2013年02月17日12時17分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(89)『現代万葉集2012年刊』(日本歌人クラブ編)から原発短歌を読む(1) 山崎芳彦

 日本歌人クラブは、約5000人の歌人が加入する歌壇最大の超結社団体だが、2000年(平成12年)から毎年度、日本歌人クラブアンソロジー『現代万葉集』を刊行している。その2012年版は2012年10月25日に出版され、全国の1808名の歌人が5424首を出詠している。この2012年版『現代万葉集』について、現在同クラブの会長を務めている歌人・秋葉四郎氏は、「はじめに」で、「昨年は、東日本大震災という国難に遭い、更に南紀地方に大水害があった。そのほかにもさまざまな事件があり、多くの国民が心を痛めた。・・・現代短歌アンソロジー今年度版『現代万葉集』は、そんな社会を背景にした、現代日本の歌人たちの作品がここに集成されたことになる。」と記しているが、福島第一原発事故にかかわっての作品が多く寄せられ、収録されていることが、2012年版『現代万葉集』の大きな特徴となっていると言ってもいい。 
 
 原発事故、放射能による被害は、直接、間接を問わず人びとの生命、健康、生活、感情、社会観に深刻な影響を及ぼし続けて、そのなかから多くの短歌作品が多彩に生まれていることは、特筆しなければならないと思う。「あとがき」では、「とくに今年は、昨年三月十一日の東日本大震災を詠う作品が数多く寄せられ、それらを始めとして、われわれの時代を次に引き継ぐアンソロジーとして、歴史的にもきわめて有意義かつ貴重なものとなりました。」と記している。 
 
 1945年8月の広島・長崎への原爆投下による悲惨な実態と原爆の本質と反人間性を多くの歌人が詠ったのを引き継いで、核のもたらす災厄の苛烈・深刻さをふたたび、この国の歌人は短歌作品として刻まなければならない課題を、原発事故によって負ったのである。そして、原発がある限り生み出される核廃棄物の反人間的な影響を改めて知った以上、原子力核エネルギー依存からの脱却の道筋を早急に歩みださなければならない社会の中で生きる人間としての自覚を持ち続けることを、詠う者としてどう受け止めるか、やはり深い課題のひとつではないだろうか。 
 これから読んでいく『現代万葉集』に収載された原発にかかわる作品(筆者の読みによる)を通して、歌人が原子力、原発についてどのように考え、受け止め、短歌作品として紡いでいるかを考えていきたい。 
 
 それにしても、福島原発事故以来のこの国の状況は、まことに惨憺たるものであると思わずにはいられない。原発立地地域における被災の深刻な状況、人びとの生活破壊の無残さはもとより、放射能の広範な地域への拡散による生活、健康、生命に対する影響は、将来にわたってのものである。まさに原発、核放射能の反人間の本質を改めて示しているが、それをもたらした東京電力、原発を推進してきた政・官・財の無責任な被災者対策は目に余るものがある。それでもなお、原発を維持し稼働させようとする政治、経済にかかわる権力の動きが進んでいるのは、許し難い。 
 
いまも、被災地における放射能「除染」にかかわっての「手抜き」などといって済ませることのできない犯罪的な作業の実態、原発作業員の被曝検査にかかわる許し難い「被曝隠し」問題、あるいは国会事故調に対する東京電力の調査妨害・・・次々に明るみに出てくる事態は、原発がどのような人間が構成する企業、組織、機関によって運営されてきたのかを露わにしている。「原子力ムラ」の本質がいかに反人間的、反社会的なものであるかがわかる。「人を人と思わない」という表現があるが、そのような政財官が支配権力をふるってきたし、ふるっていること、それを許してしまっている、いや許しているわけではないがどう変えていけるのかがつかみきれないでいる、筆者もその一人だが、人びとの思いを、力にしていく営為を積み重ねなければならないと、強く思う。 
 
 『現代万葉集』は、作品をー然・四季動物植物だ験茘セ纏ΠΑξЮ枯敬損爿┣搬沖教育・スポーツ旅戦争都市・風土災害・環境・科学芸術・文化・宗教、の項目別にまとめているが、そのなかから原発にかかわる作品を読んでいきたい。 
 
