2012年12月04日13時30分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201212041330122

文化

【核を詠う】(77)福島の歌人たちが原発災の日々を詠った短歌作品を読むА 慂神23年度版 福島県短歌選集』(福島県歌人会編)から<2>  山崎芳彦

 福島第一原発の作業員の被曝についての情報が、今になって種々明かされているが、例えばWHOの求めに応じて東京電力が報告しているとして、朝日新聞が12月1日付の朝刊(13版)1面トップで、「甲状腺被曝 最高1.2万ミリシーベルト」と白抜きの大見出しで報じている。素人の筆者でも甲状腺に100ミリシーベルト以上浴びると癌が増えるといわれ、それも甘すぎるリスク判断だとする見方も少なくないことを知っている。 
 
 同紙は関連記事で「東電、ずさん被曝管理 WHO報告書・実態公表も不十分」との記事なども載せている。同紙は、この間この問題を続けて取り上げているが、評価してよい報道姿勢といってよいだろう。 
 同時に、核放射能の被曝についてのこのような実態は「ずさん管理」などという域を超えて、犯罪的と言うべきだろう。事故によって明るみに出たが、東電に限らず原発のあるところすべてに通じる核放射能の脅威についての反人間的な無責任姿勢が、極限的ともいえる事故の結果、少しずつ明るみに出ているのであろう。 
 
 これまで、各原発がどれだけの事故を繰り返し、それを隠ぺいし、その中でどれ程の人が命を落とし、病んでいるか。そのことを大企業御用達の医療機関や医学者や研究者たちが押し隠してきた。 
 
 これは何も筆者の想像でいっているのではない。放射能の危険な本質に向かい合い、原爆被爆患者の医療に携わり、研究を深め、チェルノブイリの経験から実態を掘り起こしてきた少なくない医学、放射線科学その他の人びとの貴重な警告や提言を少しでも学び、知り、そしてそれを敵視してきた者たち、原発の擁護勢力―電気産業や経済効率・利益最優先の立場に立つ大企業の多く、そして政府・官僚、その他この社会にはびこり権力をさまざまなレベルでふるってきた者たちの振る舞いを知って、言っているのだ。 
 
 「原子力ムラ」に対して抵抗し、あるいは悲劇的な経験を身をもってした人たちの告発からも少なからず学んだと思ってもいる。いま続けている「核を詠う」シリーズの連載も、筆者に多くのことを学ばせてくれる人々の短歌作品によるものであり、その作品を理解するために、さまざまな分野の著書や作品に接していることも、老いた頭を少しはみがいてくれる。 
 
 いずれにしても、原発作業員に対する被曝による健康破壊への対応の非道さは、氷山の一角であり、広く放射能の危険にさらされているすべての人々にたいする、政府や関係企業、原発擁護勢力の姿勢を示しているのだということは否定できない。 
 
