2012年11月06日23時49分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(73)福島の歌人たちが原発災の1年の日々を詠った短歌作品を読む 弦短歌会福島支部歌集『3・11福島から 歩き続ける』から   山芳彦

 いま、3・11福島原発事故以後、国内で唯一稼働している関西電力大飯原発3・4号のある敷地内の断層(破砕帯)現地調査が行なわれ、その結果についての評価会合を原子力規制委員会が開いているが、「活断層である可能性は否定できない」とする合意が11月4日の会合で示された。11月5日付朝日新聞朝刊によると、|倭悗滑った痕跡が見つかり、12・5万年前にできたものとみられる、滑りの原因を活断層とみて矛盾はないが、地滑りの可能性もある・・・というものだが、現地調査を行なった専門家の意見が割れたことから、7日に再会合を開くことになったという。 
 
 本来、無責任な野田首相の「決断」によって、大きな反対の声を無視して再稼働が決定されたこと自体が許されないことなのだが、今回の調査で「活断層とみて矛盾はない」ことが示された以上、ただちに稼働停止をすべきであろう。原子力規制委員会の田中俊一委員長は、この結果に基づいて、先ず稼働停止の判断を下すべきだ。それが、福島の経験を何よりも大切にすることであり、それをしないことは福島の人々を初め原発事故によって重大な被害を受けている国民に対する裏切りであり、原子力規制委員会の委員長としての義務を放棄することになる。7日の再会合などといわず、4日の時点で少なくとも関西電力に対して停止の行政指導措置を講ずるべきではなかったか。 
 
 福島の経験は、原発の存在がこの国の人々に、極めて危険な環境、条件の中での生活を強いていることを明らかにした。政府、電力企業をはじめ、原発エネルギーを経済成長に不可欠であるとして、さらに維持し続けようとする大企業の責任はこの上なく重大だ。 
 そのことを多くの福島の歌人たちは自らの経験、生活の現実、人間としての感情を短歌作品に詠うことで「訴え」、明らかにしている。実際には、あの事故以前から、来るべき災厄を予見、警告した歌人もいたことは、この連載の中でも、作品をもって紹介してきたところだ。そして、いま3・11以後の福島歌人の原発にかかわる作品を読ませていただいている。 
 
 今回は、弦短歌会福島支部(じゅんじゅんの会)の会員14氏の作品を読みたい。同会は、早くも2011年10月22日を発行日とする歌集『3・11 福島から歩き続ける』を刊行した。山口一雄支部長は、「歌集刊行にあたり」で地震・津波・原発事故に触れながら、次のように記している。 
 
「会員が住む中通り地方は、太平洋沿岸(浜通り)から五十キロメートル以上離れた地域で地震や津波の被害は少なかったのですが未だ放射能汚染による風評被害を受け困惑し、また放射線量値を気にしながらの不安な生活を送っています。・・・この悲惨な状況の中では、震災の歌は詠むことができないとの意見が相次ぎました。しかしこの大震災といえども時が過ぎれば記憶も薄れてしまい、また我が身に降りかかる原発による放射能汚染のこの状況をしっかりと目に止めて、十四名の会員がそれぞれの思いを短歌にして残すことを決めるに至りました。初心者ばかりの未熟な作品ですが、私たちのリアルタイムな作品を大震災の記録として目を通していただければさいわいです。」 
 
 一人14首の作品とエッセーで構成された90ページの一冊である。残さなければならない貴重な歌集であると思う。こうした作品、記録の集積が時代の真実を映し、後世に残されることの大切さは、これまで読んできた原爆短歌、原発短歌によって、筆者の身に沁みている。 
 
