2008年09月12日11時21分掲載  無料記事
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【破綻した築地市場移転計画】(4) 穴だらけの土壌汚染対策法だが、新市場予定地にはそれさえ適用にならない 佐藤克春(―橋大学大学院)

  築地市場移転問題をひとつのきっかけとして、いま、土壌汚染対策法(土対法)の改正論議が起こっています。2002年に制定された土対法は、市街地における土壌汚染の処理ルールを定めたものです。しかしこの法律は、実効性が乏しいとして制定当初から批判されてきました。制定の際には両院の環境委員会にて「施行後10年以内であっても適宜、見直しを行ない、制度の改善を図ること」との附帯決議がされたほどです。ここでは、市場の移転問題に関連した土対法の問題点について述べ、その改正論議を紹介します。(『消費者リポート』) 
 
◆土対法の問題点 …敢叉遡拡楼呂龍垢機
 
  そもそも土壌汚染は、日に見えて汚染がわかることは稀です。従って対策を立てるには、以前その土地に何が建っていたかを調べる地歴調査や、専門業者によるボーリングや土壌採取による調査が必要となります。こうした調査義務を課される土地が少ないことが、土対法の問題のひとつです。 
 
  土対法では、有害物質使用特定施設の使用廃止時に限って、調◆査義務が課せられます(第3条)。特定施設とは、鉛や六価クロムなどの重金属、トリクロロエチレンなどの揮発性有機化合物などを使用する施設で、具体的には化学・機械・金属工場などが対象となります。使用廃止時とは、それら工場や事業所が公園や宅地向けに用途転換することを指します。 
 
  従って、工場から工場への建て替えや、同法の施行前に用途転換された土地に対しては、汚染調査義務は課されません。 
 
  05年度末までに全国で2295件の有害物質使用特定施設の廃止がありましたが、そのうち1750件、つまり 
約4分の3が調査猶予という形で汚染調査を免れています(環境省水・大気環境局平成17年度土壌汚染対策法 
の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果)。 
 
  土対法がいかに「土壌汚染を明らかにしない」法律かが見てとれます。日本全国に、土対法の汚染調査義務を課されない潜在的な汚染地が多数あると考えられます。 
 
◆土対法の問題点◆〆把禪造僚萢方法 
 
  土壌汚染の処理方法は多岐にわたります。そして処理費用の大きさは、処理方法によって大きく異なります。つまり処理方法の選択は、処理費用を調達できるかが大きなポイントとなります。たとえば、「盛±・舗装」を採用した場合に比べて、「除去搬出」にはおおむね数十倍の費用がかかります。 
 
  土対法のもうひとつの問題点は、土壌汚染の処理方法の選択に大きな幅を持たせていることです。やや大げさに言えば、法的な義務としては最低限の処理しか定めていないということです。具体的には、「舗装・盛土」を全面的に認めている点です(施行規則第27〜30条)。 
 
  さらに、土地所有者が同意した場合には、立入禁止で済ませることができます。このように、土対法の下では処理 
方法に大きな幅を持たせており、原状回復にはほど遠い処理方法を認めています。 
 
  しかし、最低限の処理しか定めていない土対法に比して、東京都心部においては、事業者が自発的に「除去搬出」などの厳しい処理方法を採用しています。これには、00年に話題となった大阪アメニティーパークにおける土壌汚染をめぐる一連の騒動などをきっかけとして、土壌汚染が抱えるリスクヘの社会的認識が一定程度浸透したことが背景にあります。「舗装・盛土」しか施されず、依然として汚染土壌が地中に残る土地には、買い手がつかないということでしょう。 
 
  いまひとつの背景は、東京都心部の高地価です。掘削除去には高額な費用がかかりますが、それら費用を負担したうえでも、地価が高額なために十分に元がとれるからです。 
 
◆土対法の網にかからない豊洲新市場予定地 
 
  豊洲新市場予定地にかつてあった都市ガスエ場は、土対法の有害物質使用特定施設に該当します。しかし、工場は土対法が施行された03年以前に操業を終え、土地の用途転換を済ませているので、適用を受けませんでした。 
 
  土対法の網にかからなかった豊洲新市場予定地ですが、現在、都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)の枠組みで、専門家会議によって処理方法の検討が行なわれています。 
 
  この条例は00年に制定されたもので、3000平方メートル以上の土地の改変時に土壌汚染調査を土地所有者に義務付けています(第117条)。しかし、その処理基準は土対法同様幅のあるものとなっています。 
 
  現在、いわゆる専門家会議が行なっている処理対策の検討は、この条例に基づいています。どのような処理方法を採用し、どのくらいまで処理するのかなどの検討がされています。専門家会議は、「ゼロリスクを目指すのではなく、リスク管理を行なう」として、「除去搬出」は一部にとどまり、封じ込めを含む処理を企図しています。 
 
◆土対法対象地拡大打ち出した民主党案 
 
  先の国会で民主党は、豊洲新市場予定地を念頭に置いた土対法の改正案を提出し、現在、参議院を通過して、衆議院で留保となっています。 
 
  民主党案は、市場や公園、学校など公共施設に使われる土地に対しては、03年の土対法施行前に有害物質使用特定施設の廃止・用途の転換を行なった場合でも、汚染調査義務を課すというものです。これによって、豊洲新市場予定地を土対法の枠組みに入れようとするものです。 
 
  改正案が成立した場合には、豊洲新市場予定地には依然として地中に有害物質が残っているので、土対法の指定区域となります。つまり法的には汚染された土地となるのです。このレッテルは移転是非をめぐる議論に大きな影響を与えるでしょう。 
 
  他方、環境省も「土壌環境施策に関するあり方懇談会」を発足させ、08年に報告を出しました(環境省・土壌環境施策に関するあり方懇談会報告_)。その内容は多岐にわたりますが、ひとつのポイントは、汚染地毎にリスク評価を行なったうえで処理方法を選択すべきという主張です。現在、多額の費用がかかる「除去搬出」が多くの汚染地で採用されていますが、こうした風潮に「待った」をかけるものです。 
 
  土壌汚染への対策としては、「通常は『舗装・盛土』で十分」という立場であり、「普及o・発活動」が必要と述べています。こういった発想は、専門家会議が出している豊洲新面場予疋地の処理案とフィッ卜するものです。 
 
◆安全と安心 リスクコミュニケーション 
 
  築地市場の移転に反対する人々の多くは、いくら専門家会議が「安全だ」と言っても、有害物質が未だに埋まる豊洲 
は危険だと考えるでしょう。 
 
  専門家会議が提示する処理方法が絶対安全なゼロリスクを目指していないのが、「安心」を得られていない理由の 
ひとつです。ゼロリスクでない限り、リスクは残ります。 
 
  ゼロリスクを目指すのか、リスクを受容するのか、これは社会的判断に委ねるべきです。ゼロリスクも含めた複数の 
検討案の公開、それを基にした利害関係者による議論と判断、つまり本当のリスクコミュニケーションが必要でしょう。 


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