2012年11月26日15時10分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(76) 福島の歌人たちが原発災の1年の日々を詠った短歌作品を読むΑ 慂神23年度版 福島県短歌選集』(福島県歌人会編)から<1>  山崎芳彦

 この国の政府、大企業の恐るべき所業を見るにつけ、この国に未来はないのではないかという虚無感に襲われる。もちろん、その虚無感に溺れ沈み込んではいられないのだが、余りにも理不尽、非道なことが行なわれていることに怒りを禁じえない。 
 
 11月22日付朝日新聞朝刊(13版)の一面トップ記事は、「無料検診作業員の3.7%」「収束宣言後、打ち切り」―福島第一原発、の大見出しである。 
 
 記事によると、「福島第一原発事故で原発事故から今年9月まで働いた2万4118人のうち、国と東電のがん検診制度を無料で受けられるのは904人で全体の3.7%にとどまることがわかった。国と東電が、50ミリシーベルト超の放射線を昨年12月の野田政権による事故収束宣言までに浴びた場合に限る、と期限を切ったからだ。」と報じている。 
 野田首相の原発事故の実態を無視した根拠の無い収束宣言を理由に、それ以後も被曝の危険を冒して高線量下での作業が続いているにもかかわらず、一部の特別措置を除き、積算50ミリシーベルトを超えても無料検診の対象にしていないということである。 
 
 原発の現場作業員を、人間として扱わないともいうべき措置である。放射能被曝の危険に身をさらして事故処理、あるいはさまざまな事故の予防、対処に従事しているすべての原発労働者に対して、出来る限りの被曝予防と健康管理対策を、将来にわたって保障すべきであることは当然であり、原発ゼロを実現する上でも、廃炉作業など課題があるのだから、被曝対応策と健康管理の万全な体制は不可欠である。 
 昨年3月の原発事故発生当時に、被ばく線量を測る線量計をつけないで働かせた作業員が述べ3000人を越えたといわれるが、被曝線量が記録として残されていなければ対象外とされることにもなるのである。 
 
 原発作業員に対するこのような対応は、政府、東電の放射能被災者対策の、無責任を示すものであって、現場だけにとどまるものではない。さらに、単に放射能問題だけでなく原発の再稼働や新設など、原発政策の無責任な実態を示している。 
 
 長崎で原爆に被爆した歌人の竹山広さんが90歳の生の最晩年に、 
「原爆を知れるは広島と長崎にて日本という国にはあらず」 
という一首を遺したが、福島原発事故の経験を重ねてもなお、国や大企業などこの国を「支配」している勢力は、かくの如きなのである。 
 広島、長崎の詠う人たちは膨大な原爆短歌を遺したし、今でも詠っている。 
 
 そして、形は違っても本質的には同じ核放射能や原子力エネルギーによって福島の人びとをはじめ多くの人が苦難の生活を強いられているにもかかわらず、国や東電などの真剣で内実のある対応策の貧困、今後についての政策の混乱と混迷は深刻化しているのが現状である。 
 そのなかで原発事故によってもたらされている放射能被害に苦しむ福島県をはじめ、この危うい核列島に暮らす歌人たちも詠い続けている。 
 
 福島県歌人会が刊行した歌集『福島県短歌選集』(第58集、平成23年度版、平成24年3月発行)がある。福島県内の歌人、結社、短歌会などの多くを会員とする全県的な短歌組織の「短歌選集」で、「震災・原発事故の年に詠まれた歌」をサブタイトルとしている。 
 伊藤正幸会長は同歌集の「巻頭言」で、東日本大震災・大津波そして福島第一原発の事故の実態について記した上で、次のように書いている。 
 
 「県内が震災と放射能汚染で押し潰されそうな中、これまでとほぼ変らず、会員の約七割の方々から詠草が寄せられたことに対し、心より感謝申し上げたい。なお、自選十首の中に震災・原発事故に関連する歌が含まれていた方々が約八割にのぼることから、編集委員会にて検討し、本選集に、『震災・原発事故の年に詠まれた歌』のサブタイトルを付けさせて戴くことにした。」 
 「短歌という詩形の本質は詠嘆であり、一人ひとりの歌の持つ力は限られている。しかしながら、被災した者同士がそれぞれの立場から、悲しみ、怒り、そして苦境を乗り越えてゆくこころを詠い合って寄り集まれば、大きな力になるものと確信する。また、人には時間の経過と共に恐ろしさを忘れてしまう習性もある。本選集が、後世の人々に大震災の恐ろしさと原発事故の影響の大きさを伝え、少しでも未来への警鐘となることを願ってやまない。」 
 
