2009年10月20日11時09分掲載  無料記事
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【テレビ制作者シリーズ】(7) 面白く見せるヒント 井上秀明さん    村上良太

  有限会社イマージュ代表で編集マンの井上秀明さんはここ数年フジテレビの「ザ・ノンフィクション」を年5本のペースで手がけています。「ザ・ノンフィクション」は日曜午後の1時間枠のドキュメンタリー番組です。サラリーマンがごろ寝で楽しめるドキュメンタリーという、この長寿番組のプロデューサーは面白さに徹底的にこだわる人と知られています。そのプロデューサーから信頼されているベテラン編集マンが井上さんです。井上さんは撮影の途中から、時には取材が始まった時点からディレクターの相談に乗り、共同作業を行うことが多いそうです。井上さんが担当した「ザ・ノンフィクション」の仕上げについて聞きました。 
 
★主人公が蒸発したら?? 
 
  鎌倉で人力車引きを志す若者たちの話、「ふりむけば鎌倉〜僕が人力車を引く理由〜」では主人公に設定していた青年が突如、蒸発してしまいました。取材はすでに4ヶ月に及んでおり、困ったディレクターが井上さんに相談に来ました。 
 
  井上さんは「主人公の周囲の人間関係を図にしてみよう」、と提案します。人間関係図には青年の前の職場や実家、そして今の職場の人間関係などが網羅して描かれます。蒸発した青年が出てくるかどうかはわからないが、彼の背景を辿ることでなぜ蒸発したかが浮き出てくるかもしれない、と井上さんは提案しました。その場合はディレクターがカメラの前に立って失踪した青年の足取りをたどることになります。非常事態にも臨機応変に対応できるのがこのドキュメンタリーです。 
  ディレクターは青年の実家をカメラマンと訪ね、知らなかった親子関係や兄弟関係を目にします。その事実をテコに、再びドキュメンタリーを続けることができたのです。 
 
「番組では二人の青年が登場します。1人は苦しくても耐えた結果、人力車の仕事に面白さを見出し、もう1人は辞めてしまう。ちょっとした我慢の差が人生を分けてしまうのです」 
 
  その恐ろしい真実が番組で如実に描かれていました。なぜ1人は続けることができ、1人は逃げ出してしまったのか?その理由を家族関係、友人関係、職場の人間関係からあぶり出します。 
  井上さんは二人の対比が鮮やかになるクライマックスから逆算して全体を構成していきました。最後に失踪してしまった青年にももう一度会って心境を聞くという心配りも忘れませんでした。 
 
★臨終の場を撮影していいの?? 
 
  「笑顔でさようなら〜訪問ナースと家族の選択〜」は人生の最期を自宅で迎えたい末期患者のため訪問看護をする女性看護師の話です。主人公は東京の聖路加国際病院訪問看護課の女性リーダー。番組ではこの看護師を追って3つの患者家族を訪ねます。最大の山場は臨終のシーンです。女性ディレクターが井上さんに相談に来ました。 
 
「臨終のシーンは撮れません。我々外部の人間が踏み込んでいいのか?と思えるんです」 
 
  井上さんはきっぱり答えました。 
 
「撮影しなくてはいけません。中途半端に終えたら今まで協力してくれた家族にこれほどの失礼はありませんよ」 
 
  彼女は井上さんのアドバイスを聞き入れ、臨終の場でカメラを回し続けました。 
 
  僕はこの番組の臨終の場を見てとても感動しました。人間の死とはこうなのか、という驚きです。あたかも自分も家族の一員として居合わせたかのような圧倒的な臨場感がありました。仕上がったものを見るとどうして臨終の場を撮影しないで終えようとディレクターに思えたのか理解しがたく思えます。でも僕自身ディレクターとしてしばしばこういう経験があります。仕上がったものから逆算して状況が見れることが現場でとても大切なのですが、それが難しいのです。そこに編集マンという、客観的に状況を判断できる人の大切さがあります。 
 
  またこの臨場感は取材の力だけでなく、編集の力が大きく作用していると思えました。空気の漣までとらえられていたのです。4時間撮影した映像から切り取ってつなげた6分。番組の中のこのわずか6分を生かすため、それまでの40分以上の流れを井上さんは組み立てて行きました。 
 
「僕は以前、助産師のドキュメンタリーをやはり「ザ・ノンフィクション」で編集したことがあるんですよ。人間の終焉と誕生には一生を左右する感動があります。神秘としか言いようがありません。こうした営みを隠してきたことに問題があると思います」 
 
  井上さんは人間の誕生や死を間近に見る体験が人を優しくする、と言います。弟や妹の出産に立ち会った子供は兄弟姉妹に優しくなると言います。臨終に立ち会うことも同じです。そこには人間を越える圧倒的な力があるからです。そうした巨大なものを間近に見ることで他人に愛情が持てるようになるのです。昔の家庭にはこうした光景が当たり前にありました。「笑顔でさようなら」にはタイトルと同じく、涙と同時に笑顔があります。 
 
  僕はディレクターの仕事をしてきましたが、毎回、取材するたび迷ったり、細部に拘泥して本筋を見誤ったりといったことに事欠きません。ジャングルにカメラを携えて入っていくにも似た心境です。森で落とし穴にはまったり、猛獣に襲われたりした時にかけつけてくれるありがたいレスキュー隊、それが井上さんのような優れた編集マンです。 
 
★面白くするためのコツとは? 
 
  井上さんには『(図解)映像編集の教科書』(玄光社MOOK)という著書があります。編集の基本的な考え方やテクニックが体系的に優しく説明してあります。この本は一般の人々向けに書かれていますが、業界人にとっても座右に置いておくといい一冊です。なにより、編集の手法の違いが絵コンテで描きわけてあるので一目瞭然です。こうしたわかりやすいテキストが今までありませんでした。それにしても井上さんはなぜ自ら筆をとったのでしょうか。 
 
「多くの人に編集を理解していただくことで編集のプロの仕事をもっと理解して欲しいと思ったのです」 
 
  井上さんはいかにインチキをせずに面白くできるか。それをプロの視点でいつも考えています。 
そこで僕は井上さんからどうすれば面白くなるかのフジテレビ「ザ・ノンフィクション」のプロデューサーの指針を(こっそり)教えていただきました。テレビを面白くするコツは「5つのS」と「3つの味付け」だそうです。 
 
★「5つのS」とは? 
 
��Story ��Suspense ��Strategy(編集、ナレーション、ミュージック) 
��Stance(被写体との距離感) ��Splash (感情の飛沫) 
 
★「3つの味付け」とは? 
 
��Poison ��Timely ��Love 
 
です。これらの要素を盛り込むことを「ザ・ノンフィクション」では望まれているそうです。 


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