2012年12月14日22時52分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(79)福島の歌人たちが原発災の日々を詠った短歌作品を読む(9)『平成23年度版 福島県短歌選集』(福島県歌人会編)から<4>  山崎芳彦

 最近出版された詩人・若松丈太郎さんの『福島核災棄民―町がメルトダウンしてしまった』(2012年12月9日発行、コールサック社刊)を読んでいる。若松さんについては、この連載の中で『福島原発難民』(2011年、コールサック社刊)やアーサー・ビナードさんとの共著詩集『ひとのあかし』(若松さんの詩とビナードさんの英訳詩、斎藤さだむさんの写真で構成、2012年、清流社刊)などについて触れたことがある。まだお目にかかってはいないが、東海正史さんの歌集を南相馬市立図書館に蔵書があることを確かめていただくなど、お世話になった。電話での交流だけだったが、まことに親切な応対、励ましをいただいたことが忘れられない。以来、尊敬する詩人として、少なくない作品をも読ませてもいただいている。 
 
 『福島核災棄民』については、別稿で感想を書きたいと思っているが、同書に収録されている「戦後民主主義について」(第四章)の評論に深い感銘を受けた。若松さんが、自身の生きてきた体験に引きつけながら、「核災」と関連させて述べている戦後民主主義論について、若松さんでなければ書き得ない深い内容を持つものとして読ませていただいた。その中で若松さんは<核発電>の本質を明確に指摘した上で 
 「<核>を制御できると過信し、十全な対策を講じないまま、平和利用であるとか、環境にやさしいとか、安価であるなどと偽って、国策として推進し、その権益に群がり、事故を隠蔽し、住民を欺いてきた結果として招いた事態が、住民のいのちと尊厳と未来とを奪い、さらには地球的規模で、しかもながい将来にわたって影響を及ぼす重大な犯罪であることを認識できず、したがって検証もせず、まして責任を取ろうとは考えもせず、権益と地位を守ることにのみ汲々としている原因者たちの犯罪には、過失致死罪にはとどまらない重大な『人道に対する罪』『人類に対する罪』というべきものが認められると、わたしは判断します。 
 戦争責任を徹底して追及しなかった結果としての現在があると考えるわたしは、将来に禍根を残さないために、<核災>の原因者たちの犯罪を明らかにしなければならないと思っています。」 
 「福島第一の<核災>を受けて世界各地にひろがっている脱<核発電>の動きに背を向ける勢力が国内では強く、彼らは<核災>が犯した罪の重大性を認識せず、<核発電>を存続しつづけようとし、その輸出を目論んでいます。その背景には、そこに大きな利権が存在するからにちがいありません。個人や企業の利益のために、わたしたちとわたしたちの子孫の生命と尊厳とが脅かされることをわたしは承認するわけにはいかないのです。」(<核発電>、<核災>との表現について、若松さんは同書の中で、その理由を記している。その理由として「同じ核エネルギーなのにあたかも別物であるかのように<原子力発電>と称して人びとを偽っていることをあきらかにするため、・・・<核爆弾>と<核発電>とは同根のものであると意識するためである。」「<原発事故>は・・・<核による構造的な人災>との認識から<核災>と言っている。」と述べている。) 
 
 筆者は、この若松さんの認識に全面的に同意する。これまで「核を詠う」短歌作品を、原爆短歌、原発短歌を読み、その作品を詠んだ人々の思いと真実を、そして具体を受け止めようとして来た者として、同意するのである。そして同意するからには、筆者の生き様、現実との向かい合いを賭けなければならないと、この身の非力さを越えて思う。 
 
