2013年03月10日14時45分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(93)『現代万葉集 2012年版』(日本歌人クラブ編)から原発短歌を読む(5)  山崎芳彦

 安倍政権の「アベノミクス」囃子が、株価の値上がり、円安の進行、金融緩和の強行などを笛や太鼓に、マスメディアの掛け声によって盛んである。安倍首相の昂揚した「強い日本」「世界一の日本」「自立自存の気概」などもひときわ声高である。改憲、国防軍などの言葉に躊躇もない。 
 
 そのなかで、原発政策について、「安全と認められた場合には再稼働を進める。原発ゼロの政策は採らない。」と、かつての原発依存のエネルギー政策への回帰の意図を隠さないばかりか、原発輸出促進の姿勢も露骨である。 
 明らかに、原発ムラの再強化を政府主導で推進する構えであると言っていいだろう。 
 
 福島原発事故の検証や、事故原因の究明、それがもたらしている災厄の解決策などはすべて脇によけて、いま明らかになりつつあるさまざまな凶悪な犯罪的な諸事実を糾明しようとはせず、かつての自民党政権時代に戻ろうとしているのである。「安全と認められた場合」とは安全神話の再創作であり、被災者の切捨てともいえる対策の遅滞と貧困、原発作業員の被曝実態の隠蔽や健康検査のサボタージュの容認、福島県民の健康検査についての「原子力ムラ診療所の危ない医学者たち」への委託、高濃度汚染水の海洋への流出の実態隠蔽による国境を越えた汚染の可能性、事故収束のない原発の放射能の継続的な放出の可能性や使用済核燃料の不安定な管理、事故原因企業の免責ともいえる処置、さらに次々と明らかにされている全国の原発立地地域を走る活断層の存在の可能性、挙げていけば限りない原発の致命的な危険性は、いかに安全神話を創作しても覆い隠せないほどの実態なのだ。 
 
 脱原発を目指して明確な考え方とその道筋を決めて推進しているドイツの脱原発のエネルギー政策について、これまで断片的にだが触れてきたが 
「ドイツ人が日本について先ず疑問に思うのは、広島と長崎に原爆を落とされたにもかかわらず、どうしてこれほどたくさんの原発を持っているのか、ということである。これはドイツ人にはとうてい理解できない。二つめは、日本は地震の多い国であるにもかかわらず、なぜ原発をつくったのか、ということだ。」 
 とドイツのメルケル首相の諮問機関であり、脱原発推進の大きな力となっている「原発問題倫理委員会」(「ドイツのエネルギー転換・安全なエネルギー供給のための倫理委員会」)の委員の一人であるミランダ・A・シュラーズ氏は『ドイツは脱原発を選んだ』(岩波ブックレット818)で書いているが、現状に即せばさらに「福島原発事故によってきわめて重大な事態になって、その解決の道も明らかでない日本が、なぜ再び原発に依存するエネルギー政策を採るのか」と付け加えるのではないかと、筆者は想像する。 
 
 ミランダ氏は同書にこのようにも書いている。 
「日本には理想がないとは思わないが、企業が利益を追求する力が非常に強く、理想の力を弱めているのではないだろうか。まるで、政治を動かしているのは企業であるかのようだ。東日本大震災後のいまこそ、政治に倫理を導入することが求められているのではないだろうか。」 
 首肯しなければならない指摘であろう。 
 
 国民の生活をさらに深刻な状況に導き、国の姿を「強い国」にしていくという安倍政権の矢先は国民に向き、あるいは近隣諸国に向き、軍事力の強化、海外で武力を行使できる国家、武器の製造・輸出に「経済発展」の一翼をになわせる国。日米同盟関係の深化とはこの国がいっそうアメリカのアジア太平洋政策に追随する道を、沖縄のみならず日本全土を米国の基地の役割を果たす国にしつつ「大国」を標榜して行く道筋ではないのか。 
 筆者は好んでこのようなことを記しているのではない。安倍政権の政策姿勢、言動、この国の現状を見るとき、このように書かなければならないのは不幸なことだと、胸が痛む。しかし、現実を見つめ、自覚的にその現実と格闘しなければ、かつてこの国が歩んだ恥多き道を歩むことになると考えれば、現在を生き、将来への基礎を築くものの一人として、書かずにはいられない。 
 
