2012年12月29日14時37分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(82)福島の歌人たちか原発災の日々を詠った作品を読む(12) 『平成23年版 福島県短歌選集』(福島県歌人会編)から<7> 山崎芳彦

 前回、山口幸夫著『原発事故と放射能』(岩波ジュニア新書)について触れたが、今回も同著を読んで考えさせられ、これまで筆者も感じてきたことに、さらに刺激を受けるとともに頭の中を整理させられた内容について、福島歌人の作品を読む前に、記したい。 
 
 山口氏は同書の「はじめに」で、同書を刊行した目的について次のように書いている。 
「3・11東京電力福島第一原発事故のあと・・・シーベルトとかベクレルという言葉が飛び交い、どのくらいの汚染なら住み続けていいのか、判断に困っているという人たちが大勢います。食べ物にはどのように注意したらいいか、相談が絶えません。なにしろ放射線も放射能も目に見えず、感覚でわかりにくい、子どもたちの将来が心配だという保護者の方々の悩みは深刻です。本書は、そういう悩みを抱えている人たち、これから大人になっていく若い人たちに、できるだけ応えたいと思って書かれたものです。」 
 
「大学時代からの友人だった故高木仁三郎さんは2000年の秋に『原子力時代の末期症状による大事故の危険と結局は放射性廃棄物がたれ流しになっていくのではないかということに対する危惧の念は、今、先に逝ってしまう人間の心を最も悩ますものです』と書きのこしました(『原発事故はなぜ繰り返すのか』岩波新書より)。高木さんが最後まで気にかけていたことがおこってしまいました。」 
 
「福島の人たちの思いを訴えた言葉から、離れることができません。 
 皆さん、福島はとても美しいところです。/東に紺碧の太平洋を望む浜通り。/桃・梨・りんごと、くだものの宝庫、中通り。/猪苗代湖と磐梯山のまわりには/黄金色の稲穂が垂れる会津平野。/そのむこうを深い山々がふちどっています。/山は青く、水は清らかな私たちのふるさとです。(武藤類子『福島からあなたへ』大月書店より) 
しかし、福島のたくさんの人々が放射能に追われ、放射能に苦しんでい 
ます。」 
 
山口氏は、だからこの著書を『岩波ジュニア新書』から刊行し、72歳の私が、学ばされている。これまで読んできた福島県の歌人の作品に、山口さんが書いている状況がかさなる。ぜひ多くの人々にこの著書を読んでほしいと思う。(読まれた人も多いと思うが。) 
 
 ところで、この著書の最後の章(第四章 エネルギーについて知っておきたいこと)のなかで「ハード・パス社会からソフト・パス社会へ」という項がある。 
 1977年にアメリカの若い物理学者、エイモリー・ロビンスが『ソフト・エネルギー・バス―永続的平和への道』という著書を刊行して世界に大反響を巻き起こした、と山口氏は紹介している。その背景についても述べられているが、筆者はつくづく「何も知らないで時を費やしていた」自分を哀しいと思わされること、今回に限らす゛しばしばである。 
 
 ロビンスは、化石エネルギーに頼るエネルギー戦略を「ハード・エネルギー・パス」(パスとは道筋の意味)と呼び、これに対してエネルギー効率のいい技術と再生可能エネルギーを中心とする戦略を「ソフト・エネルギー・パス」と呼んだという。その特徴として‖斥曚簓や植物と言うような自然のエネルギーを使う、それは再生可能である、△海竜蚕僂話羆集権的ではなく、地域の特徴を生かしたものである。このエネルギーを利用するのに使う技術はハイテクではなく、ローテクである、いらしや社会でどの用途に使うかを基本に考える・・・ことを挙げている。 
 
 山口氏は「このエネルギーを中心に社会をつくっていくなら、それはソフトパス社会といえます。原子力は明らかにハードパス社会を代表するエネルギーです。実際問題として、ソフトパス社会ではこれまでの習慣や常識がくつがえされることになるでしょう。いわばこれまでの文明観からの転換です。」として、いくつかの具体例を挙げる。 
 
 \宿覆詫便性を第一とはしないで、出口である廃棄物から材料を考える。ダイオキシンなどの毒物や、大気・水・土壌汚染をもたらす原因となる材料は使わない。使用済みになったら自然にもどる材料をめざす。 
 
 ⊆匆颯轡好謄爐砲弔い討蓮中央集権的ではなく、地方分権化がのぞましい。情報は公開・透明性をむねとする。専門家重視ではなく、住民や市民が主役で社会のあり方を決めていく。 
 
