2013年05月15日08時10分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(106)歌集『平成大震災』(「歩道」同人アンソロジー、秋葉四郎編)から原発詠を読む(4)「覚悟なく原発依存の成長に酔ひしわれらかと心のきしむ」   山芳彦

 円安・株高を囃しながら、安倍首相の財界・大企業を帯同してのセールスツアーを大々的に宣伝し、さらに目立つことなら何でもやって人気取りに狂奔している成果なのか、世論調査で高い支持率を誇っている自民党・安倍内閣だが、参議院選挙を経て多数を占めてから推進しようとしている政策の内容、政治姿勢を見ると許してはならない、恐るべきものというしかない。そのことについて内田樹(うちだたつる)・神戸女学院大学名誉教授が5月8日付朝日新聞朝刊(13版)17面のオピニオン欄に寄稿した「壊れゆく日本という国」は安倍政権の政治の本質を明らかにしていて、一読に値する。「『企業利益は国の利益』国民に犠牲を迫る詭弁 政権与党が後押し」「国民国家の末期を官僚もメディアもうれしげに見ている」の大胆な見出しが躍っているが、十分に政治の現在に迫る内容である。 
 
 その内容を詳細に紹介できないのは残念だが、筆者が共感したいくつかの点を記しておきたい。 
 
 内田氏は「国民国家としての日本」が解体過程に入ったと指摘しているが国民国家ということについて「平たく言えば、国民を暴力や収奪から保護し、誰も飢えることがないように気配りすることを政府がその第一の存在理由とする政体である。」としたうえで、「政府が『身びいき』であることをやめて『国民以外のもの』の利害を国民よりも優先するようになってきた」ことを「国民国家という統治システムが、確実に解体局面に入っている」ことだと述べる。そして「国民以外のもの」とはグローバル企業、株主も経営者も従業員も多国籍であり、生産拠点も国内には限定されない「無国籍企業」のことだと言う。そして、日本の大企業は軒並み「グローバル企業化」したか、しつつあるが、「株式会社のロジックとしてその選択は合理的」であるとする。 
 
 その上で、氏は「だが、企業のグローバル化を国民国家の政府が国民を犠牲にしてまで支援するのは筋目が違うだろう。」と断じるのである。アベノミクスなる安倍政権の政策内容を考えれば、このところは頂門の一針と言うべき指摘だ。国民の圧倒的多数の利害を横においてのアベノミクス踊りは、まさにこの指摘に厳しく打たれなければならない。デフレ政策、経済成長、生活にかかわる分野での国民負担の増加押し付け―消費税増税をはじめ、年金の給付のさまざまな方策での切り下げ、福祉の内容の切り下げ、雇用や労働条件の劣悪化、掛け声だけの賃金引上げの財界への要請、原発事故対策費用の国民への付回しばかりか、その流用などなど―を考えれば、まさにそのとおりであろう。 
 
 内田氏はここで、(民主党政権のときのことだが)大飯原発再稼働に関連して次のことを指摘している。 
 グローバル企業とメディアは「原発を止めて火力にたよったせいで、電力価格が上り、製造コストがかさみ、国際競争で勝てなくなった。日本企業に『勝って』欲しいなら原発再稼働を認めよ。そうしないなら、われわれは生産拠点を海外に移すしかない。そうなったら国内の雇用は失われ、地域経済は崩壊し、税収もなくなる。それでもよいのか。」というロジックで再稼働を求め、民主党政府はこの「恫喝」に屈して大飯原発再稼働を認めた。 
 
 このことについて、内田氏は(1)電力価格が上ったからという理由で日本を去ると広言するような企業は、仮に再び原発事故が起きて彼らが操業しているエリアが放射性物質で汚染された場合、自分たちが要請して再稼動させた原発事故に責任を負うだろうか(2)雇用確保と地域振興と国土再建のためあえて日本にとどまると言うだろうか・・・「絶対に言わないと私は思う。こんな危険な地域で操業できるわけがない。汚染地の製品が売れるはずがない。そういってさっさと日本列島から出て行くはずである。」と断じる。 
 
