2009年06月08日20時03分掲載  無料記事
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「変革のアソシエ」が発足 資本主義体制の克服を目指して 安原和雄 

  「変革のアソシエ」という名の新しい運動体が発足した。掲げるスローガンは「資本主義に対抗し、新しい地平を開く批判的・創造的知性の舫(もやい)を!」、「違いを結ぶ批判と創造の新機軸を構築しよう!」である。このスローガンからも分かるように「変革のアソシエ」は資本主義体制そのものに批判の目を向け、克服していくことを目指している。この資本主義体制の克服を視野に収めている点では従来の反戦反核・平和運動、憲法改悪反対運動、労働運動などとは性格を異にしているところに新鮮さがある。 
 
▽「もう一つの世界への希望を育てること」 
 
 「変革のアソシエ」発足総会が09年6月6日、東京・千代田区神田駿河台の総評会館で開かれ、正式に発足した。共同代表に伊藤誠・東京大学名誉教授、本山美彦・京都大学名誉教授、足立眞理子・お茶の水女子大学准教授ら数名のほか、事務局長に大野和興・農業ジャーナリストがそれぞれ就任した。 
 総会では「変革アソシエ」の「呼びかけ文」(後述)と「会則」が採択された。「会則」は会の目的について「現代資本主義がもたらしている格差の拡大、生き甲斐の喪失、生活と労働の破壊、自然と人間の荒廃を深く憂慮し、それに対抗する批判的知性の広範な結集と展開をはかり、もう一つの世界への希望を育てること」と明記している。 
 また同会のあり方として「この目的を実現するために会員の平等な自発性を尊重しつつ、会員相互の知的な交流、啓発、連帯のために適切な諸活動を企画し、実行する協働組織として設立される」とうたっている。 
 
 なお同会の事務所所在地は以下の通り。 
〒164−0001 東京都中野区中野2−23−1 ニューグリーンビル3F309号 
TEL:03(5342)1395 FAX:03(6382)6538 
 
▽「生きていてよかったなあー、という世の中にしたい」 
 
 総会に続いて発足記念講演とシンポジウムが行われた。会場には200人近い現代版「志士」たちが集まった。講演は本山美彦氏による「世界恐慌と危機の真相 ― わたしたちはどこへ向かうのか」で、つぎの柱からなっている。 
はじめに ― GM破綻=金融資本主義終焉の象徴 
1 現代資本主義の最終局面=証券化 ― 時間搾取システムとその変形 
2 金融寡頭制 ― 資本主義精神の消滅 
3 ソマリア ― システムからこぼれ落ちた民衆の惨状 
4 辺野古新基地協定 ― 結集される沖縄民衆の怒り 
おわりに ― 作ろう新しい世界を 
 
 内容の詳しい紹介は割愛して、ここでは「おわりに ― 作ろう新しい世界を」(全文)に限って以下に書き留めておく。 
 
 グローバリズムには、「普遍性強制」が決定的にまといついていた。それは西洋中心史観、最近では米国普遍性史観として人々の心をとらえていた。しかしいまや私たちは、公然と、米国的普遍性を「似而非(えせ)普遍性」、米国的グローバリズムを「虚偽の共同性」として拒否することができるようになった。 
 
 いまでは真の変革を生み出す人々の真の連合を生み出すことができる。「結」(ゆい)の共同作業による「舫」(もやい)の場を作り出すことができる。 
 人類は、「アソシエーション社会」の大道を紆余曲折を経ながらも確実に歩んできた。自然と人間、人間と人間、そうした折り合いが世界的に人類史的に実現されようとしている。私たちは、「資本の商品化」がもたらす金融の暴走を十分に経験してきた。いまや労働を人間の元に取り返すことが緊要である。国家と市場は残存させざるを得ないだろう。しかしそれには資本主義を廃棄させるアソシエの介在がなければならない。 
 
 人間には人間の行があり、動物には動物の行がある。植物にも、水土にも行がある。そうした「天地人三才の徳」を会得して、私たちは人間の行として「変革のアソシエ」を推し進めよう。 
 生きていてよかったなあー、という世の中にしたい。 
 
