2012年04月15日11時47分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(38)3・11後に原発を詠う原発列島各地の歌人の作品を読む  峺暁 原潜 原発ゆるすまじ 核は現代の死神ならん」  山崎芳彦

 大飯原発の再稼働にむけて、野田政権は突っ走っている。原発安全神話の再構築を、従来の「安全基準」の見せ掛けの厳格化も含め、さまざまな詐欺師的手法で、果たそうとして、再稼働のための儀式を、時をおかず急いでいる。福島原発事故以来の経過が、政府の「収束宣言」の偽りを暴き、原発立地地域の人びとはもとより、国民的な危機の状況は全く解決されていないで、将来が見通せない苦境、全国各地に広がる放射能不安のなかで、大飯原発再稼働に反対する声が高まっている。 
 
 なかでも、各地の原発地域周辺では、事故発生の場合の被災の広域化の実態が福島原発事故の教訓として認識され、従来の原発立地自治体を越えて広範な地域の中から、原発の危険性を自らの問題として考え、行動する気運が高まり、脱原発や廃炉を求める、各自治体の長、議会に対する申し入れや請願・陳情の動きも広がっている。これを受けて、あるいは自らの政治姿勢として、再稼働に批判的な態度を明らかにする首長も増えている。福島の経験から、電力会社はもとより政府・関係機関に危機対応の当事者能力が無いことも身に沁みてわかったため、従来に無かった原発危機への関心の高まりがある。 
 
 それに対して、政府の権力主義的対応は比例的にむき出しになり、原発の再稼働について「「最終的には政府の判断で決めることであり、法律的には地元の同意は義務付けられていない。」との見解まで打ち出している。原発の前に国民なしという姿勢は許し難いのだが、原子力にかかわるこの国の歴史を振り返れば、これまでの路線上を走り続けるということなのである。つい3年足らず前に、「政権交代」を旗印に総選挙で大勝し、国政の一定の転換を期待させた民主党政権だが、何を為してきたのかといえば、ささやかにでも期待をかけた国民にとって、旧政権党に劣らず、許し難いことばかりと言うほかない。沖縄、TPP、消費税率引き上げ、医療・社会福祉の劣悪化、そして原子力政策、とりわけ原発事故後、脱原発どころか真逆の再稼働ありきの暴挙、どれをとっても国民を暗澹たる思いに落ち込ませている。野田首相とそれを取り巻く閣僚、官僚、産業界首脳の最近の言動たるや、許し難い暴挙の連続である。 
 
 筆者は、これまで原爆短歌、原発短歌を読み記録しながら、それにかかわって原子力放射能がいかに反人間的な本質を持つものであるか、人にどれ程深刻な災厄をもたらすかについての資料や文献を読む機会を持ち、また、原子力と人間のかかわりの歴史的推移、原子力文明ともいうべきこの時代の構造についても学ばされた。原爆以来の日本の支配層の、日米同盟を基軸と位置づけ政治・経済・学界・ジャーナリズムをつなげて形成した「原子力ムラ」は、福島原発事故以後もなお盛んである。しかし、さまざまな濃淡や曲折はあっても、国民の原発に対する認識には明らかな変化が生まれていると思う。 
 
 問題は、これを如何にして変革の力にできるのか、そのための展望を、いま現実にさまざまな、地に足をつけて容易ではない活動、運動を進めている各分野の拠点を、現実にしっかりと対応できる、真の民主的なつながりを持つ柔にして剛な連合を構築できるか。その中で、あるだけの知恵と力を持って、たとえば原子力問題では脱原発のプログラムを、全原発の停止、廃炉、使用済み核燃料の厳重な管理と最終処理技術の確立に向って、これはもとより福島の現実、全国各地の原発立地地域の原発産業から脱却した地域社会の建設、原発エネルギーにかわる再生可能エネルギーの計画的開発・稼働などとあいまって、準備することが必要になるのだろう。困難な事業であるが、避けては通れない道だと思う。 
 
 昨日も、インドネシア・スマトラ島西方沖でマグニチュード8.6の地震があったと伝えられる。日本原発列島は、極めて危うい状況にあることを改めて認識させられる。いま、万が一にも日本の原発のどこかで事故が起きたら、想像を絶する事態となろう。改めて、野田政権の原発再稼働の暴挙を許さない取り組みに、筆者も参加しなければならないと、思うに任せない身体状況のなかで思いをめぐらしている。 
 
 3・11以後の原発にかかわる短歌を読み続けるが、今回は原発立地周辺の地域の歌人の作品を、新日本歌人協会が刊行している月刊歌誌「新日本歌人」の昨年9月号の特集(日本の歌/原発を詠む)に掲載の作品を読むことにしたい。(同特集はその後も続いたので、詠んでいきたい。) 
 
