2008年10月15日08時32分掲載  無料記事
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毒入り粉ミルクで地に落ちた中国の信用 メーカーの隠蔽工作、地方政府の職務怠慢、中央宣伝部の報道統制が被害を拡大

  9月16日、河南省蘭考県に住む何秀麗さんは8カ月になる息子を抱き、CCTVの夜のニュース番組を見ていた。10分近くにもわたって乳製品のリストを延々と流し続けている画面を見ていて恐ろしくなった。「どの粉ミルクにも問題だなんて! それじゃこの子に飲ませるものがない!」。この1週間、中国の多くの家庭が同じ不安に襲われている。 
 
 国家検査免除ブランドである「三鹿」の乳幼児用粉ミルクが、ここ半年間に急増している乳児の腎臓結石に関係していると中国衛生省が公表したのは9月11日、それから5日で「毒入り粉ミルク」の暗い影は全国に広がり、誰もが「メラミン」という聞き慣れない単語を覚えてしまった。 
 
 メラミンは本来、塗料や皮革加工に用いられる有機化学原料だ。それが過去1年間に、多くの国産乳幼児用粉ミルクや、一部の牛乳およびヨーグルトから検出された。メラミンは毒性は高くないが、長期にわたって摂取すれば腎臓や膀胱に作用する。しかも体内に蓄積されやすいため、結石を形成して腎小管を閉塞させ、腎不全を引き起こす。 
 
 現時点での国家品質検査総局(以下、質検総局)の最新の検査データによると、国産粉ミルクメーカー22社の乳幼児用粉ミルク69製品からメラミンが検出された。黒龍江完達山や北京三元などのメーカーを除けば、三鹿、雅士利、伊利、蒙牛、聖元など、国産ブランドはほぼ全滅だ。その中でも三鹿の製品は最もひどく、サンプルすべてにメラミン混入が認められ、粉ミルク1kg当たりになんと2,563 mgも混入していた。 
 
 衛生大臣で、三鹿製粉ミルク事件処理チームのリーダー、陳竺氏は記者会見で述べている。「専門家のリスク評価によると、乳児のメラミン最大許容量は粉ミルク1kgにつき15 mg。中国では体重10 kgの乳児は、1日に100〜200 gの粉ミルクを摂取します。それが三鹿の毒入り粉ミルクだった場合、1日のメラミン摂取量は250〜500 mgにもなります」。 
 
 9月17日8時現在、毒入り粉ミルクの摂取によって腎臓結石を発症した子供は全国で6,244人にのぼっている。そのうち3人が死亡、1,327人が病院で経過観察中であり、重症は158人である。彼らのほとんどが長期間、三鹿の粉ミルクを摂取していた。 
 
▽オリンピック・ベビーが腎臓結石ベビーに 
 
 前述の何さんは目の前のデータを見て、「ナイフで心臓をえぐられたようだわ!」と語る。彼女は息子に生後5カ月から三鹿の粉ミルクを与えてきて、丸々3カ月になる。「1日に100から200gをあげていました。ちょっと前からおしっこの出が悪くて… 。今日は出張から戻ったばかりなので、あした病院に検査しに行きます。もし問題があったらどうしよう…。 今の商売人はなんて腹黒いの! 安全なものなんてないじゃない!」。彼女はこらえきれず、涙で声を詰まらせた。 
 わざわざ計画して2008年の年初に出産した子供だ。オリンピックにあやかろうと思った、と言う彼女は声を落として続けた。「それがこんなことになるなんて」。 
 
 確かに近年、乳製品の安全性に関する事件がたびたびメディアで取り上げられていた。しかしそれらは、03年の遼寧省海城市での豆乳中毒にしろ、06年の安徽省阜陽市での粉ミルクの粗悪品流通にしろ、いずれも名の知られていないブランドか、偽ブランド品であった。一方、三鹿は15年連続で売り上げナンバー1、全国シェア18%、粉ミルク配合技術で「国家科学技術進歩賞2等賞」を取得し、「国家検査免除ブランド」を掲げている。その製品で子供が中毒になるなどと誰が思うだろうか。しかも伊利、蒙牛、雅士利の抜き取り検査も不合格ときて、人々の驚きはさらに大きくなっている。 
 
