2008年10月25日10時36分掲載  無料記事
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世界経済

米国経済危機のもう一つの原因 「欲望充足」文化にエリートも市民も毒された

  現在のアメリカ経済危機の原因として、規制のはずされた市場原理主義の暴走(賭博場経済と言われる)があげられているし、その責任は、金儲けに奔走した銀行・企業・投資家達が負うべきであることは当然である。しかしこうして仕掛けられた罠に陥った多くの人々にも責任がないとは言い切れないのではなかろうか(「人間性退歩の兆候」落合、日刊ベリタ2008.10.09)。(バンクーバー=落合栄一郎) 
 
 アメリカの資本家達の労働者に対する態度は、昔から変化していない(という意味では退歩しつつあるではなく、進歩していないと言うべき)。1960年代ぐらいまでは、全体として、アメリカの労働者の生存条件は改善されたが、それは主として、労働者が結束して(労働組合)資本家と戦った結果である。 
 
 1970年のピーク時には労働者の29.6%が組合員であったが、1980年には、23.2%に、2000年には13・5%、現在は12・1%と減少の一途を辿った。この傾向は、レーガン大統領が、航空管制官組合のストを禁止、組合解散に追い込んだことに端緒があるとされているが、それは、すでに始まっていた傾向を速めたにすぎない(Frank Joyce, AlterNet 2008.10.23)。 
 
 勿論これは、新自由主義にもとづく企業側からの締め付けに起因する。この傾向は、生産現場の海外移転などにも発展し、アメリカの中流階級の没落に繋がっていく。 
 
 その上、アメリカ中流階級の向こう見ずな消費が重なった。アメリカは大消費国、世界中の国々は、喜んでそこに製品を売り込む。世界中の多くの人々がアメリカ人の消費に依存して生きている。アメリカ人の多くは、自分の資力以上のものを借金(クレジットカードで)によって購入し、物資的に豊かな生活を享受してきた。 
 
 銀行や投資企業の自己資金以上の貸し付けなどに起因する現在の金融危機は、こうした市民の購買力(クレジットによる偽の購買力)を直撃した。国民が借金して消費しようにも、それが非常に難しくなったのである。これが消費依存の経済をもろに冷却させた。現在、イラク戦争などの戦費を除いて、アメリカの負債は、国民一人あたり14万5千ドルに上るそうである。 
 
 以上、少数のエリート達も、市民の大多数も、「欲望充足」を美徳とする文化に毒されているのであろう。この傾向は、米西欧の社会に目立つようである。日本の江戸時代の社会などでは消費物資の供給は潤沢でなく、そのため人々は「倹約」とか「欲望抑制」(知足)などを美徳とする社会であったと思われる。 
 これからの人類が数世紀も生きのびる(持続)ためには、こうした「欲望制御」という倫理が確立されなければならないであろう。 


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