」「ドル安」などの理由が挙げられているが、それだけではここ数カ月間に急激に襲ってきた食糧危機の説明にはならないだろう。 
 国連世界食糧計画(WFP)のシーラン事務局長は指摘する。 
 「これは飢饉の新たな様相だ。6か月前まではさしあたっての飢餓とは無縁だった何百万もの人々が、現在その脅威にさらされている」 
 
 この危機を促進している要因は上述したように様々あるが、もっとも根本的な問題は、食糧を、石油や貴金属と同じように、市場取引される商品として投機の対象にするようになったことだ。すなわち人口が多すぎるとか食糧が少なすぎるということが問題なのではなく、食糧はあるのだが市場での価格が最貧国、もっとも抑圧された国の増大する人口の手に届かないほど高騰しているということである。 
 
 食糧投資は金融投資者にとって、住宅ローンやその他の焦げ付いたクレジット商品などのペーパー資産から脱却するための避難所になっている。食糧品市場への買い手の殺到は価格を高騰させ、その結果、世界中の最貧層に毎日の食べ物を手の届かないものにした。「債権マネーの農産物への殺到が価格を高騰させている」。 
 
 スタンダードチャータード銀行の食品アナリスト、アバ・オフォンは経済のグローバル化をめぐる調査報道グループ「グローバルリサーチ」(本部モントリオール)に次のように語っている。「これが今の流行だ。今年は農産物のあたり年だ」。(原文2) 
 
 英国のニュー・ステイトメント誌は、「物価上昇を引き起こし 
た狂乱取引」と題した記事で、「人口の増大とバイオ(生物)燃料への切り替えなど長期的な要因はあるが、それが現在の危機、すなわち価格上昇が二倍にし、インドでは食料が配給制になり、英国の農家が、エサ代が割に合わずに豚を殺していることの真の原因ではない。真の原因はクレジット(信用)危機である」(原文3)と言う。 
 
▼コモディティ・スーパー・サイクル 
 
 同記事はさらに、この食糧危機は「この18ヶ月間という短期間で瞬く間に広がり」、「この食糧『不足』は、金融派生商品市場の崩壊に続いた先物売買への投機が引き起こしたものである。クイック・リターンが得られず必死になったディーラーが、住宅ローン債権や株式から何兆ドルも引き上げて食料・食料品と原料に再投資した。これはウォール街では「コモディティ・スーパー・サイクル」と呼ばれ、しばしば大規模な食糧不足を引き起こす行動である」と続く。 
 
 米国の住宅ローン市場の破たんによる損失が増大する中で、プロの投資者とヘッジ・ファンド・グループらはハイリスク・ハイリターンの株式への投資から、より確実な金や貴金属など財産としての価値を持つ商品や、あるいは食糧・食料品、コーンやココアなど「ソフトなコモディティ」へ投機の対象を移している。ニュー・ステイトメント誌は「投資者らは水さえ投機の対象にしようとしている」ことを指摘し、こう結論する。 
 
 「住宅市場で起きたブームと全く同様に、コモディティ価格のインフレはそれ自身で過熱している。価格が上昇すればするほど投資者の手にする利益は上がり、さらに大儲けを狙う者が投機を引き起こす」「もしあなたが一日2ドル以下で暮らす世界の人口の約半分である28億人のうちの一人だったら、彼らが手にする利益はあなたの命で支払われているということだ」 
 
 食品価格高騰の傾向は、先進国にも波及しつつある。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「食糧貯蔵庫を一杯にしよう」と題した記事でこう指摘する。「アジアやアフリカで食料危機が起きているが、ほとんどの食糧はグローバル・マーケットで操作されているため、この傾向が世界へ波及することは間違いない。この国でも食品価格が高騰の兆しを見せているし、そのスピードはさらに加速されることが予想される」「卵やミルクは保存できないが、乾燥パスタ、米や穀物類、ツナや果物の缶詰などは大量買いしておこう」(原文4) 
 
 経済通信社ブルンバーグによると、現在、この「ソフトなコモディティ」への投機は、主要な市場アナリストに第一級の投資市場として高く奨励されている。ロンドンのヘッジファンド会社、パンポロニック・キャピタル・マネージメントLLP社のラース・ステファンセン氏は、「コモディティとエネルギー市場は成長を続けており、変動が大きく不安定なので、ヘッジ・ファンドにとって素晴らしい投資先であり、利益を得るチャンスがより高い」という。 
 
 同社はこのファンドに今後7億5000万ドルの投資を増やす計画である。ヘッジや年金ファンドの大手投資者は先物、すなわち将来の決まった時期に結果が出る株式を買うわけだが、投資した時期とその結果が出る時期の間に商品価格が上昇し、その変動幅が大きいほど投資者は莫大な儲けを手にすることになる。現在の食糧危機を考慮すれば、生活必需品や食糧へ投資すればかなりの利益を上げられることは目に見えている。シカゴ証券取引所の指標では、12月に結果が出る小麦の先物は少なくとも73%、大豆は52%、大豆油は44%の上昇が見込まれている。(原文5) 
 
 昨年のオーストラリアとカナダの小麦の収穫はかなりの不作で、小麦価格が大幅に上昇したが、それは投資者にとっては濡れ手に粟である。こういった生態系や環境の変動による被害は、一般の農家にダメージを与え、食品価格の上昇によって何百万もの人々を貧困に陥れるが、これが上で述べたような「市場の変動と不安定」の側面の一つであり、現在「ソフトなコモディティ」を大手投資者に魅力的なものに見せているものである。 
 
