2012年06月08日08時57分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(48)『朝日歌壇 2012』(朝日新聞出版刊)から原発短歌を読む(3) 「浜風がひそやかに野を山を越え太郎を眠らせセシウム降り積む」  山崎芳彦

  日本の全原発が停止する日は十五夜と確認したり 大口玲子 
  震災後八日で仙台を離れたるわれが震災の日を語りをり 
  仙台に留まらざりし判断に迷ひはないかと言はるればなし 
  いくたびも「影響なし」と聞く春の命に関はる嘘はいけない 
 
 上記の4首は、歌人・大口玲子(おおぐちりょうこ)さんが月刊歌誌「短歌」(角川学芸出版)6月号の<巻頭作品28首>に「さくらあんぱん」と題して発表している作品に含まれるものである。 
 大口さんは東日本大震災・福島原発事故後の8日後に三歳のお子さんとともに在住していた仙台市を離れ、その後九州・宮崎に移住している。「余震と原発事故の影響から逃れるため、息子を連れて西へ西へと避難を続け、縁あって宮崎で暮らし始めた。夫は今も仙台で働いている。」(宮崎日日新聞の今年一月一日付正月特集に寄せたエッセイ)が、筆者は大口さんの歌集『ひたかみ』(第三歌集、2005年11月、雁書館発行)に収められた、原子力、放射能、原発などにかかわる作品の大連作「神のパズル―100ピース」(100首で構成)を読んだことがあるので、彼女が福島原発事故の影響を考えての行動であったことは間違いないと考えている。 
この「神のパズル」の作品については、後日、本連載のなかで読みたいと考えているが、まことに原子力の本質について深く、多彩に短歌で表現し得た稀に見る作品群であると感服したことだった。その大口さんの、福島原発事故に際しての対処は、共感できるものであり、さらに、その後の作歌活動への期待は大きい。 
 
 『神のパズル』のなかの4首を記しておく。 
 
発見後たつた百年無防備な人類を射しくる放射線 
 
コバルトライン走行しつつこの道が避難路とならむ日のことを言 
ふ(2004年10月8日、夫と女川原子力発電所を見学) 
 
女川が「チェルノブイリとなる」予感飲みつつ言へり記者たちはみ 
な 
 
まだ世界は未完成なるものとして原子の力ふるはれゆくや 
 
 近く第四歌集となる『トリサンナイタ』が角川短歌叢書として出版の予定であるので、楽しみにしている。 
 
 東日本大震災の当日、福島第一原発はあのような大事故を起し、大きな災厄をもたらし、現在に至っても原発周辺地域の破壊はもとより、人々の生活を苦しめ続けているのだが、3・11の原発についていえば、さらに危険な実態が、福島第一原発以外の東日本各地の原発、原子力施設にもあったことを忘れるわけにはいかない。福島第二の緊急事態と言うべき状況をはじめ、茨城県東海第二原発、東海再処理工場、宮城県の女川原発が危機一髪ともいうべき状況になり、さらに、約1ヶ月後の4月7日の最大余震の時には、青森県東通原発、六ヶ所再処理工場も極めて危機的な状態が起きた。(廣瀬隆著『第二のフクシマ、日本滅亡』 朝日新書2012年2月刊や、吉岡斉著『新版 原子力の社会史』朝日選書2012年3月刊に詳述されている) 
 
 さらにいえば、日本原発列島のどこにも、深刻かつ重大な原発災害が起こり得るという現実を直視しなければならないのだと思う。福島第一原発事故の調査・検証が、政府、国会、関係機関、民間などで行なわれているが、現状に真正面から向かい合い、原子力エネルギー、原発の廃止をめざすものとはなっていない。それどころか、如何にして原発の再稼動、維持の条件を作るかを目指す、まやかしの「安全体制・条件・基準」についての調査や検証に奔走している。「経済」が、人間の現在と未来を、生命あるものをなぎ倒してどうするのか。 
 
 『朝日歌壇2012』に寄せられた作品は、まさに福島はもとよりだが、全国からの、原発告発の作品がほとんどだといえよう。その作品をさらに読んでいく。同書に発表された作品の背後には、厖大な作品と、短歌表現はしない人々の生活の中での思いがあるはずである。原子力エネルギーがなければ人々が生きられないなどというのは嘘である。 
 