 末尾の「生きていてよかったなあー、という世の中にしたい」は配布された講演原稿にはなかったが、その場で講演者がつけ加えたものである。 
 
▽「呼びかけ文」― 資本主義は内部から自己崩壊 
 
 発足総会で採択された「変革のアソシエ」の呼びかけ文(大要)を以下に紹介する。その主見出しは「違いを結ぶ、批判と創造の新機軸を構築しましょう」である。 
 
 社会の至る所でほころびが目立つようになった。一握りの金融資本家が、公の富を私物化し、むさぼり食っている。強欲資本主義の先頭を進むアメリカでは、社会の全資産の半分が、人口比にして100万分の1でしかない、一握りの金満家の手にある。彼らが世界を破壊してしまった。日本も例外ではない。日本の所得格差を基準とする貧困度もOECD諸国の中ではビリから3番目で、アメリカはメキシコに次いでビリから2番目だ。 
 社会から倫理性・責任感・安全性・生き甲斐が急速に失われてきた。その大きな要因は、想像を絶する経済格差の存在である。アメリカ型金融資本主義は、現代資本主義の究極の形で、このシステムこそが、私たちの生活と労働を破壊している。 
 
 サブプライム問題の深刻化に象徴されているように、金融恐慌の津波が世界を襲っている。資本主義は、内在的な不安定性を深刻なかたちで露呈し、あきらかに外的な力によってではなく、内部から自己崩壊現象を示しているのだ。いまや、ほんとうにスケールの大きな歴史の危機と転機とが共に訪れているのだ。 
 
 それとともに孤独な個人に分断されてストレスを内部にため込みながら、苦しむ人々が増えている。日本では15分に一人が自殺に追い込まれている。なかでも女性へのしわ寄せはこれ以上放置できないほどの過酷なもので、民間企業で生涯働いても、自らの生活を支えるだけの賃金を得る女性は、ごくわずかの人々にすぎない。 
 現実に進行しているのは、私たちが共に生きていくことの絶望的な困難さであり、社会そのものの存立基盤の破壊なのだ。 
 
 さらに地球温暖化、資源枯渇のおそれ、農村や山林の荒廃などから、人間の生存基盤となるべき自然環境破壊も深刻な問題になっている。いまや近代以降の資本主義市場経済の歴史的限界が人間と自然の深刻な荒廃・破壊に示されている。 
 にもかかわらず日本ではこの忌まわしい時代に反抗する批判的知性の力が強くなっているとはいえない。新自由主義イデオロギーが猛威を振るったこの30年間で、資本主義体制に批判的に対峙する思想、文化、理論の戦列から多くの人々が離れた。新自由主義の重圧のもとでの労働運動、社会諸運動の内部分裂がそうした情況を生み出した。 
 
 いま必要なことは、社会変革の新しい基軸を早急に構築することである。資本主義に反抗し、新しい地平を開く批判的・創造的知性の舫(もやい)を生み出すことである。違いを結ぶ批判と創造の星座を作り出すことが喫緊に重要なことである。 
 世界ではアメリカ流の資源略奪型グローバリズムへの抵抗が強くなり、アメリカの軍事力で圧殺され続けてきた民族の尊厳回復を目指す運動が燃えさかっている。 
 アメリカ帝国主義は急速に世界から孤立する様相を深めている。 
 日本では戦前には脱亜入欧の近代国家形成がアジア人民の犠牲の上に遮二無二進められた。戦後では日米安保体制の下で、日本の保守層は対米従属を国是としてきた。いまその構造が行き詰まったのだ。私たちはいまこそ、政治的、経済的、文化的に脱アメリカの自治・生活スタイルを構築しなければならない。 
 
 世界に吹き荒れるこうした抵抗の風を、私たちもしっかりと受け止め、もっと大きな風を起こすべく、謙虚な自己反省を忘れずに、批判的・創造的知性を結集すべきである。 
 人間の尊厳を踏みにじる労働力商品化の深化に抵抗し、反安保、反改憲、沖縄の解放を目指す従来からの反資本主義運動をもっと大胆に展開すべきである。そうした反資本主義の文化的・知的対抗運動の根底のひとつに、被差別部落民、先住アイヌ民族、琉球民族、在日朝鮮民族・アジア人などの人々の困難な闘いも大切に据えよう。差別と分断は、権力システムから打ち出されたものだが、私たちの心の中にも、差別と分断に呼応する一面もあるのではないか。 
 それぞれの違いを意識しつつも、連帯の可能性の絆でお互いが結ばれれば、そこには差別、分断、格差、貧困への強固な抵抗の地場が形成されるだろう。 
 
