2009年02月16日15時24分掲載  無料記事
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二極化社会を問う

郵政民営化は過疎の村を襲う(とりあえずその1) 文字通りがけっぷちの労働者と住民

  かんぽの宿売却問題を契機に、郵政民営化が再度、社会的な課題として浮上してきました。Attacジャパンは、郵政労働者ユニオンなどとともに郵政民営化を監視する市民ネットワーク(郵政監視ネット)をつくり、郵政民営化問題に取り組んできました。前置きが長くなりましたが、郵政問題が再浮上するいまこそ、民営化後の地域の郵便局はどうなっているのかについて確かめよう、という話になり、2月7日〜8日にかけて、東京都檜原村を訪ねてきました。そこでみたのは、郵政労働者にも地域に住む人たちにも押し寄せる過酷な現実でした。(ATTACジャパン 稲垣豊) 
 
 
  12007年10月に郵政公社は四分社化・民営化されました。郵政監視ネットでは、「利権の流れを官から民へ」進める民営化によって浮上するであろうさまざまな問題を取り上げ、公共サービスを利用者、労働者の側に取り戻すための活動を継続しています。 
 
  2006年9月以降、当時の郵政公社は、民営化に向けて「スリム化」を図るために、郵便の集配拠点、郵便貯金・簡易生命保険の外務営業拠点の再編を進めてきました。私たちは東京の檜原村郵便局で進められる拠点集約化の問題を取り上げ、檜原村民とともに、集約化反対の活動に取り組んできました。これまでの経過などはUBIN Watch News No.28〜30号や、UBIN WATCH VIDEO Vol.1〜4を参照してください。 
 
◎UBIN Watch News 
 http://ubin-watch.ubin-net.jp/uwnews/uwmenu.htm 
◎UBIN WATCH VIDEO 
 http://ubin-watch.ubin-net.jp/uw_video/vdo_menu.htm 
 
◎第9回 UBIN WATCH VIDEO (09/02.12) 
 09年冬 檜原村再訪:崖っぷちの郵便屋さん 
 http://ubin-watch.ubin-net.jp/uw_video/uwv_vol009.htm 
 
■王宮と奴隷部屋? 四分社化の果てに 
 
  2月7日、土曜日。正午すぎ檜原村役場のとなりにある檜原村郵便局に到着。土曜日なので郵便局は休みだったのですが、午前中の配達を終えたのか、ハカイダーのような制服を着た郵便配達の職員さんが、局舎のとなりにある車庫?に戻ってきました。これからお昼休みかなぁ、と思いながら、車庫におじゃましてみると中は休憩室になっていました。コンクリートの床は冷たく、風除けのためにダンボールとブルーシートが天井から吊り下げられていました。好天に恵まれていましたが、肌寒くストーブなくしては落ち着いてお昼ご飯も食べられないのではと思います。「このストーブも最近やっと郵便事業会社にいって買ってもらった。それまでは職員が自分でストーブを持ってきてた」と職員さん。 
 
  隣の局舎には休憩室はないのですか?と聞くと、「四分社化によって郵便局を管理・運営する「郵便局会社」と、郵便物の集配を行う「郵便事業会社」に分かれてしまい(他の2社は貯金を扱う「ゆうちょ銀行」、保険を扱う「かんぽ生命」。これら四分社の持ち株会社として「日本郵政」がある)、事業会社の社員である配達職員は、事業会社の資産である車庫しか使えないので、ここで休憩をとっている、局長の顔を見なくていいので気楽ではあるんですけどね」。 
 
  この車庫休憩室から道を挟んだ向こう側には、風格のある古風な造りの大邸宅がみえる。郵便局長の豪邸らしい。薄ら寒い車庫兼休憩室と大豪邸、この見事な対比はなんともいい難い。「王宮と奴隷部屋みたい」ツアー参加者がぼそっとつぶやいた。どこかの首相ではないですが、四分社化されてこうなるとは、当時はわかりませんでしたよね。 
 
  檜原村を配達する職員さんは、15キロ離れた「あきる野郵便局」から30分かけて檜原村の入り口にやってくる。居住地域はここからさらに奥になる。集約化の前は、檜原郵便局に所属する職員ら(8人)が配達をしていたのだが、集約化によって、みなさんは、あきる野局に異動した。「以前なら、ゆっくり村民とコミュニケーションも取れたが、集約化、効率化の名の下に、いまではあきる野からやってきて檜原村の山中を駆け抜けて帰っていく。途中で何か頼まれてもかつてのような柔軟な対応ができない。急いでバイクで駆け抜けるので、びっくりした犬に噛まれる職員もいる」と集約化の問題点を語る。 
 
