2008年09月29日00時19分掲載  無料記事
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すべてを変えた1週間 新自由主義経済学者の3つの妄想 アン・ペティフォー

openDemocracy  【openDemocracy特約】この1週間ですべてのものが変わった。米国での一連の異様な出来事―レーマン・ブラザーズの破たんからメリル・リンチの売却まで、巨大保険会社AIGの国による買収から連邦準備制度理事会の緊急救済案までーは金融市場における危機を、世界を規定する経済統治のモデルの基盤そのものに関する議論に変えてしまった。 
 
 30年間にわたって、世界的な金融という船はグローバリゼーションの経済学―シカゴ学派の欠陥のある新自由主義経済学―によって舵を取られてきた。規制緩和と自由化を求めた彼らの航海図によって、世界経済は前例のない大きさの金融ハリケーンに遭ってしまった。この危機は、不動産の価値、雇用、年金と投資それに大小の会社がやっと手に入れた業績をとてつもなく破壊するものであることが判明するであろう。とりわけ、この危機は数百万の罪のない市民、そのほとんどは貧しい人々であるが、の生活と未来を損なうであろう。 
 
 伝統的エコノミストは、わたしが"debtonation day"と呼ぶ2007年8月9日に金融ハリケーンが上陸した時でさえ、危機が来ているとは見なさなかった。彼らはまだそれを理解していない。彼らは、金融部門の船の主計官つまり船長、乗組員、乗客に警告をしそこなった。いまでも、彼らの知的・政策地図は、これから先の道を示していない。 
 
 これは、伝統的な新自由主義経済理論が経済における金融の役割を軽視するからである。システム的債務超過は、伝統的経済学の想定された世界では許されていない。シカゴ学派のほとんどは、アービン・フィッシャーのBooms and Depressions (1932年)を読んだことがない。ジョン・メイナード・ケインズの貨幣と利子についての本を読んだことがあったとしても、金融の規制についての彼の論理的根拠を中傷するか過小評価するためであった。代わりに彼らは、「大きな政府」の強力な敵である、自由市場主義者のミルトン・フリードマンをもてはやした。 
 
 しかし、2008年9月14-20日の1週間に、一般市民と多くのメディアでさえも、金融部門と政府の知的・政策の破たんの大きさを記録し始めた。誰ももうだまされないように見える。自由市場主義者はいまや、社会主義者が当惑するような熱心さで大きな政府を奉じている。既成メディアでのより保守的な意見でさえも、彼らが長年支持してきた欠陥のある経済学に異議を申し立て始めた。 
 
 世界は回転しているのかもしれない。だが、変化はまだ十分ではない。新自由主義エコノミストは世界経済の実権を握ったままであり、何が起きているのかについて、影響力のある誤診を広め続けている。こうしたエコノミストには、世界の主要中央銀行総裁、財務相が含まれる。世界経済が、このすべてを飲み込むような嵐から安全に脱け出すためには、彼らの経済学と3つの主な妄想に異議を申し立てることが重要である。 
 
3つの妄想 
 
 最初で最も重要な妄想は、銀行や金融機関が実際には債務超過(insolvent)なのに、非流動的である(illiquid  資産が現金化しにくいこと)と信じていることである。システム的債務超過は、またも、伝統的経済学の世界からは断固として排除されている。危機を長引かせ、深めた2007年夏と秋の債務超過を認めることは アリスター・ダーリングやハンク・ポールソンのような中央銀行総裁や財務相の破たん(failure)であった。いま債務超過を認めることは破たんである。納税者による流動性資金が中央銀行から際限なく、非効率に流れている背後にあるのは、この破産である。 
 
 第2に、伝統的経済理論を尊敬しているため、中央銀行総裁は幻想のインフレ圧力を許し、高い金利を維持し、金融緩和を拒否することを正当化している。石油と食料価格の上昇にもかかわらず、インフレは、いまは低下している。資産価格(不動産価格の下落を考えよ)のレバレッジ解消は、あらゆる種類の価格を低下させるであろう。また歯止めをかけないと、デフレを引き起こすであろう。デフレは緩やかなインフレより、国民全体にとって、ずっと破壊的であろう。1930年代と1990年代の日本は、厳しい前例である。中央銀行総裁は伝統的経済理論の行き詰まりから脱出し、下向きで、債務リバレッジ解消のデフレスパイラルを阻止するために行動しなくてはならない。 
 
