2013年01月06日14時20分掲載  無料記事
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文化

【演歌シリーズ】(30)  “ひばり映画”と昭和銀幕の華  ―山田五十鈴の妖艶―  佐藤禀一

 2012年8月に逝った私の大好きな女優津島恵子出演の名作『お茶漬けの味』(昭27 監・小津安二郎 出・佐分利信 鶴田浩二 笠智衆 木暮実千代 淡島千景 三宅邦子)『ひめゆりの塔』(昭28 監・今井正 出・岡田英次 信欣三 殿山泰司 香川京子)を観たのは、後年フィルムセンターか名画座においてである。でも、大曾根辰夫(辰保)監督の『魔像』(昭27)は、リアル・タイムで観ている。妻が美しすぎ周囲から妬まれ、そのからみで人を斬ってしまうバンツマこと阪東妻三郎。美貌の妻を演じたのが津島恵子なのだ。静かな美しさを醸し出していた。でも、心がときめいたのは、彼女の入浴シーンだ。湯気の立ち昇る檜風呂に浸る津島恵子……。 
 
◆『鞍馬天狗 角兵衛獅子』の山田五十鈴 
 
 タイトルからして子どもが観るような映画ではあるまい。では、なんで観たのか。津島恵子が出ていたからである。加えて、この前年『鞍馬天狗 角兵衛獅子』『同 鞍馬の火祭り』を撮った監督の作品でもあったからだ。27年の『同 天狗廻状』の『鞍馬天狗』大曾根監督三部作は、わが少年の心を捉えてはなさなかった。ひばりちゃんの杉作少年も颯爽として恰好良かった。“ひばり杉作”初登場シーンは、おなかの前にくくられた小太鼓をたたきながら『角兵衛獅子の唄』(詩・西条八十 曲・万城目(まんじょうめ)正)をうたう場面だ。大道で杉作の歌に合わせて相棒がとんぼ返りをしている。 
 
 打って変わって二人の角兵衛獅子が、しょんぼりと寺の山門で雨宿りをしている。相棒が泣き、杉作も途方に暮れた顔をしている。そこに、住職を伴った鞍馬天狗が登場。稼いだ金を無くし、帰ったら親方に折檻されると聞き、天狗は、ピカピカの一分銀を恵む。それが裏目に出て、親方(加藤嘉)は、こんな大金どうしたのか、泥棒でもしたのかとぶたれてしまう。この一連のシーンを通じ、天狗の人情味あふれる人物像を、杉作の我慢強く仲間思いの少年であることを、角兵衛獅子たちの虐げられた厳しい日常を描いた。やがて、天狗によって獅子たちは、解放される。杉作だけは、天狗のそばにおかれる。 
 
 “鞍馬天狗”は、大佛次郎によって創作された勤皇倒幕派の神出鬼没の温厚な浪人剣士だ。倒幕派弾圧の急先鋒“新撰組”局長近藤勇(月形龍之介)との対決が見せ場になっている。この黒紋付の着流し天狗頭巾の鞍馬天狗を演じたのは、ご存知アラカンこと嵐寛寿郎である。 
 
 主役は、言うまでもなくアラカン天狗なのだが、ひばり杉作少年もたびたび天狗の危機を救って、天狗に劣らぬ八面六臂の大活躍なのだ。ある時は、牢に閉じ込められ水責めされ命危い天狗を、ある時は、短銃で狙い撃たれようとしている天狗を……。美空ひばりも主役と言えるのだ。衆目も“ひばり映画”の一本に数えている。 
 
 山田五十鈴もまた、主役の一人に挙げられよう。思い人を天狗に殺されたと勘違いをして、天狗の命を狙う礫(つぶて)のお喜代を演じた。やがて、その錯覚に気付き、天狗に心を寄せていく。その艶っぽいこと。性に目覚めた頃の13歳のガキにとって、その妖しい色気は、目の毒であった。アラカン天狗やひばり杉作より五十鈴お喜代に目を奪われてしまったのだ。 
 
 大曾根監督も山田五十鈴に心を奪われたと睨んでいる。それが証拠に、五十鈴お喜代の大写しをやたらに撮りまくっているのだ。 
私は、10代前半で“ひばり映画”によって、白に象徴される清らかなイメージの女優津島恵子に、蕩ける目に象徴される妖艶な女を演じた女優山田五十鈴に出会う。そしてここでは、詳しくは語らないが、10代後半で“黒沢(明)映画”の『七人の侍』(昭29)でエロティックな村娘を演じた女優津島恵子に、『蜘蛛巣城(くものすじょう)』(昭32)で人間の感情などカケラも感じられない妖怪のような女を演じた女優山田五十鈴に出会うのである。平成24年7、8月と相次いで身罷(みまか)った、昭和の銀幕の華山田五十鈴と津島恵子が、奇しくも“ひばり映画”と“黒沢映画”で役者としての存在感を印象づけたのである。 
 
 昭和という映画黄金時代を語るため、今回は、西暦年代を使わずあえて年号で表記した。それにしても、平成24年は、昭和を彩った映画人がつぎつぎとこの世を去った年でもあった。氏名と作品名だけを記してご冥福をお祈りする。 
 
[映画監督]堀川弘通『あすなろ物語』『裸の大将』『黒い画集』、新藤兼人『第五福竜丸』『裸の島』『本能』、若松孝二『胎児が密猟する時』『犯された白衣』『十七歳の風景』『実録・連合赤軍』『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』、[脚本]藤本義一『駅前シリーズ』『悪名シリーズ』、[音楽監督]林光『裸の島』他新藤監督主要作品、[俳優]二谷英明『暗黒街の静かな男』愛称ダンプガイで日活のアクション俳優。三崎千恵子『男はつらいよ』全48作おばちゃん役。淡島千景『麦秋』『カルメン純情す』『夫婦善哉』『駅前シリーズ』。中原早苗『ギターを持った渡り鳥』。馬渕晴子『祭りの準備』『妻は告白する』女優ヌードのはしり、反戦闘士でもあった。遠藤太津朗『仁義なき戦い』東映任侠、実録路線のアクの強い悪役。桜井センリ、山田洋次作品などで味のある演技。安岡力也『タンポポ』ユーモラスな暴力表現をした。大滝秀治『お葬式』『マルサの女』『あなたへ』名脇役。そして、小沢昭一『「エロ事師たち」より 人類学入門』など今村昌平、川島雄三作品に欠かせない名脇役、大道芸・放浪芸・歌謡曲の研究者としても知られていた。合掌。(敬称略) 


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