 
 福島の苦悩(添田 芳)      福島第一原発 
セシウムが検出されて釣り禁止裏磐梯にも被害が及ぶ 
 
ワタスゲが満開となる湿原に賑わいはなく原発のかげ 
 
常ならば他県の車列をなす蕨山には人影まばら 
 
収束の兆しも見えぬ原発に溜まる汚染水広がる不安 
 
福島の苦悩をよそに政局の混迷つづく政治を憂う 
 
 
 作者は原発から100キロ以上はなれた南会津町に在住していて、放射線量は基準以下で、通常生活には特に不安はないとしながらも、農作物や観光への風評被害は深刻だとコメントしているが、「原発災害の汚染水は溜まるばかりで四か月を過ぎても収束の見通しはたたず、ホットスポットなど新たな問題が次々と起こり県民の不安は広がるばかりです。もう原発はいらないが県民の声」と記している。 
 
 
 住民投票(田中 要)       新潟・柏崎刈羽原発 
新潟地震で土蔵が二つ水漬きて若き日のノートみな失いき 
 
住民投票に勝ちて原発を阻止せしは三十年の闘いありて 
 
風の向き変わりし六月新潟に流れくる雲の色この今の色 
 
放射能という御しがたきもの降ると幼を抱きて娘逃れ来ぬ 
 
消費税に道州制また大連合どさくさに企む政治屋は要らず 
 
 
 1964年の新潟地震では大きな被害を受けたが、まだ柏崎刈羽原発が出来ていなかったのは幸運であった、と作者は回顧しつつ、その間に巻原発は住民を二分する三十年にわたる激しい闘いが、住民投票に勝利し阻止する力となったと述べる。「世界でも有数の地震国日本では原発が人口密集地に近接し、地元を安全神話で懐柔しながら国策として推進してきた。目先の利益にとらわれて、制御することのできない放射能のリスクを背負いながら鈍感でありすぎたのではないか。」とも記す。 
 
 
  現代の死神(小林三郎)      静岡・浜岡原発 
長き航海終えて帰りしふるさとの妻子ら津波にさらわれて果つ 
 
元船員浪江町の議員佐藤文星君髭ぼうぼうでテレビに映る 
 
船にありて津波にあわば如何せんや応えていえり波に真向かうと 
 
辿りつきし避難所の隅に老いの死す低体温症は容赦もあらず 
 
原爆 原潜 原発 ゆるすまじ 核は現代の死神ならん 
 
 
 作者はもと船員であり、海員組合に参加していた時代に組合の機関誌の歌壇にビキニ・第五福竜丸にかかわる短歌を寄せていたことを、筆者は友人に聞いて、その作品のコピーをいただいたが、ここで作者の作品を読むことができた。歌縁というべきか。作者は上記作品に付したコメントの中で、原子力船「むつ」の建造・試運転などについて問題になっていた時、先輩に当たる仲間が病死した年の年賀状に「核は現代の死神」と墨書されていて、その後、その先輩が亡くなるまでの間、その内容をめぐって手紙のやり取りをしたことを回顧している。先輩は「核は現代において生産力たり得ない。破壊力以外ではない。原子力船もそうだが原発の平和利用など幻想に過ぎない」と主張したことを、「福島原発事故以来の巷間の論議を思うにつけこの先輩の『核は現代の死神』の手紙を思い起こしている。そしてやはり彼の言うことは正しかったのではないかと彼への尊敬の意を込めて思い返している。」と述懐している。 
 
 
  無気味さ放つ(宮崎博子)       佐賀・玄海原発 
原発の安全神話崩れさるやらせメールがとどめをさしぬ 
 
九州で最大出力の玄海は今だ動かず時よとまらん 
 
事故あらば皆(みな)鳥となり飛び立とう放射能なき大空めざし 
 
身の丈の穏やかな日々奪い去る原発事故の福島悲し 
 
玄海は危険度トップと警告する原子炉四基無気味さ放つ 
 
 
 玄海原発から40キロの地、武雄に在住する作者だが、「東北大震災から四ヶ月・・・原発問題で次々と事故の重大さが明らかにされ、放射能に対しての恐怖が徐々に大きくなっていきました。佐賀県には玄海原発があり、四基の原子炉を持ち、稼働して三十六年になり、科学者が一号機は危険度がトップでガラスのコップが割れるように重大な事故になる可能性があると指摘しました。・・・事が起こればどこに逃げればいいのか不安が募ります。」とし、国が責任を持つなどという言葉ほどあてにならないものはない、原発推進学者は身をひそめているとも指摘する。 
 
 原発問題は、福島原発だけの問題でないことはいうまでもなく、日本全国、海外に至るまで波及する、そんな原発を、関西電力の大飯原発の再稼動を突破口に、早急に稼働させる態勢を、まやかしの「安全基準」の設定や、原子力規制庁の設置などで作ろうとしている野田政権の暴走を止めなくてはならないと心から思う。さらに原発短歌を読み続けたい。 
                       (つづく) 


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