 福島の歌人たちの3・11からの歌を『福島短歌選集』によって読み続けていくのも、筆者のなすべきことの一つであると考えている。前回に続いて読んでいく。 
 
 
▼「ほうしゃのうには気をつけてください」と避難中の曾孫の文 
                     1首 菊田ミツキ 
 
▼地震津波に続きて襲う原発事故天災と人災のこれぞ三重苦 
 
シーベルトベクレル舌を噛みそうに呟きながら数値のメモとる 
 
特産の福島の桃が早々と市場のキャンセル受けたるを聞く 
 
目に見えぬ放射能に対峙形なき風評に格闘する日々つづく 
 
世界的フクシマなどは望まざり元の穏やかなる福島を恋う 
                     5首 北郷光子 
 
▼原発の汚染に心ゆるる日々今朝は青空から〜んと晴れて 
                    1首 木村セツ子 
 
▼放射能逃れんと車は南へと夜の国道ひた走り行く 
 
避難して花見の宴の中に座す他郷の桜花(あうくわ)まなこに寂し 
 
避難して都会の渦に住まふ日日故郷の山河胸に描きて 
 
「がんばっぺ」合唱のごとく湧く声がいわきの絆深めゆくなり 
 
家族とは大事の際の絆濃し八十路(やそじ)のわれにこころ優しも 
                    5首 草野六津子 
 
▼年々に百日紅の大樹を咲かせたる家人はいずこ原発の町 
 
原発に反対するも支持するも分け隔てなく放射能降る 
 
脱原発のビラを配れば東京の街に受け取る人の少なし 
 
巨大なる敵に挑める蟷螂の気をとり直しビラ配りする 
 
万象は放射線なる目の曇り除き透して真実は見ゆ 
                    5首 久住秀司 
 
▼放射能恐れて人ら逃げ出すか市の中心地静まり返る 
 
常磐線通はぬいわき駅前にタクシー屯す日なが一日 
                    2首 久保木信夫 
 
▼難なくに野分けも過ぎし稔り田に評価のきびしセシウムの価 
 
秋晴れに心のストレス投げ捨てぬ摘みし菊花の香につつまれつ 
                    2首 栗村住江 
 
▼停電の復旧なりて見るテレビ原発爆発に震へ止まざり 
 
放射能の無色の恐怖知りたるやうぐひす黙すか福島の里 
 
次々に顕にさるる新事実原発地元の無知なる我ら 
 
立ち並ぶブロッコリーに咲き盛る黄色の小花にヨウ素なほ降る 
                    4首 黒澤聖子 
 
▼日々に知る放射線量かはらねど心身ともに乱れつつ過ぐ 
 
わが庭をうづめて咲ける擬宝珠におそるる雨の打つ音たかし 
 
晴るる日の光を憂へ降る雨をうれふる日々の何時までつづく 
 
原発の事故の終息待ちをればわが庭の辺の柊の咲く 
                   4首 桑島久子 
 
▼山々に高き鉄塔そびえ立つ都へ送る原発のパワー 
                   1首 桑原和家 
 
▼線量値常に高きが街を国は云う「ただちには影響はない」 
 
吸う息に核混じるとも今に今を重ねる生の他われ知らず 
 
避難所を転々として投稿せし老いの歌あり 県越えしか絶ゆ 
 
表土一寸除去すれば線量値下がるという掘れば太きみみず出できぬ 
 
校庭の表土を削るショベルカー鉄きしませて厨に響く 
 
汚染土の田畑を埋めひまわりの一茎一花の万花陽に向く 
                   6首 小池和子 
 
▼思いっきり村の言葉でしゃべりたいと避難者は言う心の内を 
 
露地に咲くコスモスにまでセシウムは積りおらんか挿すをためらう 
 
放射能と余震を恐れ籠る日々にかたくりの花の盛りは過ぎぬ 
                    3首 小林綾子 
 
▼二ヶ月振り戻りたる庭は芝桜チューリップの花盛りおり 
 
一日に三回報ずるわが町の放射線量耳立てて聞く 
 
迷いつつ遅れて植えしじゃがいもにうす紫の花咲き揃う 
 
