2013年02月24日13時06分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(91)『現代万葉集 2012年版』(日本歌人クラブ編)から原発短歌を読む(3)  山崎芳彦

 アベノミクス効果を持ち上げる空気が、危険域に入っている。円安、株高、デフレ誘導、日米同盟強化などがマスコミではやされ、つれて原発、沖縄、社会福祉の切り下げ、格差の増幅などについてのまともな検証、事実にもとづく評価、地を這うようにして続けられている社会の変革への動きなどは、軽視され、社会の崩壊現象ともいうべきさまざまな人間の尊厳を毀損する事件の続発などについてその深部の闇を抉るような報道は衰えている。 
 
 いま聞こえているのは安倍訪米、オバマとの会談について、テレビの出演者の議員やゲストコメンテーターのよいしょ報道の声である。TPPへの交渉参加の条件作り、沖縄の普天間基地の県内移設、尖閣問題での日米安保体制の強調などの声である。東日本大震災・原発問題については、さらりと流す政治家やコメンテーターの声が時に聞こえてくる。いままでの繰り返しで、本気になって取り組むための具体策には入らない。 
 
 この現状に、しかし、わたしたちは絶望しているわけにはいかない。安倍政権が、現状のような、無責任なお囃子に踊り続けていくわけにはいかないことは、いまこの国、社会、人々が直面している課題を思えば明白である。行く先に憲法改悪、自衛隊の自衛群への改組は名称変更に留まるものであるわけでなく海外での武力行使の道につながるものであること、農業の株式会社化による地方支配の一層の強化と大企業支援、原発の維持と海外への輸出促進、デフレ促進下の雇用条件の一層の劣悪化、収入の低どまり、国と地方公務員の人員削減と賃金カットを牽引車に社会化していく労働条件の引き下げへの動き、このような動きがいま進んでいると思えば、これと真向かって立ちはだかる力の構築に、腰を据えなければならないだろう。 
 
 原発問題に関していえば、たとえばドイツではすでに一昨年、2011年5月30日には、福島原発事故の直後に設立された「ドイツの安全なエネルギー供給のための倫理委員会」が、メルケル首相に対して「原発の段階的廃止措置を講じる必要がある。子孫に『負の遺産』をおしつけてはならない。』」とする提言を行い、ドイツのエネルギー政策の転換、原発エネルギー依存からの脱却を提起した。そして政府はただちに原子炉8基を即時停止し、残る18基を2015年から22年までの間に停止すると発表したのであった。 
 
 福島原発事故を教訓として、ドイツは国のエネルギー政策の大転換に踏み出したのである。倫理委員会の報告は、 
「・・・ドイツが原子力エネルギー廃止に成功するか否かを国際社会は注視している。・・・ドイツ社会はすでに原子力エネルギーを必要としない未来へと着実に歩みを進めている。これらの動きは支援されなければならない。ドイツ経済は高品質の製品製造を可能にする創造力と強さを持つ。多くの企業は持続可能な経済を追求する方向でビジネスを展開している。原子力エネルギーの段階的廃止は多くのビジネスチャンスを生み出す。ドイツの科学技術に、エネルギー移行のために革新的で効率的な解決をもたらすことを引きつづき期待できる・・・」(『4つの『原発事故調』を比較・再検証する』−日本科学技術ジャーナリスト会議著 134-135ページから引用) 
という内容であるが、福島原発事故の当事国である日本の対応との相違はきわめて明白であり、これは、政治、経済、社会のありようを写すものではないだろうか。 
 第二次世界大戦後の、戦争責任に関する日本とドイツの根本的な差違を連想する。 
 
 『4つの『原発事故調』を比較検討する』の「13のなぜ?」の最後の項の「なぜ4報告書には『倫理』の視点が欠けているのか?」(小出五郎氏執筆)では、 
「事故は生命、健康に脅威を与えただけではない。環境汚染と国土の喪失、人びとの生業、暮らし、社会、文化の破壊など『フクシマ』は広く、深く、長く、果てしなく影響し続ける。工学的な評価はできないし、してはいけない『負の遺産』である。」 
「『民意』の過半が原発ゼロを求めているのは、『負の遺産』を軽視、あるいは無視し、脱原発は言葉だけの政治に対する異議申し立てである。『してはいけない』というのは倫理の問題である。『してはいけない』ことに変ることなく固執する原子力ムラにたいして、その倫理観の欠落を突いているのである。」と冒頭で述べ、ドイツの原子力エネルギー廃止について言及している。 
 