 ドイツ銀行は、短期間でトウモロコシの価格は二倍化、小麦の価格は80%上昇すると予測している。現在凄まじい数の投資者が市場に参入しており、今年の一月からだけで、農業部門への投資活動がシカゴ証券取引所では25%上昇し、シカゴのコール・パートナ社によるとヘッジ・ファンドの参入はトータルで550億ドルに達する。 
 
 こうして大手投資者と企業、とりわけ農産物関連企業は軒並み空前の利益を上げている。 
 
 米国最大の穀物巨大企業アーチャー・ダニエル・ミッドランド(ADM)社の計上利益は3カ月で42%を記録し、この1〜3月期の収益5億1700万ドルを公表した。同社のホームページによると、経営責任者らは4月29日の会議で、この記録は商品市場での投機によるものであることを確認した。「農産品市場の脆弱性はかつての歴史に例を見ないほどの機会を提供してくれました」。ADM社のパトリシア・ウォルツCEO(最高経営責任者)は会議の場でさらに「もう一度、金融流動性と世界の資産ベースにレバレッジして株主に価値をもたらすこういった機会を捉えましょう」と語ったという。 
 
 
 ウォルツ氏の発言が明らかにしたように、この食糧品の異常な価格の高騰は、農産物の生産と供給のそれぞれの段階への企業と取引業者の意図的な介入によって生じていることがわかる。これにより、この最も深刻な世界的穀物不足とインフレの急襲のさ中、穀物の貯蔵、輸送、取引上の操作において、ADMは一年間で460億ドルから3660億ドルへと利益を7倍化させている。 
 ビジネス・ウィーク誌はこの企業に言及してこう書いている。「商品の価格の変動により利益を得、利益を最大化させるための大量の穀物取引操作を行っている」 (原文7) 
 
▼資本統合が進む農業部門 
 
 農業部門はますます直接的な産業・大資本への統合を深めており、数社の巨大企業が配分や取引、生産過程、分配などの基本的な生産・流通システムを支配し、農家への支払いと高価格での販売により利益を最大にしている。ADMは米国のトウモロコシ、大豆、その他の穀物の大部分をコントロールしており、さらに原料の穀物をエタノールに、動物や家畜飼料、一般の食用に加工し、穀物を国内・海外市場に配分している。 
 
 こうして大手農業ビジネスはラテン・アメリカからアジア、中東、アフリカ、東欧全域にわたって暴動と社会の崩壊、悲惨な状況と絶望を引き起こしているわけである。 
 
 4月30日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は大手農業関連企業の利益の計上を報道した。業界第二位のカーギル社は四半期間に10億300万ドルを計上し、昨年同時期より89%の増大である。三位のブンゲ社は2億8900万ドル、昨年より1964%アップである。ディアー社は3億6900万ドルの利益計上である。(原文8) 
 
 モンサント社は事実上穀物種と除草剤生産メーカーの独占企業であるが、この4半期の利益11億3000万ドルを公表しており、この直前の4半期から二倍化している。その他、シンジェンタAG、デュポン、ダウ・ケミカルなども同様に大幅利益を上げている。モザイク社はカリウムとアンモニウム、リン酸を含む肥料の製造会社であるが、この四半期に5億2000万ドルの収益を上げ1134%の上昇率である。 
 
 フォーチューン誌は、これほどの売り上げがあれば実際には「販売契約上のタイムラグが発生するため」市場価格の半分以下で売ることができると指摘している。(原文9) 
 
 
参考原文 
(1)http://www.un.org/apps/news/story.asp? 
NewsID=26412&Cr=food&Cr1=price 
Global food crisis ‘silent tsunami’ threatening over 100 
million people, warns UN 22 April 2008 
http://www.cbc.ca/world/story/2008/04/22/un-world-food.html 
'Silent tsunami' of hunger threatens world: WFP April 22, 2008 
(2)http://www.globalresearch.ca/index.php? 
context=va&aid=8778 
Crisis in Food Prices Threatens Worldwide Starvation: Is it 
Genocide? Global Research, April 24, 2008 
(3)http://www.newstatesman.com/200804170026 
The trading frenzy that sent prices soaring 17 April 2008 
(4)http://online.wsj.com/article/ 
SB120881517227532621.html?mod=fpa_mostpop 
Load Up the Pantry April 21, 2008 
(5) http://www.bloomberg.com/apps/news? 
pid=newsarchive&sid=audmhWw5MR9E 
Bloomberg News Pamplonic to Raise $750 Million for Commodity Hedge Funds 
(6) http://www.admworld.com/naen/ir/financialnews.aspx 
Archer Daniels Midland Reports Third Quarter Results 
(7)http://www.businessweek.com/ap/financialnews/ 
D90BRFOG0.htm 
ADM 3Q profit jumps 42 pct in volatile commodities markets The 
Associated Press April 29, 2008 
(8) http://online.wsj.com/article/ 
SB120949327146453423.html 
Grain Companies' Profits Soar As Global Food Crisis Mounts April 30, 
2008 
(9) http://money.cnn.com/2008/04/28/news/companies/ 
mosaic.fortune/index.htm?postversion=2008050111 
Top Fortune 500 stock: Why it's up 342% May 1, 2008 


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