 短歌と無縁のことだとは思わない。詠うものは訴えるものであり、写生、写実とは生を写し、実を写し、表現するものであると考えている。 
 『現代万葉集』の作品の多くも、そのようにして詠われた短歌であると考える。福島原発事故は、福島だけのことではなく全国各地の原発立地地域のことであり、放射能汚染には地域の境も、国の境もない。原発は原爆の原料を生産し、この国には核武装を密かに、あるいは時に公然と主張する政治家や勢力がある。そのようなことも思いながら、『現代万葉集』の原発詠を読むのは、歌の道を外れることだろうか。筆者はそうは思わない。 
 
 この連載は「核を詠う」短歌作品を読み、記録しようとしている。その他の短歌作品を、筆者は読み、詠んでもいる。この連載の意図を諒としていただくことを願う。 
 
 
◇東日本大震災ぁ 
 
▼本当の空だと智恵子の言ひたりし安達太良山にセシウム降りぬ 
                  1首 島 晃子(神奈川) 
 
▼福島の原発事故をニュースにて聞きつつ思ふ友案じつつ 
                  1首 清水美知子(埼玉) 
 
▼紅葉の枝を広げて花水木セシウム降るも雨にも負けず 
                   1首 清水保野(山梨) 
 
▼原発事故の図示なる報道物理に化学食物連鎖の生物学まで 
                  1首 下村百合江(千葉) 
 
▼東日本大震災を引き金に東電の原発炉心熔融す 
                  1首 東海林勇一(秋田) 
 
▼この中を見てはならぬと籠りけむ建屋を守る原子炉のひめ 
                  1首 菅野せつ子(埼玉) 
 
▼幼き日 放射線など知らぬまま堅雪(かたゆき)渡りユキ食べにけり 
                   1首 菅原恵子(秋田) 
 
▼僧叩く太鼓の音が響き来る原発に世界滅亡すると 
                   1首 菅原 優(宮城) 
 
▼阿武隈の流れゆたけきふるさとの放射能汚染のニュースにおびゆ 
 
目に見えぬ妖怪のごとき恐怖とぞ原発事故を語れり君は 
                  2首 杉山頼子(神奈川) 
 
▼静かなる恐怖は続くフクシマが世界の中心となる禍禍しさや 
 
不注意と油断で四度目の被曝国不注意は単に無能ならんや 
 
流氓の民となりたる人ら数万の故郷消滅 日本の暮色 
                   3首 鈴木宏治(埼玉) 
 
▼小学生と幼稚園児三人が放射能さけ家内に遊ぶ 
 
原発の事故より百日過ぎされど放射能検査日々におもたし 
                   2首 鈴木 進(福島) 
 
▼再びの春めぐりくる三月を受け入れられぬ我がゐるなり 
                   1首 鈴木紀男(福島) 
 
▼原子炉のニュースに恐怖抱きつつ現場に働きゐる人思ふ 
                   1首 鈴木裕子(千葉) 
 
▼放射能に汚染されゐぬを願ひつつうからに送る「幸水」一箱 
 
線量計名札のごとく胸に下げ福島の子らは束の間を遊ぶ 
                   2首 須田 博(千葉) 
 
▼原発の事故のこわさに復旧もできずに残る無惨な姿 
 
安全と国民をあざむく原発に被災住民目途なく暮らす 
 
原発の事故の発生に関係者想定外と責任回避 
                   3首 相馬錩一(青森) 
 
▼人知の限り尽くしし原子炉が地震に制御不能なりとぞ 
                   1首 高橋誠一(群馬) 
 
▼セシウムは知れば知るほど怖くなり児玉氏の言う百年・三百年と 
                  1首 高橋美枝子(福島) 
 
▼覆ひても埋(うづ)めてもなほ終るなき原子炉廃棄物を如何にとはせむ 
                  1首 高橋庚子(神奈川) 
 
▼何事もなくば便利なすぐれもの原発の事故歯痒く悔し 
                   1首 高橋安世(千葉) 
 
