2012年06月16日01時24分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(50)『朝日歌壇 2012』(朝日新聞出版刊)から原発短歌を読む(5) 「汚染のち除染のち仮処分とう拭えざるままフクシマに冬」  山崎芳彦

 まことに許し難い、不条理を大銀行は言うものである。6月14日付朝日新聞朝刊の7面トップの記事のことだ。 「東電融資に特約条項 柏崎再稼働など事業計画順守」の見出しで、金融機関から東京電力への総額1兆700億円資金援助の大枠が固まった、として「電気料金の値上げや原発再稼働を前提とした東電の事業計画が守られなければ、融資を止められる『特約条項』を設けた。」というのである。 
 
 これは、東電のメーンバンクである三井住友銀行を中心と東電融資銀行団が、福島原発事故への対応などに因り経営が悪化している東京電力に対する追加融資に当たって、5月に国が認可した東電の「総合特別事業計画」について「計画の趣旨に反しないこと」を求めるもので、その計画には電気料の値上げとともに、柏崎刈羽原発の13年4月からの順次再稼働などが盛り込まれており、東電がそれを実行できなければ融資ストップも検討するというのだ。 
 
 東電の経営が困難に陥っている最大の原因は、自らの責任である原発の事故であるにもかかわらず、その東電への融資の条件に、これまでにさまざまな事故や不祥事を起した経歴があり、2007年7月16日の新潟県中越地震の時には火災、使用済み核燃料プールからの放射性物質を含む水の流出、原子炉建屋天井の大型クレーン車軸の破断などの事故を起した柏崎刈羽原発の再稼動を融資の「特約条項」に組み入れることなど、あってよいことだろうか。三井住友銀行、みずほコーポレート銀行、日本政策投資銀行、三菱東京UFG銀行など、もし、原発事故が不幸にして生じた場合、どのような責任を取ると言うのだろうか。 
 
 強欲な金貸しとしての本性をさらけ出した、というだけではない、実はこれら大手金融機関も「原子力ムラ」の構成メンバーであったのだ。資本主義経済における金融機関は、言ってみれば旧財閥の盟主であったし、現在でも、態様の変化はあっても、その役割を連綿として担っているのだろう。 
 「原発再稼働」特約条項は、政府、電力会社、大銀行、呼吸を合わせての原発体制維持・存続の「担保」なのだろう。 
 
 大飯原発再稼働に向けての、野田政権、経済界、原発依存自治体の首長の筋書き通りの、反国民的な儀式が行なわれようとしつつある。原発列島、地震列島、底の抜けた政治の混迷列島、これは国民的な抵抗によってしか、希望の朝は迎えられない。 
 
 『朝日歌壇2012』の原爆短歌を読んできたが、今回で最後になる。詠うことも、読むことも、記録することもそれぞれ一つの行動である。そして、さらに何をなしうるか、筆者にとっての課題である。 
 
◆11月第1回 
「福島産ですが」と梨を配る度少し故郷裏切る心地す 
              園 鈴子(所沢市) (永田和宏選) 
これほどに重きものなし骨拾うま白き箸よ時雨降りくる 
              美原凍子(福島市 (馬場あき子選) 
 
◆11月第2回 
三つめの季節が巡り福島を遠く離れて長袖を切る 
                 蕪木由紀(横浜市) 
陽がさせばすすきの原は銀色の真綿の湖(うみ)になりてうつくし 
           新妻順子(福島市) (2首 高野公彦選) 
あの日から雨がまつわるよでならぬ雨は直なる雨こそよけれ 
                青木崇郎(福島市) (永田選) 
汚染のち除染のち仮処分とう拭えざるままフクシマに冬 
               美原凍子(福島市) (馬場選) 
フクシマの生活(くらし)の歌を読めばなお閑(しず)かにおれよこちらの原発         河野利夫(宇和島市) (佐佐木選) 
 
◆11月第3回 
一生の間検査を受けること心の被曝は測ることなく 
                   菊池 陽(盛岡市) 
避難後の月に一度の団欒を夢のようだと夫は言へり 
            蕪木由紀(横浜市) (2首 馬場選) 
 
