2013年05月18日12時19分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(107)歌集『平成大震災』(「歩道」同人アンソロジー、秋葉四郎編)(5)「放射能の許容基準値越えしとぞわが頼むべき浄水場が」  山芳彦

 冒頭からのお詫び訂正で申し訳ありませんが、前回の文中29行目に、「デフレ政策」とある部分は「脱デフレ―インフレ促進政策」の誤りでした。筆者の不注意によるものです。改めてお詫びして訂正いたします。ご容赦ください。 
 
 「憲法九条を守る歌人の会」(略称「九条歌人の会」)の会報「歌のひびき」10号が送られてきた。同会を運営して下さっている歌人諸氏に感謝するとともに、同会に賛同するものの一人としてできることをもっと積極的になさなければと考えている。7月4日公示、21日投票の予定の参議院議員選挙が迫っているが、自民党はアベノミクスの「成果」を謳いあげるとともに、改憲を争点として押し出し、参院でも改憲の発議に必要な3分の2を超える改憲勢力の議席を目指している。当然、原発再稼働問題も大きな争点となる。 
 
 安倍首相は、「日本を取り戻す」ために「私たちの手で憲法を変えていく」と強い調子で、しかしさまざまな言い回しでその本音、本質を紛らわしながら、改憲への執念を燃やしている。現行憲法を敵視し、その平和主義、基本的人権の尊重、国民主権の根本を変えて行くための大きな一歩に今回の選挙を位置づけて、改憲勢力の結集を目指している。改憲発議要件を3分の2から過半数に変えることから始めて、実質的には現憲法を破棄して彼らの望む新しい憲法をつくり、この国の「新しい時代を切り開く」のだという。 
 
 現憲法を否定するということは、この国のかつての侵略の歴史から何も学ばないということであるとともに、未来を彼らの歴史認識を公認し支持する時代にする、ということの宣言であろう。そういう国にするということだから、当然「公共の秩序」だとか「道徳教育」だとか、かつての治安維持法や、国の政策方針に反対する、思想信条や表現をも制約する時代へと目指すことになろう。平和ではなく武力を背景にした対外政策が海外でも戦争できる国の指導者によって前面に出るのだろう。 
 
 もちろん、今、公式にはそのようなことは言わないが、改憲推進政治家や、歩を一にする評論家らの言辞から衣の下の鎧は見て取れる。考えられ公表されている改憲案の内容は、人々の生き方、考え方のありようにまで大きく関るものだ。憲法が政府や国の権力のあり方ではなく、国民を従わせる存在にすることは、そこに行き着かざるを得ない。そのためにも国力の強化であり、経済力の強化であり、海外への企業の進出であり、進出した企業を守ることのできる軍事力とその機能を保障する法制の構築であろう。国を愛せ、君が代・日の丸を敬え、公には従え,「秩序」を乱すな、古くて新しい国家主義の枠組みを作ろうとするのであろう。 
 
 そこに、原子力エネルギーの放棄がありうるだろうか。原発を持つことが潜在的な核兵器の保持の能力の証明であるとする発言がしばしば出て来ているし、兵器産業能力を持つ企業にとっては共通の認識であろう。 
 
 前述の「歌のひびき」の巻頭で平山良明氏(沖縄県歌人会)は、「憲法九条を守る勇気があれば、日本人は、世界に冠たる民族である」とする文章で「今、日本の国は大きく右へ右へと傾きつつある。民主主義を学んだ市民は、築き上げた富と命を失ってはならない。戦争は地獄である。」「戦争で尊い命を失った人々の代償として『憲法九条』がある。憲法九条を世界の憲法としよう。」と熱く述べている。 
 
 この会報には品川正治氏(経済同友会終身幹事)の「もう一つの日本」講演要旨(2012年11月17日「憲法を考える歌人のつどい」での講演)、吉村睦人氏(新アララギ)の「歌壇の憲法を考える歌」講演要旨(同前)、下村すみよ氏(短詩形文学)の「赤木健介について」(短歌サロン九条 2012・9・1での報告)、恩田英明氏(アルファ)の「私の玉城徹体験」(同2012・12・1での報告)、阿木津英氏「リベラリスト五島美代子―敗戦直後の歌―」(同2013・1・19での報告)が掲載されていて、読み応えがある8ページである。この時代、現在を生きる歌人が「歌に兵戈(へいか)は無用です」(九条歌人の会の合言葉)を心にとどめ、詠い、できる行動をして行くことが、かつての時代の先人の体験した苦悩に陥らないための努力だと考える。 
 
