2013年04月19日00時00分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(101)横田敏子歌集『この地に生きる』の原発詠を読む(1) 『福島の歌人(うたびと)たちよ声高く原発事故を詠い継ぐべし』  山崎芳彦

 本稿で書くのは、いささか不適当であろうことを承知の上で、あえて書き記しておきたい。国際環境NGОグリーンピースは4月15日付で、福島第一原発事故後初のMOX燃料のフランスからの国際輸送が差し迫っていることについて「不要かつ危険なMOX燃料国際輸送はただちに中止を」の声明を発表した。 
 
 同声明を発表するに当たってのプレスリリースの内容は次のとおり。 
 
 「今回輸送されるのは、福井県高浜町の関西電力高浜原発3号機用のプルトニウムMOX燃料20体で、フランスの大手原子力企業アレバ社が3年前に製造したもの。東京電力福島第一原発事故後にプルトニウムMOX燃料が輸送されるのは初めてで、前回2011年4月に計画されていた輸送は、福島第一原発事故のため延期されていた。 
 輸送船は、英国のパシフィック・ニュークリア・トランスポート社所有の『パシフィック・へロン』と『パシフィック・イーグレット』で、それぞれ護衛のために30ミリ砲が備わっている。関西電力は出発日、航路、日本へのおよその到着日は出稿後に公表するとしている。日本までは、パナマ運河経由で45日程度、喜望峰・南太平洋ルート、南米ルートでそれぞれ60日から70日程度かかるとしている。 
 福島第一原発が依然きわめて深刻な状況にあるなか、使うあてのない危険なプルトニウムMOX燃料の輸送が始まろうとしていることにフランスの現地NGОの批判も高まっている。」 
 
▼声明 「関西電力高浜原発の再稼動の目途はたっていない。フランスから日本へ、地球を半周してまで核輸送する必要がないばかりでなく、輸送ルート沿岸国に海上原子力事故のリスクを押し付けるものだ。不要かつ危険な輸送は直ちに中止すべきだ。 
東京電力福島第一原発での相次ぐ停電や汚染水漏れなどのトラブルから、東京電力の事故対策自体がいまだに“仮設の対策”であることが判明した。つまり、福島第一原発事故の危機的状況は、輸送が延期された前回2011年と何ら変わりない。今、日本政府と電力会社が全力を尽くさなければならないのは、事故の収束と原発事故被害者の保護であり、不必要なプルトニウムMOX燃料の輸送ではない。」 
 
 以上がグリーンピースの声明の内用だが、この計画はすでに関西電力が公式に発表(4月12日)しているが、その発表後に関西電力の株価が上昇し、一時ストップ高をつけるという、「原発再開期待」という「狂った経済社会」現象が起きているのが現状である。如何に、安倍政府の原発再稼働への前のめり態勢、原子力規制庁の政府・経済界すりよりぶり(米倉経団連会長と石原環境大臣との会談に池田原子力規制庁長官が同席し「7月までに新たな安全基準を設け、これを満たした原発から再稼動していく」と述べたと伝えられている)が、電力企業の暴挙を後押ししているかが明白だ。 
 
 まことに許し難い、原発推進の動きが強まっている中で、福島原発事故により苦難の日々を、いつ果てるとも知れない不安の中で送り、しかし歌人たちはその日常をしっかり見つめ、短歌表現を続け、原発苦からの脱却を願い、多くの人が脱原発の声をあげているのである。 
 
 その詠まれた作品を読む、「詠む」と「読む」ことが、短歌文学をあらしめているのだと考える。 
 
 今回から、福島県郡山市に在住する歌人・横田敏子さんの歌集『この地に生きる』(ながらみ書房、2012年12月刊)の原発にかかわる作品を読むのだが、この歌集名は歌集中の一首 
 
 福島に生れて暮らして六十余年ここがふる里この地に生きる 
 
からとられている。 
 
 この歌集は三十年近い歌歴を持つ横田さんの第一歌集で、「この歌集には、『地中海』に入会以降の、平成元年から平成二十三年二月までの作品三一〇首と、平成二十三年三月十一日に発生した、あの巨大地震と大津波、それに続く福島第一原子力発電所の事故以降、平成二十四年までの作品一〇〇首を収めた。大きく見ると、ガラリと内容を異にする二部構成の歌集となっている。」(あとがき)のが特徴がある。 
 
