2013年03月05日20時48分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(92)『現代万葉集 2012年版』(日本歌人クラブ編)から原発短歌を読む(4)  山崎芳彦

 前回、孫引きによってだがドイツのメルケル首相諮問委員会の『ドイツのエネルギー転換・安全なエネルギー供給のための倫理委員会』の提言について触れたが、「倫理委員会〜安全なエネルギー供給」報告書 『ドイツのエネルギー転換・未来への共同事業』(2011年5月30日)と題する文書(翻訳 百濟勇駒澤大学名誉教授)によって、もう少し内容を見たい。 
 
 事故をひきおこした当事国の日本政府や関係機関、大企業、さらに権力に近い学者、研究者、哲学者、宗教家たち(もちろんわたしたちの国にも優れた知見を持ち行動する人々が少なくなく、原子力ムラから排除され、権力から遠ざけられるなかで苦闘しているのが現状だが)の振る舞いの非条理と言説の愚かさとは、はかり知れない相違を痛感せざるを得ない。 
 
 すでに、ドイツでは福島の教訓を自国のエネルギー政策はもとより国際共同社会に大きな貢献をすることをも見ながら、歩を進めている。現実は容易では無い障壁に試行錯誤や困難を余儀なくされる局面は少なくないと思われるが、その基本的な考え方から、筆者は多くのことを学ばされている。「“安全なエネルギー供給”倫理委員会」とする、「倫理委員会」の名称、それにふさわしい委員会の構成、その報告書はドイツ連邦議会と政府の{脱原発}方針の支えになり、2011年6月に17基ある原発のうち福島原発事故後に停止した8基はそのまま閉鎖、残る9基も2022年までに漸時廃炉していくことを決定するうえで大きな役割を果たした。 
 「原子力が、現在、人間の知恵で制御できない技術である以上、脱原発なのです。」(レットゲン・ドイツ連邦環境相大臣)の言葉は明快であり、そこには人間の倫理を基礎にした立場が生き生きと輝いている。「倫理委員会」の提言には、経済性の問題やエネルギー・セキュリティの問題を越えた倫理こそが現実社会のなかに活かされなければならないとする基本が据えられている。 
 「<もうけ>は、原発をやっている電力会社や国際金融資本、リスクは国民が知らないうちに背負っていると言う非常に不公平なギャンブルなのです。」と倫理委員会は指摘している、と百濟氏は解説している。 
 日本の政府、政治のていたらく、原子力ムラの存続と妄動を許している現状とは真逆の未来への向かい合いであるといえよう。 
 ドイツでは「フクシマから100日で脱原発法案が通過」の見出しが新聞に躍ったという。 
 
 「倫理委員会は、核エネルギーからの離脱は、ここに提示しているさまざまなエネルギー転換に関する施策を用いて、10年以内に完結できると確信している。この目的及びそれに必要なさまざまな施策は、社会を法的に拘束するものとして取り組まなければならない。明白な時間的な目的設定に基づいてのみ、必要な計画及び投資決定を行なう事が出来る。 
 “ドイツ・未来のエネルギー”という『共同事業』は、政治及び社会にとって大きなチャレンジであり、それには多くの困難な決定と負担を伴うが、だが、10年以内で実現するという特別なチャンスと結びついている。」・・・。 
 
 「脱原発は、必要であり、かつドイツにおいて原子力発電所で起こるリスクを、今後、排除する為にも推奨するものである。この脱原発は可能である。何故ならリスクの低い他のエネルギーへの選択肢が存在しているからである。またこの脱原発は、我が国の産業の競争力やその産業の立地条件を危険にさらすことなく行なわれなければならない。科学と研究、即ち技術の進展並びに新たな経営モデル発展に必要な企業イニシアチブによって、ドイツはさまざまな選択肢を得ることになる。即ち、それは風力、太陽熱、水力、地熱、バイオマスによる電力生産及びその効果的利用、エネルギー性向上並びに地球温暖化に優しい化石エネルギー源である。また、自然を愛し、自然を天地創造の源として維持していくような、そうした人々の日常生活への切り替えが、エネルギーの節約に役立つ。」 
 
 この文書は、これを入り口として、脱原発の実現への道筋、その倫理的な立場、共同事業“ドイツ・未来のエネルギー”の基本方針、エネルギー転換期における組織・制度、エネルギー転換に関するさまざまな提言、核廃棄物の最終貯蔵、国際的な視点に立った方向・・・など、まことに深く広い示唆に富んだ内容を誠実に展開している。きわめて具体的な内容が、倫理と科学技術を統一させて示されている。 
 この日本でも、このような立場での論議と実践が出来ることを、筆者は期待しつつ、いや自らの目指すべき課題として考えながら、精読しようと思う。 
 
