2010年07月19日10時04分掲載  無料記事
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今こそ優秀な外国人学生の獲得を! 日本での進学説明会への参加者が倍増 

  日本学生支援機構 (以下Jasso)が主催する『外国人学生のための進学説明会』が7月11日(日)、池袋サンシャインシティ文化会館にて開催された。(和田秀子) 
 
 Jasso は、奨学金貸与事業や留学生支援事業および、学生生活支援事業を行う独立行政法人。 
 同説明会は、今年度で17回目を迎える。今年の参加大学は 135校、来場した外国人学生は約4,000人にのぼり、昨年度の2,546人を大きく上回って、これまででもっとも来場者数が多かった2002年の 4,515人に次ぐ数となった。内訳は、中国・韓国・台湾などで8割を占める。 
 
▽激化するアジアからの留学生の争奪戦 
 
 グローバル化と少子高齢化が進むなか、先進各国は、中国をはじめとしたアジアからの優秀な人材を取り込もうと争奪戦を繰り広げている。日本がその競争に打ち勝ち、優秀な人材を確保するためにはどうすればいいのか? 
 Jassoで留学情報センター長を務める吉野利雄さんに、お話をうかがった。 
 
 Q:今年の『外国人学生のための進学説明会』は、昨年の倍にあたる外国人学生が来場したそうだが、急増した背景にはどんな理由があると思うか? 
 
 吉野:例年、来場する学生のなかでもっとも多いのが中国人学生で、それは今年度も変わりない。人数が急増した背景に関しては、まだ正確な統計が出ていないのだが、7月に中国向け個人観光ビザが緩和されたことが、少し関係しているのではないかと推測している。 
 例年は日本語学校に通っている学生が来場するのだが、今年は7月から個人観光ビザが緩和された関係で、日本語学校に所属していない旅行者が来場している可能性もある。 
 もちろん、それほど数は多くないだろうが「日本は来日しやすい国になった」ということで、関心が高まっていることは確かだろう。 
 
 Q:日本への留学を目指す外国人学生たちに、意識の変化は見られるか? 
 
 吉野:中国人学生に関しては、経済的に恵まれた学生が増えている。80〜90年代には、国を背負って来日し、「日本で学んだことを祖国に帰って役立てよう」というような勤勉で真面目な苦学生が多かった。しかし最近では、たんに「異文化を体験したい」と、軽い気持ちで留学する学生も増えているようだ。 
 
 また一方で、日本での就職を真剣に考える学生も増加している。なぜなら、少しずつではあるが、日本企業が外国人学生たちに門戸を開きはじめたからだ。Jassoは、中国国内でも留学フェアを開催しているのだが、最近は日本の就職事情について質問する学生が増えてきた。 
 以前は、日本の大学を卒業しても、日本国内で就職するのは難しかったので、卒業したら帰国して祖国の発展のために貢献する、というのが外国人学生のパターンだった。 
 
 しかし、福田政権下で「留学生30万人計画」が打ち出されて以降、優秀な人材を育成して日本企業で就職していただこう、ということが政府のねらいになっている。そうした背景があるため、外国人学生たちは「どの大学に入れば日本での就職が有利になるか」を具体的に知りたいと考えるようになってきている。 
 
▽「どの大学が就職に有利か」 
 
 Q:では大学側も、外国人学生の就職に対して、より一層力を入れなくてはならないのではないか? 現在は、企業の門戸が開かれてきたとはいえ、まだまだ外国人学生の日本での就職は厳しい状況だと思うが。 
 
 吉野:その通りだ。大学側としても、入学だけさせて後は知らん顔、というわけにはいかなくなってきた。出口である就職のところもしっかりとケアをしないと、学生に選んでもらえない時代になってきたのではないかと思う。今年度の来場者が増えたのも、「日本での就職に有利な大学を選びたい」と考える学生が増えたことと関係しているかもしれない。 
 
 Q:大学側は、外国人学生獲得にあたって、どのような努力をしているのか? 
 
 吉野:日本国内で日本語学校に通う外国人学生をリクルートするだけでなく、積極的に海外に拠点を設けて、直接、学生を獲得しようとする動きが活発になっている。 
しかし、人口の多い中国は、欧米諸国の大学が早くからねらいを定めて動いていたため、日本は出遅れた感がある。北京や上海ならばまだしも、少し内陸部に入れば「日本の大学なんて東大くらいしか知らない」という学生も山ほどいる。だから、よほど積極的に広報活動を行わないと、学生を獲得できない時代になっている。 
 
 また、“日本語”というマイナー言語の壁も大きい。中国では小学校低学年から英語を勉強しているので、優秀な生徒なら、大学に入学するくらいの年齢になると相当な英語力を身につけている。そんな学生に、あえて全く勉強したことのない日本語の大学を選んでもらうためには、カリキュラムを見直すなど相当な工夫が必要だろう。 
 
 Q:大学はカリキュラムの改革などで、外国人学生を集めるための工夫をしているのか? 
 
 吉野:最近では、英語だけで授業を行い、単位が取得できるようにしている大学も増えている。また、“ダブルディグリー・プログラム”といって、日本の大学と海外の大学が提携し、学生が相手校へ留学して所定の単位を取得することで、卒業時に同時にふたつの大学の学位を取得できるというプログラムも導入し始めている。 
 しかし、こうしたプログラムはメリットも多い反面、弊害もある。これまでの外国人学生は、来日してから日本語学校に2年間ほど通い、語学力をつけてから大学に入学していたが、最近では日本語を学ばずに大学に編入する学生が増えている。そのため、日本語能力が不十分な学生も少なくない。これでは、いざ日本社会に出たときに困るのは外国人学生だ。 
 このような事態を解消するためには、大学と国内の日本語学校が連携を深め、外国人学生への日本語教育をしっかり行う必要がある。 
 
▽グローバル化と少子化への未来戦略を 
 
 Q:最近は、外国人学生に対する奨学金も減らされており、非常に厳しい状態だと聞くが。 
 
 吉野:その通りだ。日本は現在、財政的に厳しい状況にあるので、仕方がない面はあるだろう。しかし日本には、経済途上国からやってきた外国人学生が多いので、とくに私費留学生の場合は、奨学金が減らされると非常苦しい状況に追い込まれる。 
たしかに、財政難の現状において、外国人学生のために資金を投入することに対しては賛否がある。しかし、日本のグローバル化や少子化の未来を考えるならば、今こそ海外からの優秀な学生の受け入れに力を注ぎ、ともに “アジア”を引っ張っていく人材を育成せねばならないのではないか。 
 
 経団連をはじめとして、「グローバル人材を受け入れたい」とおっしゃっている企業が奨学金を提供いただけるなら、外国人学生たちは助かるだろう。 
 
 たんに「外国人学生を呼び込めさえすればいい」という安易な発想ではなく、外国人学生たちが心から「日本に来て良かった」と思えるような受け入れ体制を、大学・専門学校・日本語学校、そして企業が一体となって整える必要がある。その間をつなげるのが我々、Jassoの役割だと思っている。 
 
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 日本が斜陽だといえども、まだまだアジアの国々は日本に憧れ、その後ろ姿を追っている。 
 この日、会場にあふれていた外国人学生たちの熱気を消さないためにも、早急な対応が求められている。 


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