  もうひとりいた職員さんは「ゆうメイト」さん。有期で低賃金の不安定労働だ。 
 
「まさかこんなところを配達するとは思ってもなかった。急斜面をバイクで走るんですが、片側は切り立った崖。やっぱり両足が着かないところは道じゃないでしょう・・・」 
 
■アルプス湯久保で再会 
 
  長居をしては休憩の邪魔になるので、次の目的地である檜原村村議の丸山美子さん宅のある湯久保(ゆくぼ)集落へむかう。湯久保は南北二本に別れた北側の街道から山の急斜面を駆け上った上にある。ジェットコースターの上りのような道を車で進み、車道沿いに展示された地域の風景を撮った大型写真の展示を横目に(誰が見るんだろう?)、湯久保へ到着。眼下には街道が走る谷を挟んで、山腹にいくつかの集落が見下ろせる。そう、よくアルプスの少女ハイジにでてくるような光景だ。 
 
  集落の入り口では、何人かの村民といっしょに田倉榮村議も作業着に身を包んで何か作業をしている。田倉村議は檜原村の郵便局が集約化に直面した際に、丸山村議とともにサービスの低下に反対する取り組みを行い、交流を重ねてきた。 
 
  丸山村議も「ようこそ、ようこそ」と暖かく出迎えてくれた。しばらく軒先で立ち話をしていると、急な坂道を郵便バイクが駆け上ってきた。「どうも郵便でーす」。先ほどの配達職員さんだ。すぐに丸山さんら湯久保住民の輪の中に溶け込んでいたが、「まだこれからこの先に数軒あって、尾根通りにそってぐるっと回るんですよ」と忙しそうにバイクを飛ばして林の中に消えていった。以前訪問した際も、この道をすこしだけ進んだことがあるが、はたしてバイクでどこまでいけるんだろう?と気になった。道幅は1メートルもなく、片側は急な斜面というか崖になっている。落ちたら自力では上がってこられないようなところ。 
 
■崖っぷちの郵便屋さん 
 
  どんなところを配るんだろう、とバイクが吸い込まれていった細い林道を辿っていく。しばらく進むと確かに崖にへばりつくようにして何軒かの家があり、人が住んでいる様子だ。道はいつしか、コンクリートから、むき出しの土の山道に変わっている。もちろん片側はずっと杉林がつづく崖。尾根通りなので斜面の起伏にそって道は上下にアップダウン、左右に蛇行、急なカーブもある。ビデオをまわしながら進んだのだが、途中で何度も足をとられて、滑り落ちそうになるくらい危険な道だ。今日は晴れているのでまだましだが、雨天なら確実に滑り落ちている。雪が積もった日には果たしてバイクで進めるのだろうか、という感じである。 
 
  本当にこんなところをさっきの配達員はバイクで進んだのか? どこかでUターンして帰って行ったのでは? と疑問に思いながら、15分くらい細い山道をあるいただろうか。ふと視線を上げると、崖の向こう、杉林の先、数百メートルのところをくねくね進む郵便バイクが見える。「だいじょうぶですかー」と何とか追いついて話しかけてみる。 
 
「ゆっくり進むと逆にあぶないんですよ」 
「まえもここで谷に落ちた職員がいたんですよね。辞めちゃったけど」 
 
  この先には家はないだろうから引き返すのかと思って聞いてみると、「道が細すぎてUターンできないので、このまま進んで街道に出るしかないんですよ。街道の近くにもう何軒かあるんですよね。じゃあ!」と言って去っていった。「きをつけてー」「さようならー」の声で郵便屋さんを励ます。僕たちはここから来た山道を湯久保集落に引き返した。 
 
■学校が統廃合され、郵便局に人がいなくなり、生活するインフラが崩れていく・・・ 
 
  丸山村議の家は昔ながらの造り。掘りごたつに入って、民営化後の影響について話をきく。「分社化されたことで、事業会社の職員である配達員さんが、保険や貯金の業務を兼務することができなくなった。かつては配達のついでに貯金や保険の業務を兼務することもできたそうだが、いまは駄目。村民にとってはおなじ郵便局の職員さんなのに」。 
 
