2011年05月08日13時57分掲載  無料記事
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文化

【演歌シリーズ】(17) 「黒髪幻想」星野哲郎の情歌供宗屬澆世貳院廚縫┘蹈垢陵庄ぁ宗 〆監c桧譟

  美空ひばりの『みだれ髪』は、日本情歌の最良である。美空ひばりの最期の歌々が、お行儀の良すぎる『愛燦燦』(詩・曲・小椋佳)と『川の流れのように』では、寂しすぎる。星野哲郎と船村徹の渾身の情歌『みだれ髪』が美空ひばりの掉尾を飾ったことを喜んでいる。(本文から) 
                             ◆水前寺清子との出会い 
 
  人生の応援歌と言えば、水前寺清子である。「ぼろは着てても 心の錦」(『いっぽんどっこの唄』曲・安藤実親)を初め『ゆさぶりどっこの唄』(曲・北原じゅん)『男でよいしょ』(曲・安藤)『鬼面児』(曲・安藤)『東京でだめなら』(曲・首藤正毅)そして「人生は ワン・ツー・パンチ/歩みを止めずに 夢みよう/千里の道も 一歩から/はじまることを 信じよう」(『三百六十五歩のマーチ』曲・米山正夫)どの歌にも人を鼓舞する水前寺清子の晴ればれとした声がはじけている。 
 
  日本コロムビアにお家騒動がありクラウンが分離独立した。星野哲郎は、“演歌の竜”こと馬渕玄三ディレクターとともにクラウンに移籍の際、鳴かず飛ばずでいた水前寺清子をコロムビアからもらい受けるのである。そして、『涙を抱いた渡り鳥』(曲・いずみゆたか)でデビューさせた。元は、馬渕・星野・市川昭介トリオで世に出した畠山みどりのために書いた『ハカマをはいた渡り鳥』である。星野が移籍したのでコロムビア所属の畠山が歌えなくなり、星野は、一部を書き変えて水前寺に歌わせたのである。それが、大ヒットするのである。市川もコロムビア所属なので、いずみゆたかの名を用いた。 
 
 「ひと声ないては 旅から旅へ/くろうみやまの ほととぎす」「口にゃだすまい 昔のことは/水にながして はればれと」 
 
  水前寺清子は、コロムビア時代の苦節五年の思いを胸に抱いて歌った。気流し姿で歌う水前寺清子の“援歌”にどれほど多くの人が励まされたことか……。 
 
  任侠ものも星野演歌の特長だ。 
 「親の血をひく 兄弟よりも/かたいちぎりの 義兄弟」(『兄弟仁義』歌・北島三郎 曲・北原)「ドブに落ちても 根のある奴は/いつかは蓮(はちす)の 花と咲く」(『男はつらいよ』歌・渥美清 曲・山本直純)渡世ものとも言う。『赤城の子守唄』(歌・東海林太郎 詩・佐藤惣之助 曲・竹岡信幸)『大利根月夜』(歌・田端義夫 詩・藤田まさと 曲・長津義司)『唐獅子牡丹』(歌・高倉健 詩・曲・水城一狼)最近では、氷川きよしが歌う『箱根八里の半次郎』(詩・松井由利夫 曲・水森英夫)などこのジャンルのヒット曲がある。 
 
  また、「波の谷間に 命の花が/ふたつ並んで 咲いている」鳥羽一郎が歌う『兄弟船』(曲・船村徹)に代表される海もの、「うしろ姿で 泣いてた君を/おもいだすたび 逢いたくて」北島三郎が歌う『函館の女(ひと)』(曲・島津伸男)に代表される女シリーズもある。 
 
  さらに、ノンフィクション情歌もある。小林幸子の「お母さんの歌を書いていただけませんか」という要望に応じて、彼女の母に会い、その人生経験を聞きつくったのが『雪椿』(曲・遠藤実)「つらくても がまんをすれば/きっと来ますよ 春の日が/命なげすて 育ててくれた/あなたの口癖 あなたの涙」小林幸子は、この歌を涙を流さずには歌えない。 
  『昔の名前で出ています』(曲・叶弦大)は、酒場の女たちから聞いた哀しい話を詩にした。この女歌をなんとマイト・ガイ小林旭に歌わせてヒットさせたのである。 
 