 このような、たとえばドイツの国としての対応に、安倍政権が自ら学ぼうとすることは考えられない。だとすれば、この国の人びとが、自らの置かれている条件、これまで築いてきた力を基盤に、現状を変革するために、なしうることをなし、それをつながった力として構築して行くことが、民意を打ち固め、私たちの倫理を確立する、それを持ってアベノミクスの本質を切り裂くメスとしていかなければならないと考える。 
 
 いま読んでいる短歌作品は人びとがその思い、怒りや苦悩、今とこれからを考える力によって生み出されている。貴重な、民意のあらわれであろう。そのような思いで、読み継ぎたい。 
 
 
 ◇東日本大震災◆ 
▼人住まぬ浪江の町に餌を求め主(あるじ)さがして牛らさまよふ 
 
水素爆発ありしも知らず二時間余給水受くる列に並びき 
 
汚染なき万葉の旅を想ひけり瓦礫に埋もるる真野の草原(かやはら) 
                   3首 大槻 弘(福島) 
 
▼低くゆく雲に不穏のちからあり向日葵の立つ場所はもう影 
                   1首 大辻隆弘(三重) 
 
▼大津波に原子炉が壊れ放射能世界にばら撒く日本となれり 
                   1首 大津留敬(福岡) 
 
▼メルトダウン・ベントミスとふ語のさむし原爆に哭きし国の民われ 
 
人の手に汚れしテラを見捨てむと宙(そら)ゆく神か新燃岳(しんもえ)の噴く 
                  2首 大渡キミコ(大分) 
 
▼病葉を時折り散らす庭の木々風にのりくる見えぬセシウム 
 
セシウムを含める風雨うけし庭蜜柑の木の枝に熟れし玉実よ 
 
戦中をくぐり抜けたる友垣と此度は震災の逃げ場に惑ふ 
                   3首 大波綾子(福島) 
 
▼原発に関はることば覚えつつその単純を切に懼るる 
                  1首 大野ミツエ(東京) 
 
▼人間は進化の森に迷ひ込み右往左往すいましばらくは 
 
人間の知恵と欲との連鎖にて青い地球を砂漠とするな 
 
目に見えぬものに潜める魔の力畏れつつしむ見えざるものよ 
                   3首 大町晨策(栃木) 
 
▼地震(なゐ)過ぎて響き激しく襲い来る巨人の足音(おと)か落日の街 
 
夕焼の異様に赤き帰り道魑魅魍魎(ちみもうりょう)が追い抜いて行く 
                   2首 岡田謙司(埼玉) 
 
▼校庭の表土も汚染されている計り知れざる原発の乱 
                 1首 岡田新八郎(和歌山) 
 
▼世界地図に小さき国土の日本の原発事故は世界をゆさぶる 
 
幸せの象徴のようなオール電化疑ふことのなかりし日日は 
 
営みの火は消されぬ気仙沼に季節違はず秋刀魚の揚がる 
                   3首 岡田通子(愛知) 
 
▼除夜の鐘の余韻きえたり震災も原発事故もなかりしごとく 
                 1首 岡田令子(やまぐち) 
 
▼進みたる科学の前に平伏のコラム見るごと原発の事故 
 
シーベルト・ベクレル呪文のごとききて知らず命の蝕まれをり 
                   2首 岡本 肇(鳥取) 
 
▼目に見えぬ耳に聴こえぬもの怖しプルトニウム セシウム 陰口 
                   1首 小川 玲(愛知) 
 
▼原発が想定外の被災とふ想定外は「許されるのか」 
                  1首 小田 実(和歌山) 
 
▼ふりそそぐ者それてか心なし今夏は目立つ長袖姿 
 
福島の新米いただく風評に負けない矜持いささかあれば 
                   2首 小沼常子(東京) 
 
▼表土削りとりて除染をするというこの福島の土地は広きに 
                   1首 小野洋子(福島) 
 