 こうした可能性の絆、新しい基軸の拡充と構築という営為の上に、農漁村の崩壊・都市における貧困の累積、様々な格差、因習・慣行と無自覚による女性差別、等々を食い止める広範な人々のアソシエが形成されるのだ。 
 現在は、危機の頂点である。それは、古代ギリシャの哲人、ヒポクラテスが喝破したクライシスである。究極の危機を迎えたとき、人間は劇的な回復力を発揮する。そうした極限状態がクライシスと呼ばれているものなのだ。 
 資本主義そのものを克服し、新しい価値観に基づく新しい時代の創造を目指して、それぞれの生活空間・運動空間で苦闘している現場の知を尊重しつつ、広く世界の批判的知性との交流・協力も大切に、志を新たにさまざまな分野での課題や知的作業を重ねあい、歴史の危機を突破する希望を育みたい。 
 こうした私たちの願いに、協力し結集してくださることを心からお願いする。 
 
▽資本主義をどう克服していくのか 
 
 以上の「呼びかけ文」から資本主義の批判と克服に関する指摘、分析の要点を再録すると、以下のようである。 
 
*資本主義は内部崩壊 
資本主義は、内在的な不安定性を深刻なかたちで露呈し、あきらかに外的な力によってではなく、内部から自己崩壊現象を示している。 
 
*資本主義市場経済の歴史的限界 
人間の生存基盤となるべき自然環境破壊も深刻な問題になっている。いまや近代以降の資本主義市場経済の歴史的限界が人間と自然の深刻な荒廃・破壊に示されている。 
 
*アメリカ帝国主義は世界から孤立 
世界ではアメリカ流の資源略奪型グローバリズムへの抵抗が強くなり、アメリカの軍事力で圧殺され続けてきた民族の尊厳回復を目指す運動が燃えさかっている。 
アメリカ帝国主義は急速に世界から孤立する様相を深めている。 
 
*日米安保体制の構造的行き詰まり 
日米安保体制の下で、日本の保守層は対米従属を国是としてきた。いまその構造が行き詰まった。私たちはいまこそ、政治的、経済的、文化的に脱アメリカの自治・生活スタイルを構築しなければならない。 
 
*資本主義そのものを克服 
 資本主義そのものを克服し、新しい価値観に基づく新しい時代の創造を目指して、(中略)志を新たにさまざまな分野での課題や知的作業を重ねあい、歴史の危機を突破する希望を育みたい。 
 
〈安原の感想〉脱「資本主義」と脱「日米安保」と 
 
 記念講演で本山美彦氏は「いまや労働を人間の元に取り返すことが緊要である。国家と市場は残存せざるを得ないだろう。しかしそれには資本主義を廃棄させるアソシエの介在がなければならない」と述べた。 
 資本主義廃棄後にも国家と市場は残るという指摘である。それはそうだろう。問題はそういう新しい社会は、旧ソ連型とは異質の社会主義社会なのか、それとも新しいタイプの共同体社会なのか。後者らしいが、その具体的イメージははっきりしないし、今後の課題である。 
 
 一方、上述の「呼びかけ文」の分析、指摘から再録した諸点は傾聴に値する。特に資本主義の内部崩壊、歴史的限界という客観的事実と、日米安保体制の構造的行き詰まりという現実とは日本では表裏一体の関係にあるととらえたい。いいかえれば日米安保体制下の日本資本主義が内部崩壊、歴史的限界に直面しているということではないか。しかもこの新しい歴史的事態はアメリカ帝国主義の世界での孤立によって加速されており、変革の可能性は現実味を帯びてきている。 
 日本の目指すべき戦略目標は脱「資本主義」と脱「日米安保」であり、この二つは車の両輪にたとえることができる。 
 しかしそれを担うべき主体の弱さは否定できない。呼びかけ文が「日本ではこの忌まわしい時代に反抗する批判的知性の力が強くなっているとはいえない」と指摘している通りであろう。反転攻勢にどう出るか。今後の注目点である。 
 
*本稿は「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です。 
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