 
◆2011年6月第1回 
心平のモリアオガエルも被曝危機もう聞けぬのかケルルンクック 
                 若島安子(下野市) 
原発が停止になればきのうより茶畑眩し牧の原台地 
           篠原三郎(静岡市) (2首 馬場あき子選) 
二ヵ月も見えぬ収束原子炉の蒸気を避けて無人ヘリ飛ぶ 
                 山本 明(市川市) 
土下座などされても還らぬ日常と知れども怒りのやり場のなくて 
           斎藤栄子(福島市) (2首 佐佐木幸綱選) 
原発の大事故千年に一度のみと。三十二年に三度起こりし 
            諏訪蒹位(名古屋市) (佐佐木、高野選) 
原発に群がる蟻と逃げる蟻、蒼天にただ白き日輪 
              美原凍子(福島市) (高野公彦選) 
 
◆6月第2回 
刈り捨てる生茶の匂い嗅ぎながら農の人嘆く原発汚染 
                 喜多 功(三重県) (馬場選) 
「原発に馬も豚っこも牛も皆殺(や)られっちまっただどうしようもねえべ」             寺崎 尚(神栖市) 
ポポポポーンとあいさつしよう お日さまに脱原発のCM見たい 
                武田 悟(函館市) 
原発のCMに出たあの人が災害募金を訴えている 
             愛川弘文(千葉市)(3首 佐佐木選) 
 
◆6月第3回 
湾奥に隠れるごとく原潜の姿横たえ雨降りしきる 
              原田 覚(西海市) (佐佐木選) 
年金者に少し贅沢福島産サクランボ買う今日のしあわせ 
                喜多 功(三重県) 
魔界めく警戒区域の慰霊祭僧侶でさえも防護服着る 
            山田 静(名古屋市)(2首 高野選) 
原発は悪いものだと言ってません怖いものだと言ってるのです 
             田口二千陸(横浜市) (永田選) 
 
◆6月第4回 
放射能データ同封で送らるる会津の友のアスパラガスよ 
                 三井一夫(三重県) 
ふくしまのもも、なし、りんごちさき実のひとつひとつが抱いてる不安                美原凍子(福島市) 
丘畑は雲ひくく垂り廃棄せしキャベツ五千に花咲きたりと 
          篠原克彦(ひたちなか市)(3首 馬場選) 
窓閉めろ表土を削れと言うけれど地上の生物人のみにあらず 
                 伊藤 緑(福島市) 
放射能を怖れ今年は食べずをり背戸の筍ただ見守(まも)るのみ 
                 目黒美津英(福島県) 
そのうちに何とかなると思いしが何ともならぬ原発の事故 
                 池田 功(川崎市) 
南相馬へ二度目の帰宅日帰りで猫一匹の頭撫で来ぬ 
            荒川 澄(横浜市)(4首 佐佐木選) 
 
◆7月第1回 
我の住む三春の地名化粧坂、春田御祭狐田弓町 
               大津英一(福島県)(馬場選) 
「福島を出ます」とおさな子を連れし背が去りゆく雨の向こうに 
                  美原凍子(福島市) 
放射線目に見えるならこの霧のごと迫り来るらむ月山に佇つ 
           中山孤道(須賀川市)(2首 佐佐木選) 
 
◆7月第2回 
美しき国に生まれてあはれなり線量計を持たさるる子ら 
                   美原凍子(福島市) 
フクシマをいっ時忘れたく来たる茂吉記念館昼を鎮もる 
             若島安子(下野市)(2首 馬場選) 
放射能の恐怖が皆のものとなり分かってもらえた被爆者我等の 
                   大竹幾久子(アメリカ) 
つぶやけば「リアス」とは美(は)し「リアス」とは悲しき入江みちのくに梅雨(つゆ) 
            美原凍子(福島市) (2首 永田選) 
 
◆7月第3回 
海峡にくっきり浮かぶ下北は風力強し大間原発 
              武田 悟(函館市) (佐佐木選) 
目に見えぬ放射能ありひたひたと黒揚羽飛ぶ生の輪郭 
                内野 修(熊谷市) 
浜風がひそやかに野を山を越え太郎を眠らせセシウム降り積む 
           青木崇郎(福島市) (2首 高野選) 
地図に置く人差し指に子の任地親指の下に原子力発電所 
              高橋英子(平塚市) (永田選) 
心の石ずしりと重くパソコンを開きて日本の新聞を読む 
            松浦のぶ子(フランス) (馬場選) 
 
