2010年01月14日09時21分掲載  無料記事
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市民組織「みどりの未来」が目指す変革 自然と共生、脱原発、持続可能な社会 安原和雄

  新聞やテレビは連日、民主党連立政権にかかわるニュースであふれているが、その陰で日本の「新しい国づくり」の姿を描きながら地道な活動を続けている市民組織の存在にも目を向けたい。それは日本版「緑の党」づくりを目指す市民組織「みどりの未来」で、政策目標として持続可能な社会への変革を柱に自然との共生、脱石油・脱原発、脱クルマ・公共交通充実、防衛省解体・平和省創設、小選挙区制の廃止 ― などを掲げている。 
 国政レベルで発言力を高めているヨーロッパの「緑の党」に比べれば、「みどりの未来」はまだ地方自治体議員にとどまっているが、政策目標から見るかぎり、将来性は期待できる。二大政党制を絶対視しないためにも少数政党の存在価値を重視し、多様な選択肢を確保したい。 
 
▽ 市民組織「みどりの未来」とその「6つの政策」 
市民組織「みどりの未来」は、「みどりの政治理念」として以下のような「6つの政策目標」を掲げている。それぞれのイメージ、目標について若干の説明を加えたい。 
 
*エコロジカルな知恵(Ecological Wisdom)=世界のすべてはつながり影響しあっている・・・知恵のあるライフスタイルとスローな日本へ! ― 自然との共生、少欲知足、ゼロ成長、スロー・スモール・シンプル、土地は子孫からの借り物など 
*社会正義(Social Justice)=「一人勝ち」では結局幸せになれない・・・弱肉強食から脱却する思いやりの「政策」を! ― 反貧困、同一価値労働・同一賃金、雇用創出型ワークシェアリング、労働時間短縮・バカンス法、国際連帯税(トービン税)など 
*参加型民主主義(Participatory Democracy)=納得できる政治参加・・・利権・腐敗をなくし、一人ひとりの元気と幸せのためのプロセスを! ― 納税者主権、子どもの政治参加、小選挙区制の廃止、地方選挙までの比例代表制、企業団体献金の全面禁止など 
*非暴力(Non-Violence)=誰にも殺されたくない、殺したくない・・・戦争に至らない具体的な仕組みを提案・実現する! ― 丸腰国家、防衛省の解体・平和省の創設、脱軍需産業、東アジア非核平和構想、WTO・IMF体制の解体など 
*持続可能性(Sustainability)=脱石油、脱原発、脱ダム・・・子どもたちの未来と自然環境を食いつぶすシステムから脱却を! ― 低炭素社会、食・エネルギー・ケアの地産地消、自然エネルギーの固定価格買取制度、遺伝子組み換え反対、脱クルマ・公共交通の充実など 
*多様性の尊重(Respect for Diversity)=私の知らない苦しみがある・・・「誰もが幸せになる権利」を尊重する生きやすく楽しい社会を! ― 多宗教共存、多文化共生・多様性保障の教育推進、先住民(アイヌなど)の権利、障害者権利条約、外国人労働者の権利擁護など 
 
 海外における「緑の党」の現状をみると、欧州では例えばドイツでは昨09年9月の連邦議会(下院=基本定数598)総選挙で90年連合・緑の党は得票率10.7%、68議席で、前回の得票(8.1%、51議席)をかなり上回った。一方、オセアニア(大洋州)ではオーストラリア、ニュージーランドで活発な活動を展開しており、「緑の党」の声を無視しては政治ができないという評価もある。 
 日本では目下のところ国政レベルの議員はいないが、地方自治体では活動が広がりつつある。 
 
