2012年06月04日11時12分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201206041112081

文化

【核を詠う】(47)『朝日歌壇 2012』(朝日新聞出版刊)から原発短歌を読む(2)「下肢のみが映る原発作業員躊躇いがちに復旧語る」  山崎芳彦

 大飯原発3・4号機の再稼働を巡る動きが緊迫化している。福島原発の、原発立地住民はもとより広範に被害をもたらし、世界を震撼させた事故は現在に至っても、何一つ問題は解明も解決されもていない。破壊された福島原子炉1〜4号機の実態すら明らかにされていないのが現状だ。厖大な核燃料と高濃度の使用済み核燃料を抱えたまま。かぎりない水の注入による「核燃料の保管」も、放射能汚染水の漏出、地下への浸透、海への流出垂れ流し。破壊された原子炉からの空気中への放射線の放出、日々環境汚染を続ける放射能・・・これらに有効な対策を打てず、周辺の農畜産漁業を破綻の淵に置き去りにしたまま、まことに姑息としかいいようのない舞台装置の上の「原子力ムラ」芝居で、「大飯原発の再稼動」を突破口にした原発体制の再構築のシナリオを見せられるのには、耐え難い。 
 
 野田内閣は原発体制維持で一貫している。加えて、「維新の会」橋本大阪市長に引き摺られた関西連合なる呉越同舟の首長会議の何とも読みようのない政府への「要望書」はなし崩しの「再稼働容認とその拡大」への動きといえる。橋本大阪市長の、計画的な二転三転振りは、枝野経産相のこの間の「踊り」に相似である。建前から本音へ、結局は原発再稼働・継続への道を固めようとしている。マスコミの表面に姿を見せなくなった経済界の役回りは明らかだろう。目論見どおりの進行にほくそ笑んでいる姿が見える。官僚も同じだ。 
 
 大飯原発について、高木仁三郎氏の名著『プルトニウムの恐怖』のなかで触れられている部分がある。「一九七九年三月二七日、日本最大の原子力発電所である大飯原発1号炉が営業運転を開始した。奇しくもスリーマイル島原発事故が発生した前日のことであった。・・・しかし大飯1号炉は、直後に起こったスリーマイル島原発の事故によって、運転開始後20日もたたぬうちに、運転停止を余儀なくされた。」と書き、その理由を、,海慮業の緊急炉心冷却装置が有効に働くかどうか重大な疑問が生じたこと、△修譴泙任琉汰寛鮴呂任魯好蝓璽泪ぅ訶膰業のような事態が予測されず対処されていなかったこと、を挙げ、その後「一応『安全』のお墨付きが出され、同原発はおよそ2カ月後に運転を再開するのだが、その一ヵ月後には再び運転を停止することになった。空調系の電気回路の故障に端を発したこの事故では、誤信号によってECCS(緊急炉心冷却装置)が作動した。誤作動とはいえ、原子炉空焚きの最後の砦であるECCSが作動したのは初めてのことであり、日本の原子力史上でも特記されることであった。」と記されている。 
 
 このような、いわくつきの大飯原発を、最悪の福島原発事故以後の、原発再稼働と継続維持の突破口としようとしている。「わたしの責任で・・・」と野田首相は言うのだが、これほど破天荒な無責任首相を、その座につけておくことは、もはや許されない。あらゆる政策で反国民的な本質をさらけ出している「泥鰌総理政府」とその権力機関は許されない。 
 
 しかし、国民を欺くシナリオが、そのまま通用するのを許さない力は蓄えられつつある。その力が、今は、繋がりあうことが必要なのではないだろうか。 
 フランスの「リベラシオン」紙の記者で原子力、環境問題を専門にしている、ロール・ヌアラの最近の著書『放射性廃棄物―原子力の悪夢』(及川美枝訳 緑風出版刊)は一読に値するが、その「日本語版へのまえがき・フクシマを経験しつつある日本の友人たちへ」の最後はフランスの哲学者、ジャン=ピエール・デュピュイの言葉で閉じられている。 
 
「技術の進歩は、抜け出すことがますます困難になるような好ましからざる狭い道に閉じこもる傾向が大変強い。警戒信号がともる時はもう遅すぎるのだ。不幸はわれわれの運命だというが、そうなるのは、人間が自分たちの行為の結果を認めないからにほかならない。そしてそれは、我々がみずから遠ざけることを選択することもできる運命なのだ」 
 
