2012年06月11日00時15分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(49)『朝日歌壇 2012』(朝日新聞出版刊)から原発短歌を読む(4) 「父をかえせ母をかえせと哭きし峠三吉 土を村をと呻く福島」   山崎芳彦

 「今のような状況の中で、私たちが本当に考えなくてはいけないのは、原子力に期待していたような時代状況からの、ある種、文明的な転換についてだと思います。そういう転換を成し遂げるためには、多くの人たちが原子力問題の根本を理解し、先を考える必要があります。今の日本の政府が大きな政策上の転換もなく、このまま進んでいくのであれば、今後、そのことによっていろいろな影響を受けるであろう若い人たちに、私なりのメッセージを届けること―・・・」 
 
 高木仁三郎氏は著書『原子力神話からの解放 日本を滅ぼす九つの呪縛』(光文社より2000年8月刊、2011年5月に同名の書に、西尾漠・原子力資料情報室共同代表の「文庫版まえがき 的中した原発事故の予言」を加え、編注をつけた講談社+α文庫版が刊行された)のプロローグに以上のように書き、さらに次のようにも記した。 
 
「本書は、原子力文明からの転換ということをはっきりと主張する立場に立って書かれています。・・・今回の臨界事故(1999年9月30日の東海村のJCOウラン加工工場における臨界事故―筆者注)をふまえた現在の心境からすれば、単にわたしの価値観、意見、主張ということにはとどまりません。この半世紀にわたる文明的な状況の必然の流れとして、世界全体が原子力を放棄することが賢明な選択であると気づき・・・もしくは一刻も早く選択をしなければ誤ったところ、恐ろしいところへ行くのではないかということで、社会的に人々は選択しつつあるようにも思えます。」 
 
 そして、ここまで原子力産業や、それに依存した社会システムを構築してきてしまった中で「それを転換するのは簡単なことではありませんが・・・日本の今日の状況のなかでやることは、もっと大きな意味があるのではないかと思います。」と強調する。しかし同時に、その困難さについても、高木さんは指摘する。 
 
「というのは、政府自身はこのような状況にもかかわらず、原子力からの離脱とか転換について、公式には何も言っていないからです。見直しは余儀なくされていますが、基本的には、いままでと変わらない方針で原子力利用を進めようとしています。実態的にはそうはいかなくなっていますが、政府の方針は変わっていません。」 
 
「また、かなり多くの人々が、望ましいことではないけれども、脱原子力はできないのではないかと思い込んでいます。・・・事故調の最終報告書に見るように『安全神話は崩壊した。そんなものに頼れないというところから出直そう』と言いながら、その同じ報告書によって日本の原子力が再構築できるかのごとく言う、そういう言い方にも出てきています。そういう意味では、原子力利用そのものについての転換は全然行なわずに、この報告書によって新しい原子力神話を構築しようとしているのではないかと、私には思えてなりません。」 
 
 長い引用になってしまったが、6月8日の、野田首相の記者会見における関西電力大飯原発3,4号機の「再稼働宣言」についての、予想していたとはいえ、空恐ろしい欺瞞に満ちた発言内容を翌朝の新聞で読みながら、高木さんの著書を読み返さないではいられなかった故である。野田首相の「国民の生活を守る」「原子力発電を止めたままでは、日本社会は立ちゆかない」「事故を防止できる対策と態勢は整っている」などという何の実質もない空疎な欺瞞の言辞をここでは繰り返さないが、真実と欺瞞の違いはかくのごときなのである。 
 
 それにしても、野田首相というこの国の戦後政治史上に、もっとも危険な役割を果たそうとする人物の一人が、その座に付いたこと、それを許してしまった政治・社会状況は耐え難く口惜しい。しかし、このまま進ませることはできない。野田内閣を倒すため、力を集めなければならないだろう。集まりつつある。 
 
 前回に続いて『朝日歌壇2012』の原発作品を読んでいく。 
 
 
◆9月第1回 
節電の小暗き駅を出で来ればカーンと明るし猛暑の街は 
          小田部桂子(さいたま市) (馬場あき子選) 
放射性物質測定検査結果 福島のももと一緒に届く 
                   及川美月(仙台市) 
原発の地震の中に生きる術持たずおろおろフクシマに住む 
                   小沢美代子(須賀川市) 
見つけても放射線出す一枚の家族写真を持ち出せぬ友 
           澤 正宏(福島市) (3首佐佐木幸綱選) 
殺人が日常的な国にゐて平和な国の災禍悲しむ 
             杉山 望(グアテマラ)(永田宏選) 
 
