2012年05月11日15時10分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(41)『短歌年鑑平成24年版』(角川学芸出版刊)の原発短歌を読む(1)「誤ちて人が持ちたる禍つ火ぞ原子の力いま手に負へず」 山崎芳彦

 角川学芸出版が毎年刊行する「短歌年鑑」の平成24年版が発刊されたのは昨年12月7日で、同年鑑に収録されている短歌作品は平成22年10月から24年9月の期間のものと考えてよいだろう。年鑑の内容は、短歌作品はもとより、評論や座談会などがかなりのウエイトを占めているし、平成二十三年度出版の歌集・歌書・合同歌集一覧、一年間の歌壇の出来事などや全国結社・歌人団体の住所録と動向、全国短歌人名録など資料もあり多彩な編集内容だが、月刊総合歌誌「短歌」を出版している同社にふさわしい年鑑となっている。 
 
 この年鑑には、688名の歌人の自選5首作品集や、歌人11氏がそれぞれ「作品点描」として注目した歌人の作品を挙げながら論評している企画や月刊「短歌」が毎号行なっている「公募短歌館」特選作品集・年間ベスト10もあり、収録されている作品数は膨大なものである。収録の対象期間に、昨年の3・11東日本大震災・津波と福島第一原発の重大事故があったことから、それにかかわる短歌作品も数多く収録された。評論でも「震災詠」「原発詠」をテーマに据えての論考に注目すべきものが見られた。どう年鑑刊行以後の月刊「短歌」にも引き続いて震災詠・原発詠が多くの歌人から発表されているし、特集も組まれた。 
 短歌人が大震災、かつてなかった原発事故をどう詠っているか、あるいは詠わないでいるか、もとよりそれは様々であるが、いずれにせよ、このときに生きて短歌表現をどのようにしたかは、長い短歌史に残り、歴史を画するものとして後世の評価の対象になることは間違いない。そのためにも、この年鑑、さらに次に刊行されるであろう年鑑は重要な位置を占めることになろう。 
 
 筆者は、この間、原爆短歌と原発短歌を読みながら、つたない連載を続けているが、出来得る限り記録者として今後も努めていきたい。 
 そのひとつとして、この短歌年鑑に収録されている原発にかかわる作品を記録することに、作者のご寛容をお願いしたい。できる限り読み落とすことなく、誤りをせずに記録させていただく決意ではあるが、お詫びをしなければならない誤りがあったとすれば、筆者の責としてひたすら謝罪するのみである。 
「自選作品」(作者の生年による区切りで1〜6までに分けられているが、本稿ではその区切りをしないで、配列順に原発にかかわる作品を抽いていく。)から読んでいきたい。 
 
雨や風・地震(なゐ)のゆゑならぬわが寒さ日本の心の寒さぞこれは 
                         岩田 正 
  「自選作品集」抄 
 
俗に言ふ福島県の浜通りこの辺りくまなく津波が襲ふ 
地震津波原発事故の浜通り後方に遥か政府が見え 
                       2首 大坂 泰 
 
ずるずると原爆二発を浴びて止むこの国の政治変ることなし 
                         金子一秋 
 
ままならぬ己れを罰する巨人のごと生死の海に対き立つ原子炉 
                        浜口萬壽子 
 
原発の被曝風評に息凝らす逃れ場のなき「国民まもれ」 
                         武田静江 
 
放射能汚染ひろがる集落を置去りにされし牛らが歩む 
                         長澤一作 
 
地震国日本にして原発の恐怖発生は人知を砕く 
                        萩本阿以子 
 
本当に春なのだらうか被災地に放射線襲ふ 三月終る 
                        原田汀子 
 
人間は危ふきものを便利とし愚かなるかな恐れを知らず 
                        福富茂直 
 
誤ちて人が持ちたる禍つ火ぞ原子の力いま手に負へず 
                        山本かね子 
 
猛暑あり陽はその磁場の衰へて福島原発溶融の危機 
猛暑あり電力不足を補ふと太陽パネルは屋根に輝く 
猛暑あり熱中症を恐れつつ二十八度に節電を守る 
猛暑ありスイス、ドイツ、イタリアの民に原発廃絶の気運 
猛暑あり法王のかつて言ひしごと核廃絶をとドームは嘆く 
                     5首 相澤東洋子 
 