 
  ◇四 季◇ 
 
▼汚染はこべる風にかあらむマグノリアひらひらさ風のあそびすぎゆく 
                   1首 大山末子(埼玉) 
 
▼去年とちがうさくら花びら掌にうけてこころの疼き胸をゆらせり 
                  1首 大和久浪子(東京) 
 
▼原発の事故の収束まだなるも植田増えゆく若葉の風に 
                   1首 栗田要一(茨城) 
 
▼原発の火を封じ得ずスミレ咲きむらさきにほふ水の惑星 
                    1首 田上信子 
 
▼原発の見えざる魔力絞めつける住民なべて身をさらすのみ 
                    1首 田辺フミ子 
 
▼地震にゆれ津波に呑まれ放射能あびたる列島春なおとおし 
                   1首 白子れい(京都) 
 
▼椎茸は誰にも採られず乾きをり放射能に汚染と報道されし日 
                   1首 森川和代(埼玉) 
 
▼被曝せし子らあまたとぞ傷負ふるなべてを包み東京は雨 
                  1首 君山宇多子(静岡) 
 
▼予報図はすでに致死量を超えてゐん晴れわたりたる日本列島 
                   1首 佐田公子(埼玉) 
 
▼被災びと假りの住居に馴染めるやつやつやと軒に玉葱吊りて 
                  1首 志水美紀子(東京) 
 
▼降り来るは放射能雨か酸性雨かなど思ひつつ濡れて帰りぬ 
                  1首 横山代枝乃(香川) 
 
▼ふくしまの野山 田畑の除染など途方なきこととひそかに想ふ 
                  1首 紺野 節(福島) 
 
▼セシウム等関係なしと彼岸花刈田の畦を赫く染めたり 
                   1首 中野惠子(茨城) 
 
 
   ◇動 物◇ 
 
▼数か月被曝十キロ圏内をさ迷ひし犬福ちやんと呼ぶ 
                   1首 太宰理恵(千葉) 
 
▼放射能を知る由もなき乳牛はつぶらな瞳に飼主見上ぐ 
                 1首 辰巳日出子(神奈川) 
 
 
   ◇植 物◇ 
 
▼日ごと夜ごと放射線量見つめいる庭の柿の木実のふくれ行く 
                  1首 佐藤千代子(東京) 
 
▼のらぼう菜またの名かき菜幾度も水に潜らせ放射能流す 
                  1首 杉山由枝(茨城) 
 
 
   ◇生 活◇ 
 
▼目に見えぬ悪魔となれる放射能に追はるる人の悲しみ思ふ 
                   1首 相山友江(茨城) 
 
▼風評と聞きつつ購ふ福島産朝日のやうなトマトを五つ 
                1首 荒川とよ子(神奈川) 
 
▼東北の鮮魚加工品減るスーパーを覗くのみに去る復興遠し 
                 1首 池内五十鈴(愛媛) 
 
▼フクシマへ市議会議員の妻はゆき只の男はただ歌を詠む 
                  1首 石川洋一(神奈川) 
 
▼高原のうまい空気を吸いにゆく飯舘村はわれのふるさと 
 
青春の桜隧道(とんねる) 飯舘村は日本一を目指すその先 
 
おしきせの春をわらいぬめざめたる東北人は飯舘村は 
                   3首 伊藤誠二(宮城) 
 
▼原発の必要説きたる亡夫なりき地震の惨状をいかに見るらむ 
                   1首 岡田松枝(東京) 
 
▼笑まふまま土にしづけき紅椿放射線禍の消ゆる日は何時 
                   1首 久保田壽子 
 
▼原発も地震も津波も乗り越えて生きると翁は大漁旗守る 
                 1首 近藤けい子(神奈川) 
 
▼原発の危機終わらない不安さを一抹残し田植え済みゆく 
                   1首 清水素子(東京) 
 
▼負けそうで泣けそうだからと唄うから朝から涙が零れてしまう 
                   1首 関 秀子(福島) 
 
▼ぴかぴかにコンバイン磨き知らせ待つあきたこまちのセシウム数値を 
                   1首 竹村厚子(秋田) 
 