 食料は、身土不二(しんどふじ)の考え方にもとづいて、自給自足、地産池消をめざす。世界各国からの輸入は最小限にとどめる。 
 
 ざ軌蕁Τ惺擦蓮管理のきびしい訓練重視の場から、多様な子どもたちの出会いの場へと転換する。人はそれぞれであって、画一的な指導はやめる。エリートへの道へ指導するのでなく、ジェネラリストを養成することをめざす。 
 
 イい里舛僚朶弔鯊膸にする。循環を切断する行為や物質をできるだけ避ける。化学物質にはとくに注意をはらう。 
 
 「ソフトパス社会をめざすなら、まだまだ、たくさん考えなければなりません。(「ソフトパスを考えるキーワーズ」を表で示している。 筆者注)ここにあげた内容を見ると、まるで夢物語のように思われるかもしれません。しかし一足飛びにでなくても、できるところから、できるところまで実行していかないと、子どもたちの将来は見通せなくなると思うのです。2011年3月におきた福島第一原発事故は、そういうことを示唆しているように思います。」 
 と山口氏は結んでいる。 
 
 東日本の復興・復旧についても、このような英知を集め、全国的な力を結集して進めることを可能にすることを考えると、やはり原発の維持を許さず、人々の基本的な権利や平和を危うくする政治を許さない、主権者である一人ひとりの結び合いと、諦めない、地べたを這うような行動、話し合いが、全国各地ですすめられることが、求められているのだと思う。自らの生きているこの場所で、まっとうに主権を自らが行使することしかない。選挙が終って主権行使が終りであるはずがない。 
 