 同選集の作品から、原発にかかわる歌を読ませていただくことにしたい。 
 
 
▼原発の事故に危険を知りし時避難きめたり幼き孫のために 
 
埼玉に落ち着き居るも故郷の相馬が恋しく日毎に募れり 
                     2首 愛澤和子 
 
原発事故に住む町追はれふる里のみ母の墓前に語ること多し 
 
暈かむる朝日に原発収束を心に拝む犬連れし道 
 
放射能浴びゐて戻れぬ吾が家の鍵に付く鈴折りに振り見ぬ 
                     3首 相田美恵子 
 
▼夫が愛でし凌霄花咲き盛りセシウム受けしを去年(こぞ)よりも美(は)し 
 
八十路すぎまだ生きたしと思ひつつ放射能降るにをののく吾ぞ 
                     2首 上妻ヒデ 
 
▼春蘭の花にやさしい春風が放射能という魔物も運ぶ 
 
顔もなく姿も見えぬ放射能おごる暮らしをいましめたるか 
 
「子供生めますか」真剣に問う十五歳飯舘村の被災者の声 
 
育苗に待ったかかりし友よりのメールは「田植えすでに終了」 
 
大輪の花を開けとひまわりの種を蒔きたり除染願いて 
 
帽子かぶり長袖シャツにマスクして汗ぬぐいつつ児ら登校す 
 
                    6首 阿久津美子 
 
▼目に見えぬ放射線量気にしつつ見えぬ不安をただすものなし 
 
秋空はあくまで晴れてひとときを放射能を忘るるときあり 
 
放射能秋の日にもただようか色なき故に不安ともなう 
                     3首 上石不二子 
 
▼大地震巨大津波の原発事故福島県は世界にひびく 
 
豊かさをもたらし呉れし原発の事故は一転奈落の底に 
 
目に見えぬ放射能汚染にふるさとを追わるるごとく去りゆく人びと 
 
風評の被害に喘えぐ福島の桃を売らんと知事は市場に 
                     4首 我妻敬子 
 
▼原発の二十キロ圏の捜索に友の夫が明日発つという 
 
「燕にでもこの家守って貰うべが」原発事故に避難する人 
 
爆発より三月を過ぎて特定避難勧奨地点わが市に出でぬ 
 
メルトダウン起きていしこと知らずして人らは水を求め並びき 
 
知るほどに怖さ増しくる放射能事故の収束見えず夏来る 
 
放射線高き地域に暮らす子が此処に住むしかないと言いたり 
 
線量の高きに住まう高一の孫がこの夏避難して来ぬ 
                    7首 阿部勝子 
 
▼原発事故の怖さを世界にフクシマは知らせぬ天災人災を追いて 
 
力の限り鳴く虫の音の胸に沁む原発事故を嘆くが如く 
                    2首 阿部泰子 
 
▼うけ継ぎて農に生き来し村人の土地汚染され見通しくらく 
 
吾妻嶺に「種子播き兎」の貌生れど放射能汚染に農は進まず 
 
原発の不安に日々を過ごし来て確かな春の何時ぞやに過ぐ 
 
国々の英知を寄せど原発の収束の途いまだ見えざる 
                    4首 阿部まさ子 
 
▼放射能を避け大阪に行きし友御骨となりて戻り来たりぬ 
 
戦争と大震災と放射能黄泉への土産多しと母言う 
 
夫が捥ぎ母がへた取りし青梅を放射能ゆえに漬けぬと言えず 
 
安達太良は何ごともなく晴れたれどあまたの向日葵ふくしまに咲く 
 
黄葉も間近ならんに公孫樹並木除染のために枝葉伐られぬ 
                     5首 安倍美智子 
 
▼原発事故まさしく人災 忿りつつ汚染の穹に空拳振るふ 
 
殺処分の牛を撫でつつ啜り泣く老い初む農婦 映像かすむ 
 
がんばつぺ いわき!と妻に声を掛けやをら起きたり霜月の朝 
                     3首 阿部良全 
 
▼怯えつつその日暮らしの蝉よ鳴け鳴けばこころの穏しきものを 
(今年の蝉しぐれ遅々として聞かず) 
 
見えざるは恐ろしきかな汚染田に餌を啄ばむ鷺はしらずや 
                     2首 荒 仁志 
 
▼白とブルーの原発の建屋無惨なり形なくしてなんの安心ぞ 
 
目に見えぬ放射能との戦いに作業員ら夜夜眠れぬと言う 
 
放射能の値の高き美の建屋怒るがに残るゆがむ鉄骨 
 
子らの住む新マンションはセシウムの数値に怯え窓さえ明けず 
 
外遊び未だ叶わぬ男の孫が物足らぬ部屋に声はりあげる 
 
セシウムの数値を案じ暮らす日よ二人児公園に遊ぶ日はいつ 
                     6首 有賀智枝子 
 
▼電力のみにたよるくらしをおろかにも原発事故によりて知りたり 
                     1首 安藤美代子 
 
▼今日もまた放射線量憂ひつつのびし胡瓜の花芽を支ふ 
                     1首 猪狩孝子 
 
▼原発に抗議したるは五十年前 石神とう駅名いまも浮かびぬ 
 (常磐線・東海駅) 
 
放射能に遠近無しを思い出す 風向き降雨の危険度のこと 
 
ふるさとの河川は汚染のすすみきて人影も鳥影も映さぬ水面 
                      3首 池田桂一 
 
役目ゆえ放射線量を計り行く菜の花・桜・桃の里山 
                      1首 石井敬子 
 
▼避難せし人等街ゆく六月の白いブラウス憚られおり 
 
海も陸も生きものなべて尊し原発事故は奪うというや 
                      2首 板谷喜和子 
 
葉月尽垂るる稲穂にセシウムの検査憂いつ結果を待ちぬ 
                      1首 一条民子 
 
▼原発を天恵とせし四十年神の怒りかあまりに大き 
 
うつくしま福島に咲くさくら花に中空(そら)の汚染の浄化恃まん 
 
▼故郷の穏し海辺の原発が爆発せしとは 一瞬空白 
                      1首 伊藤早苗 
 
放射能思ふことなくスーパーに並びていくばく食を求めつ 
 
体内のセシウム減らす林檎煮るシナモンの香の魔法かけつつ 
 
放射能汚染の海ぞ夏休みの浜辺に子らの歓声あらず 
                      3首 伊藤雅水 
 
次回も『福島県短歌選集』の作品を読み続けたい。 (つづく) 


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