 現在の安倍自民党政権(公明党との連立だが)は、グローバル企業の原発再稼働要求のロジックに同調し、さらに原発再稼働を急ぎ拡大しようとするのみならず、原発輸出セールス外交を行なって輸出企業を後押ししている。 
 このようにことあるごとに「日本を出て行く」と脅しをかけ政府から便益を引き出す企業を「日本の企業」とよぶことに「つよい抵抗を感じる」と内田氏は言い、「彼らにとって国民国家は『食い尽くすまで』は使いでのある資源である。」と論じ、「汚染された環境を税金を使って浄化するのは『環境保護コストの外部化』である。(東電はこの恩恵に浴した)、原発を再稼働させて電力価格を引き下げさせるのは『製造コストの外部化』である。工場へのアクセスを確保するために新幹線を引かせたり、高速道路を通させたりするのは『流通コストの外部化』である。大学に向かって『英語が話せて、タフな交渉ができて、一月300時間働ける体力があって、辞令一本で翌日から海外勤務できるような使い勝手のいい若年労働者を大量に送り出せ』といって『グローバル人材育成戦略』なるものを要求するのは『人材育成コストの外部化』である。」と具体的な事例を指摘し、企業が経営努力によって引き受けるべきコストを国民国家に押し付けて、利益だけを確保しようとするグローバル企業の本質を明らかにし、それを『日本の企業』だからと合理化することの不当性を衝く。 
 
 グローバル企業がその実体は無国籍化しているのになぜ「日本の企業」の名乗りを手離さないのか。それは「われわれの収益を最大化することが、すなわち日本の国益の増大なのだ」というロジックをコストの外部化(国民への転嫁、政府による国民からの収奪)の論拠とするためで、「グローバル企業とその支持者たちは『どうすれば日本は勝てるのか?』という問いを執拗に立てる。」のは、グローバル企業の収益力増や株価の高騰が日本人の価値と連動していると思い込ませ、グローバル、無国籍企業のために国民が彼らの負うべきコスト負担を、彼らと一体化しているとも言うべき政府の政策によって負わされることになっているのだ、と内田氏は言っているのである。内田氏はもっと多くのことを論じているが、今重要な問題提起をしていると思って読んだ。 
「今、私たちの国では、国民国家の解体を推し進める人たちが政権の要路にあって国政の舵をとっている。政治家たちも官僚もメディアも、それをぼんやり、なぜかうれしげに見つめている。たぶんこれが国民国家の『末期』のかたちなのだろう。」と内田氏は指摘するのだが、多くの人びとはぼんやり見つめているわけにはいかない。 
 
 安倍政府・自民党が「強い日本を取り戻す」というとき、国民を犠牲にしグローバ企業の利益を「アベノミクス戦略」で保護し、そのことに国民の意識を取り込むことによって、一億一心になっての「強い日本」指向を強めようとし、その先には、「仮想敵国」を置いての排外的ナショナリズムの醸成、海外戦略、「安全保障」戦略を支える軍事力の強化、国民の権利制限と「国への奉仕」、戦争のできる国に向けての憲法改悪。というより、現行憲法の廃棄による「強い日本」の反立憲主義の「憲法」制定ともいうべき奥深く執拗な企みがあるのだろう。 
 
 参議院選に向けて、自民党は原発再稼働を公約として盛り込むことを決めた。海外に原発輸出の契約を取りながら、自国で原発の停止状態が続くことを避けるということであろうし、財界、大企業の強い要望と「アベノミクス戦略」にとって、福島原発事故が収束どころかさまざまな重大な問題が生じており、被災者の生活再建対策も遅々として進まない状況の中での原発再稼動が必要であるとして、その早期化を図ろうとすることは許されない。 
 
 いささか、長くなってしまったが、原発問題を考える上でも大切な視点が内田氏の論考にあると思い、引用も含めて不十分ながら記させていただいた。 
 『平成大震災』から原発詠の作品を、今回も読み続ける。 
 