 事件の経緯をさかのぼると、今年3月から腎臓結石の病児が見られるようになり、6月になるとその数が急増。医師、病児の保護者らの訴えにより、9月になってようやく事件が明らかになった。それまで三鹿粉ミルクのCMはCCTVでゴールデンタイムに放映され続け、商品はスーパーの陳列棚の人目につく場所に並べて販売されていたが、ついにこの食品事故は公衆衛生事件へと拡大し、さらには世界規模の信用危機に発展したのだ。 
 
 事件の経過にはいくつもの疑問が浮かぶ。なぜ粉ミルクに化学工業の原料であるメラミンが混入していたのか。なぜ1,100もあるという検査工程で混入が発見できなかったのか。なぜ国家の品質管理部門が見抜けなかったのか。なぜ毒入り粉ミルクが国家から続々表彰されていたのか。そのうえ宇宙飛行士用の食品にまで指定されている。症例が急増していたのに、なぜ3カ月も真相が明るみに出なかったのか。全国に累が及ぶ国産毒入り粉ミルクの責任は誰がとるのか。 
 
 危機は避けられなかったわけではない。しかし職務怠慢や汚職が連鎖し、被害を避け、あるいは軽減できた重要な時機を逸してしまった。 
 
▽粉ミルクになぜ毒が? 
 
 07年3月、中国産の粉末タンパク質を原料としたペットフードにより、米国で多くの犬や猫が死亡した。これがメラミン事件の発端である。当時FDA(米国食品医薬品局)は江蘇省、山東省にある2社から輸入した小麦タンパクと米タンパクの粉末の一部からメラミンを検出し、これがペット中毒死の原因だとした。中国質検総局はその後の調査でこれを認めたうえ、メラミンの違法添加に対応するための管理・監督強化などの措置を行った。 
 
 07年5月、中国新聞社は次のように報道している。質検総局は急遽、粉ミルク、牛乳、乳幼児用米粉、ソーセージ、パン、マントウ(蒸しパン)、麺類、インスタントラーメンなど12種800製品の食品に対して抜き取り検査を行ったが、メラミンは検出されなかった。 
 
 しかし1年余りが経ち、メラミンの亡霊はまたも出現した。ただし今回、被害に遭ったのは犬や猫ではなく、われわれ人間の子供である。 
 
 江南大学食品学院の教授で、中国教育省重点実験室プロジェクト内の食品科学とその安全実験室の主任である銭和氏は本誌にこう語った。「乳製品製造業で最も重要な指標はタンパク質含有量です。三鹿も含め、多くの企業が窒素含有量から換算してタンパク質含有量を推定しています。ここにつけ入る隙があったのです」。彼女の説明によると、メラミンは窒素含有量が高く、白色無味で、入手もしやすい。そのため、違法業者が原料乳に添加して窒素含有量を高めることが可能で、これが「偽タンパク質含有量」になるのだという。 
 
 三鹿グループの所在地である河北省は、警察による調査ののちひとまず、乳製品加工の4段階(原乳買い取り、生産加工、製品保管、流通販売)の中では、生産加工からあとの3段階での混入の可能性はないと見られ、原乳買い取り段階での調査を進めるとしている。 
 
 これに対し業界関係者が記者に語ったところでは、三鹿ら大手企業は傘下に酪農場を有し、一部には専門の技術者と管理者を配置していて、品質をコントロールすることはいくらでも可能だという。また三鹿は少量ではあるが、傘下の酪農場以外からも原乳を仕入れているとのことだ。関係者は言う。「それらの原乳は通常、酪農家が搾乳して集乳所に持ち込んだもの。それを買い取り業者が缶に詰めたうえでメーカーに回していた。酪農家−原乳買い取り業者間には品質のコントロールはありえない」。 
 
 酪農家の中には買い取り業者と契約するだけで、自分が納入した原乳がどこの企業に売られるのか知らない人もいる。しかし原乳販売者はその行き先を知っている。彼らは原乳を三鹿グループだけに供給していたわけではない。自分たちが買い取ってきた新鮮な原乳を、いちばん高い値で買ってくれる企業に売るのだ。原乳はこの間に水で薄められ、さらには化学物質を添加されて、タンパク質含有量をごまかし受入検査にパスする。これが今まで通用してきた「暗黙の決まり」だ。 
 
 CCTVの番組「焦点訪談」が07年4月、陜西省のある酪農場をひそかに訪れた際、はやくも胸が痛む場面を至る所で目にした。当時の報道によれば、混ぜ物をした原料乳による利益は、まさに目を見張るものであった。なにしろ500元程度の原料が、水で薄めて2,000元は下らない「ミルク」として納入できたというのだから。 
 