▽ 対談「持続可能な社会へシフトチェンジを」 
 
 その市民組織「みどりの未来」の最新のニュースレター「MIDORI STYLE」(2010年1月1日付)は、鎌仲ひとみさん(映像作家、注1)と稲村和美さん(「みどりの未来」共同代表、注2)の対談を掲載している。テーマは「持続可能な社会へシフトチェンジを」となっている。 
 (注1)鎌仲ひとみさんはフリーの映像作家。テレビ番組を多数監督した。受賞も多い。ドキュメンタリー映画最新作「ミツバチの羽音と地球の回転」は5月に公開される。自然エネルギーを模索し、地域で格闘している人々との出会いを求めて、カメラは未来へのヒント・希望を探る。 
 (注2)稲村和美さんは1972年生まれ、神戸大学大学院修士課程修了。阪神淡路大震災で市民派市議と出会い、尼崎市議会会派スタッフに。さらに証券会社勤務、尼崎市長選挙スタッフなどを経て、現在兵庫県議会議員(03年〜)。 
 
 対談の大要を以下に紹介する。 
 
(1)自然との共生、エネルギー・シフト 
稲村:映画のタイトルの「ミツバチの羽音と地球の回転」、これはどういう想いを込められたんですか。 
鎌仲:ミツバチは花をまったく壊さずに蜜を採っていき、花は受粉します。自然と人間も、そうした関係でなくちゃいけない。自然と共生するライフスタイルを実践する存在に自らなることが大事です。蜜ももらうけれども、受粉もする。そういう関係性は、今私たちの生きている社会や文明のあり方とは逆なんですよね。経済成長の根本に、環境破壊や第三世界からの搾取があるわけです。ですから「自分自身を持続可能な存在に変えていくこと」と、地球全体を見る視点との両方を持つ映画にしたかった。「これからはそうでなくちゃね」といった提案をしたくて、こういうタイトルにしました。 
 
稲村:「環境を守ろう」というと、「いろんなことを我慢しないといけない」、「利便性が失われる」といった、ネガティブな反応がまだ根強いですよね。でも今「みどり」というキーワードのもとに集まっている私たちは、「自然と共生する生き方って、実は私たちにとってもいいことじゃない?」、「自然を貪(むさぼ)り蹂躙(じゅうりん)してきて、同時に私たち自身もいろんなものを失ってきたんじゃない?」、そのことをもっとうまく伝えていきたいと感じています。 
鎌仲:この映画の大切なテーマは「エネルギー・シフト」なんです。すでに55基もあるのに、みんな「原発を作るのは仕方ない」と思っている。その流れをどう変えていくか。原発に頼らない、総合的で長期的な考え方のできる情報、視点を提示できたらいいなと思っています。 
今回取材したスウェーデンでは、本気でやらなければ子どもや孫たちが生きていく上で大変な危ない事態になる、生活の質がだめになっていくという意識を国民が共有しています。日本では「電力会社が電気を作ってくれるから、自分たちは使えればそれでいい」と。 
 
(2)自分たちの意思で社会が変わる 
稲村:「自分たちにもかかわる問題なんだ」というリアリティを、どうやって伝えたり共有したりできるのかが、やはり大きな課題ですね。鎌仲さんは映画という効果的なツールを持っていて羨ましいと思います。 
鎌仲:これを「道具」として使ってもらいたいわけです。私たちが依(よ)って立つ構造やシステムが否応なくこんな状況になっている。「じゃあこのシステムは誰が作ったの?」と見ていくと、誰かが作ったのかもしれないけど、それを支え続けているのは、例えば私たちが電力会社にただお金を払い続けていること、その問題に興味を持たないこと。「他のものがいい」、「こういうのは嫌だ」と思ったときに、その「支えている自分」に気づいて、じゃあ具体的にどういう行動ができるのだろう、と。「何ができるんですか?」という問いに対する「受け皿」をぜひ「みどりの未来」につくっていただきたいです。 
稲村:まず第一歩は「知ってもらうこと」です。それと同時に、その問題に気づいたら「こんな道がある」、「こんな方法がある」ということがセットで提示されていないと、みんな目をそむけてしまうんです。問題を分かれば分かるほど当然、及び腰になることもあるんですよね。私は決して悲観はしていません。いろんなことを知り、感じた人たちから「じゃあ自分たちのライフスタイルで、できることから変えていこう」という動きは確実にあるし、ひとつずつ具体的な選択肢、チャレンジの紹介などもされるようになりました。 
そして自分がライフスタイルを変えていくことと同時に、誰しもが与えられた、長い歴史の中でやっと勝ち得た「一票を投じる」という選択権をほったらかしにするなんて、何てもったいないんだろう、と思うんです。 
 