◆11月第4回 
首都圏の産廃ダンプが通う道震災ガレキが南下して行く 
                   伊藤 緑(福島市) 
蜜蜂の四(よ)箱の底に大量死みつけた廃農家族に冬来る 
             澤 正宏(福島市) (2首 馬場選) 
荒草を分け入るわが家(や)戻れざることを予感す一時帰宅に 
             半杭螢子(東京都) (馬場、高野選) 
福島を「負苦島」にして冬が来る汚染されたるまんまの大地 
                   美原凍子(福島市) 
西に8基、東に2基のど真中銀座に住んでフクシマを想う 
             津田甫子(小浜市) (2首 高野選) 
 
◆12月第1回 
「惨めだね」防護服着た友が言う一時帰宅の敷居またぐ朝 
               舟部 勲(白河市) (佐佐木選) 
ひつそりと柿栗供ふる十五夜の月は節電の闇夜の明り 
               中山孤道(須賀川市) (高野選) 
今日生れし子が三十歳に育つころ廃炉となるのか福島原発 
              三浦ユリコ(新発田市) (永田選) 
三陸沖の海の寂しさ土佐沖に戻りし鰹の放射能検査 
                   島村宣暢(四万十市) 
放射能で作れぬ農家が招かれて十勝の農家で秋まで働く 
             吉森美信(帯広市) (2首 馬場選) 
 
◆12月第2回 
たらちねの母の言葉は遠慮がち「フクシマノコメモラッテケッカイ」 
               三井せつ子(平塚市) (高野選) 
お風呂場で声を殺して泣く我が子福島に残るパパ恋しくて 
                    蕪木由紀(横浜市) 
終りなき始まりなのか二十キロ区域(ゾーン)を区切る赤き点滅 
           斎藤 杏(南相馬市) (2首 佐佐木選) 
 
◆12月第3回 
わが里の阿武隈川が500億ベクレル海へ注ぎ込みゆく 
                大友道子(宮城県) (馬場選) 
育みし万の茸は汚染され友はしずかに廃業告ぐる 
               佐藤照子(福島県) (佐佐木選) 
「負苦島」にさせてはならぬうつくしま歌詠む力届け富久島(ふくしま) 
               石井かおり(日田市) (高野選) 
 
◆12月第4回 
冬の底で鳴るオルガンはふるさとの唄となりゆく雪をつもらせ 
               美原凍子(福島市) (馬場選) 
掃き溜めて畑に鋤き込みし去年はまで行き場失う今年の落葉 
                  川村とみ(稲敷市) 
「除染」というショベルカーが削ってく景観、文化、こころといのち 
            伊藤 緑(福島市) (2首 佐佐木選) 
いわき市に逃げてくる人逃ぐる人危ふき距離の仮設住宅 
            馬目 空(いわき市) (佐佐木、永田選) 
山茶花の咲き急ぎたる師走来て仮の宿にも雪虫が舞う 
              飯崎ひろみ(南相馬市) (永田選) 
 
 
 
 「大震災を詠む」(3月から8月に寄せられた約3300首のなかから選者4氏が各3首を選び3回にわたり連載した作品から、原発にかかわる歌を抄出した 筆者) 
 
第一回(四月) 
原発に近き牛飼い涙ため子牛助産す離農決めし夜 
                田川 清(熊本市) 馬場選 
第二回(六月) 
30キロの見えない線の内に在れば妊婦護りて三度移れり 
               片野桃子(南相馬市) 高野選 
第三回(八月) 
避難所を転々とせし九十三 墓に避難すと書きのこし逝く 
             根岸敬矩(蓮田市) 馬場、高野選 
福島の農は哀(かな)しも水田を守るべくして向日葵(ひまわり)を蒔く           高橋俊彦(須賀川市) 佐佐木選 
いくつもの同心円の中心で日夜をすごす原発労働者 
               有田裕子(福岡市) 永田選 
 
次回も原発にかかわる作品を読み続けたい。 


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