「だけど、民営化されたからといって仕事が雑になったりということはない。従来どおりのサービスを維持しようと、配達員の皆さんは雨の日も雪の日も配達にきてくれますし、毎日、地域のお年寄りに声をかけながら、何か変わったことがないかどうかを見てくれています。このまえも台風で土砂崩れがあったのですが、その前に地割れしているのを配達員さんが発見してくれていて、事前に通報してくれていたからすぐに対応できた。日常的にその道を通っている人でないと分からない」 
 
「都会ならお金さえあれば、一人で何とか生きていくこともできます。だけどここでは地域の助け合いがなければ、雪かきひとつもできない。自分の家の前だけを雪かきしてもだめ。下の街道は行政や業者が雪かきをしてくれるが、山の上にあるこの集落までの道は自分たちでやらないといけない。だけど学校が統廃合され、役場では人員削減が行われ、郵便局も人がいなくなり、どんどん住めなくなってしまうと、そういった地域のコミュニティも維持できなくなる」 
 
  昨年12月にこの集落に引っ越してきたばかりだという若い住民も丸山村議の話にうなづく。ネコは寝てる。 
 
「都会に出た子どもが、年老いた親に郵便を出して、郵便局員さんに顔を出してもらうことで、変わったことはないかどうかを見てもらう、ということもできる。そんなサービスをしてくれるのはユニバーサルサービスの郵便局だけ。」「宅配便は効率化、集約化で、たくさんの荷物を積んでやってくるので、ここまで車で上がってこられない。ここまで来てくれるのは郵便局と宅配に特化している●ネコさんくらい」。 
 
だけど●ネコさんも、さっきの林道の崖道は無理だろうぁ・・・。 
 
「集約化で郵政公社に申し入れを行ったとき、公社の役人がここまできた。だけどツルッツルの革靴と背広でやってきて、先の林道をみますか、といっても見に行かなかった。見ないでどうしてわかるんですかね。すべて机上の数字だけで集約化、効率化を言っていた。本当に公共サービス、ユニバーサルサービスを維持するために努力しているのは現場の職員でしょ」 
 
■地域再生のために自治を再構築する 
 
  話は、昨年末に高裁で勝利判決がでた村の嘱託職員への法外な手当て支給の問題になる。嘱託職員として再雇用した元職員に、諸手当に当たる額を支給したのは違法などとして、丸山村議が村長を相手取って、約1330万円を村に返すよう求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は24日、諸手当に相当する約750万円の返還を村長に命じた。 
 
「これまで議会は誰も問題にしてこなかった。しかしお金の使われ方を住民や議員がしっかりとチェックしなければ、自治は成り立たない。地域再生の鍵である自治の構築に向けて一石を投じたい。おかしなことはおかしい、と言えるような議会、地域でないと」と、勝利判決を受けた丸山村議は元気だ。しかし村議会は、丸山、田倉両議院の反対を押し切って、村が最高裁へ上告することを可決。裁判はつづいている。 
 
  丸山村議の夫がつくったという干し柿とゆずの砂糖漬けを頂きながら長居をしてしまったようだ。日がかげり、寒さが増してくる。丸山さんの庭先から谷の向こう側の斜面に集落が見える。行ったことはないが、アルプスのようだ。「あの集落に皆さんが今晩とまる民宿がありますよ」と教えてくれた。気持ちよさそうに眠る猫と犬に別れを告げて湯久保を後にした。 
 
  今夜の宿は、かんぽの宿、といきたかったが、急なスケジュールでは人気の宿は泊まれない。前回と同様、湯久保から街道を挟んだ山腹の小岩集落にある民宿「森越」でお世話になった。おいしい鍋と檜原で取れたジャガイモでつくった焼酎「HINOHARA」、ツアー参加者が持参してきた一升瓶の新酒「遊穂」などを囲みながら、わいわいと感想を述べ合う。仕事が終わってから駆けつけた都内を配達する郵便職員も合流。今後の公共サービスを守る運動をどのように進めていくべきか、資金を地域に還元するゆうちょ改革は可能か、労働者・市民の立場はどうあるべきか、社会運動の未来はなど、吼える吼える。「そろそろ1時を回りましたよ・・・」女将の声が響いた。檜原の夜は更けていった。 
 
 
 
(資料) 
檜原村長に750万返還命令 嘱託職員への手当て支給 
2008.12.24 19:56 
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/081224/trl0812241956021-n1.htm 


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