2012年04月26日13時09分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(40)3・11後に原発を詠う原発列島各地の歌人の作品を読む(3)「六ヶ所に溜まり続けし使用済核燃料の行き場が見えぬ  山崎芳彦

 4月25日の朝、朝日新聞の朝刊(13版)の隅々にまで目を配って、特に原発に関する記事を見逃すまいと読み終えて、大きくため息をつきながら本稿を書き始めた。原発というと、すぐ正力―渡辺の読売新聞を連想するのだが、朝日新聞のほかには日刊紙を購読していないので、日々の新聞ニュースは朝日新聞のみになる。特別の思い入れがあって同紙を購読しているわけではないが、気になることがあれば友人に他紙を見せてもらうことにしている。 
 
 25日の朝日新聞紙面から原発にかかわるニュースをみていくと、一面トップに「敦賀原発直下 活断層か」の白抜き大見出しで、経産省保安員の現地調査で、敦賀原発2号機の直下を走る断層が活断層である可能性があることがわかったので、「地震で動く活断層の真上に原子炉を建ててはならない」とする国のルールがあるので、敦賀原発2号機は廃炉となる可能性が出てきたというのである。(3面に6段組の関連記事か掲載されている)。 
 
 今になって活断層が出来たわけではあるまいから、そこに原発が建設されたことが大きな問題だろう。日本原電はその断層が動く可能性を否定してきたのだが、敦賀原発内には判明分だけで約160の断層が見つかっており、敷地内では活断層の「裏底断層」が確認されていて、それが地震をひきおこせば原子炉直下の断層も同時に動く可能性が高いとの見方で専門家四人の見かたが一致したという。客観報道の域を出ず、問題点の指摘の解説もない。 
 
 原発銀座とは、まことに嫌な言い方だが敦賀原発に隣接するようにして美浜、大飯、高浜各原発(計15機)があり、ここに北陸西部〜山陰の大地震発生の歴史的事実が明らかにされている地域が各所にある。 
 
 日本海東線変動帯の柏崎刈羽原発群(7機)、泊原発(2機)、さらに東海大地震の予想震源域の真っ只中にある浜岡原発(4機)なども頭に浮かぶ。昨日の新聞報道では、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働阻止へ運転差し止めを求める訴えを6県の132人が新潟地裁に起こし、福島第一原発事故で新潟県に避難中の13人が名を連ねているという記事が、三段組23行で報じられていたのを思い出した。小さすぎる扱いだ。 
 
 25日の3面には、敦賀の活断層の関連記事のそばに、「家庭向け料金7月値上げ」「柏崎刈羽 来年度に再稼働」を明記した「東電事業計画」(政府の原子力損害賠償支援機構と東京電力が東電再建のための「総合特別事業計画」を固め、27日に枝野経産相に提出する)の概要が記されている。政府が一兆円を出資し50%超の議決権を持ち、東電を実質国有化して、東電の再建を図るというのだが、ここにも同紙の掘り下げがない。 
 4面に行くと、「橋下氏提言のめぬ政権」の見出しで橋下大阪市長が大飯原発再稼働の条件とする8つの提言を持って首相官邸に乗り込み、藤村官房長官と会談したが、「将来課題」と取り合われなかったことを報じている。8つの条件はいかにも明快そうに見えるが、「脱原発」については触れられていない。同記事の中には、滋賀県の嘉田・京都府の山田両知事が共同で7項目の提言をまとめ、「脱原発依存への工程表の提示、原子力規制庁の早期設置などを要望し、政権の柔軟な対応に期待を寄せていたが、牧野経産副大臣との会談での対応に憤り、「議会や市町長に意見を求め、知事として責任のある判断をしたい」と、交渉の余地がなければ「政権との対決姿勢を打ち出す可能性も示唆した」と報じられている。総じて政権側は電力不足を前面に出し「20%近い節電は命の問題にかかわる」など、経済界を背景にして原発に対する施策の転換の方向を示そうとはしていない。 
 
 そのほか、国会事故調査委員会が大型連休明けに事故当時の政権中枢、菅首相、枝野官房長官、海江田経産相(いずれも当時)等を参考人招致する方針だが公開にするか非公開にするかが議論されている記事も。。 
 
 7面の「核燃サイクル試算見直し」(19日に公表した原発の使用済み核燃料の処理にかかる総費用の試算)、「電力需給予測 カギは節電」―政府の検証委・抑制幅を議論、の記事がある。後者の記事の中には「(スーパーなど)非製造業は節電余地がかなりあるのではないか」(立命館大学・大島堅一教授)、「(大幅な節電が)仮にできても経済に大きなダメージを与えることになりかねない」(地球環境産業技術研究機構・秋元グループリーダー)の見方の両論併記。また、超党派国会議員約10人で作る「原発ゼロの会」が26日に公開討論会「原発ゼロでも関西の電力は足りるか」を開き、大飯原発の再稼働が必要かどうか、節電をどれほど見込むか、などを政府の検証委員会の専門家5人も交え話し合うと伝えている。38面には「国の待った 民間冷ややか―食の放射能・独自基準めぐり」の記事もある。これらのほか、社説、連載コラム、声欄、地方版(茨城)にも、原発、放射能に関する記事が掲載されているが、それなりのニュースとはいえ、朝日新聞の原発に関する記事、他の分野も同様だが、腰の据わった、方向性を持った報道が希薄で読み応えがない。 
 