 「事務局だより」では、「昨年暮れの衆議院選挙で、自民党が圧勝した。それからは、大方のみなさんが感じておられるだろう『改憲』の危機が、おそろしいほどの勢いで明らかになってきている。それも、巧妙にまずは96条、手続き条件をゆるめようと画策している。われわれもうかうかしていられない。9条を守るためには、この夏に行われる参議院選挙での1票は大きな意味を持つことになる。」と記しているが、本当にその通りである。 
 
改憲勢力は原発維持再稼働勢力と、ほぼつながっている。原発問題も改憲と併せて大きな争点になることを強調したい。 
 
 今回も『平成大震災』の原発詠を読んでいくが、福島原発事故がいかに広範な、全国的な問題であったかを痛感するとともに、原発列島化しているこの国にあっては、それは必然のことであろうと思う。そしてもっともっと各地の原発立地地域圏をはじめ全国で原発についての作品が詠われることと信ずる。 
 
 
  ◇東京・神奈川編◇ 
 <東京> 
▼原発事故これは人災と訴へる地元の市長の声の切なし 
 
 原発の事故後絶えゐたる外国人十月に入り高尾にもどる 
                       2首 有賀信夫 
 
▼放射能の許容基準値越えしとぞわが頼むべき浄水場が 
 
 覚悟なく原発依存の成長に酔ひしわれかと心のきしむ 
                       2首 樫村志津子 
 
▼収束に向かふといへど放射線レベルの上るに不安のつのる 
 
 放射能汚染かどうか青梅は赤く熟さず黒ずみてゆく 
 
 不手際の代償までも国民が払はさるるか不条理思ふ 
 
 いつまでも収束せざる原発に振り回はさるる子等や孫らは 
                       4首 加瀬友子 
 
▼原子力発電所事故如何なるかテレビニュースより耳目離れず 
                          佐々木比佐子 
 
▼列島をおそひし津波原発の安全神話一挙にくづす 
 
 目に見えぬゆゑ恐ろしき放射能何処に飛びて何処に潜む 
                       2首 関 正美 
 
▼放射性物質の漂ふ窓の外庭に桜の花の咲き出づ 
                          高山ゆき 
 
▼燃え盛る核燃料が溶け落ちぬ四基の原子炉かくもおぞまし 
 
 防ぎ得し事故かそれとも起くるべくして起こりたる事故か知りたし 
 
福島産はうれん草をかなしめり摂取制限指示されしとぞ 
                       3首 巽谷一夫 
 
▼放射線取りこみやすき葉菜類怖づるなく食ふ老の身あはれ 
                          田野 陽 
 
▼放射能拡散と因果ありやなし盆の日々来る揚羽まだ見ず 
                          森谷耿子 
 
 
 <神奈川> 
▼進みゆく科学に治むる術なきかかかる惨禍に人智の悲し 
                          青木嘉子 
 
▼どちらとも取れる放射能の報道を聞く度に煽られ不安増しくる 
                          石向岡登栄子 
 
▼原発の事故にて放置されしまま土手をさ迷ふ家畜のあはれ 
                          大賀正美 
 
▼原発に古里追はるる老人ら離れ難しと強く言ひをり 
                          奥村久子 
 
▼伝へ聞く風評被害の恐ろしさ人の心はかくまで弱し 
                          亀谷増江 
 
▼シーベルトといふ聞きなれぬ単位など日々映像に見つつ怖るる 
                          川上あき子 
 
▼被災地と原発のこと気になれど落ち着かん為テレビ消したり 
 
 八月に入りしばかりに原発の事故に係り米の値上る 
                       2首 田中夏子 
 
▼震災の瓦礫受け入れ燃せる炉の東京の空に白煙高し 
                          土肥義治 
 
▼次々のメルトダウンにただならぬ原発事故を悼み日々逝く 
 
 福島原発未だ終息無きままに逃避のごとく出国をする 
 
 ロンドンの国際会議のレセプシヨン各国の人ら原発憂ふ 
 
 欧州は遠きにあれば福島の事故を日本の汚染とぞ見る 
                       4首 波 克彦 
 
▼余震つづき原発事故に戦きて仰げる空に月あかく照る 
 
 青々と茂る稲田は放射能浴びしともなく夏日に育つ 
                       2首 山本尚子 
 
 
  ◇埼玉・群馬・栃木編◇ 
 <埼玉> 
▼いちはやく若葉となりしわがめぐり原発事故の殊更悲し 
                          市川勢子 
 
▼停電のために仕事の目処つかず待機の続く日々になれゆく 
                          今給黎恵子 
 
