2010年12月10日20時26分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201012102026285

TPP/脱グローバリゼーション

【TPPって何なんだ!】マレーシアでも反対運動  「農業・食の安保、環境、労働者、公共サービスなどに悪影響を与える」

  日本の新聞、テレビはこぞって、TPP(環太平洋経済連携協定)参加9ヵ国は官民あげてTPP締結に取り組んでいて、これに乗り遅れると日本経済は沈没してしまう、という報道を続けている。だが、現実には無条件関税撤廃や投資、公共サービス、労働などあらゆる面で自由化を進めようというTPPへの参加は、各国の経済や社会にインパクトを与え、社会的経済的弱者を直撃することは、日本と変わりない。マレーシアでは市民団体によるTPP反対の運動が動き出している。地元市民団体のブログから、その動きをお伝えする。(稲垣豊) 
 
  自由貿易協定反対連盟(Gabungan Membantah FTA)の代表は、2010年12月2日に貿易・工業省に対して、EU・マレーシア自由貿易協定交渉に反対する覚書を提出した。マレーシア政府は2010年12月6日から10日までブリュッセルにおいてEUとFTA交渉を行う。またアメリカと環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に向けても準備を進めている。 
 
  自由貿易協定反対連盟は政府に対して、EUやアメリカとの自由貿易交渉の停止、一切の交渉の前にはまず民衆から意見を求めることを要求した。 
 
  マレーシア政府が以前アメリカとFTA交渉を行っていたときにも、FTAを締結すれば人々の生活や自然環境に対して甚大な悪影響がもたらされるという市民団体や在野の政党などから反対の意見が出されてきた。その後、マレーシアとアメリカのFTA交渉はうやむやとなっていたが、ここに来て「環太平洋パートナーシップ」として再燃し始めた。 
 
  いま世界は1930年代の大恐慌依頼の経済危機、金融危機、食糧危機、そして気候変動の危機などに直面している。そしてこれらの諸危機はアメリカ主導による地球規模の自由貿易体制と密接に関連している。マレーシアとEUおよびアメリカとのFTA締結は、これらの危機がもたらすマレーシアへの衝撃をさらに加速し、危機にある社会経済を回復軌道に乗せようとするマレーシア政府の政策を制止するだろう。 
 
  自由貿易協定が外国資本財団に巨額の利益をもたらすことについて、自由貿易協定反対連盟はその覚書のなかで以下のような憂慮を示した。 
 
1、農民と食糧安全保障に対する影響 
 
自由貿易協定では、EUと米国は農業補助金を削減することはない。しかしマレーシアに対しては農産物に対する関税を引き下げることを強制する。これはマレーシアのコメ農民や牧畜業者などの農業従事者を、EUや米国の補助金漬けの安い農産物と直接競争させることになり、ひいてはマレーシア農民が農業を放棄することになるだろう。輸入関税を引き下げたガーナでは、とりにくの輸入関税を引き下げたことでEUからの輸入が増加し、ガーナの養鶏農民の市場占有率が95%から11%に低下した。マレーシアにおいてもこのような状況が出現すると、輸入食品への依存が増大し、世界的な食糧不足がマレーシアにおける食糧危機を引き起こすかもしれない。 
 
2、マレーシア産業の付加価値能力の向上への影響 
 
マレーシアは2020年までに、バリューチェーン(価値)の向上などで先進国の仲間入りをすることに意欲を見せている。だがEUや米国はマレーシアに対して製品の80%の関税を撤廃することを要求している。もしそれが実現するとマレーシア産業の高付加価値化への道筋は困難となる。なぜなら、関税で保護することなく新興産業の工業化を達成できた国などこれまでなかったからだ。 
 
3、医療保険に対する影響 
 
これまで他の国と締結してきたFTAに比べ、EUと米国は、知的所有権の問題ではWTO協定よりもさらに厳しい条件を押し付け、グアテマラが直面したような困難をマレーシアにももたらすだろう。グアテマラでは薬価が84万5600%も高騰した。EUは東欧国家に対して薬の知的所有権を25年延長することを受け入れさせた。WTOの協定では20年であるにも関わらず。こうしたことから、マレーシアに対してもジェネリック薬の輸出入の制限を要求してくるだろう 
。 
 
4、自然環境、社会、金融などの規制に対する影響 
 
EUと米国は、マレーシア政府に対して投資化の利益を保護する措置と、現在マレーシアの国内法で定めている自然環境や労働者の権利などの保護に対する規制の削減を要求するだろう。FTAにおける投資に関する条項では、政府の政策などによって企業が損失を蒙った場合、企業が政府を訴え、巨額の賠償金をせしめ 
るることができるというものである。実際に提訴するかどうかは別としても、企業活動を規制を強化しようとする政府に対して充分な恫喝となりうる。アメリカが他の国と締結したFTAでは、有害物質の輸出禁止、有害物質の廃棄禁止、神経性毒素禁止などを定めた国内法律が改悪されている。自然環境保護や労働者の権利などに関する法律がFTAの条項に抵触したからだ。 
 
自由貿易協定反対連盟は、FTAによって民衆の権利が不当に侵害されることのないよう、政府に対してFTAがもたらす影響に関する研究報告の公開を要求し、連盟代表との対話を求めている。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。