鎌仲:衆議院選挙(09年8月)では投票率は何%だったのかしら。 
稲村:高いと言われていますが、69%でした。お金のあるなしに関係なく、一票を持っているわけですから、それを使うことで世の中がもっと変えられる、自分たちが望む仕組みを自分たちがつくれると実感できることが大切ですよね。政治がもたらしているマイナスも大きいけれども、逆にこれをプラスに使ったときの威力も決して小さくはないんです。それと「自分たちの意思で何かが変わる」という手応えを感じる体験があまりにも少ないですよね。 
阪神淡路大震災ではライフラインも何もかも全部止まってみんなが協力せざるを得ない。避難所では自分たちが決めたルールはみんな、こんなにきちんと守るんだ!と感動したんです。不便でプライバシーもない、エネルギーはもちろん、ないない尽くしの中で、すごく貴重な体験をさせてもらいました。非常事態でないときでも、この手応えを感じられるような社会にしたいと思いました。 
 
(3)もうひとつの具体案を提示すること 
鎌仲:現実の日本の政治を動かしているのは、「お金」だと思うんです。経済界が政治家に一番影響力を持っていて、国民のためというよりも、日本の経済を動かすためにやっていることの方が今までずっと大きかった。だから経済と政治が合体しているのをひとつひとつ引き離していかないといけないんです。 
中国電力が上関原発を建てることで儲かる。すると雇用が生まれ税収が増え、自治体はその税金や寄付金、電源立地交付金という特別な税金を国からもらえる。「原発を建ててください」と言っているのはそういうわけです。だから反対を訴えるときは、「原発よりもっといいものがある」と、もうひとつの具体的な案を提示しないといけません。 
稲村:ヨーロッパなどでは政府が別の道への誘導をかけていますよね。 
鎌仲:そう。ドイツでは価格も提示して風力発電の電気を優先的に買うよう促していて、会社や市民セクターに風力発電所を建てようという流れができています。確実に返ってくると保証されているから、投資が動くわけですね。そこで得た税収を、今まで短期雇用や派遣だった労働者を終身雇用にするための社会保険税を補助する予算に充てることで、合わせて100万人近い人が雇用を得たんです。たった一つの制度を創出しただけで、それが目に見えると、国民は「よかった」と思うわけです。 
「バック・キャスティング」という考え方があります。今の日本で55基ある原発をすぐにゼロにするのは無理ですけど、でも新しいものは建てない、古い原発は徐々に廃炉にし、その分の電気を使わない、あるいは自然エネルギーでやっていく方法を段階的に考えていくんです。 
 
(4)政治への敷居を下げること 
稲村:私たちも「一歩一歩こうした選択を積み重ねていけば、遠くにあった目標に近づいていくことにつながる」ということを、政策的にどう表現しようかと知恵を絞っているところです。 
最後に「みどりの未来」にアドバイスをお願いできますか。 
鎌仲:「世界を変えることはできない」とみんな思い込んでいるし、茶色の世界をオセロのようにいっぺんに100%「みどり」にすることはできない。でもそれぞれの地域に住んでいる人たちが同時多発的に、自分の根ざしている暮らしを「みどり」にしていくことで、変われる。世界を変えるのは地域を変えることだと思えば、もっと具体的になってくるし、みんなも参加しやすいんじゃないかな。 
「みどりの未来」が、地域の中で政治と普通の人が触れあう、カフェみたいな場所をつくっていくことも重要ではないか。子連れで来られるような「場」です。「みどりの未来」が開くカフェは、政治への敷居を下げると思います。本当に具体的に地域に寄与したい、変えたい、良くしたいと思う人が政治家になって当たり前なんですから。「稲村さんがやっているんだったら、私にもできるかもしれない」と。 
稲村:そうですよね。映画の完成、楽しみにしています。 
 