 そして著者は、「選択が迫られている。今日、そして今。」と付け加える。 
 
 この数日の、原発再稼働への動き、その他もろもろの、政府とその背後にいて妄動しているものたちへの怒りに任せて、前文が長くなり過ぎた。前回に続いて『朝日歌壇 2012』の原発短歌を読みたい。 
 
◆2011年5月第1回 
 
それでも春は巡り来てけぶるがに咲くふくしまのうめもさくらも 
                美原凍子(福島市) 
ありふれた日々のけしきをよむこともあの地震からためらいながら 
                沢口なぎさ(ひたちなか市) 
ほんとうは不安に蓋してきたのかも東海村の四季をめでつつ 
                原 理恵(茨城県) 
北へ向かうヘリコプターの音頻り被災地思ひ涙止まらず 
           金成螢策(いわき市) (4首 高野公彦選) 
みんなさ迷惑かげっから水飲まねようにしてんだ─ええがら飲まっ 
せ              斎藤一郎(福島市) 
抜け駆けのように逃げ出たふくしまの恋し恋しく子らのふるさと 
                恩田規子(前橋市) 
二十キロ内群れゆく牛も自動車に餌ねだる犬も線量を知らず 
           永浜みち子(堺市)(3首 永田和宏選) 
わが市長すばやくバスを福島へ被災者迎えたり余震つづくなか 
                 緑川 智(取手市) 
天に地に海にひろごる欝と鬱ベクレルを知るシーベルト知る 
                 佐藤幹夫(山形県) 
放射能汚されちまった里山でサンプルとなり生き抜いてやる 
                 大場公史(さくら市) 
原発に汚染されたる草を食む人なき野辺に放たれし牛 
                 植原昭士(高崎市) 
「フクシマ」が緑の党の勝因と騒ぐ人らの麦酒(ビール)の苦味 
     西田リーバウ望東子(ドイツ)(5首 馬場あき子選) 
東京の空に桜の満ち満てど十キロ圏内のわが里哀し 
                  半杭螢子(福島県) 
南相馬離れて三度居所を変え日毎つのるは原発憎し 
                  荒川 澄(東京都) 
四月はや半ばなれども春遠し日々原発の行方を憂ふ 
                  目黒美津英(福島県) 
目に見えぬ放射能におびえゐる庭にも春きてやさしき花咲く 
                  宇田文子(いわき市) 
原発に反対の署名集めしは正しかりきと古稀過ぎて知る 
                  関口佳子(横浜市) 
ほんとうは不安に蓋してきたのかも東海村の四季をめでつつ 
                  原 里江(茨城県) 
「想定外」免罪符のごとふりかざしテクノラート淡々と言ふ 
        山内義廣(岩手県) (6首 佐佐木幸綱選) 
 
 
◆5月第2回 
 
聞き慣れぬ単位と数値のそのあとで上を向いてとラジオは歌う 
          藁谷喜美人(いわき市) (永田選) 
下肢のみが映る原発作業員躊躇いがちに復旧語る 
            渋間悦子(山形市)(永田、馬場選) 
新宿で南相馬野の苦しみを息子は一人訴へ歌ふ 
                  荒川 澄(東京都) 
どうか暗号ではありませんように「福島の天気 西の風 晴れ」 
                  角浦万巳(交野市) 
システムを恃(たの)む原発の不始末は人海戦術に依る皮肉 
                  田中政行(長野市) 
三十年間原発反対叫びたる祝島漁民意志固きかな 
                  浅上薫風(山陽小野田市) 
地図拡げわが圏内の原発を縮尺見詰め定規で測る 
                  古田明夫(蒲郡市) 
原発の同心円に居て仰ぐおぼろの月のまどかなるかな 
            美原凍子(福島市)(6首 佐佐木選) 
「がんばろう」「がんばって」より「大丈夫、心配ないよ」と言って欲しい           伊藤 緑(福島市) 
陽だまりに芹やわらかに伸びていぬ汚染なければ摘みにしものを 
            川村とみ(稲敷市) (2首 高野選) 
 
