2009年08月18日12時03分掲載  無料記事
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【テレビ制作者シリーズ】(1) アフガニスタンの大地と水と人の物語を撮る谷津賢二プロデューサー(日本電波ニュース社)  村上良太

  テレビがつまらなくなった。芸能人なるものが内輪の楽屋話ではしゃぎまわる、そんな番組が氾濫している。そんな中で混沌とした現実を映像で切り取り、人びとに衝撃を与える番組に出会うことがある。そんなときはうれしくなり、ホッとし、がんばれと拍手したくなる。きっとスポンサーや政治家やその意向を受けた局やらと渡り合いながら、次第に狭くなる隙間を縫って悪戦苦闘しているのだろうと想像する。そんなテレビ製作者列伝を、ご自身もドキュメンタリー制作の現場で苦闘している映像作家の村上良太さんによる新シリーズでお送りする。(ベリタ編集部) 
 
  中村哲医師ら、アフガニスタンで医療・支援活動を行ってきたペシャワール会の記録がDVDにまとめられました。「アフガンに命の水を〜ペシャワール会26年目の闘い〜」(56分)です。中心は砂漠化が進むアフガニスタン東部の村で2003年から6年がかりで全長24キロの壮大な用水路を掘り進む記録です。 
 
  土地が乾ききって「農業ができない」と訴える農民が冒頭出てきますが、こうした人々が再び生きる基盤を取り戻していく過程が描かれており、最後に緑の小麦畑が生まれます。興味深いのは中村医師が土木技術では素人だったため、高校の教科書を取り寄せて三角関数の復習から作業を始めたことです。しかもなんとアフガニスタンに、中村さんの郷里・筑後で使われた用水路の工法「蛇籠(じゃかご)」を導入します。竹やワイヤーで外枠を囲い、中に石を詰めて、1つ1つ岸に積んでいくのです。 
 
  アフガニスタン人はコンクリート作業は慣れていないのですが石積みには長けているため、嬉々として作業に取り組みます。日本からの寄付金で失業している地元の人々を工事に雇い、給与を払います。 
 
  DVDをプロデュースしたのは日本電波ニュース社の谷津賢二さん(48)。 
 
  谷津さんは中村哲医師の記録を何度かNHKなどで放送し、大きな反響を呼んで来ました。しかし今回、再編集してDVD化した狙いをこう語ります。 
 
「ストレートに中村哲さんの思想を描いてみたかったのです」 
 
  飢えを解決することがもっとも大切なのに世界は軍隊ばかり送ってくる。井戸を掘り、用水路を作る中村さんはその矛盾を世界に訴えかけたかったと言います。 
 
  取材の始まりは中村医師から会社に連絡が来たことでした。 
  2000年、アフガニスタン東部の診療所で医療に携わっていた中村医師は異変を感じていました。感染症が激増していたのです。理由は水の不足でした。体を洗うことが出来ず、皿も洗えない。村にそんな事態が起きていたのです。抵抗力の弱い子供が次々に死んでいました。 
 
  カメラを手に村に入った谷津さんは給水所で村人が血相を変えて水の奪い合いをしているのを目にします。中村医師は谷津さんに説明しました。食料と水があれば難民も出ず、治安も回復します。農業ができないから難民となっているのです。難民の増加が治安の悪化に結びつきます、と。 
 
  そんな中、井戸掘りを進める中村医師と村人らの姿を撮影しました。ところが帰国して間もない、9月11日、同時多発テロが起き、米軍が侵攻します。水と食べ物が欲しい、それだけのささやかな願いが蹂躙され、干ばつ対策も中断を余儀なくされます。 
 
  このDVDは「人助けとは何なのか?」と静かに問いかけます。 
 
★プロフィール 
  谷津さんは1994年、日本電波ニュース社入社。最初の海外取材はルワンダの民族紛争(1990〜1994)です。すでに紛争は末期でしたがまだナタで殺しあっているのを目撃したそうです。最初の1週間は緊張で撮影どころではなかったとも聞きますが、この時、ルワンダやザイールの難民キャンプに4ヶ月間滞在して何本か番組を作りました。その後95年から97年までハノイ支局長になります。ハノイではカストロ議長の姿も目にしたそうです。 
  そして98年、中村哲医師との最初の出会いが訪れます。当時、ペシャワール会は「医療キャラバン」と称してパキスタンの僻地の山々で医療から取り残された人々の診療を行っていました。もともと精神科医だった中村医師ですが、眼の手術など様々な手術や施療を行っていました。その時の出会いから11年間、アフガニスタンの取材を続けることになりました。 
 
★DVD「アフガンに命の水を〜ペシャワール会26年目の闘い〜」 
は1本2500円+税。販売元は日本電波ニュース社です。 
売り上げの一部はペシャワール会に送られます。 
http://www.ndn-news.co.jp/ 


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