 福島県歌人会の『福島県短歌選集』の作品を読み続ける。 
 
 
▼剥ぎ取りし表土いづくに置くべきや怪物の住むフクシマの土 
 
戸障子に目張りをしては放射能を恐れ暮らすと義妹(いもうと)の言ふ 
 
蜂と言ひ毛虫と言へどセシウムに汚れし草の露のみゐむ 
 
ヒロシマに降りしとふ黒い雨の手記思ひつつ庭木手入れする 
 
梅漬けは主婦の誇りと想ひゐしがセシウム恐れ今年は漬けず 
                    5首 坪池てい子 
 
▼フクシマで生れしは罪の無けれども今吾娘の子の背負う荷想う 
 
原発事故(げんぱつ)は一瞬にして十余年の有機の畑を汚染土にせり 
 
セシウムを無主物と言われ除染せし時間と疲労に呆然とせり 
 
雨音に花粉のごときセシウムの落ちゆく様にイメージの湧く 
 
葉の落ちる季節が怖いセシウムの舞い散る狭庭朝々に掃く 
 
郷庭のおけさ柿さわし線量を気にせず食めば有り難き美味 
                      6首 鴇 悦子 
 
▼遠花火と雷(らい)の閃く空(くう)の闇フクシマの闇に打ち震えおり 
 
放射能含みし土の乾きくる庭の小石の影さえ哀し 
                    2首 内藤喜久子 
 
▼森林浴叶わぬ被曝と云わるるも小鳥ら今日も無心に遊ぶ 
 
被曝という文明の利器の怖さなどしみじみ思う老の一日 
 
被曝なき大根ぞよと畑より抜きし一本を友より賜う 
 
人の世も地球も壊す世代かと被曝を視てはしみじみ想う 
                     4首 中川西好幸 
 
▼故郷の原発成りて夫が憂う短歌(うた)あり短歌(うた)が現実(うつつ)となりぬ 
 
追ひかくるが如き原発の放射能に避難してゆく古里びとら 
 
原発の風評しるく観光客めつきり減りて寒き福島 
 
夕暮れの芙蓉の花の真白きもセシウム吸ふか怪しく光る 
 
福島に子等も孫らも又曾孫(ひこ)も来るなと告げねばならぬ悔しさ 
 
この夏は福島の家に帰れぬと息子は招く那須にわれらを 
                     6首 波汐朝子 
 
▼プルサーマルの受け皿なるを磐城岩代(いわきいわしろ)岩もて囲えば安心ですか 
 
風ありてのうぜんかずらの揺るるたび炎のごときが移る危うさ 
 
原発の汚染ひたひた寄る波に笠女郎(かさめいつらめ)の恋も侵すか 
 
原発の事故の重たさ酪農の飯舘村にゆがむ牛の目(三・十一震災後) 
                     4首 波汐国芳 
 
▼放射能の値と風向き確認しヤッケとマスクにて買ひ出しに行く 
 
わが畑の蕗の薹さへ食へぬのか原発は春の喜び奪ふ 
                     2首 西田和子 
 
▼放射能なきかの如く蝶が舞う凌霄花のいま咲き盛る 
 
隣り家のその隣り家も避難して音なく過ぎる暑き日の暮れ 
                     2首 二瓶みや 
 
▼「第三の火」と刻む碑を兄と見つ四十年前東海村に 
 
「第三の火」を讃へし詩のありき小学の子ら朗唱したり 
 
「原子力の日」を年々に祝ひたる昭和の声の遠く遥けし 
 
姿なき核の反乱堪らへゐし自我を天空に海に放てり 
 
想定外は宇宙の輪廻わがめぐりいつでも星は流れゐる 
                    5首 根本 正 
 
▼上空をへりこぷたーの飛びては去り未だ原発の緊張続く 
 
放射能を怖れ帰省もあわただし墓参してすぐ孫は帰りぬ 
 
捕獲せし野生の猪よりセシウムが汚染の様を人の世に問ふ 
 
福島の名前を世界に知らしめて原発は未だ終息ならず 
                   4首 野口きよ子 
 
▼一縷なるのぞみに植えし馬鈴薯は花のさかりに汚染知らさる 
 
九州より風評見舞に甘夏柑佐賀原発も重くかさなる 
                    2首 芳賀晃子 
 
▼黙々と原発事故の収束に身を挺しをる人ら忘れじ 
                    1首 芳賀 傳 
 
▼「私はふつうの子ども産めますか」見えぬ被曝に少女は叫ぶ 
                     1首 芳賀ナツ 
 
▼フクシマと片仮名になりヒロシマと比較されをり我が故郷は 
 
ひと山を越せば原発被災地で死にたる町が嗚呼(ああ)延々と 
 
信号も店の光も差して来ぬ原発周囲の町は地獄だ 
 
人ひとり犬猫さへもゐぬ町を思って下さい日本の土地に 
 
福島の米はベクレル低けれど風評被害でお先真つ暗 
 
たは易く三十年といふなかれ原発事故の終息は夢 
                     6首 橋田則彦 
 
▼いつの日か事故起こらむと過ぎ来しを原発反対に名をつらねたり 
 
わが余生託して拓きしユートピア川内の地を被曝が閉ざす 
 
花吹雪にまぎれて汚染の花も舞ふ故里楢葉訪ふ術もなし 
 
亡き夫の生家もずんずん遠のきて原発事故に人住まぬ町 
 
放射能降り積りたる故里ぞひたひた寄する吾が思ひなり 
 
セシウムに脅ゆる心に灯を入れて夜ごと真白き夕顔の花 
 
原発の事故ゆゑ病みて点滴につながる妹は捕らはれ人ぞ 
 
原発への怒りを向けくる妹をさとさむとして余る吾なり 
 
放射能影ひそめてよ被災地のかの里山はわたしの宝 
                    9首 橋本はつ代 
 
▼知力なる原発なれど異常事が万全ならず苦しみ残す 
 
原発の現地対応に憂心す基本の基たる配管漏れとは 
                    2首 原 高義 
 
▼放射能に追われて二十キロ圏県の内外に散りゆけにけり 
 
目に見えぬゆえに不安の増幅すつねに放射能空に満ちるを 
 
寂しげに繋ぎおかれしわが犬を離してりぬ生きのびろよと 
 
防護服に線量計つけ自宅へと異様な風体人らもわれも 
 
双葉での生活思い出さない日はないと離散せし友の手紙は 
                    5首 半谷八重子 
 
▼青空にレンズ雲浮く昼下りあすは放射能の雨の降るやも 
 
哀しみの上澄み掬ひて詠む歌の虚しくなりてペンを置きたり 
                     2首 平野明子 
 
▼庭隅に石楠花朱くこぞり咲くセシウムの雨降りて汚しぬ 
 
放射能汚染もしばし忘れたり郭公のこゑ聞き緊張ゆるむ 
                    2首 平埜柳太郎 
 
▼放射線の汚染の中に生まれ来て女神のような糸トンボ飛ぶ 
 
放射能のがれ実りし新米の艶を目にして胸撫で下ろす 
                     2首 深谷絹子 
 
▼葬ひて間のなき母をそのままに放射能さけ孫と逃るる 
 
校庭に砂ぼこり吸い野球する孫の被曝を案じつつをり 
 
ひまはりは期待集めて咲きゐるも除染効果のあると思へず 
 
秋立ちてブルーベリーの実りしが汚染憂ひて摘むをためらふ 
 
わが畑の土壌測定の結果出で基準値内にも喜びのなし 
 
子供らの未来に責任もてるのか表土除染の処理の進まず 
 
原発より四十五キロのわが家に気持ち安らぐことなく過ごす 
                    7首 古川 棋 
 
 次回も、福島県の歌人の作品を読む 
 
                     (つづく) 


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