◆9月第2回 
県外へ避難する子の荷の中へ机の名札を剥がして入れぬ 
                   渡部かつ子(福島市) 
一歳で福島に来た私が生まれる前からあった原発 
                   畠山理恵子(郡山市) 
ゆらゆらと非「脱原発」主張する記事目につけばマスメディアらし 
            篠原三郎(静岡市)(3首 佐佐木選) 
ヒマワリはかなしき花となりにけり汚染の土地にあまた咲きいて 
                   美原凍子(福島市) 
父を母をかえせと哭(な)きし峠三吉 土を村をと呻(うめ)く福島 
                   諏訪蒹位(名古屋市) 
太陽光パネル取付詐欺被害警告放送茶山に響く 
          小田部雄次(島田市)(3首 高野公彦選) 
 
幼子ら希望を掴む両手出し胎内被爆量測らるる 
                   斎藤千秋(福生市) 
盆踊りの櫓の後ろの不気味なる北電泊原発が見ゆ 
                   藤林正則(稚内市) 
牛たちの潤む瞳を小窓よりのぞかせながら車列何処へ 
            村岡美知子(仙台市)(3首 馬場選) 
 
◆9月第3回 
目に見えぬベクレル案じて暮らす日は空の奥処に黒い旗舞う 
                    青木崇郎(福島市) 
休み明けの友の転校知った子の言葉少なしひぐらしが鳴く 
            新妻順子(福島市) (2首 高野選) 
子らの声聞こえなかった夏休みの最後の路地に射す晩夏光 
             正治信子(鎌ヶ谷市) (永田選) 
集まらぬ児童や生徒校庭除染首に線量計二学期始まる 
              鈴木一功(いわき市) (馬場選) 
まちひとつ更地が増えてまたひとつ まちの記憶が抜け落ちてゆく 
                    米倉みなと(福島市) 
あの日から電車も人も来ない駅吾より大きな向日葵の咲く 
                    山田洋子(岩沼市) 
五感ではとらえられないセシウムをDNAは深く刻めり 
            有田裕子(福岡市)(3首 佐佐木選) 
 
◆9月第4回 
吹く時を知りて野分の吹き来たりふたりはしょせんひとりとひとり 
           美原凍子(福島市)  (永田、高野選) 
原発にさよならをしたこの秋のドイツの空の風みどり色 
       西田リーバウ望東子(ドイツ)(佐々木、高野選) 
 
◆10月第1回 
この子らが覚えなくてもいい事を覚えゆくなり放射線量 
             森田勝弘(愛知県) (佐佐木選) 
 
◆10月第2回 
福島に住むこと忘れ穏やかな日なかとなして障子貼る妻           廣川秋男(本宮市) (佐佐木選) 
植ゑて来しひまはり除染はせぬと聞くされどひまはりことしのひまはり                  小林淳子(埼玉県) 
二十キロ内高台に並び無人街見下ろしている三十頭の牛 
                    中山狐道(須賀川市) 
五十円の桃に驚き近づけばフクシマとありフクシマと泣く 
              森コハル (3首 高野選 
放射性物質検査通りたるきのこの並ぶ秋のスーパー 
               滝 妙子(横浜市) (永田選) 
千年の月が仮設の屋根屋根をひそと照らして秋を降らせり 
                美原凍子(福島市)(馬場選) 
 
◆10月第3回 
人類はゴミダシエンス ヒマラヤへ 海へ 宇宙へ ハズカシエン 
ス               井上賢三(大津市)(高野選) 
原燃は「尾駮(おぶち)の駒」が駈けた牧戻って欲しい昔のように 
               遠藤知夫(三沢市)(佐佐木選) 
 
◆10月第4回 
フクシマの車で県外走るとき人目はばかる我情けなし 
                伊藤 緑(福島市)(永田選) 
海釣りも畑仕事もジョギングもみな奪われて福島にいる 
            武藤恒雄(福島市)(佐佐木、高野選) 
 
◆10月第5回 
風評を避けて秋刀魚がやって来た瞠れる眼に血を滲ませて 
                棚橋久子(岐阜県)(馬場選) 
どんぐりもきのこたけのこ好きな熊原発事故を知る術も無く 
               伊藤 緑(福島市) (佐佐木選) 
木犀の香にふわぁんと包まれて放射能からふっとはなれる 
                    美原凍子(福島市) 
女川の秋刀魚が食める嬉しさにワッシワッシと大根おろす 
             山田洋子(岩沼市)(2首 高野選) 
 
 次回も『朝日歌壇 2012』から原発短歌をを読む。 
                         (つづく) 


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