 銭和氏もこうした現象が普遍化していることは知っていたものの、「以前よく見られた違法操作では尿素を添加していました。メラミンを添加するとは初耳でした」と述べていた。 
 
 実際、メラミンが問題視されるようになったのは最近のことである。今回の毒入り粉ミルク事件ではすでに容疑者26人が拘束され、うち4人が逮捕された。河北省警察の発表によると、4人の逮捕者はいずれも買い取り業者で、そのうち2人は05年4月からメラミンを添加していた。1人は07年11月からメラミンを含む化学物質200gほどを何度か購入し、買い取った原乳に混ぜて三鹿グループに販売。もう1人は今年4月からメラミンを添加していたという。 
 
▽検査はなぜ有効でなかったのか 
 
 違法な事実があったことで消費者が疑惑を抱くようになったのだが、数十年も信頼された大手ブランドがどうして初歩的な製品安全を確保できなかったのだろうか。国家による品質検査制度はなぜ機能しなかったのだろうか。最初の過程での職務怠慢が企業側にあったと銭和教授は見る。 
 「原料乳を仕入れる企業では、だいたい5〜8項目の指標に合格していれば引き取ります。メラミンは通常的な管理統制の枠からはずれてはいますが、原料乳に混入していることが一般的現象だと企業側がわかっていたならば、検査方法をより最新鋭のものへとレベルアップさせるべきでしょう」。 
 
 銭和教授はタンパク質の含有量検査は、決して検収時の総窒素含有量だけの検査で済ませてはならないと言う。だがこの方法はコストがかからず簡便なため、企業間で広く採用されている。 
 「私の知る限り、品質管理の優れた乳業企業では検収時点でのタンパク質含有量の完全測定を採用しています。こうすることで牛乳販売業者が代替物による水増し行為をできないようにしているのです」。 
 
 毒入り粉ミルク事件が明るみになってから衛生省は、毒入り粉ミルクに関わる企業22社について、輸出用とオリンピック供出用の乳製品に品質上の問題はなかったものの、国内向け出荷分に問題があったという報告を出した。ということは、似たような品質事故に対し企業側は技術的に十分に管理が可能だということだ。毒素成分が最終的に原料乳由来、あるいは供給過程での混入と証明されても、企業側は品質検査責任を免れない。 
 
 理論的にいくと第二の検査過程は国家の品質検査部門となる。2005年1月から国務院は食品安全管理業務の見直しを行い、その生産と加工の過程の管理監督業務を品質検査部門の担当とした。肉製品、乳製品、食品添加物などの重要な商品や大手企業は国家品質検査総局の統一管理の下に置かれたが、三鹿グループもその中の1社である。ところが、まさに三鹿グループは国家品質検査総局発行の「製品検査免除」証明書を持っているのだ。 
 
 規定によって、製品の市場シェアや経済効率での上位企業、製品が省級以上の品質技術監督部門を3回以上連続で合格といった基準に合致する企業には「製品検査免除」証明書が発行される。証明書の有効期間内は、国家、省、市、県級の政府部門まで製品への品質監督検査は行えない。今年の国務院の大々的な制度改革で、国家品質検査総局の「製品検査免除」証明書発行の権限は取り消されたが、三鹿グループの検査免除権は今年の12月まで有効なのだ。 
 
 「これは何をやっても罪に問われないことを保証しているようなものです」。銭和教授はさらに続ける。「制度上、欠陥であることは否めません」。 
 
 だがそうであったとしても第三の検査過程がある。国家品質検査総局は全国で37個の乳幼児用調整粉ミルクの主要ブランド品をサンプル検査し、2008年5月に10社の「品質優良製品リスト」を発表したが、遺憾にもその時リスト入りした有名製品のほとんどが、今回のメラミンが基準値を大幅に超えた22社のものだった。三鹿も同じく「ベスト10」入りしている。 
 