 筆者はもちろん歌集の全作品を読ませていただき、確かに歌集の構成は作者の言われるとおりではあるが、短歌作品として読めば、歌集全体に横田さんという人のありよう、生きてきた中でその心身に蓄積したものごとを把握し、受容し、磨かれた感性をもって表現するとことにおいては、すべての作品に通底していると感じさせられた。 
 
 筆者は、横田さんについて知ることはほとんどないが、歌集を読むに当たり電話でお話し、ご丁寧なお葉書をいただいた上で、『この地に生きる』を読み、作歌する姿勢の濁りの無い澄明さと、みずみずしい感性に満ちた表現に深い印象を持った。短歌に限らず表現とは、「写生」「写実」することが基本になるのだろう。 
 
 ひといろではない「生」を私たちは具体的に生きているのだが、その「生」を写す、表面、眼に見えるモノだけにとらわれない「実」を写す、そして詠い(短歌表現)、「訴える」のが詠う者の営為であるとすれば、福島原発の事故、被災、これからの生への思い、そして生活の現実は、詠うということに、これまでには無かったものを付け加えているのだが、その上に立って「この地に生きる」ながら「この地に住むものとして原発の歌を詠んでいこうと思っている。」(あとがき)との歌人の志と魂を、筆者は、重ねていうが歌集の全作品を読んだものとして、作者の「生」をもっともっと歌い継いでいってほしいと願う思いを切に持つ。 
 
 2011年3月11日から2012年3月までの作品のなかから、原発にかかわる作品を抄出して読むことになるが、やはりその他の作品を記すことができないのは残念なことであると、改めて思う。この連載の趣旨ゆえとして作者に御寛恕を願うしかない。 
 
 
  ◇(2011年)三月◇ 
 
原発事故発生の中を逸(いち)早く駆けつけてくれし娘よ ありがとう 
 
  ◇四月◇ 
 
みちのくを襲いし地震・大津波・原発事故に生活(たつき)奪わる 
 
被災地に未だ冷たく眠りいる行方不明者の魂が哭く 
 
放射能に汚染されたるふる里のこの青き空黙して見上ぐ 
 
美しきわれのふる里「フクシマ」を世界に知らしめたり原発事故は 
 
  ◇五月◇ 
 
一年は余震が続くという予報原発廃炉は何年かかる 
 
二ケ月余締め切りの戸を開け放ち恐る恐るに布団を干しぬ 
 
干し終えし布団バタバタ叩きたり放射能きれいに落とさんがため 
 
放射能を日毎夜毎に浴び続け歌壇の花は鮮やかに咲く 
 
福島の歌人(うたびと)たちよ声高く原発事故を詠い継ぐべし 
 
  ◇六月◇ 
 
否応(いやおう)もなく慣らされし放射線量マイクロシーベルトは今日も横這い 
 
校庭の土削ることすでにして異常事態ぞ放射能降り止まず 
 
三十キロの枠はみ出して放射能の避難区域はまたも広がる 
 
避難先いづこにも無き大所帯三十三万人の郡山市民 
 
原発より東風(こち)吹き来れば今日もまた放射能避けんと窓を閉め切る 
 
裡深く原発不信を募らせて心いまだに晴れることなし 
 
 ◇七月◇ 
 
耐え切れぬ暑さに四方の窓開けぬ 四方の窓より風吹き抜ける 
 
魚・野菜・牛肉と汚染は限り無くびくびくして食む三度の食事 
 
原発事故に鬱(ふさ)ぎし気持ちを吹き飛ばす「なでしこジャパン」世界を制覇 
 
天災の少なき県と信じおりし福島を叩く天災はた人災 
 
 ◇八月◇ 
 
汚染水ひたひた海に広がりて地上も海も安らかならず 
 
立秋を過ぐるも暑さ衰えず部屋干しの洗濯物からりと乾く 
 
黄金色に波打つ稲田をよそ目にしじわじわ進む米の買い占め 
 
新聞の見出しは常に横這いとう今日の放射線量昨日を越えぬ 
 
爆発せし原子炉四基の地の底の真実を誰も知らぬ現実 
 
もう安全と誰が責任持つならんメルトダウンは闇の中なり 
 
日ごと聴く福島第一原発のニュースこの先いつまで続く 
 
こころ重く春から夏を過ごし来ぬこころに深く被曝を受けて 
 
福島に生れて暮らして六十余年ここがふる里この地に生きる 
 
 
 次回も横田さんの歌集『この地に生きる』の原発詠を抄出して読ませていただく。 
     (つづく) 


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