2013年04月07日13時02分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

【女たちのTPP】(4)農産物自由化とたたかった女たちの歴史に学ぶ  西沢江美子

 農業の女たちは、戦後六〇年、自分で自由に使えるお金を得ようと農産物の直売所をつくり、加工所をつくり、知人、友人をたよって宅配し、これまで家族のために積み上げてきた生活技術を商品化し続けてきた。 
 
◆タダ働き解消運動に立ち上がった女たちがいた 
 
 農家の嫁や息子は無償労働(タダ働き)が当たり前の世界で生きてきた。このタダ働きを解消しようという運動が、農協婦人部と青年部によって一九六〇〜七八年まで闘われてきた。「家族従業者の働き分は給料として認められていない」という所得税法五六条への挑戦でもあった。 
 
 同時に女たちは、自分で自由に出来る金を得ようと自ら仕事づくりに乗り出し、加工販売、直売所、レストランなどをグループでつくり出した。彼女たちは本業の農業の片手間に野菜をつくり、加工し、直売所をつくって小さいお金を稼いでいる。タダ働きの家業(農業)のかたわらに、自分の労働を自分たちで評価する場をつくったのである。 
 
 未分化農業労働者とでもいうのか。直売所の前史は、こうした女たちの涙ぐましい取り組みによってつくられたといってよい。 
その直売所も最近大型化されている。少量多品目で手間暇かけた高齢農業女性たちの品物は、だんだん直売所から追い出されはじめている。直売所がスーパー化することで、大量出荷できるある程度の規模を持つ農家と農事法人組合など企業化した農家の店になってきている。本来の直売所の商品である泥つき、家で食べて余ったもの、形の不ぞろいのものなどが姿を消し、美しく包装された輝くばかりの商品や芸術品のようにそろった農産物が並んでいる。出荷に大変な手間がかかる。価格はスーパーの安売り合戦に巻き込まれて下るばかり。TPPで勝つための環境づくりかもしれないが…。直売所の主人公は企業家農家に取って代えられようとしている。 
 
◆自分たちの農産物を武器に巨大資本に挑んだ青森の女 
 
 「大型化、企業化していく直売所は、TPPへの道だと私はと思います。直売所も地産地消という言葉も百姓女のくらしから離れていくばかり。私たちは、一九六〇年代前半のレモン、バナナ、オレンジ、そしてコーラの輸入自由化の時、何をしたかを記録して学びたいと思います。それは『不買い』という戦術でした。不買いするには、それに代わる物を出さなければいけない。レモンには、国産レモンを栽培しました。和歌山の農協婦人部が部員一人一本のレモンの木を植えることからはじめたのです。コーラやファンタなど飲料水については、一〇〇%リンゴジュースで闘いました。それは青森県農協婦人部からはじまり、全国の農協婦人部、青年部に広がった。一九六〇年代後半のことでした」 
 
 サンキストやコカコーラなどアメリカの大資本と、自分の生産物をひっさげて不買運動を展開した四〇年前の青森県の美しく、力強い農家の女たちのことが昨日のことのように思い出される一通の手紙である。「農産物を武器」にした不買運動、社会人になったばかりの私は、この運動に大きな衝撃を受けた。この運動を農業ジャーナリストの卵のときに報道できたことが、私のその後のジャーナリストとしての活動を決定づけた。手紙は続く。 
 
 「それまでなかった一〇〇%リンゴジュースを農協に働きかけて開発。私は毎日一回酒屋さんへいって、一〇〇%ジュースありますかといって、酒屋に一〇〇%リンゴジュースを置いてもらうようにしました。『一〇〇%リンゴジュースを売っている店』というステッカーをつくり、置いてくれた店に貼ったりもしました。婦人部員は、ステッカーのある店でのみ買いものをします。全部員が組織で決めたことを行動しました。その結果、あの巨大なアメリカ資本のコーラ、サンキストレモン、ファンタを約半年間、青森県から消したのです。こうした運動を通して女たちは色つき飲料の危険やコーラやファンタが日本の飲み物まで奪ってしまうことを学びました。やればできるのです。TPPや原発との闘いも、この『青森の一〇〇%リンゴジュースを飲んでコーラを不買いしよう』にチエがありそうです」 
 
 手紙はこう結ばれていた。 
 
 「私は八八歳。残りの生命をTPPと原発反対につかいます」 
 農産物、食べものの自由化に立ちよった農業女性のいたことをいまこそ、記録しておきたい。 


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