 前置きが長くなってしまったが、前回に続いて福島県歌人会編の『福島県短歌選集』を読んでいく。 
 
 
▼アメリカの傘のうちなるニッポンのわが家の暮らしも原発傘下 
 
原発十基据ゑにし過疎の町々は天領なるかや電気を貢ぐ 
 
大地震(なゐ)に日本が揺れ原発の建屋が揺れて騒立つ炉心 
 
火を使ひ原子の火をも使ひきて放射能汚染に戸惑ふ吾ら 
 
この町は放射能汚染に霞みつついつしか吾も流人となるも 
 
過ぎ来しを原発銀座と揶揄されし被曝の町に人影あらず 
 
原発を逃れ来し友は原発を遠見るごとく昔を語る 
 
庭に咲く白あぢさゐは脳(なづき)かもセシウム帯ぶる雨に冴ゆれば 
 
白露とふ美(は)しき節気に至りたりセシウム帯ぶるを光る芝草 
 
セシウムが身ぬちに入るを半減期三十年を生きてもみむか 
                    10首 伊藤正幸 
 
▼広島も長崎の忌もことさらに身にしむ八月フクシマの夏 
                    1首 伊東ミイ子 
 
▼放射能の雨降り出して白鳥は旅立ち早む翼持てれば 
 
注文の扉搬入せし車フクシマナンバーに苦情の届く 
 
来る年は明るきうたを詠みたしと線量高き落葉掃きおり 
                    3首 伊東美知子 
 
▼危ふかる原発よりの四十キロ距離にあらずと言はれてゐしが 
 
目に見えぬ放射線なり慣れゆくか蓄積量などだあれも言はず 
 
フクシマと世界に知らるる悔しさよほんたうの空ありし故郷 
                    3首 今泉暁美 
 
▼校庭の土掘り起こす異常さを恐しと思う毎日のくらし 
 
転校は嫌だという孫達の放射能の被曝量不安なり 
 
神様にお願いしますできることなら三月十一日以前に戻して 
                    3首 岩間裕子 
 
▼園児等と共に窓より見上げたる故里の山よ哀しみの山 
 
濤々と空に架かれる天の川ゆがんで見えるわれの心に 
 
短冊に『みんなとお外であそびたい』保育の部屋の七夕飾り 
                    3首 上西和子 
 
▼目に見えぬ放射能汚染おそれつつ米作る友の嘆きを聞けり 
 
原発は誰がためにある福島の人と風土をかく滅して 
                    2首 内海吉子 
 
▼怖れつつも美しき浜に原發を置きし福島か富を求めて 
 
國の示す放射線量を諾(うべな)はず窓を閉ざして今日も籠れる 
 
想定外と人命さへも括られて驕る科學の末を恐るる 
 
線量高く鎖に閉ざす公園の池の青藻に柳絮降りゐつ 
 
風評被害を託つ賣場に県産の熟れ過ぎし桃を五つ買ひたり 
                    5首 梅津典子 
 
▼甲状腺の全的手術せし吾ぞ福島の地に今なぜと問う 
 
甲状腺を病んでいますとあの日から皆の前にて言えなくなった 
 
道なりにゆったり歩いてきたのにね放射能が通せんぼする 
 
放射能で汚染されてもうつくしま心に「埴生の宿」の歌あり 
                    4首 江川道子 
 
▼夏来ればこの森にきて茅蜩の鳴きとよむこゑ聞きて和みき 
 
会場のありて三(み)月ぶりの歌会なり避難経験の友等も混じる 
 
避難区の児童・生徒ら集中し『50人学級』詮なきものか 
                     3首 海老原廣 
 
▼ことごとく汚染されたる地のさくら咲き初めて遇ふことしの春に 
 
行けばある警戒区域の検問所コンビニすらりと出でたる先に 
 
見のかぎり汚染田ならむ素枯れつつ泡立草の黄花群れ立つ 
 
この先は産土(うぶすな)への道結界ぞ赤色灯五個ちかちか回る 
 
二時間の一時帰宅を終へし母しきり嘆かふその草の戸を 
 
山茶花が花ごと北風(しもけ)におらぶ午後 線量計の数字はうごく 
 
血族はひとりもあらぬ冬の町うぶすなへの道鎖されて久し 
                    7首 遠藤たか子 
 
▼福島の放射線量多ければ娘(こ)らと直ちに此の地を去りぬ 
 
親戚の世話にて岐阜県明智町に「コテージ」借りて娘らと住みたり 
 
十五日娘ら暮らした岐阜を去り女孫(まご)住む街の小田原に来ぬ 
 
福島の異常に高い放射線男孫(まご)は詳しく教えてくれたり 
                 4首 遠藤と志子(しこ) 
 
▼初雪を喜び孫は庭に出で雪合戦の夢を描きぬ 
 (放射能災害のため雪遊びは不可能でした) 
                    1首 遠藤康代 
 
▼ガソリンの絶えてクルマの姿なき道を浮遊す放射能の気 
 
屋外の授業も遊びも止められし育ち盛りの子らを哀れむ 
 
放射能測定済みの証入りしもも贈り来し伊達の教へ子 
 
日本の英知はいづこ原発の収束遠く民の苦しむ 
 
あけぼのの山の美し汚染なき青き地球と信づるまでに 
                    5首 遠藤雍子 
 
▼未曾有なる地震・津波・原発事故を桜は知らぬか庭に咲き初む 
 
「僕達の未来は無い」と子の言葉原発被災地に起つ母の映像 
                   2首 遠藤ヨシイ 
 
▼避難所の映像出るたび寄りゆきて双葉の友を探していたり 
 
訪いゆけば避難所の友は両の手を高く振りつつ吾に走り来 
 
セシウムの母乳検査に並びいる母の胸元赤子なでおり 
                    3首 大内ミキ 
 
▼拒(こば)みたる人らも安全神話にて東電誘致をせし四十年前 
 
想定外とぞ云ふ原発破壊に怯(おび)えつつ日々を過ごすはたはやすからず 
 
かくまでに苛酷なる悲劇過去となる日のあるらんかわが生のうち 
 
子や孫を案じ神戸に自主避難せし隣人は行きて帰らず 
 
出荷できず命を絶ちしと云ふ人のキャベツブロツコリーの畑花満つる 
 
肉牛の出荷停止は他県にも及ぶ根深し食の被害は 
 
事故の収拾工程通りに進まざる現実にわが諦念は増す 
 
農地五年森林除染は二十年斯(か)かるをきて又心萎ゆ 
                    8首 大方澄子 
 
▼フクシマを離れし街にベクレルのニユース届かず一日安らぐ 
 
味の無き遠き他県の野菜食む地物野菜の規制解かれず 
 
原発を逃れて来たる幼らの桃色の靴三足並ぶ 
 
原発の放射値下がりしに青き空へと濯物干す 
 
耕せぬ田畑目につく山峡の里に向日葵群れ咲きてをり 
 
放射能汚染の地表悠々と蟻の一列前へと進む 
                   6首 大川原幸子 
 
▼被災地より帰りし我は庭に咲くくちなしの香に心和みぬ 
 
線量を気にしつつ免許更新へあやめの花が天に向きいる 
                   2首 大越貴子 
 
▼目に見えぬ放射線には人住めず置いてきぼりの犬がさまよふ 
                   1首 大越光子 
 
▼放射能汚染の風評はげしくて詣る人なし白虎隊の墓 
 
帰るところもうなくなったと避難者がお茶飲みてゆく 切り干しの春 
 
ほととぎす一声残し飛び去りぬ放射線量かまびすしき夏 
 
何もかも放射能のせいにする畑に蝶らの姿のなきも 
                   4首 大竹光子 
 
▼「放射線うつるから近くに寄らないで」避難地の子に児らが言はるる 
 
顔いちめん覆ふマスクに声もなく通学児童と朝のバス待つ 
 
人住まぬ浪江の町に餌を求め主(あるじ)さがして牛らさまよふ 
 
水素爆発ありしも知らず二時間余給水受くる列に並びき 
 
幾万の太陽となりて飯舘に向日葵咲けど人すら見えず 
 
在りし日に智恵子愛(め)でたるほんたうの福島の空はいつ還るらむ 
                    6首 大槻 弘 
 
 
 次回も『福島県短歌選集』の作品を読み続ける。   (つづく) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。