漁船(いさりぶね)かたむくみなと原発に頼りし家電のもろもろ沈む 
                       秋元千恵子 
 
ぼくたちはやってしまった原発が危険だという公開実験 
おれたちは政治家に支配されないプルトニウムだ 思い知ったか 
戦後詩の空がただよう 荒地 アラそんなところに原発推進学者 
博士らの夢の原発 波枕 オット庶民は悪夢観客 
今日もまた影踏み遊び核疑惑オキナワフクシマまだまだつづく 
                     5首 浅川 肇 
 
 原子炉の空夕焼けて冷温とならざる魔物黒き翳なす 
 弓なりに日本列島苦しめり美しき倭(やまと)をよみがへらせむ 
 放射能との長き戦(いくさ)になるならむいくたびを春迎ふるならむ 
                     3首 雨宮雅子 
 
音もなく放射線降りつもりゐむ万物のうへ春から夏へ 
                        石川恭子 
 
党の予見一笑に付せしは彼ら原発危機にただ「想定外」の一語にすが 
 る 
放射能汚染に米つくれぬ父祖の秋津島大地叩く慟哭を、東電よ、見よ 
                     2首 碓田のぼる 
 
原発の炉心に放水するといふ津波の海の水数万トン 
放射能のあめかも知れぬ雨にぬれわが家の桃は花咲きそめぬ 
                     2首 江流馬三廊 
 
黒々と寄せくる津波の魔の舌は文明の世を嘲笑ふかに 
                       大塚布見子 
 
安全とくり返されて安全と思いこまされ過ぎし歳月 
                       大畑悳子 
 
スリーマイルかチェルノブイリか安全神話見事潰えし「福島原発」 
水蒸気爆発に壊れしという原子炉建屋 凶々しきをまた写しをり 
                    2首 黒住嘉輝 
 
放射線ただよふあたりの北空を折々ながむ避難せし地に 
プルサーマルの炉が暴走せざりしを不幸のなかの幸とおもはむ 
富み人も貧者もすべてひとしなみ放射能はすべてを奪ひ尽くして 
                    3首 佐藤祐禎 
 
停電を予告しおきておこなはぬ「計画停電」といふ無計画 
なつかしきおもひかへりて蝋燭の火に照られをり停電の夜を 
放射能含める土を削り削り削り削りて捨てん場所なし 
原発は安全といふ嘘ありき二十一世紀の某小国に 
                    4首 武田弘之 
 
放射線の安全基準あやふやに原発事故の収束見えず 
頼めなき世に被災者らみつしりと個個が背に負ふ生きる闘ひ 
                    2首 筒井早苗 
 
 
 まだ途中で、次回以降も引き続いて多くの歌人の作品を読んで行くが、 一人5首に限られた自選作品に入れらた作品のみだから、歌人が原発にかかわってどれ程の作品を作歌したかは、想像しがたいものの、東日本大震災を詠った歌とともに、その数は全国の歌人について考えると、膨大なものになるだろう。 
 月刊「短歌」の今年の3月号の「震災大特集の二世代座談会 3・11以後歌人は何を考えてきたか」の昭和前半生まれ世代の歌人の座談会の中で、司会を務めた小高賢氏が「『原発事故歌集』ができるべきだと思いますね。どうやって、見えないものを詠ったのかという証にできるといいのではないか。そうしないと表現は、目に見える災害しか詠えないじゃないかということになってしまいます。今回の震災は短歌表現史の中で、画期にしなければいけないと思うのです。」と発言していたが、ここまで読んできた作品、これから読む作品を、筆者なりに玩味したい。 
                 (つづく) 


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