 それにしてもこの国は何を目指しているのだろうか。原発なしには経済が落ち込み沈滞し、人々の生活が成り立たなくなるような欺瞞に満ちた宣伝がなされ、原発を再稼働、新設、さらには海外に輸出して金儲けをする企みが白昼堂々国民の税金を投入して行なわれようとしている。反倫理国家社会をめざすことが「強い国を取り戻す」「豊かな社会に成長する」まっとうな道であるはずがないではないか。原爆、原発事故の悲惨を身をもって体験してきたこの国の歌人は、原子力信仰にのめりこむ「原発権力のそばに身を置く少数派」は別にして、原発賛歌は詠わないだろう。『現代万葉集』の作品がそのことを示している。 
 
 前回に続いて『現代万葉集』から、原発にかかわる作品を読み継いでいきたい。 
 
 
  ◇東日本大震災◇ 
 
▼処分される牛を見送る畜産の農婦の涙見るには堪へぬ 
 
先祖らが田植稲刈りした田圃ダメにされた農夫悲しみと怒り 
 
牛乳も野菜も米も汚染され泣くに泣けない農家の実情 
                 3首 郡山 直(神奈川) 
 
▼放射線のぬか雨となりて降りしきり背(せな)にヌラヌラ鱗の生(お)ひぬ 
 
木田さんの笑顔の貼られしホウレン草でも放射能が無いとは言へぬ 
 
放射能ストロンチウムの骨に積みピカピカ光る骸骨となる 
                  3首 後藤惠市(神奈川) 
 
▼みちのくの空につづける雲灼けて夥しき命の叫び声する 
 
何ごともなかりしごとく夜となりて妖しく光る満天の星 
                  2首 後藤教子(兵庫) 
 
▼放射能に智恵子の空が泣いている安達太良はわがふるさとの山 
 
ほのかにもやさしく香るふくしまの白桃を恋う涼風(すずかぜ)たてば 
                  2首 小西美智子(東京) 
 
▼原子炉の破壊迫るや人力の及ばぬ蒸気高く昇れり 
 
祈り籠め書かれし薪にセシウムか燃やすことなく五山送り火 
                  2首 小林邦子(神奈川) 
 
▼招かれし福島の子ら「ここならば大きく息を吸へるんだね」と 
 
原発に働く場を得村人ら限りなき危険と共に生きしか 
                   2首 小林節子(長野) 
 
▼八十八年生きてはじめて杖をひく脱原発のぞむ市民のデモに 
 
大本営発表の系譜継がれたり原子力発電の安全神話 
 
ちちははも夫も知るなく過ぎゆきき水の空気の汚染数値を 
                   3首 小林 英(三重) 
 
▼人気なき庁舎通りの横断幕「くらしを支える原子エネルギー」 
 
原爆を新型爆弾と言いし国「メルトダウン」と核心晦ます 
 
風を孕みビニール袋が弾みゆく放射能降り人住めぬ街 
                   3首 小林鐐悦(秋田) 
 
▼うっそうたる木立の中にこもり啼く鳩は知るらむスクランブルを 
 
原發を止めてランプの仄明り火屋の掃除は厭わぬものよ 
                   2首 米須清正(沖縄) 
 
▼再稼働・ストレステスト・セシウムの言葉が言葉を超えて迫り来 
                   1首 小森澄子(佐賀) 
 
▼向き合ふことせずして支援といふなかれ金のみ送りて被曝者拒むか 
 
被災せし木も甦れ赤々とプロメテウスの炎となりて 
 
菌(きのこ)らの経読むごとき声聞こゆ物質循環菌根菌(きんこんきん)放射線量半減期 
                   3首 今野英山(千葉) 
 
▼セシウムの雨降る街に並びつつ水求めむと幾時間待つ 
 
飼主の避難に捨てし牛幾頭柱齧(かじ)りて餓死してゐたり 
 
安楽死させたる牛(べこ)を葬らむとセシウム汚染の畑に穴掘る 
                   3首 今野金哉(福島) 
 
▼放射能の無形無臭に蕊そらし憤怒に燃ゆる 彼岸花咲く 
                 1首 斎木すみ江(神奈川) 
 
▼ヨウ素濃度刻々変りわが村の青菜も黒き土も滅ぼす 
 
この国の原発五十四基とぞ被災してより知りたるわれは 
 
原発の稼動めぐりてさわがしき一村の無慚野分の寒し 
                  3首 齋藤すみ子(茨城) 
 
▼放射能汚染の相馬へ支援米を祖先移住せし富山の農家 
 
僧侶らは作業服着て被災地へ慣れぬ手つきで支援の炊き出し 
                  2首 齋藤雪石(富山) 
 