▼余震またフクシマ被曝に落ち着かず過ごしし四月雪まだ残る 
                  1首 富樫榮太郎(山形) 
 
▼原発事故の福島の人ら思ひつつ這ひつくばひて蓬を摘みぬ 
                  1首 中井ゆう子(群馬) 
 
▼福島の桃食ぶるかと念押して隣人が故郷の桃を持ち来る 
                  1首 長岡弘子(神奈川) 
 
▼地図の上(へ)に放射能地域は灯り色 かがやける闇はひろがりてゆく 
                  1首 藤原絹代(神奈川) 
 
▼扇風機ひと夏のほこり溜まりをりどこにとどまるや放射能物質 
                  1首 古堅喜代子(沖縄) 
 
▼放射能に汚染されたるキャベツ残し農家自死せる記事の小さし 
                   1首 宮里勝子(島根) 
 
▼シーベルト、ベクレル、セシウムなどなどと卒寿の脳に日毎あたらし 
                  1首 宮田チエ子(長崎) 
 
 
  ◇仕 事◇ 
 
▼此の年の稲の姿は良しと言ふ原発事故に遅れ植ゑしも 
 
早場米会津に穫れしと聞きたるもセシウムを疑ふ声を耳にす 
 
わが稲を刈るも彼岸の後と言ふセシウム有りや悲しみ出づる 
                   3首 木下 信(福島) 
 
 
◇生老病死◇ 
 
▼想定外の原発事故といふ弁明水菜バサバサ洗ひて悲し 
                   1首 大内典子(茨城) 
 
▼原爆にあひにし夫を思ひつつ寡婦の道をひとすじにすぐ 
                   1首 落合信子(東京) 
 
 
  ◇家 族◇ 
▼放射線に汚れし大気に呼吸する赤子を待ちいる試練の始め 
                  1首 新井悦子(埼玉) 
 
▼ぼろぼろの列島を君らに渡すこと悲しむ胸にみどりごを抱く 
                  1首 五十嵐順子(千葉) 
 
▼「セシウムを好きなキノコは食べちやだめ」回らぬ舌で二歳児が言ふ 
                   1首 池田弓子(千葉) 
 
▼ふくらめるカードケースに今日もまたいただきました診察券を 
                   1首 一条民子(福島) 
 
▼父逝きて五十年目のふるさとが原発事故に曝されている 
 
被災地へと自衛官の乗るトラックを追い越して行く父の法要 
 
福島の祖父の墓前に何祈る吾子はふかぶか頭(こうべ)を垂れて 
                 3首 小木曽幸子(神奈川) 
 
  ◇旅◇ 
 
▼音を立てず降り継ぎいるや放射線霧氷の林は白く輝く 
 
放射線降る浄土平に息吸えば肺はカチンと音を立てたり 
                   2首 近藤栄昭(福島) 
 
 
  ◇社 会◇ 
 
▼“大震災”に文明の利器も威厳なく原発事故に喘ぎぬ日本 
                   1首 伊芸佳子(沖縄) 
 
▼わたし原子力発電所今まで何十年も日本の人のため尽くしてきたわ 
 
わたしはいったいどういう死に方をするのかしら今は見当がつかないわ 
                   2首 梅澤鳳舞(埼玉) 
 
▼若狭湾の原発は皆テポドンの射程距離なるは想定外か 
 
原発よりありあまる交付金に箱物の並ぶ町多し若狭湾には 
                   2首 勝木四郎(福井) 
 
▼原爆と原発に幾代苦しむや熱き列島に夾竹桃盛る 
                   1首 古角明子(愛媛) 
 
▼比類なき原子力技術もつと言え地震予測まだ神の領域 
 
効率が核のタブーを消ししとう村上春樹に深く頷く 
 
燃料の残滓の始末すら決めず始めし原発 工学以前ぞ 
                  3首 陣内直樹(神奈川) 
 
▼目に見えず音なき香なき原子炉の知らぬこと多し畏れつのり来 
                   1首 早川政子(広島) 
 
▼「時」が病み人間が病み土地が病む病み病みてあるかわれらが世紀 
                   1首 平山良明(沖縄) 
 
 
 次回も引き続いて2012年版『現代万葉集』から、原発短歌を読んでいく。 
                      (つづく) 


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