▼人災に自己防衛せよとは何をいう秘して放射能の広がりゆくに 
 
学術文化の予算削りて地震予知怠りて来し吾はその民 
                   2首 田中 要(新潟) 
 
▼古里へ還れる当てなき避難者の見知らぬ地にて暮らしの苦労 
                   1首 田中國男(東京) 
 
▼ぼんやりと考へ込んでゐるだけぢや今度ばかりは済まないだらう 
 
ふくしまはわれのふるさとではないがふるさとのやうに思ふことあり 
                  2首 田村 元(神奈川) 
 
人間の思い上りの為せしこと天地創造の神、放射能を知らず 
 
映像に知りえし恐怖を歌に詠む建て屋の中の魑魅魍魎(ちみもうりょう) 
                 2首 塚田キヌエ(神奈川) 
 
▼校庭のシーベルト減らさんと土掘り棄てる場所のなけれど 
                   1首 土屋 亮(東京) 
 
▼蜂蜜の店にひと月客の来ず巨大地震に初のことなり 
 
放射能の風評なるか客の中の幾人か去年の蜜をと求む 
                   2首 角田積子(群馬) 
 
▼何を隠す歯切れの悪さか知りたきを語らぬ原発の会見に苛立つ 
                   1首 鶴見輝子(東京) 
 
▼お隣の原発ただいま停止中ポニーは今朝も馬場走りをり 
 
浜白くさらさら流るる風紋にセシウムのセが見えた気がする 
 
日盛りの鉄塔仰ぐ紅蜀葵原発ただいま停止中なり 
                   3首 戸口愛策(静岡) 
 
▼風評は妄想を呼び川俣に作りし花火を打ち上げしめず 
 
おのが身の安全を願ふことわりに人の心は鬼を棲ましむ 
 
辛うじて形残れる家屋さへ草茫茫と人かげを見ず 
                   3首 徳山高明(宮城) 
 
▼放射線管理区域のゲート開け一時帰宅のバス通りゃんせ 
 
原爆と原発育ちが違うのみしょせん鬼っ子手を煩わす 
                   2首 富田博一(三重) 
 
▼放射能汚染の噂ありし山芽木(やまめぎ)あわあわと春の雨降る 
                   1首 中川侑子(山梨) 
 
▼放射能を浴びたる牛が屠殺へと一声のこし引かれてゆきぬ 
 
畑仕事が常のこの身は低線量被曝といふを積みゆく日々か 
 
文明の転換期かと放射能まみれとなれるわが国を思ふ 
                   3首 長沢重代(静岡) 
 
▼牛の群福島被災地を疾駆するクロマニヨンの洞窟画にあり 
 
敗戦直後の東京ベイを記憶せり原発被災地も原始野ならん 
 
エジプトの政変カイロにデモ溢るわが国政も似れど立つなし 
                   3首 中島峰子(東京) 
 
▼放射能の雨を知りしやガラス戸に張りつく蛙ヒクリと鳴けり 
 
脱原発核廃絶の責めを負い風車の列が寡黙に回る 
 
原爆禍二度許すまじ避難地のサッカー少年空に球蹴る 
                  3首 永田賢之助(秋田) 
 
見えねども空にただようセシウムを容れわれ老いん若きらへと光(ひ)を 
 
原発を拒否す奥能登珠洲岬のま青の空の山ぼうしの花 
 
都市成長の陰の苦策の錯誤の象原発白く過疎地の岡に 
                   3首 中藤久子(石川) 
 
▼原爆の辛酸嘗(な)めしこの国に原子力発電あまた稼働す 
                   1首 仲伏幸子(東京) 
 
▼彼の日より被曝背負ひて後始末引き受けくるる人らを思ふ 
                  1首 中村美代子(埼玉) 
 
▼強震に原発挟間の海が揺る 光こぼれんまでに揺るるも 
 
古里の荒磯(ありそ)はドラム 原発へひた打ちざまに鳴りやまぬなり 
 
プルサーマル阻止の集いに遠尾根の溶岩流をみちびきゆくも 
                  3首 波汐國芳(福島) 
 
 次回も『現代万葉集』の作品を読む。同集を読む最後になると思う。 
                         (つづく) 


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