 
◆5月第3回 
 
原発事故起きてからずっとヨコスカの米軍住宅の灯は灯らない 
                 梅田悦子(横須賀市) 
俺も牛も死ねというのか原発の警戒区域の酪農家哭く 
                 舟部 勲(白河市) 
従業員の如くとアレバのCEО謙虚のこころフランスに学ぶ 
                 冨山俊朗(町田市) 
放水の任務終へたる隊長の部下を称ふることばうるみて 
           吉田 哲(徳島県) (4首 馬場選) 
フクシマのニュースに戦(おのの)く我もまた火遊び覚えし猿の裔なり                谷田貝和男(東京都) 
三月に安全唱えし識者らはいづこに消えしか泡(あぶく)のごとく 
                 諏訪蒹位(名古屋市) 
たびたびの事故隠したる原発を想定外と吾は認めぬ 
                 遠藤幸子(福島市) 
原発への不安詠み来し人の歌朝日歌壇の切り抜きに読む 
                 渋間悦子(山形市) 
ことあらば飛散し来るやも海峡を隔て見やりぬ刈羽原発 
           神蔵 久(佐渡市)(5首 佐佐木選) 
いなさ吹けば放射線量増すという真野の萱原(かやはら)夏は来向かう                若島安子(下野市) 
帰らざるひと、帰れざるひと、万のいのちに万の名のありしこと 
                 美原凍子(福島市) 
原発の中で働くわが息子カンパン齧りシートでごろ寝 
                 山名輝子(東京都) 
快適な都市を支へる過疎の町原発受けて産廃受けて 
                 中村麗子(鳥取県) 
死してなお放射能浴び横たわる死者にも死者の尊厳がある 
           吉田理恵(小樽市) (5首 高野選) 
日雇ひのうからはらから無き人の募られてゆく原発建屋 
                 寺崎 尚(神栖市) 
「フクシマ」の半径二十キロの赤い円半分は海半分は陸 
            小林淳子(埼玉県)  (2首 永田選) 
 
 
◆5月第4回 
原燃の事故ある時は逃げ場所の無き下北の地図を見つめぬ 
                 高橋やす子(むつ市) 
原発の安全うたうスローガン掲げて封鎖さるる町並 
                 猪狩直子(ひたちなか市) 
持ち出しは認めずといふ家畜とは持ち出すものか一時帰宅に 
           檜山佳与子(水戸市) (3首 佐佐木選) 
ふるさとは無音無人の町になり地の果てのごと遠くなりたり 
                 半杭螢子(福島市) 
買手なき小女子(こうなご)身を打ち身を反らす漁港に直射日光受けて 
                 小林淳子(埼玉県) 
ゴーヤ植えて緑のカーテン作ろうよゴーヤチャンプルと一石二鳥 
            高橋理沙子(横浜市) (3首 高野選) 
警戒地の浜を嬉しげに奔りゐる黒牛の群哀しき自由 
                桐山吾朗(高山市) 
心配はしなくていいよと電話切る福島に残る意志堅き子は 
                澤田睦子(大和市) 
ヤマボウシ牧場の空を白く染め七〇頭の牛なき五月 
                澤 正宏(福島市) 
牛飼の友漂泊に身を委ねわが家で夜弾くチゴイネル・ワイゼン 
           北條祐史(新発田市) (4首 馬場選) 
 
 
◆5月第5回 
 
カリフォルニア州より狭き日本に五十四基も原子炉要るや 
                辻井倫夫(三田市) 
里人(さとびと)の鎮守のわれは別当ぞ原発事故といへど避難はできず 
                目黒美津英(福島県) 
防護服の警察官が持ち上げし赤きランドセル背負ひしは誰 
           渡辺良子(郡山市) (3首 高野選) 
避難所から通う園児が見せに来る白いおにぎりだけの弁当 
             中村 晋(福島市)  (永田選) 
「フクシマとチェルノブイリへのレクイエム」ポスターがある乗り換え駅に           西田リーバウ望東子(ドイツ) 
トラクターでほうれん草を砕きいる友は風評に黙して耐うる 
           眞庭義夫(群馬県) (2首 馬場選) 
富岡だ!画面に映る故郷にわが家の姿毎日探す 
               廣瀬隆也(福島県) 
原発を逃げて浅間に一ヶ月みなさん優し「いわき」が恋し 
               馬目弘平(いわき市) 
かまどには昔神さまおりましていま原子炉に神はいますか 
          無京水彦(東京都) (3首 佐佐木選) 
 
 
 次回も『朝日歌壇2012』を読む。         (つづく) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。