 原発立地各地の現状を掘り下げ、あるいは原発の存在がもたらす人体・健康への影響を掘り下げた解説など、いま3・11を契機に高まっている国民的な関心を受け止め、さらに引き出して行く報道を求めても、無理だろうか。政財界、原発維持推進、「原発ムラ」に傾いた報道姿勢は改めるべきだ。読み応えがない。 
 
 原発立地地域の歌人の作品を読んできているので、改めて今朝の朝日新聞報道について触れたが、長くなり過ぎた。今回も「新日本歌人」特集(11月号)の「日本の歌/原発を詠む」の作品を読む。 
 
 
  被ばくの虞れ(瀬戸俊子)        北海道・泊原発 
「結婚はもうできないかも」事故処理の作業なし来し青年は言う 
 
顔を上げ少女ら問えり「いくつまで生きられるのか」「子は生めるのか」 
 
内部被ばくの及ばざること夜々願う十月に生まるるひ孫 
 
知らざりきプルサーマルとう言葉さえ余りに疎く生き来しわれか 
 
原発のゴミの溢れていつの日か生くるものなき地球が浮かぶ 
 
 
 8月18日の朝刊に「泊三号機営業運転再開」「電力不足を理由に凍死者を出すことは許されない」とあるのを作者は読み、裏に何かがあると直感したという。同日の新聞に、泊原発の近くに海底活断層があることを変動地形学の専門家が指摘し、マグニチュード7・5級の地震が将来起こり得ると結論付けていることを読んだと記している。さらに、程なく北電の役員やОBが知事に個人献金をしていたことや、プルサーマル計画についてのシンポジウムでの組織的なやらせ発言の事実も明らかにされたともいう。これ以上放射能の人災がないことを作者は願い詠う。 
 
 
  核の危うさ(佐藤     青森・六ヶ所村原燃サイクル施設 
六ヶ所村に溜まり続けし使用済み燃料の行き場が見えぬ 
 
責任を誰が負うのか半減期数十万年の核の危うさ 
 
猛毒のプルトニウムは造るなと声を強めん平和願えば 
 
六ヶ所村サイクル事業推進を要望のニュースに驚かされる 
 
原子力を基幹産業と位置付けし六ヶ所村に希望はありや 
 
 
 作者が原子力燃料サイクル施設の存在が特に気になり始めたのは、役場庁舎敷地内に、放射線測定器が設置されたころで、茨城県の東海村の原子力施設の臨界事故があり大内さんら二人の被爆死の後であったと言う。そしていま、その不安が福島原発事故によって現実的になったのだ。六ヶ所村にはウラン濃縮工場、再処理工場、高レベル放射能性廃棄物貯蔵管理センター、低レベル放射性廃棄物埋設センター、そして建造中のMОX燃料工場と、原子燃料施設が集中していることを、作者は憂える。なかでも再処理工場で取り出されるウラン、プルトニウムをMОX燃料として製造する工場は核兵器の原料を生産する危険性を持つことに危機感を持ち、その建設の中止をかちとりたいと、作者は強く思う。 
 
 
  ホットスポット(土谷ひろ子)       茨城・東海原発 
病院も家も立てこむ東海原発不安はひとまず神話にゆだねき 
 
ヒロシマ・ナガサキ・ビキニからフクシマ事故は繋がっていた平和利 
用の名のもとに 
 
草むしりしてもなにやら覚悟するホットスポットとなりし地に住む 
 
おすそ分け度々あった菜園の友は収穫躊躇(ためら)いており 
 
スコップで校庭の土削りとるTシャツの親たち汗したたらせ 
 
 
 作者は茨城県南に居住し、母親大会運動、女性の運動に取り組みながら、積極的に作歌を続けている。母親大会のために東海村を何度か訪れた経験があるが、15年前の印象は「村」とは思えない豊かな外観だったという(原発交付金など)。しかし11年前のJCO工場での臨界事故。中性子が飛び散り、そのときには東海の1キロ圏内31万人に屋内退避命令が出たのは2時間もたってからだった。作者は、以前にも火災事故があったことも思い、不安を持ちながらも「安全神話」を許してきたことを悔いるが、福島原発事故の恐ろしさは骨身に沁みたという。「私たちは何歳まで生きられますか」と問いかけた高校生、「その痛み、怒りを自らのものとして何をすべきかを突きつけられている」と、作者は記している。ホットスポットの地には孫たちも住んでいる。 
 
 
  息もつけざる(福田鉄文)       鹿児島・川内原発 
原発は歴史息づく川内に何事もなく稼働しおりと 
 
ご家庭にお届けするは原子の火 電力会社のホームページに 
 
原発の安全装置の箍(たが)外れ人知に余る本性見たり 
 
風に乗り気流に乗りて死の灰の降らぬところのなきを憂うる 
 
外部より内部被爆の恐ろしと指摘さるれば息もつけざる 
 
 
 作者は宮崎県在住だが、九州に六基の原発があり、鹿児島県の川内では増設問題が持ち上がり、知事は増設に同意したというが福島原発事故で、手続きは凍結されているという。 
 宮崎県にも原発建設の計画が持ちこまれ、5年前にも誘致の動きがあり住民の賛否を問う計画まであったと言う。これは、福島原発事故で計画断念になったと伝えるが、処理方法のない核のゴミを厖大な量溜め込み、子々孫々に残そうとしているのは許されないと作者は訴え、「原発反対の考えで行動してきたつもりだが、隣県の川内原発にすら注意の眼をしっかり開いていなかった」ことを自省する作者である。 
                        (つづく) 


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