2009年11月04日20時38分掲載  無料記事
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インド末期がん患者、耐えられない痛み モルヒネ投与されず

【ニューデリー10月28日=ヒューマン・ライツ・ウォッチ】インドでは、本来なら緩和できる激しい痛みに苦しむ患者たちが数十万人にも達する、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。薬の厳しい使用制限、医療従事者への訓練不足、不適切な医療などのため、患者は安価で効果的な苦痛緩和治療を受けられないでいる。 
 
 本報告書「耐えられない痛み:インドにおける苦痛緩和治療の実態 <http://www.hrw.org/en/node/86153> 」(102ページ)は、インドを代表するガン専門病院の多くで、患者の70%以上が治療不能であり、痛み止めや苦痛緩和治療を必要としていると見られるにも拘らず、患者にモルヒネを投与していないことを明らかにしている。HIV患者のための病院でも、モルヒネがなかったり、あるいは、モルヒネを処方できる医師がいない状態である。 
 
 「インドの医療システムは、激しい痛みに苦しむ多くの患者を見捨てている」とヒューマン・ライツ・ウォッチの保健と人権プログラム上級調査員ディデリク・ローマンは述べた。「患者は苦しみのなかに放置されている。あまりの痛みに、死んだほうがましだ、といっている人がたくさんいた」 
 
 激しい痛みは、ガン末期の患者に共通してみられる症状。インドでは、毎年100万人を超える末期ガンの患者が激しい痛みに苦しんでいると推計される。これに加え、多くのHIVや結核の患者や、その他の感染症の患者たちが、急性の激痛や慢性的な激しい痛みに苦しんでいる。 
 
 本報告書は、疼痛治療と苦痛緩和治療の普及を妨げている3つの理由を指摘している。 
 
●薬の厳しい使用制限。インドの多くの州の麻薬使用制限は厳しすぎる。その結果、病院や薬局がモルヒネを入手することが非常に困難になっている。インド政府は1998年、州政府に規制を緩和するよう勧告したが、半数以上の州では緩和されないままである。 
 
●医師への訓練不足。政府の医療教育のカリキュラムに疼痛治療と苦痛緩和治療が含まれていない。よって、この分野の訓練を受けた医学生や若い医師はほとんどいない。その結果、インドの殆どの医師は、激しい疼痛の診断や治療法についての知識を持っていない。 
 
●医療システムにおける苦痛緩和治療の位置づけの問題。インド政府のガンとエイズ対策プログラムには、効果的な苦痛緩和治療策が取り入れられていない。よって、これらの治療に公的資金が割り当てられず、重要性も認められていない。 
 
 「インドは、モルヒネの原料であるアヘンを、世界で最も多く生産している国の1つである。」とローマンは述べた。「しかし、その殆どは輸出される。そして、インドでは、数十万人もの(百万を超える可能性もある)人びとが、本来なら緩和できる痛みに苦しんでいる。」 
 
 本報告書は、ガン患者の疼痛緩和治療に焦点をあてている。公式なモルヒネ消費報告を基に、適切な疼痛緩和治療を受けているのは末期ガン患者の4%に満たないと算出。また、ガン対策へ政府資金の拠出が増えたものの、苦痛緩和治療に重点が置かれていない、と指摘している。 
 
 「インド政府は、地方にガン治療センターを設立したり、ガン対策予算を増やしている。これは、高い評価に値する。」とローマンは述べた。「しかし、全てのガン専門病院で苦痛緩和治療が行なえるよう、具体的な対策が必要だ。それなしには、政府の予算増も、末期ガン患者の苦痛を緩和することにはつながらない」 
 
 本報告書は、国際的な人権団体が人権の観点から疼痛緩和医療へのアクセスを検証した世界初の報告書である。モルヒネなどの重要医薬品を備えるとともに、医療従事者に使用方法についてしっかり訓練を行うことは、政府の義務である、とヒューマン・ライツ・ウォッチは考える。この義務を履行していないインド政府は、人びとの医療への権利を侵害している、と本報告書は指摘している。 
 
 ヒューマン・ライツ・ウォッチの本報告書は、ガン専門病院での疼痛緩和治療の確保という政府の義務が履行されない場合、深刻な痛みを蔓延させる結果となることから、拷問その他の残虐、非人道的ないし品位を傷つける取り扱いの禁止に違反する可能性がある、とも指摘。こうした苦痛は、通常、比較的低予算かつ基本的な対策で防ぐことが出来る。 
 
患者たちの証言からの抜粋 
 
“まるで誰かが針で刺してるみたいに感じるんですよ。[夜通し]泣き続けるだけです。こんなに痛いなら、あなただって、死はただそこからの解放だって考えますよ。” 
 
―プリヤ、乳ガンの女性。ハイデラバードにて 
 
“ベロに唐辛子を乗せたみたいに足が焼けるように痛むんだ。痛みがあんまりひどいのでよっぽど死のうかと思ったよ。とても怖かった。この痛みをガマンするより、いっそ死んだほうが良いって感じたね。足をとってくれ、そうすれば楽になる [と思ったね] 。足を取っ払ってしまえば、痛みから解放されるだろってね。” 
 
―ディラワル・ジョシ、骨肉腫のネパール人男性。ハイデラバードにて 
 
 
“毎晩1時間と30分くらいしか寝てないんじゃないか。睡眠薬はいくらでももらえるけれど [効果がない]。モルヒネがあれば楽になれる。ここ[苦痛緩和治療科]はホントにいい所よ・・・” 
 
―シュルティ・シャルマ、乳ガン患者。ハイデラバードにて 
 
 
“背中と両足が痛いんだ。両足が異常な体勢に捻じ曲げられている。両足が内側にまがって、足の指が上を向く、全てが逆に曲げられた感じ。拷問にかけられているみたいな、刺すような痛みなんだ。夜痛みが特にひどくて眠れないんだ。” 
 
―ピレイ、脊椎結核とHIVの患者。トリバンドラムにて 
 
 
 
“おなか全体と性器のあたりがすごく痛い。ずーと痛くて、背中に広がっていくズキズキした痛み。それでスゴク怒りっぽくなって、不満がいっぱい。痛い、ちょっとも良くならないって言いに、医者のところに3度も4度も行ったわ。それで何とかして新しい薬をもらったけど、全然良くならなかった。” 
 
―カマラ・カンワル、子宮ガン患者。ジャイプルにて 
 
 
 
ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書「耐えられない痛み:インドにおける苦痛緩和治療の実態」はこちら: 
 
http://www.hrw.org/en/node/86153 <http://www.hrw.org/en/node/86153> 
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マルチメディア: ヒューマン・ライツ・ウォッチとジャーナリストBrent Foster氏によるビデオ映像はこちらからダウンロードしていただけます: 
 
http://www.hrw.org/en/video/2009/10/23/right-relief-palliative-care-india <http://www.hrw.org/en/video/2009/10/23/right-relief-palliative-care-india> 
 
 
 
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