 第3で最も緊急なものは、中央銀行総裁と財務相は、伝統性の制約を脱しなければならないし、手っ取り早い解決策ではなく、システム全体の解決策を考えなくてはならない。数人の空売り投機家を禁止することは、総合的な見直しが必要なシステムをいじくり回しているに過ぎない。 
 
4つの解決策 
 
 では何をしなければならないか?4つの対策がある。 
 
 第1に手始めにすることは、1933年にフランクリン・ルーズベルトが1週間の銀行休業日を宣言したことであろう。それから、連邦準備制度理事会、金融サービス機構、イングランド銀行は時間をかけ、うまく隠された「有害廃棄物」―60億ドル以上のいわゆる「クレジット・デフォールト・スワップ」(CDS)を含む、膨大な申告していない負債―をチェックするために、銀行の帳簿を調べることができる。監督機関が問題の大きさを適切に判断して初めて、確固とした、適切な行動を取ることができる。現在は、彼らは銀行が隠した金融の「大量破壊兵器」がどこにあるのか不確かで、われわれの大量の金をダブダブにしている。 
 
 第2に、金利を高めに保つための隠れ蓑でしかない「インフレ目標政策」には終止符を打たなければならない。高金利は貸し手や債権者には結構だが、債務者にとってはとてもつらいものである。貯蓄家より債務者のほうがずっと数が多い。この金融危機、また地球規模の気候変動の脅威が立ち向かわなくてならないものなら、エネルギー安全保障への投資に金を出すのを助けるために低利の融資金(あぶく銭ではない)が必要になる(このテーマについては、わたしが共著したA Green New Dealを参照のこと)。 
 
 第3に、イングランド銀行と連邦準備制度理事会は、すべての金利について支配権を取り戻すべきである。銀行間貸出金利(いわゆるLiborレート)(訳注)はもはや、英国銀行協会で毎日行われる銀行役員の私的な秘密の会議で決められるべきではない。金利は社会に説明する義務を負う委員会によって決められるべきである。金利を設定する時には、金融だけでなく、労働、産業という経済を動かす、すべての人々の利益を考えるべきである、 
 
 第4に、すべての金利について支配力を再び行使するために、イングランド銀行は資本規制を再導入しなければならないであろう。それには、1947年のブレトン・ウッズで合意されたように、新たな国際的な合意が必要かもしれない。 
 
 これらはすべて必要であり、可能でもある。これらは、システム的な脅威に対処するために必要な初期的なシステム的措置である。市民は、国の金融の番人がそれらを迅速に実行することを期待する権利を持っている。 
 
 もし彼らがそうするなら、これらの番人は新しい倫理的指針を必要とするであろう。新しい航海士であり、新しい舵取りである。しかし、必要のないもの一つは、新しい航海図である。それはジョン・マイナード・ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』で提供している。その考えは、1930年代の大恐慌の後に世界に安定の時期を取り戻したように、現在でもうまくいくであろう。これは、バリー・アイケングリーンとピーター・H・リンダートが(The International Debt Crisis in Historical Perspective, MIT Press, 1991で)「国際資本市場での黄金の安定時代」と説明した時期であった。 
 
 そのような黄金の時代に戻るためには、すべてを変えたこの1週間によって露呈された、ひどい破たんに責任がある貸金業者、投機家、伝統的エコノミストは身を引かなくてはならない。すべてのものが、より良きものに変わるために。 
 
*アン・ペティフォー Advocacy International代表。1990年代に、最貧国の債務を2000年を区切りに帳消しを求める運動、ジュービリー2000に関わった。 
 
Advocacy International 
 
訳注 ロンドン市場での銀行間平均貸し手金利のこと。 
「LIBORは英国銀行協会(BBA)により、日に一度発表されている。BBAは、毎営業日のロンドン時間午前11時の時点で指定16行に「対銀行貸出レート」をヒアリングし、上下4行の数字を除いた中8行の平均値を算出・発表している」(野村証券 証券用語解説集) 
 
本稿は独立オンライン雑誌www.opendemocracy.netにクリエイティブ・コモンのライセンスのもとで発表された。 . 
 
原文 
 
 
(翻訳 鳥居英晴) 


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