 歌集から、原発にかかわると、筆者が読んだ作品を抄出させていただく。作者の意に反することがあれば、お詫びするしかない。 
 
 
▼原発の水素爆発 黒き煙見えざる魔手に不安は去らず 
 
原発事故最終同級会を延期せし その日の桜見せたし満開 
 
筍の線量測りて膳に出す原発事故は難儀なるかな 
 
県民は原発事故におののけり B29の恐怖よみがえりて 
                      4首 石澤壽子 
 
 
▼日を追えば追うほど被害広がりて大地も海も放射線汚染 
 
大震災原発爆発人は死す瓦礫と化せり海沿いの町 
 
原発事故 放射線汚染 福島県子を連れ母は県外避難 
 
あと何年空気を汚染する放射能 原発が示す脱原発を 
 
姿なき放射線との戦いは除染除染の日日の続けり 
 
校庭の放射線汚染土削る 削られし土の処分問題 
 
人災の原発爆発福島県 測定器手に生きる毎日 
 
夏休みも外で遊べぬ子供等よ他県に招かれプールの笑顔 
 
放射線に汚染されたる田や畑放置されたり草畑となる 
 
散歩道の野菜畑は咲き揃う向日葵畑に変りておりぬ 
 
脱原発応援します自然には人にやさしいエネルギー源あり 
 
許すまじ原発爆発放射能 未来のための復興の道 
                    12首 小川カツ 
 
 
▼津波引きし荒寥無惨の今そこで白煙上げて原発メルトダウンす 
 
青空に白雲浮かべ軽やかに原子炉建屋海辺に立てり 
 
活断層ミミズのように地下に這うわが列島に原子炉と相乗る 
 
ロンドンの友より電話「早く逃げよ」危険区域八十キロ圏が世界の常識 
 
 (3・11の地震で羽鳥湖の用水ダムが壊れる) 
水入らぬ田にうち置かるコンバインに降るや無情の汚染の五月雨 
 
次々と事態は深刻なるを知るレベル7とはチェルノブイリ並 
 
(ヨハネ黙示録8章) 
桃色付き牛草食みて肥ゆる夏宙よりこなごな降るにがよもぎ 
 
チェルノブイリの廃市にラッパ鳴り響く天使黙示す新生の大地 
 
忘るるやあの八月の原爆の青き閃光三十万の魂裂く叫び 
 
(1953・アイゼンハワー国連演説“アトムズ フォー ピース”) 
戦争は商機平和は幻想なるや義なるや原子炉で売りて「核」拡散す 
 
平和利用の大義つければ制御なき核の破壊の原子炉五十四基列島に建つ 
 
(反原発デモ 大江健三郎主催者あいさつ 原子炉は犠牲と荒廃を産む) 
廃炉求む六万の声首都の広場埋めて知性の塔世にうち立てり 
                     12首 小林宣子 
 
