2012年02月01日13時08分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

グローバリゼーションと日本の再軍備化 その2  池住義憲

 日米関係のなかには、「経済」と「軍事」二つの面でグローバリゼーションが進行している。経済の面を見ると、1960年の木材輸入自由化から始まって、大豆・原綿・原毛(1961年〜)、オレンジ・果汁・高級牛肉(1979年〜)が次々と輸入自由化されてきている。 
 
3、日米関係にみる「経済」のグローバリゼーション 
 
 1990年代中頃から、米国の日本に対する要望・要請が急増する。「日米両国の経済発展のため」として、独占禁止法や労働者派遣法、大規模小売店舗法、建築基準法の“改正”など、百数十項目の要望が毎年日本政府に出されている。いずれも、自由市場経済を促進するための規制緩和、経済構造改革に関するものである。 
 
 本年(2012年)1月中旬、米国は日本の環太平洋経済連携協定(TPP)参加にむけた事前交渉で、百十件にわたる要望・意見を出してきた。日本独自の軽自動車規格の“改善”、日本政府が全額出資している日本郵政グループ・かんぽ生命保険の“改善”などである。これとは別に米国は、同月下旬、郵政・共済・医薬品など44項目にわたって米国企業の日本におけるビジネス環境を改善・整備する要求を出し、日本に対して市場開放圧力を強めている。 
 
 米国のこうした要求は、そもそも、日米安保条約(1960年1月19日調印、同年6月23日批准)に端を発している。条約前文にある「両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し」という文言をうけて、第二条では「締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め(以下略)」とある。 
 
 米国の要求は、「くい違いを除く」という安保条約で両国が約束したことの履行と位置づけられる。経済のグローバリゼーションの根拠は、なんと今から半世紀以上前に作られ、それが今日も足枷となっている。 
 
4、日米関係に見る「軍事」のグローバリゼーション 
 
 オバマ大統領は、本年(2012年)1月5日、「新軍事戦略」を発表した。台頭する中国の軍事力と朝鮮民主主義人民共和国の核開発など不安定な東アジア情勢への対処を念頭に、現在の在日米軍再編計画を強化・推進するための戦略である。 
 
 日本を韓国とともに軍事同盟として再び確認し、軍事力の内容をより近代化して東アジア地域が直面している課題に対して一緒に対処する態勢をつくる、というものである。米国防総省高官は、「地域の平和と安定のため、自衛隊にとって何が最も重要な役割か。そうした協議を日本側と行うことを期待している」と述べている。 
 
 オバマ政権は、今後5年間で約20兆円の軍事予算を削減する予定だ。しかしアジア太平洋地域では、空・海軍の戦力を増強し、地上部隊も現状を維持する。そのため米国は、日本など軍事同盟国に現在以上の軍事的負担を迫っている。米国が関わる戦争の地域化・世界化、すなわち軍事・戦争のグローバリゼーションである。(注:前回送信分の第2項『グローバリゼーションと戦争』参照) 
 
 日本政府はすでに一昨年(2010年)12月、新防衛大綱とそれに基づく中期防衛計画を策定している。新防衛大綱では、必要最小限の防衛力を国内に均等配置するこれまでの基盤的防衛力から「動的防衛力」という考え方に転換している。 
 
 中国の海洋進出などを念頭に、機動力や警戒監視を重視し、演習・訓練を含めて柔軟に部隊を配置・運用しようという考え方である。そのため、潜水艦部隊の増強や那覇基地における戦闘部隊の追加、与那国島に沿岸監視部隊に配置など、沖縄など南西地域の防衛力を強化方針だ。 
 
 2012年度政府予算案(90兆3,339億円)には、オバマ政権の要求に応えて本体だけで一機99億円する最新鋭ステルス戦闘機F35(米ロッキード・マーチン社製)を4機(計395億円)とその関連経費(205億円)が計上されている。2016年度までに計42機、米国から購入する予定だ。F35戦闘機は航続距離が長く、高い爆撃能力を持っている。 
 
 米レイセオン社の防空システムを搭載する大型ヘリ搭載護衛艦(ヘリ空母、一隻1,150億円)も導入する。在日米軍への思いやり予算1,867億円、米軍再編関係経費707億円などもついている。総じて2012年度の防衛予算(軍事予算)は、4兆7,135億円にのぼる。 
 
 武器輸出に関しても、日本は、米国や財界の要求に応えて昨年12月下旬、武器輸出三原則を緩和した。政府が認めればどんな武器でも輸出や国際共同開発を可能にしてしまった。三原則緩和のねらいは、効率化。国際的な共同開発・共同生産をすることで、海外から高額な武器や軍需製品を購入しなくて済むという経済効率優先の考え方からだ。これは、「軍事」面と「経済」面二つのグローバリゼーションが融合したものだ。 
 
 こうした軍事面における両国の動きは、日米安保条約にその根拠を置いている。同条約第二条では、日本の自衛力(軍事力)の増強が規定されている。第五条では、「いずれか一方に対する武力攻撃」があって平和と安全を危うくするものであると認識したら「共通の危険に対処するように行動する」こと、を宣言している。日米による共同防衛、米軍と自衛隊による日米共同軍事作戦の義務付けである。そして第六条では、周知のとおり、米軍基地の“許与”が規定されている。 
 
おわりに 
 
 歴史的にみて、対立・葛藤・戦争を避けるために考えられた経済・金融システム(自由市場経済)と、それを促進するグローバリゼーションの動き。私は、国際貿易そのものは否定しない。モノや人、異なる文化・価値観・宗教が行き来することは、人を、社会を、国を豊かにする。 
 
 しかしその場合、「各国経済・各地域経済の多様性」、「社会・文化の多様性」、「環境保全と生物多様性」をお互いに損なわない限りにおいて、という原則が欠かせない。同時に、国内・国際間で生じる貧富の格差問題と、国と国の間で生じる経済的従属関係を少しでも解消する国際貿易システムとルールづくりが必要とされている。 
 
 一方、グローバリゼーションは、軍需産業、軍事力増強、軍事戦略の領域でフルに活用、導入されてきた。その結果、一国が起こした戦争は国境を越えて地域化、世界化した。近年では、米国がアフガニスタンとイラクで起こした“対テロ戦争”がその典型だ。そうした流れのなかで、日本の再軍備化は進み、防衛力(軍事力)は急速に近代化された。 
 
 日米軍事同盟の強化をはかり、軍事力には軍事力でという「軍事対抗主義」は、憲法九条と相容れない。非武装・平和主義と、そして世界で唯一「戦争の永久放棄」を謳った九条を持つ国の一市民として私は、一日もはやく日米安保という日米二国間「軍事同盟」を廃棄し、日米「平和友好」条約へ切り替えたいと願っている。 
 
以上 


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