2012年12月30日17時53分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201212301753520
【演歌シリーズ】(27) エロスが香る由紀さおりの歌声 �機醜皺察淵魯ぅ痢璽函砲隆映宗宗 〆監c桧譟�
由紀さおりを歌手として深く心に刻んだのは、1992年(平4)第43回<NHK紅白歌合戦>においてであった。紅組のトリで歌った『赤とんぼ』(詩・三木露風 曲・山田耕筰)は、凄かった。この年は、「地球環境年」。だからその棹尾を童謡のこの曲で飾ったのであろう。しかし、企画者の意図に反し、由紀さおりの『赤とんぼ』は、田園を染める抒情といった感傷を吹き飛ばし、寂寥感を漂わせた。
◆『赤とんぼ』の凄味
その時の印象を拙著『演歌の達人 高音(ハイノート)の哀しみ』(智書房)でつぎのように書いた。
「夕焼け 小焼の/赤とんぼ
いきなり超高音が空気を切り裂き、血の涙を流す物語へと誘った。そう想わせるほど、由紀さおりの高い透明な声は、戦慄的であった」子守唄のほとんどが、子守娘の怨み節であることは、よく知られている。「極貧の農家に生まれ、十歳やそこらで子守女として預けられ、わずかな食べものしか与えられず、朝は早くから夜遅くまでこき使われ、背で泣き止まぬ赤児の泣き声に心がズタズタに裂かれる」幼児の「負われて 見た」秋の夕景などではなく、幼児を背負った子守女の哀切きわまりない想いであり、不条理への怨み……。
この『赤とんぼ』を聴くまで、由紀さおりについては、ずい分美しい高い声を持った歌手だなあ、というぐらいにしか思っていなかった。これを機に、改めてこれまでの彼女の持ち歌に耳を傾け、思い違いに気付いたのである。単なる高透明音の声ではなかった。
◆作曲家いずみたくとの出会い
いずみたくは、人気の作曲家である。岩谷時子と『恋の季節』(歌・ピンキーとキラーズ)『夜明けの歌』(歌・岸洋子)、永六輔と『女ひとり』(歌・デューク・エーセス)『見上げてごらん夜の星を』(歌・坂本九)とヒット曲目白押しだ。そして、山上路夫との『世界は二人のために』(歌・佐良直美)は、かつて結婚式の歌の定番であった。いずみ山上コンビは、CMソングも量産していた。その多くを安田章子(由紀さおりの本名)に歌わせた。彼女は、童謡歌手出で、譜面の読解力も抜群であるばかりでなく、濁りのない澄んだ声が企業のイメージ・アップにつながったと、いずみは、折に触れて語っている。
1968年(昭43)TBSラジオ『夜のバラード』のテーマ曲依頼が、いずみたくにある。詩の朗読番組で、声を楽器がわりにした旋律を書いた。由紀さおりの歌声がなければ思い付かなかったアイデアであろう。反響が大きくレコード化されることになる。『夜明けのスキャット』の原曲と言われている。このハミングだけの曲に、山上路夫が詩を付けた。一番は、スキャット、二番に濃厚な愛のイメージを塗り込めた。愛し合うとき、「時のない 世界に/二人は 行くの/夜はながれず 星も消えない/愛の唄 ひびくだけ」
由紀さおりは、詩に「宇宙の広がりを感じ」その愛の喜びを一番のスキャットに忍ばせた。大学闘争が全国に燎原の火のごとく広がったこの年、『夜明けのスキャット』は、大ヒット。1969年3月、由紀さおり歌謡曲歌手としてのデビューでもあった。
◆『夜明けのスキャット』1969・2011
2011年、由紀さおりの歌声が世界的に大ブレーク。CD『由紀さおり&ピンク・マルティーニ 1969』が世界約30か国で発売、配信され、欧米中心に大ヒット。それも日本語で歌われた歌謡曲がなのだ。このCDに収められたのは、69年に話題になった歌謡曲が中心。いしだあゆみの『ブルー・ライト・ヨコハマ』(詩・橋本淳 曲・筒美京平)ヒデとロザンナの『真夜中のボサ・ノバ』(詩・橋本 曲・筒美)佐良直美の『いいじゃないの幸せならば』(詩・岩谷 曲・いずみ)黛ジュンの『夕月』(詩・なかにし礼 曲・三木たかし)兼田みえ子の『私もあなたと泣いていい?』(詩・曲・三沢郷)由紀の『季節の足音』(詩・秋元康 曲・羽場仁志)と『夜明けのスキャット』それに米国のフォーク・グループ、ピーター・ポール&マリーの『パフ』など12曲である。フランシス・レイの映画主題歌『さらば夏の日』だけが仏語で歌われている。ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでのボサノバ『マシュ・ケ・ナダ』では、日本語で歌ったのに会場を総立ちさせたと伝えられている。いずれの曲もメロディ・ラインが柔らかく美しい。選曲したのは、由紀と共演した米国のフル・バンド<ピンク・マルティーニ>のリーダーでピアニストのトーマス・M・ローダーデールである。
◆ルールルル『夜明けのスキャット』のエロス
このCDに収められた『夜明けのスキャット』は、実にエロティックである。夏の夜明けなのであろう。窓を開け熱(ほて)った肉体(からだ)を微風に委ね、たがいに求めあった密度の濃い、味わい豊かな愛の時間(とき)の余韻……、一番のスキャットに漂っている。さらに、成熟した女の喜びを二番のエンディング「時計はとまるの」のとまーるーのーと情で濡れた超高音で吹きあげている。
1969年のデビュー時の『夜明けのスキャット』は、同じ愛の余韻であるが、2011年に比して軽やかなのである。若い二人が、愛を確かめ合い、一番のスキャットで、そのうきうきした肉体の記憶をうきうきと表現している。二番の「時計はとまるの」のとまーるーのーも二人の愛の確かさをしっかり抱きしめ楽しげなのだ。今回は、由紀さおりの高音の魅力を紹介したが、次回は、彼女の低音の凄味についても語る。(敬称略)
(つづく)
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。