▽ 日本版「緑の党」に成長するための必要条件 
 
 「みどりの未来」は日本版「緑の党」を目指してはいるが、まだ地方レベルの市民組織にとどまっている。同じニュースレター「MIDORI STYLE」(1月1日付)に大橋巨泉・元参院議員のつぎのような趣旨の一文が掲載されている。題して「民主圧勝もいいが、緑の党の議席のない国に未来なんてないも同然だ」で、「緑の党」が日本でも登場してくることを期待する一文となっている。 
 
 半世紀も経って、ようやく政権交代を為しとげた日本の民主主義は、まだまだやっと中学生というところなのだ。一番未熟なところは、いまだに緑の党に議席を与えたことがないことだ。こんな国は先進国では例外的である。環境問題に特に関心の高いヨーロッパでは、各国で2けたに近い得票率を得ている。 
(中略)地球温暖化や汚染は着実に進んでいる。地球は限界に来ている。政治が未来を設計するものだとすれば、答えは明確に出ている ― と。 
 
さて期待に応えて、日本版「緑の党」に成長するには何が必要だろうか。 
 冒頭で紹介したように市民組織「みどりの未来」の「6つの政策目標」は、民主党政権のマニフェスト(政権公約)に比べてよほど斬新であり、時代を先取りしていると言ってもいいだろう。鎌仲ひとみさんと稲村和美さんとの対談も、新鮮な感覚で彩られており、読んでいて、楽しい。これをどう生かしていくか。 
 
 対談の中のキーワードを私(安原)なりに引き出せば、以下のようである。 
*自然との共生 
*エネルギー・シフト(脱原発) 
*「原発よりもっといいものがある」と、もうひとつの具体案を提示していくこと 
*自分自身を持続可能な存在に変えていくこと 
*地球全体を見る視点 
*「嫌なこと」を「支えている自分」に気づくこと 
*自分のライフスタイルを変えていくこと 
*勝ち得た「一票を投じる」という選択権を大切にすること 
*政治への敷居を下げること 
*子連れで来られるカフェみたいな「場」をつくること 
 
 思いつくままに選んでみたら、キーワード「ベスト10」となった。いうまでもなくどれも重要で、正しいが、例えば「自然との共生」はもはや常識だし、「脱原発」への意識も広がりつつある。 
 ただ「脱原発」には原発推進グループの抵抗が根強い。朝日、毎日など大手紙(2010年1月7日付)は、「低炭素社会へ向けた原子力発電 ― 地球環境と日本のエネルギーを考える」核燃料サイクルシンポジウム(2月6日、東京商工会議所東商ホールで開催)に関する派手な広告を掲載した。片隅に小さい活字で「経済産業省 資源エネルギー庁」とうたっているところをみると、ここが主導するシンポジウムなのだろう。 
 
 上述の「ベスト10」のなかで「なるほど」と新鮮な印象を得たのは、もうひとつの具体案を提示していくこと、「嫌なこと」を「支えている自分」に気づくこと、子連れで来られるカフェみたいな「場」をつくること ― などである。 
 もはや「反対」「変革」を叫ぶだけでは対抗力としては弱い。もうひとつの具体案を提示していく提案力は今や不可欠といえよう。 
 つぎに「こんな嫌なことには反対」と思いながら、実はその嫌な構造を自分自身が支えていることに気づかないことが多い。自分自身を知ることが一番難しいというが、そこに気づくことが変革のための出発点といえる。 
 3つ目の「子連れで来られるカフェみたいな場」をつくること、という日常感覚の柔らかい発想には脱帽である。こうして「政治への敷居を下げること」はたしかに変革のための必須条件である。 


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