青き稲の日毎伸びゆく畔に立ち汚染なきことひたすら祈る 
                   4首 近内静子 
 
▼地震・津波はたまた原発事故起きて風評被害に揺るるわが里 
 
被災者の心柔らに包まむかベールのやうな一山ざくら 
                    2首 紺野 敬 
 
▼家籠るも二ヶ月余り思ひつきり五月の風に吹かれてみたい 
 
除染すと水圧強く窓を洗ふ何かやらねば居れぬこのごろ 
 
恐ろしきメルトダウンは事実なり誰も知りえずその経験もなく 
                    3首 紺野晴子 
 
▼活断層の上に築きし原発を砂上の楼閣と言はざるべしや 
 
神の掟破りて原発安全神話つくりし人々想定外を言ふ 
 
放射能の数値を日々に映ししに今日よりはたと流さずなりぬ 
 
雨降らば忽ち高くなる数値そを横ばひと言うはばからず言ふ 
 
広島に長崎に巡る八月か今は福島に核の雨降る 
 
三歳の幼の尿のセシウムを如何にせんとぞ重き現実 
 
稲の花咲きてさやげど新米の不安を語る老いの二人は 
 
福島がフクシマとなり時移り「ひまはり」咲きて夏ゆかむとす 
                    8首 紺野乃布子 
 
終熄を希ひつつ朝露の胡瓜トマトをていねいに摘む 
 
真つ新なものをけがすを汚染とふほんたうの空を染むる夕焼け 
 
過ぎ去りの時間 記憶をたどるとふ全県民の被曝の調査 
 
ふくしまの野山 田畑の除染など途方なきこととひそかに思ふ 
                    4首 紺野 節 
 
▼目に見えぬ放射能とのたたかいも他人事のように海はきらめく 
 
真夏日に窓開け放ち測りたるわが家の線量0・39 
 
こよもなく晴れたる秋の日和にも放射能とぶかわがふる里を 
                   3首 斎藤昭夫 
 
▼誘致反対の論拠なりし原子炉爆発、放射能汚染が現実となる 
 
原子炉を洗ひし水を海に捨てしか 魚の棲む海、漁する海に 
 
今にして次ぎて露るる「官」「業」の黒き絆が惨を招(よ)びたり 
 
東京の光源なりき「フクシマ」は「安心」「安全」呪文のままに 
 
想定外と業界は言へなすべきを怠りし故の当然の当然 
                    5首 斎藤英子 
 
▼目に見えぬ放射能の漂ふを知りて怖れる日々の続きぬ 
 
原発と余震に怯え暮らす日々季を違はずにつばめとび交ふ 
 
駈ける子もぶつかり合ふ子も居らずして放射能降りし町秋深まりぬ 
                    3首 斎藤フク子 
 
▼被曝してシートに囲い運ばるる作業員三人罪びとのごと 
 
放射能の何かを知らぬ牛は乳を葱は坊主つくりゆくなり 
 
子らの影何処にも見えぬ昼さがり街路樹のみがそよぎ止まざり 
 
野菜類もう送らなくていいと言う黙して二人馬鈴薯の草とる 
 
ふくしまの地を離れよと子の電話 真昼の庭に虫が鳴きいる 
 
汚染土の行き処なきこの郷土線量減りしなどと言うまじ 
                    6首 斎藤美和子 
 
▼大鳥よその美しき帆翔を見上げずに人は汚泥を運ぶ 
 
放射能汚染地域の春泥も汚泥も袋に詰められて臭う 
 
「セシウム」の元素記号など知らねどもその無味無色無臭おそろし 
 
中学生言う「あたしたちなんてもう内部被曝ばりばりだよねえ」 
 
放射性物質に汚染されている溝の雨水を猫が飲む鳥も飲む 
 
シャベルも軍手もマスクも持たずふるさとに背を向けて働く私は 
 
職を得し我は故郷に背を向けて絶滅危惧種の記事なども書く 
 
私の悪態も愚痴も引き受けてなお美しかったのだ故郷は 
                    8首 斎藤芳生 
 
 次回も引き続いて『福島県短歌選集』の作品を読む。 
 
(つづく) 


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