 
  ◇千葉編(2)◇ 
▼くり返し防災無線がわが地域の新米にセシウム検出せずといふ 
                         鹿島典子 
 
▼放射能恐るるうから曾孫は早ばやと海外に連れられてゆく 
                         勝又弘子 
 
▼地震津波原発事故のかつてなき国難に遇ふわが残生に 
                         金田 武 
 
▼その母の祖国中国に避難する子の通知票を急ぎ仕上ぐる 
                         黒崎寿代 
 
▼放射能気にかけをれば捥ぎたての胡瓜をさへやひたすら洗ふ 
 
 原発の事故にしよれる放射能汚染の迫る柿のなる庭 
 
 放射能の数値へらざる孫ら住む街を案じて日々わがすごす 
                      3首 齋藤松枝 
 
▼原発事故の放送続きて窓外に幼の遊ぶ姿のあらず 
                         白井弘美 
 
▼放射能飛散の続くこの春の田植迷ひつつ苗を育つる 
 
 ひたすらに映像見つむ放射能飛散地域にわが千葉もあり 
 
 玄米の放射能濃度恐れをりこの秋の田の刈り入れしつつ 
                      3首 鈴木早苗 
 
▼最悪の事態のすすむ原子炉のニュースきくときまた揺れてゐる 
                        鈴木ひろこ 
 
▼この朝も無事に迎ふる放射能含まん雨が外には降れど 
 
 放射能ここにも及ぶと子のために離るる嫁を送るほかなし 
                       2首 鈴木眞澄 
 
▼朝夕に電気予報と放射線数値流るる国にわが住む 
 
放射線今なほ出づるままといふラジオ聞きつつ胡瓜もぎとる 
                      2首 清宮恵理子 
 
▼検査終へ心おそれてゐる時に余震のおこる不吉の如く 
                        柘植佐知子 
 
▼放射性物質被害の旧友は春菊出荷の停止を嘆く 
                         寺口一郎 
 
▼四国より放射能の害なきと葉もの野菜を送りて来たり 
 
 目に見えぬ放射能雨恐れつつ鉢に植ゑし菜軒下に置く 
 
 土掘りてセシウムの害除きしか校庭に立つこの砂ぼこり 
                      3首 馬場世知子 
 
▼風評を質すすべなく秋日照るホツトスポツトの街にわが住む 
 
 うす氷解けてただよふこの沼の見えざるセシウム汚染かなしむ 
 
 沼のべに放射能測る人のゐて原発事故から一年の来る 
                      3首 比嘉 清 
 
▼放射能検査済との書状添へ鮮度よき桃いわきより着く 
                         藤島鉄俊 
 
▼放射能の値(あたひ)の高き街に住む孫らを思ふ未来を思ふ 
 
 放射能の汚染なきごと澄む空に蝕の極まる赤き月見ゆ 
                      2首 本間百々代 
 
▼豪州より息子家族の帰国する沃素汚染を気づかひながら 
 
 幼児を四人育つる息子らはミリシーベルトに関心高し 
 
 わが街の放射線量パソコンにて検索するが日課とぞなる 
                       3首 前野清子 
 
▼盆地ゆゑ放射線よどみゐるならん兄住む福島数量高し 
 
 朝起きて直ちに見入る新聞の放射線数量変化如何にか 
                       2首 三橋京子 
 
 
  ◇北海道・青森・秋田編◇ 
 
<北海道> 
▼原子炉にかかはりし人の身の安全深く思ひぬ言葉なきわれ 
                       小野寺和賀子 
 
▼それぞれの地域の放射能測定値天気予報を聞くごとく聞く 
                         門 祐子 
 
▼放射性物質を避けて東京より思ひまうけず曾孫が来たり 
                         鈴木恵子 
 
▼原発の事故に携はる命がけの人らに戦時を思ひ出しをり 
                         宮崎民子 
 
 
 
<青森> 
▼放射能ふくめる雨がわが庭の花咲き初むる柿に降りつぐ 
                         加藤洋子 
 
▼地下深く核を埋むる六ケ所の想定外の地震に脅ゆ 
 
 原発の風評流るる津軽野に稲は重たく穂を垂れてをり 
                      2首 齋藤 守 
 
▼地震津波命うばひし天災にまたもや被曝の福島哀し 
                         山形礼子 
 
 
<秋田> 
▼とめどなく震災の恐怖ひろがりて日々つのりくる原発の惨 
 
 セシウムは無しと作つけの許可ありし刈田の土に秋日あまねし 
                      2首 相内友子 
 
▼原発にて豊かになりし生活がこの文明に裁かれている 
                        川井三枝子 
 
▼黄の色に染まる稲田は日の暮れて放射能検査異常なしとふ 
                        駒ヶ嶺好子 
 
▼出稼の日々働きし福島の原発爆発ニュースはつらし 
 
 思ひ出す胸につけたる計数管原発炉作業掟(おきて)きびしき 
 
 避難にて主失ひし犬と牛放射能汚染の町徘徊す 
                      3首 齋藤治雄 
 
▼ただならぬ原発事故のその経過伝ふるニユースに戦慄覚ゆ 
                         佐々木勉 
 
▼収穫の許されぬ稲ばうばうと津波ののちの水田にうごく 
                         佐藤 勉 
 
▼セシウムの検査も無事にて収穫なる刈田に望の近き月照る 
                         須藤武子 
 
 次回も『平成大震災』の作品を読む。 
 (つづく) 


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