▼一杯の水さえ汚染されしとう早春の光あふれる街に 
                    1首 小野澪子 
 
▼この国を汚したるまま逝く我か除染の論議をいらだちて聞く 
                 1首 小野塚久美子(群馬) 
 
▼ゆくゆくとふえし原子炉五十四基 抑へ来し不安うつつとなりぬ 
 
田打桜 打てとうながし白く咲くを種蒔き禁じらるる汚染地区 
                  2首 影山美智子(千葉) 
 
▼「核分裂を無断使用しないで」と宇宙が地球へうつたえてくる 
                  1首 勝倉美智子(東京) 
 
▼原爆忌フクシマの児も式にをりいま新しき戦後はじまる 
 
大本営発表信じた少年は原発事故を強く疑ふ 
                   2首 金井 正(茨城) 
 
▼啼かぬ蝉さくらの古木にしがみつき眼のみひかる放射能の夕を 
                   1首 金丸玉貴(茨城) 
 
▼あの日からなにかが変はりあの日から変はる大切なこと あの日から 
 
大漁の小女子の目も那珂湊に腕組む人も雨に濡れをり 
                 2首 加納亜津代(神奈川) 
 
▼おほらかにゆく白雲よ人間(じんかん)に起きたる飛散鎮めたまへな 
 
汚染水何ミリシーベルト超ゆといふ不可解を消す鶯のこゑ 
                 2首 鎌田寿々子(神奈川) 
 
▼枯れ庭のなか茫と立つ黒牛の長く垂れし尾 とがるゐさらひ 
                   1首 神谷佳子(京都) 
 
▼福島の原発近く住む友の不安を思ひ受話器手にする 
                 1首 鴨志田きよ子(静岡) 
 
▼放射能の汚染がつひに始まりぬ野菜に土に飲む水にまで 
 
自らの制御できぬもの作り滅びて行くか帆も・サピエンス 
                   2首 雁部貞夫(東京) 
 
▼啄木は遺志もてるさと追はれしが今幾万を原発が追ふ 
 
町ひとつ被曝を逃れ移るとぞバスを連ねて山河を越えて 
                   2首 河井房子(長野) 
 
▼彼の日より弐ヶ月過ぎて雪やめど放射能ゼロの日本は遠し 
                  1首 川井美枝子(秋田) 
 
▼放射能禍立入禁止区域なる桃の畠の花のほのぼの 
                   1首 樹口圭子(宮城) 
 
▼日本滅べ日本滅べとひそかに放射能降るや月影あまねき夜を 
                   1首 北浦輝彦(東京) 
 
▼価値観と時代の逆転三月十一日 あの時期に葱を掘ってゐた 
 
目に見えぬものの不気味さ萌黄色に出穂の稲のセシウム有り無し 
                   2首 北爪貞子(群馬) 
 
▼地震(なゐ)に津波に電源失はれたる闇に原子炉守るとき奪はれき 
 
蜂の巣のごとき骨組みの潰れゐて妖しくも白き蒸気立ちをり 
 
汚染水十万トンの溢れむとくらぐらと瞼の裏に波打つ 
                   3首 木下孝一(東京) 
 
▼水をただ沸き立たしむるに神の火を盗みし罪は神話にあらず 
 
老いひとりとぼとぼ歩むまろき背を放射能と冬日がをどる 
 
国策とふ言葉を聞けば寒寒し戦も原発も国策なりき 
                   3首 木部敬一(群馬) 
 
▼風に飛び雨に落ちくる放射性物質 われらつくりし 
 
「ただちには健康被害はありません」十年後には被害はあると? 
 
ひきかへにせしは己のたましひにあらずあまたの輝くいのち 
                  3首 木村雅子(神奈川) 
 
▼原発に利益とリスクの知恵くらべ国細りつつ行き方さまよふ 
 
災害に生きる標と生かされて復興といへど人の死の上 
 
少しだけ鬱に傾く昼下がり気合を入れんか背筋を伸ばす 
                   3首 木室榮子(佐賀) 
 
▼原子炉に小規模臨界おきたればキセノン出でて不安いやます 
                   1首 桑島久子(福島) 
 
▼いつ止むか目処なき原発放射能すべてを巻き添えに空中浮遊す 
                   1首 桑原記代(福島) 
 
 次回も読み続ける。 
                (つづく) 


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