2008年05月25日17時32分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200805251732240

捕鯨問題

窃盗による告発は許されない グリーンピースによる鯨肉告発問題を考える

  日本の各メディアが報じている通り、調査捕鯨による副産物である鯨肉の乗組員による横領が環境保護団体グリーンピースにより明らかにされた。同団体が調査捕鯨を実施する共同船舶社のユニフォームを着ている関係者から入手した情報によると「家を建てるくらい」の量の横領もあったという。物的証拠が出てきている現在、乗組員による鯨肉の横領、つまり乗組員による鯨肉の窃盗があったことは、捕鯨関係者が隠すことのできない状況になっている。ただ問題は、グリーンピース側による鯨肉の入手方法だ。グリーンピースは西濃運輸が運んでいた鯨肉を配送所から窃盗し、それを物的証拠にあげた。つまり窃盗品を窃盗したのだ。(アデレード=木村哲郎ティーグ) 
 
 21世紀の今日において、捕鯨は不必要であると私は考えている。鯨油の時代は終わり石油が使われており、日本人が飢えに苦しんでいた戦後直後とは異なり、代理肉としての鯨肉も必要ではない。捕鯨は21世紀の今日において「悪」以外何でもない。乗組員による横領が事実であれば、調査捕鯨の正当性を主張してきた日本政府にとって、大きなダメージになる。 
 
 しかし、その悪に立ち向かうのであれば、悪を行使することが許されるのであろうか。 
 
 グリーンピース・ジャパンの佐藤潤一・海洋生態系問題担当部長に話を聞くと、以前から捕鯨船の乗組員が調査捕鯨のバイプロダクトである鯨肉を横領しているという話をつかんでいたという。 
 
 この時点で外部の団体などに調査を依頼することは考えなかったのか、と聞くと、佐藤部長は「日本ではグリーンピースがいくら主張したところで、それを聞いてもらえる状況ではない」と話した。 
 
 このためグリーンピースは今年4月15日、捕鯨母船の日新丸が南氷洋から帰国した東京港に入港した直後から、鯨肉の追跡を始めた。そして翌日の4月16日、西濃運輸により日新丸から個人宅へ送られていた荷物の中身が塩漬けの鯨肉であることを確認。鯨肉横領の物的証拠が出てきたのだ。 
 南氷洋で採れた鯨肉は価格が6月まで決まらないため、それ以前に出回ることはなく、本来は保存されていなければおかしかった。 
 
 問題は、グリーンピースによる調査方法だ。グリーンピース側は青森市内にある西濃運輸の配送所に入り込み、捕鯨船の乗員が私物として配送した宅配物を盗み、段ボール箱を勝手に開けて中身を確認している。 
 
 グリーンピースの佐藤部長は、今回のグリーンピース側による鯨肉の窃盗は「必要悪」として考えているのかという質問に対し、それを否定しなかった。悪を対峙するためには、窃盗やプライバシーの侵害(箱の開封)という行為は許されるべきなのだろうか…。 
 
 グリーンピースはここ数年、同じく反捕鯨運動を続けるシーシェパードとの差異を明確に表明している。暴力行為、法に反した行為を続けるシーシェパード側を非難。法に則った、非暴力的な反捕鯨活動に誇りを持っているように見えていた。日本の捕鯨関係者の中には、グリーンピースとシーシェパードがお互いに連携し捕鯨反対運動を行っていると信じている者もいるようであるが、両団体はお互いを嫌悪さえしているのが事実。私としては、グリーンピース側の姿勢を評価していた。 
 
 佐藤部長によると、今回の鯨肉の窃盗は現場での判断であり、計画性はなかったとしている。また鯨肉の追跡調査そのものも、グリーンピース・インターナショナルからの指示ではなく、グリーンピース・ジャパンによる独自の計画であったとしている。 
 
 今回の窃盗行為について佐藤部長は「シーシェパードとは異なり、暴力を使ったわけではない」と述べた。窃盗やプライバシーの侵害は肉体的な暴力ではないが、明らかな犯罪行為だ。グリーンピースは警察などのような権限を持つ組織ではなく、環境保護団体のはずだ。日本による捕鯨が悪だからといって、反捕鯨を訴える者が悪を行使する理由にはならない。 
 
 この行為によって、グリーンピースは、捕鯨という悪を繰り返す日本政府と変わらない「三流」になってしまった。 
 
  共同通信によると、「西濃運輸」は16日、グリーンピース・ジャパンが同社青森支店から荷物が持ち出したとして、盗難の被害届を青森県警に出した。青森署は窃盗事件として捜査している。 
 24日現在、グリーンピース側に、青森県警からの出頭要請などはないという。 
 
 グリーンピース側は、業務上横領罪で捕鯨船の乗員を東京地検に告発しており、資料として、自らが盗んだ鯨肉を地検に任意提出している。地検による捜査が始まれば、鯨肉を横領していた悪が裁かれるのかもしれない。もしかしたら、国がらみの、「えせ商業捕鯨」の尻尾をグリーンピースはつかんだのかもしれない。 
 
 でも、と私は思う。窃盗という方法を選択するべきではなかった。何か別の方法を考えもらいたかった。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。