◆7月第4回 
日常の会話も悲し線量と逃げる逃げない堂々巡り 
                 渡辺貞子(郡山市) 
原発に明り点滅事もなく文月一日海開きの夕べ 
                 大谷静子(福井県) 
被災地の土葬を見つつ経を誦む老師は白き防護服着て 
                 山村陽一(八戸市) 
「原発は明るい未来」と静寂の人消えし町に掲げあり今も 
            廣川秋男(本宮市) (2首 馬場選) 
気がつけば被曝していたそんなことあってしまったこの国のいま 
              美原凍子(福島市)(佐佐木選) 
 
◆8月第1回 
安全靴脱いで寛ろぐ原発の声なき男の貌が見えくる 
                 岩田 桂(新潟市) 
浜岡の海に小ガメを放流す子らの未来はだれも知らない 
           松井 恵(浜松市) (2首 馬場選) 
「うつくしま」福島の里はいつ還る育てし野菜捨てつつ思う 
             斎藤栄子(福島県) (佐佐木選) 
三陸の若布は旨し九州の我ら久しく楽しむものを 
                高添美津雄(熊本市) 
わが父は一線五厘でかり出されビリオンダラーの原爆で死す 
          大竹幾久子(アメリカ)(2首 高野選) 
 
◆8月第2回 
放射能の限りなく流る阿武隈の稲穂匂へる心重きまで 
                 布川澄男(須賀川市) 
声高に東電にいるとは言えねども母は見てるよ昼夜働く君を 
          鈴木陽子(東京都) (2首 佐佐木選) 
節電の夏もボリューム下げぬ蝉聴きつつ薬味の青紫蘇を摘む 
           こやまはつみ(松坂市) (高野選) 
気温ならすぐに実感できるのに体感できぬミリシーベルト 
                  福田万里子 
ピカドンに白シャツがいいと言った友暑い八月六日が迫る 
                  大野日出治(羽島市) 
田も畑も耕作できぬ故郷に帰還せよとは如何なる策か 
           荒川 澄(横浜市) (3首 永田選) 
 
◆8月第3回 
先ず土のセシウム量りプレイボール甲子園への道が始まる 
                   澤 正宏(福島市) 
わが影を直下に見つつ測りゆく借用の放射線測定器 
                   大久保知代子(埼玉県) 
音もなく放射能降る公園の夏の真昼に蝉さえ鳴かず 
          宮田 修(生駒市) (3首 佐佐木選) 
原爆を再び許さぬ誓いたて原発渦中に原爆忌来る 
              遠藤知夫(三沢市) (高野選) 
赤き実をたわわにつけしミニトマト抜くか抜かぬか夫と争う 
              新妻順子(福島市) (永田選) 
色もなく汚染しずかにひろがりぬわら食(は)む牛にも肉食む人にも 
                    諏訪蒹位(名古屋市) 
「逃げる先どこにもねえべ」と原発の村人語る下北漁港 
                    遠藤知夫(三沢市) 
「被曝柳」とてヒロシマゆ人伝えたる柳の木伊那のみ寺に太る 
                    小林勝幸(伊那市) 
放射能まだ来ぬ我家のベランダに茄子も胡瓜も花つけ明日待つ 
             熊沢雅晴(平塚市)(4首 馬場選) 
 
◆8月第4回 
子らの声せぬフクシマの夏休み蝉、蝶、トンボ虫らもさみし 
                     美原凍子(福島市) 
メルトダウンベントベクレルシーベルトセシウムわらわらストレス 
テスト 
          風谷 螢(所沢市) (2首 馬場選) 
 
◆8月第5回 
大文字の送り火用の松の木は地元でたかれて人黙すのみ 
              内山豊子(摂津市) (永田選) 
広島も昭和も遠く朝霧の秘めるセシウムに牛たちの影 
              須郷 柏(宮城県) (馬場選) 
「がんばろう日本」はいよよ祭めき消えがちになる事の真実 
             栗田幸一(土浦市) (佐佐木選) 


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