   星野演歌を代表する曲に『風雪流れ旅』(曲・船村)がある。津軽三味線の名手・初代高橋竹山に直接取材をした音と匂いのノンフィクション情歌である。「音の出るもの 何でも好きで/かもめ啼く声 ききながら」「通い妻だと 笑った女(ひと)の/髪の匂いも なつかしい」星野哲郎は、この歌に見える景を描かなかった。音と匂いの美、高橋竹山は、盲目の音楽家である。北島三郎は、そのつらかった人生をゆさゆさと歌い人の心を揺さぶった。 
 
◆星野哲郎の黒髪幻想 
 
  行き摺りの女であったのだろうか。笑い声がやさしかったのであろう。高橋竹山にとって、その女の髪の匂いがたとえようもなく芳(かんば)しかったのであろう。 
 
  援、海、義理人情、女、そして、それらを渾然とさせたノンフィクション。星野哲郎の詩は、間口が広く懐が深い。ちょっとした言葉使いもデリケートである。中でも、数は、そう多くないが、黒髪を匂わせた詩は、情(こころ)が情(なさけ)を包み、『万葉集』から脈々と流れている日本の詩情、相聞(そうもん=愛)と別離の感傷が、色濃く深々と宿っている。 
 
 「黒髪に こころ こころ 縛られて/さまよう街の やるせなさ」 
 
  どうだと言わんばかりに、自分の歌唱力をひけらかしているように思えて、五木ひろしの歌を好きになれなかった。谷村新司、堀内孝雄、細川たかし、天童よしみにも同じような感想を持っている。しかも、五木の歌は、多情だ。情が濃すぎるとかえって聞いていて鼻白んでしまう。しかしである。この『心』という歌は、星野哲郎が五木ひろしの多情節に合わせ、男の女への想いを「君なしに こころ こころ 淋しくて」と歌わせ見事な情歌にしてみせた。船村徹の旋律も切ない情(じょう)が滴っている。 
 
   みだれ髪を京の島田へかへし朝 
    ふしてゐませの君ゆりおこす 
 
  エロスを抒情の衣で包んだ歌人与謝野晶子の歌集『みだれ髪』の一首である。また、和泉式部にこんな短歌がある。 
 
   黒髪のみだれも知らず打伏せば 
    まずかきやりし人ぞ恋しき 
 
  美しくも妖しいエロティシズム。黒髪には、ましてやその“みだれ”には、エロスの余韻がさやぐ。 
 
「手枕ゆえに 乱れた髪は/櫛を入れずに とっときますと/泣いて微笑(わら)った 衿元が」(『ああ、いい女』曲・叶)細川たかしが、あの朗々とした歌いっぷりを抑えエロスの名残を惜しんだ。そして、そして、「髪のみだれに 手をやれば/赤い蹴出(けだ)しが 風に舞う」(『みだれ髪』) 
 
  美空ひばりは、船村徹のしみじみと女の胸中で揺曳(ようえい)する情(なさけ)の旋律に乗せて、“星野黒髪幻想”の極(きわみ)を風に揺らした。「風にひらひら かすりの裾が/舞えばはずかし 十六の/長い黒髪プッツリ切って」(『アンコ椿は恋の花』曲・市川)と十六歳の都はるみの失恋歌には、実にさっぱりと黒髪を切らせ、美空ひばりの成熟した女の黒髪には、エロスの余韻をたゆたわせた。美空ひばりの『みだれ髪』は、日本情歌の最良である。美空ひばりの最期の歌々が、お行儀の良すぎる『愛燦燦』(詩・曲・小椋佳)と『川の流れのように』では、寂しすぎる。星野哲郎と船村徹の渾身の情歌『みだれ髪』が美空ひばりの掉尾を飾ったことを喜んでいる。 


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