 
▼知覧なる新茶の土産に汚染なきを飲めよと友の心遣いは 
 
放射能薄らぐ頃と思う今朝義弟逝きしと遠き地の甥 
 
四枚の座ぶとん据うる日やけの子うすれし汚染にサッカーせしと 
                    3首 近内セツ子 
 
 
▼被曝避け戸を締めきりて日が暮れる原発事故(げんぱつ)恐ろし籠の鳥なり 
 
放射線、籠もりいる日のティータイム開運堂の「雨上がり」を食む 
 
原発事故 悪魔の息は風に乗るグレイ、ベクレル、シーベルトを見よ 
 
基準値を越えし原乳の出荷停止 乳色に地を染めて捨てらる 
 
ひまわりとコスモス揺れて光差す布引山(ぬのびきやま)の風力発電 
 
今までの平和はどこへ行ったやら 原発、余震の未知なる日日に 
                    6首 菅井千佐子 
 
 
▼実るもの信じられぬかこの土に放射能の塵積もりゆくなり 
 
将来に子を産めぬかと訴うる十五歳(じゅうご)の頬のやわらかき紅 
 
原発事故への怒りもやがて薄るるか生くる力の萎えゆく夕べ 
 
ふるさとは原発事故の福島県 顔上げて告ぐ君たちに告ぐ 
 
二面を埋めて県内の放射線量記載あり半年過ぎし福島 
 
「中間処理施設」だなどと見え透いたうそ 福島は死ぬのだろうか 
 
ヒトもまた絶滅危惧種かもしれぬさんまの匂い流るる路上 
 
目に見えぬ敵ならそ知らぬ顔をして明日へと歩き続けるばかり 
                     8首 菅井陽子 
 
 
▼みちのくの空は黒きか固唾を呑んで見守る未曾有の原発 
 
人の世の驕り高ぶり被災して「想定外」とはなにをか言わん 
 
ふるさとの友は「帰れ」と熱く言う「旨か魚を食べに来いよ」と 
 
防護服着てはむなしく我が家へ戻れぬ家は他国のごとし 
 
爆発に息子は驚き急き立てつ「母ちゃん来いよ早く来いよ」と 
                   5首 鈴木たき子 
 
 
▼人影のなき避難区域の国道を子連れの牛が群れてさまよう 
 
鎮魂の松もセシウム含まんと二転三転五山のの送り火 
 
東電の鉄塔頭上に聳え立つ紺碧の空に矢を射るごとし 
 
決断す 低線量のわが町なれど子らを案じて校庭表土(ひょうど)剥ぐなり 
 
心して風評被害の払拭にわれ尽くすべき二期目スタート(石川町議会議員) 
                    5首 瀬谷京子 
 
 
▼あの時の空も青きか放射能恐るる今日の仰ぐ青空 
 
「たっぷりの水を牛に置いてきたでも子牛はきっと死んだろう」涙の避難者 
 
「十日経つ」とテレビの中の人は告ぐ原発事故後の時は灰色 
 
真東へ国道二八八号線(にいぱっぱ)行き着くは東京電力福島原発 
 
ポンペイを思えば桜花盛り原発遺跡へ進むわが県 
 
沈黙の春にはあらねど避難後の無人の町に牛の歩める 
 
あの道もあの山あいのあの町も緑の五月 封鎖されたり 
 
園庭に子を遊ばせぬ保育園五月の風に放射線避く 
 
日焼けした二人の男黙々と表土を削る放射線除去 
 
花陰を飛び出す蛙、這う毛虫放射線食みて共に生きたり 
 
紫陽花の色深まるも事故止まずベクレル値を日々確かむる 
 
つばめ来てすずめ囀り花の咲く原発事故の恐怖は見えず 
 
立秋にひまわり咲きてうつむけり葉茎に重き放射線負いて 
                    13首 武田房子 
 
 
▼守らねば子の生命を守らねば福島は血の池の上にあり 
 
七月の園児の楽しみは水遊び 今は長袖、帽子にマスク 
 
砂あそび出来ぬと知りて誰ひとりかがむ者なし幼稚園の庭 
                    3首 辻喜美子 
 
 
▼天涯にひとりでありし五日間電話は寡黙の器となりて 
 
放たれし理由も知らで脚細き黒牛四頭海辺ひた走る 
 
日の暮れてさまよふ四頭の黒牛の声ひゅるひゅると空耳に聞く 
 
桜かなし 福島はフクシマとなり色奪はれし春は逝きけり 
 
早苗田の鏡に映る山青し花咲く家もベクレル疑惑 
 
見えぬ聞こえぬミリシーベルトの値なり湯呑の底に茶葉ひとつ残る 
 
老いふたり避難はせじと静かなる目をあぐ軒の芙蓉の白き 
                    7首 務川裕子 
 
 
▼誰ぞ知る日本の精鋭原発が巨大津波に無能と化すを 
 
梅雨が明け酷暑となる日に放射線の線量下がりふとん干したり 
 
「福島で夏はいっぱい遊びたい」孫の望みを砕く放射線量(せんりょう) 
                   3首 向田やす子 
 
 
▼ 「これからも生命(いのち)の地玉子(たまご)を届けて」と風評被害に声援(エール)ありがとう 
 
垣根越し避難せし人と語り合う春の日差しに花笑う瞬間(とき) 
 
「他に要るものない?」と尋ぬれば避難せし老人は答う「ふるさとがいい」 
 
流れゆく雲の彼方の仮設住宅(かせつ)へと向かう夫婦と最後の晩餐 
 
故郷(ふるさと)の近くに移り住むという君との一期一会の思い出 
 
ホットスポットの飯館村(むら)はさながらゴーストタウン 街の灯(あか)りは何処に行きぬ 
                     6首 山口昌子 
 
 
▼原発事故の放射能漏れ微細値のマイクロシーベルト世界を揺るがす 
 
放射能の風評被害に吾妻嶺の種まきうさぎ遠くかすみぬ 
 
猛暑日に炉心溶融(メルトダウン)のわが身体 冷却できぬ原発も苦し 
 
「あきらめず地玉子を送り続けよ」と見舞いの電話に声が震えぬ 
 
「それほどに安全なれば東京に」叫べど空し福島原発 
                     5首 山口一雄 
 
 
 歌集の「あとがき」に、編集委員の一人の務川裕子さんは、「3・11以来、会員みな、沈鬱、低迷、歌を詠むには遠い日々を過ごしておりました。そんな中で、この大災害を短歌で記録しようの声がだれからともなくあがるとたちまち歌集を目指す動きへと換わったのは、やはり短歌が私たちの拠り所のひとつになっていたということでしょうか。」と記している。このようにして纏められた歌集は貴重であろう。 
 
 次回も、福島の歌人の作品を読み続けたい。  (つづく) 


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