 銭和教授は、国家品質検査総局の通常検査の指標でメラミンという項目は特に対象とされていないのだとも指摘する。「通常検査はだいたい五感指標と化学指標の2種類からなり、風味づけの香味料や添加剤として常用される化学元素、残留農薬なども検査されますが、メラミンはその対象ではないのです」。 
 しかし2007年の米国向けペットフードの毒物混入事件後、国家品質検査総局は粉ミルク、液状ミルク、乳幼児向けコメ粉、ソーセージ、パン、マントウ、麺、およびインスタント麺といった食品も実際には特別にサンプル検査しており、その時はメラミンは検出されていない。なぜ当時は検出されることがなかったのか。すでに重大視されながら、なぜ2008年もそのままメラミンを検査指標に取り入れようとしなかったのか。 
 企業も国家品質検査総局も、ここまで重大な安全面での事故が起きたからには責任の追及から逃れられない。 
 
▽真相発表がなぜ遅れたか 
 
 危険性は本来できる限り減らすことができたはずなのだ。三鹿グループが3月から泌尿器結石の苦情を受けたのなら、すぐさま徹底調査ができたはずだ。もし三鹿グループが8月1日に検査結果を受け取ってメラミン汚染を把握したなら、その時点で社会に公表できたはずだ。もし国家品質検査総局がそのサイトに6月30日と7月24日の2回、被害を受けた子供の親と医師とが別々に寄せた苦情に注目していたら。もし石家荘市政府が、8月2日に三鹿グループから報告を受け取った後に、ニュージーランドとの合弁企業からの要求に応じる形でタイムリーに公表していたら……。 
 
 最初の発症例は3月だが、衛生省は9月11日の夜になってようやく、三鹿グループの汚染粉ミルクの摂取をただちに停止する旨を正式に公告したのだ。9月13日に国務院は国家安全事故1級(最高レベルであり、特に重大な食品安全事故をいう)を宣言し、三鹿グループの汚染粉ミルクに対する各方面からの措置や処分とあわせて、被害を受けた乳幼児への無償治療を開始し、市場に出回るすべての乳製品に対しローラー調査を行った。しかしこうなるまでに乳児3名が亡くなっており、多くの乳児が三鹿製粉ミルクの摂取を続けたことで発症している。 
 
 生産と品質検査の過程で問題が生じながら、情報公開による監督過程は機能せずに危険をさらに蔓延させることになった。事件が大々的に明るみになっても三鹿グループは隠蔽を図り、9月10日と11日には腎臓結石と三鹿製粉ミルクとの関連を続けて否定している。しかし9月11日の夜に衛生省が介入してくると、すぐさま汚染粉ミルクの回収を始め、「当社の自主検査により2008年8月6日までに出荷した粉ミルクの一部に汚染されたものがあると判明し、市場におよそ700トンが出回っている」と発表した。 
 
 事実、メディアが調査確認した「三鹿の内部メール」を見ても次のようなことが記されている。8月1日午後6時に三鹿側は検査結果を受け取り、検査用に送付した乳幼児用粉ミルクのサンプル16個のうち、15個からメラミンが検出されている。8月2日午後、三鹿側は関連情報を登記地である石家荘市政府と新華区政府とに個別に報告し、市場から同社製粉ミルクの回収を始めた。8月4日から9日まで三鹿側は届いた原料乳に対し200回のサンプル検査をし、「人為的に原料乳にメラミンが混入していたことが、乳幼児用粉ミルクに入り込んだ最大のルートである」ことを確認している。 
 しかし三鹿側は、自社の粉ミルクで多くの乳幼児が腎結石を発症すると、渉外工作を始め、事実隠蔽を図った。 
 
 9月12日、三鹿の渉外工作を担当する北京濤瀾通略国際広告有限公司が8月11日付けで作成したとされる『渉外工作ソリューション』という文書がネット上に突然アップされた。その内容には「消費者を落ち着かせ、1ないし2年間は話題にさせないこと。検索サイトの百度と300万元の広告契約を結ぶことでマイナス情報の削除とニュース発表権限の取得を協議すること。積極的に動いて問題の拡大を防ぐ目的で、他社製品による腎臓結石例のような同業他社のマイナス情報を消費者向けのニュース材料として集めておき、危急の事態に備えること」などがあった。 
 9月13日、百度は「三鹿の渉外業務の代理企業から当社のカスタマー部に連絡があり、最近の三鹿についてのマイナス情報を隠蔽できないかと打診してきた」ことを発表した。ただし百度側はこれを「きっぱり拒否」しており、三鹿グループの渉外工作ソリューションの存在が間接的に証明されることになった。 
 
