2009年01月01日00時20分掲載  無料記事
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二極化社会を問う

東京の“企業難民”キャンプ、「年越し派遣村」の第一夜 炊き出し、宿泊、そろって銭湯へ

  2008年の大晦日、気温は5度前後。今年は例年より寒いという。東京、日本の中枢に値する千代田区霞ヶ関に、突如“難民キャンプ”が出現した。日比谷公園につくられた『年越し派遣村』である。今年は製造業を中心に非正規、派遣の「削減」が行われた。「削減」された人々の多くは住まいも失う。文字通り“企業難民”を支援するために、この「村」は設置された。(村上力記者) 
 
●医薬品を持って駆けつけた 
 
  現地では食料が入っているダンボールと思われる支援物資を担いで右往左往する人々が忙しなく動いていた。りんご、みかん、なし、大根、鶏肉、餅、米、食パン、飲料水などの食料の他にも、手袋や上着などの衣類、ティッシュ、布団などの数多くの物資が寄せられている。 
  この日のボランティアスタッフはお昼の時点で80人ほど駆けつけた。 
 
  派遣村では、労働相談、生活相談、医療相談などの相談を受けることのできるテントが設けてある。休憩用テントでは、中にテレビ、暖房などの設備が設けられ、取材陣は入ることができない。当事者は静かに暖をとることができるよう配慮がなされている。具体的な救援のための村であることの表れだと私は思う。 
 
  私は風邪薬や消毒液などの医薬品をいくつか持参し、活動に参加、風邪を引いている人が3名いたので供与した。医療相談を担当していて、現役の医者である谷川氏によると、他にも爪が剥がれているなどの怪我人がおり、殆どは外部で傷を負い「村」に来ているという。医薬品を供与する傍らで暖をとっていた労働者と思われる男性が「病院なんていかねえからなぁ」と呟く。 
 
  15時ごろ、村民たちは銀座、新橋に分かれて銭湯に出かけた。費用は全額実行委員持ちで、下着も供与されるという。丁度同じ頃に炊き出しの準備が行われ、17時ごろに餅や鶏肉の入った年越しそばと、りんご、バナナ、あんパンが配られた。 
 
  18時の時点で129名が村民に登録され、83名がこの日「村」に宿泊するという。 
 
●共産党志位委員長も視察に 
 
  この日の15時ごろ、日本共産党の志位和夫日本共産党幹部会委員長が「村」を視察し、実行委員や村民を激励した。 
 
  「師走の寒空に労働者を追い出した企業の行為は許されるべきではない。こういった状況を作り出す仕組みには労働者派遣法、規制緩和がある。政府がただちに企業に対し派遣切りなどを止めさせるよう言うべきであるが、今の政府は何も言っていない。切られてしまった労働者に対しても、本来政府が面倒を見るべきである。今日、全国で行われているような活動も、本来政府がやるべきだ。麻生さんはこういう現場に来て、新自由主義の結果を見るべきである」と報道陣に対して話した。 
 
●村民の諸事情 
 
  数人の村民と話をすることができた。 
 
《村民A》 
  46歳男性。11月に、川崎の日産子会社で解雇を言い渡され、1週間ほど前に寮を追い出された村民Aは、3日ほど前に所持金のほとんどを使い果たしてしまったという。この村へはちょうど新宿にアルバイトの面接に行った時、チラシを見て来た。 
  寮を追い出された当初、所持金は十数万ほどだった。1日3000円ほどのネットカフェで暮らしていたという。数日前までパチンコで勝ち続けていたが、一気にすべてを飲まれた(負けたという意味)という。 
  労働相談を受けるように斡旋したところ「俺は大丈夫だ。面接もしたし、14日に職安へ行けば13万くらいが20日に振り込まれるから」と言っていた。しかし、数日前に面接を受けたところからはまだ連絡は無い。 
  彼は今日ここに宿泊するという。 
 
《村民B》 
  推定50歳男性。12月26日に浦和の日産の子会社で解雇を言い渡され、知り合いの家に正月に上がり込むのも悪いので、たまたまテレビや新聞でやっていたこの村に来たという。 
 
《村民C》 
  推定40歳中ごろ男性。警備会社で勤務する傍ら、役者を目指していた。しかしどうにもうまくいかなくなり、死に場所に日比谷公園を選んで来たところ、偶然この「村」があったという。(彼は良く見たらスーツを着込んでいた)。「みんなの問題は大きいけど、俺の問題はちっぽけなものだ。内面的な問題なんだ」と言っていた。 
 
《村民D》 
  50歳男性。元調理師。1年ほど前に店のあるゴルフ場が企業に買収され、店の経営方針が変わったことに不満を持って退職。具体的には、アルバイトでの雇用や、経営者による仕入先や食材の指定、調理法に対しての口出しや、上司からの嫉妬や嫌がらせなどが不満だったという。「知り合いのお店とかで、その日にある食材を仕入れて、その食材で料理を、従業員みんなで考える。これが楽しい。今の企業はそういうことをさせてくれない。そういうものではお客さんを楽しませることはできない。むしろ出せないよ」と話す。 
  現在住居は無く、家族とは別居中。労働相談を斡旋したところ、彼の考えるようなお店は紹介してくれることは無いだろうから、知り合いからの連絡を待つと話した。 
 
(まもなく年が明ける。こういった事態を引き起こした投機屋、企業の経営者などは、ぬくぬくと正月を祝うのだろうか。御節料理を食うのだろうか)。 


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