▼節電に植ゑしゴーヤは競ふごとつるを伸ばして役目終らん 
                          大槻和子 
 
▼にぎやかに訛まじへて隣家に原発避難者二泊し帰る 
                          大野悦子 
 
▼誰の目にも見えざるものの恐怖にて日々を過ごしぬ原発の事故 
                          神田智子 
 
▼人災といふ他はなし放射能汚染のニユース朝夕にきく 
 
 一向に減りゆく兆し無きままに放射能汚染すでに一年 
                       2首 小峯甲子夫 
 
▼住む家を根こそぎ津波に奪はれし妹あはれ原子炉近く 
 
 停電の今宵蝋燭ともしつつしばらく祈る思ひにゐたり 
                       2首 佐藤淳子 
 
▼楽しみに待ちし新茶が放射線に汚染されしとニュースに聞きぬ 
                          清水和子 
 
▼原発に関りて来しわが兄の事故後は言葉少なくなりぬ 
                          杉本康夫 
 
▼原発の不安かかへゆく畑にクリスマスローズ花あまた咲く 
 
 原発の平和利用も色あせる地震ののちの日本のうつつ 
                       2首 多田隅松枝 
 
▼汚染され作付出来ぬ土ときく里芋植ゑつつなにか寂しく 
 
 停電の暗き部屋内にこもり居て灯火管制の戦時思ひ出づ 
                       2首 富田国子 
 
▼疑ふなく電化は便利と慣らされて計画停電に戸惑ふわれは 
                          内藤勝恵 
 
▼生(あ)れし子の未来思へば祖父われはためらはず放射能測定器買ふ 
                          長田邦雄 
 
▼チエルノブイリ原発事故に似たるもの祖国に起こるこの悲しみは 
 
 原発と余震に不安つのる朝祈りたるのち平安にゐる 
                       2首 町田のり子 
 
▼遠からずセシウムの検査のあるといふ稲田何処も穂の出揃ひつ 
                          横川ます江 
 
▼放射能汚染ひろがりわが町の狭山の茶にも及び来たるか 
                          横山節子 
 
▼放射能をおそれて移り住むといふあはれと移りゆかぬあはれと 
                          四元 仰 
 
▼大き被害ここになけれど去らぬ不安為すべきは何おろおろとゐる 
 
 原子力発電反対デモの列にわが在りきかかる日を恐れしに 
                       2首 渡邉久江 
 
 
  <群馬> 
▼節電を気にかけながら震災と原発事故のニュース見守る 
 
 戦争の父母の世も去り平穏の今し原発の事故に怯ゆる 
 
 夾竹桃凌霄花のはや咲けど原発事故の収束見えず 
                       3首 小堀高秀 
 
▼放射線恐れてわが町去りゆきし一家あること母非難する 
 
 セシウムの故に公魚(わかさぎ)禁漁となりてわが父釣りにし行かず 
                       2首 塩島 翔 
 
▼つぎつぎと放射性物質検出され水も野菜も安心できず 
 
 原発事故の収束気配見えぬいま野菜畑に神経つかふ 
                       2首 笛木力三郎 
 
▼セシウムにひまはりの花良しと聞き種蒔き育て何本か咲く 
                          宮杉三千代 
 
▼わが町の米のセシウム不検出伝ふる回覧胸に抱きしむ 
                          渡辺久江 
 
 
  <栃木> 
▼耕作の終りし畑を持て余す放射線量数値に振り回されて 
 
 放射能に侵されをらん水張田に五月連休田植機うごく 
 
 放射線数値を知ればわが畑に胡瓜茄子苗迷ひつつ植う 
 
 稲を刈る音の響きて原発の事故の影響故なくおそる 
                       4首 小野満朗 
 
▼懐しといふには哀れ停電に蝋燭を灯し夕餉となりぬ 
 
 放射能は遂に地球に広がりて人類破壊も来ることありや 
                       2首 小薬守弘 
 
▼割り当ての計画停電の夜なれば蝋燭ともし被災地思ふ 
 
 親しみしいわきの友はつづまりに原発の禍事知らず逝きたり 
                       2首 佐藤 充 
 
▼放射線浴びたる牛の乳売れず絞りては捨つる無念を思ふ 
                          古橋正治 
 
 次回も引きつづいて『平成大震災』から原発詠を読む。 (つづく) 


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