 三鹿側の資料によると石家荘市政府は8月2日にはすでに事情を把握していた。また三鹿グループ株式の43%を保有するニュージーランドの乳業会社、フォンテラは8月には関連情報を市政府に連絡していたという。ニュージーランドのクラーク首相は9月15日に特別声明を出し、中国の地方官僚が、問題のある三鹿製粉ミルクをただちに回収すべしというフォンテラ側の要求に応じないのは誠に遺憾であり、「ニュージーランド政府が中国政府に接触することで地方官僚がようやく行動をとった」と述べている。 
 
 河北省の楊崇勇副省長は先日、三鹿グループは3月に粉ミルク問題が発生してからも隠し続け、8月2日の午後になってようやく石家荘市政府に報告したが、「この5か月にわたり時間を引き延ばしたことで問題は極めて深刻化した」と語っている。楊氏はまた、石家荘市政府が1か月以上ものあいだ上級の行政機関に報告しなかったことも認めた。 
 
 9月13日、国務院新聞弁公室による記者会見の席上、国家品質検査総局の蒲長城副局長によると、総局側は9月9日になってはじめて毒入り粉ミルクの一件を把握したとのこと。しかし総局の食品生産監督管理司の「問合せ伝言板」には6月30日付で湖南省の消費者から、「粉ミルクに問題がないか早く調査してほしい。赤ちゃんがこれ以上こんな病気にならないように」として三鹿製粉ミルクの名を挙げるという事情報告と緊急メッセージが書き込まれていた。 
 7月24日には徐州市児童医院の泌尿器外科医、馮東川医師も食品生産監督管理司の伝言板に、やはり乳幼児が同じブランドの粉ミルクを口にしたことで発症している旨のメッセージを書き込んでいる。食品生産監督管理司は7月30日に「この種の問題は衛生部門に報告してもらいたい」と返答している。 
蒲長城はのちに、これらのメッセージを受け取りながらも詳細が不明だったため問題を追及しなかったことを認めた。 
 
 その一方で、9月8日にメディアが大々的に毒入り粉ミルク事件を報じたが、9月14日になって各メディアの報道が制限を受けるようになった。 
 
 中央宣伝部が禁止令を出し、各地域のメディアに対し記者を召還するよう求め、情報配信を新華社に一本化するとしたのだ。また他方、広州や深センといった香港のテレビ報道を視聴できるブロードバンド・ネットワークは関連報道を遮断した。ネットでは監督管理規定によってネット上の報道はすべて新華社や『人民日報』などの中央の主要な報道配信機関の記事のみを転載するよう求められた。 
 この事件に関する報道は「トップニュースとはせず、特別取材をせず」、「政府の採った処分や措置およびその進展を重点報道し、発病した児童への医療部門の積極的な治療姿勢を報道する」とされたのだ。掲示板やブログなどのリアルタイムな情報メディアではこの件を推薦話題とせず、トップに上げないようにした。「組織的なネット監視員がネットでの情報誘導を展開した」のだ。 
 
 牛乳販売業者のモラル喪失から製造企業の人命軽視、また地方政府の職務怠慢から品質管理部門の汚職と、社会システムにおける重要な監視点のそれぞれがまともに機能しておらず、危険が公共の安全を脅かす災難へと発展したのだ。 
 
 しかし真相は隠蔽され続けた。8月1日、三鹿グループが検査報告を受け取ってから42日も経っている。この42日間に事故は災難となり、公民の信頼を一気に失わせることになった。民族ブランドの企業グループが倒れ、また中国政府への信頼とオリンピックによって出来上がった国際的イメージは一気に落ちたのだ。誰が責任を負うのか。国民が信用していた組織が倒れたことに、誰が責任を負うのか。オリンピック・ベビーたちの健康に、誰が責任を負えるのか。 
 
【中国の主な乳製品メーカー】三鹿グループは河北省石家荘市に本社を置く。1956年創業の合作社からスタートし、07年には年商100億元の大手メーカーに発展。08年には有人宇宙ロケットの公式飲料にも指定された。そのほか、伊利、蒙牛は内モンゴルの乳製品メーカーで全国シェア1、2を争っている。その他記事中の聖元、雅士利も含めると粉ミルクにとどまらず牛乳やヨーグルトなどの製品が中国全土で販売されている。 
 
原文=『亜洲週刊』08/9/28特集記事、張潔平記者 
翻訳=佐原安希子/氏家弘雅 


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