▼絶対の文字を砕きて原発は大地・空・海・汚ししままに 
 
天よりの便りの束が被災地に地上瓦礫を塗り込めて降る 
                  2首 佐賀幸子(北海道) 
 
▼原発は地震に脆しこの教訓 放射能の雪瓦礫を覆う 
                   1首 坂上禎孝(滋賀) 
 
▼智恵子の空わがふるさとの空なるをミリシーベルトに傷みはじめる 
 
日に二回放射線量流さるるうから住む地の空はぱんぱん 
 
ふるさとにつながる空よなにごともなかりしごとくえごの香零す 
                  3首 桜井園子(神奈川) 
 
▼生と死の交差の瞬間(とき)のいろならむ汚染の海と紫陽花の青 
 
<耐へ難きを耐へ>来し八月今年またのつぴきならぬフクシマはあり 
                  2首 佐治千嘉子(青森) 
 
▼原発はいやだ!いらない!乳房見せ牛達すべて餓死していたり 
                   1首 佐藤彰子(東京) 
 
▼境内に遊ぶ子どもの姿なく避難・転校の声しきりなり 
 
福島はフクシマに非ずされど今ヒロシマ・ナガサキに列記されゆく 
 
フクシマと片仮名に名を記さるるうつくしま福と呼ばれ来にしを 
                   3首 佐藤輝子(福島) 
 
▼国難を口実となし復権にのどから手を出す大和し うとまし 
                 1首 佐藤てん子(北海道) 
 
▼わが町の放射線量高ければ盆には来るなと言はざるをえず 
                  1首 佐藤典子(福島) 
 
▼不検出と決まりし稲のセシウム量庄内平野の大気は澄める 
                  1首 佐藤はつね(山形) 
 
▼原発の事故発生に自主避難娘の家族我が家に来たる 
 
福島は地震津波と放射能風評被害の四重苦なり 
                   2首 佐藤フヂ(福島) 
 
▼東風が吹き原発事故の死の灰が魔の風となり吾に降り来る 
 
原発のこれより先はどうなるか緊急避難区域わが町にまで 
                   2首 佐藤三知(福島) 
 
▼原発の永久停止を願ひゐる朝のしじまに鶯の鳴く 
                   1首 佐藤睦子(静岡) 
 
▼五年間帰還不能の地区といひその後のことにはいまだも触れず 
 
牛の糞庭も狭しと乾びをり塩を求めてさまよふならむ 
 
飲み代は原発から貰へと叫ぶとぞいくらか分かる同じ身なれば 
                   3首 佐藤祐禎(福島) 
 
▼放射線を逃れて村を去る人の映像の中にみどり児笑まふ 
                  1首 佐藤ヨリ子(秋田) 
 
▼大地震にゆれしみちのく凶っ浪立ちて原発水素爆発す 
 
鈍色の闇に隠るる半島に原発の灯の異様に光る 
                   2首 佐野鈴子(福井) 
 
▼半世紀朝夕酌みし足柄茶に放射能禍のしのび寄り来る 
                  1首 佐野秀哉(神奈川) 
 
▼あぢさゐの彩るならむ無人なる浪江町の家の庭にいまごろ 
 
娘の家に避難生活いつまでを耐へよと言ふのか生きねばならぬ 
 
ひと日ひと日の過ぎゆく速し災厄を拭ひ去るもの一つだになく 
                   3首 塩入照代(千葉) 
 
▼自然界に存在しない物質が今日降る雨に微量まじると 
                  1首 篠澤孝子(神奈川) 
 
▼人災のおさまりやまぬ島国の藤袴かっくと背伸びして咲く 
                   1首 柴垣光郎(富山) 
 
 
 次回も引きつづいて『現代万葉集』の作品を読むが、これまで記すことを忘れていたが、収録されているのは一人三首に限られているから、実際には、原発詠はさらに厖大な作品が全国で詠われているのだと思う。どの一首も貴重な作品として記録に残されることを願う。『原発万葉集』を編むべきだと提言された歌人の言葉を思い出す。     (つづく) 
 
(お詫び) 
前回(91回)の文中、1頁目の中で「デフレ」という用語を用いた部分が、本文2行目と20行目にありますが、いずれも不用意、不適切なものでした。再読して、冷汗三斗の思いです。2行目の「デフレ誘導」は「インフレ誘導」の誤りです。22行目の「デフレ促進下の」は削除しなければならないものです。 
 筆者は、現在、政府、財界が進めている一部富裕層を除く国民の生活困難をより深刻化させる諸政策、大企業の経営について述べようとしたのですが、このような初歩的な誤りを犯したことについて、深くお詫びするとともに、既成の用語を安易に使用することの無責任さを反省しています。今後、十分に注意いたします。 
(山崎) 


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