2013年05月25日11時31分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(108)歌集『平成大震災』(「歩道)同人アンソロジー、秋葉四郎編)の原発詠を読む(6)「原発の知識とぼしく過ぎしわれセシウムなるもの知りて戦く」 山芳彦

 歌集『平成大震災』に収録された作品から、原発にかかわって詠われた(筆者の読みによる)短歌を読んできて、今回で終るが改めて結社「歩道」のこのアンソロジー出版に敬意を表したいし、作品を寄せられた歩道同人の方々への共感を強くしたことを記しておきたい。この歌集を編集しながら、「作品の前では流涕佇立、長く時が流れてしまったのである。同時に、本集を後世に残す意義を改めて感じさせられもして、奮い立って仕事をつづけたのでもあった。」と「あとがき」に書いた秋葉氏の真情に感動を新たにしている。 
 
 歌集の作品を読みながら改めて痛感したのは、東京電力福島第一原発の壊滅的な事故がもたらした災厄は、原発周辺地域において極めて具体的で深刻であるとともに、福島、東日本各地のみならずより広範な、全国的なものであることであり、同時にこの国の原発エネルギー依存の国策、大企業利益優先の経済構造によって作り出されてきた結果であると考えれば、すべての人々が直面する原発災、原子力災を明らかにしているということであろう。そのことを、福島に深く思いを寄せながら全国の詠う人々が短歌作品によって、その詠いぶりは多様多彩であるが表現しているのだと思う。 
 
 原発事故による放射能被災の具体、あるいは不安と怒り、そして原発エネルギー依存の体制を作り出してきた政治・経済への不信、その体制のもとでの生活のありように鈍感でありすぎたことへの人としての自身への自省、将来を託す子や孫を思う心情などが、さまざまに、それぞれの立場や感性によって短歌作品が紡がれている。この詠う人々の思いは、一時的なものであるはずはなく、現在のこの国の中で生き、将来に引き継いでいくもののありよう、生き様と関ってより豊かな社会性、生活の具体、国の主権者としての自主的自発的な政治や経済のありように対する姿勢と実際の行動と結びついて原発問題を捉えていく、さらに核兵器、平和の問題にも視点を定めて詠うという「行動」のあり方が継続され、深まり、高まり、広がるであろうと、筆者自身の生き方も含めて考えている。 
 
 原発がなければグローバル経済競争に勝てない、国の力が衰える、人々の生活が成り立たないなどという、政治や経済の世界の支配勢力の恫喝に違いないさまざまな言辞を、人間の生きる歴史の中にあって大きな責務を持つ者の一人ひとりが、構えを正さなければならないことを原発事故は明らかにしていると思う。詠うものは詠うものとして、構えを持つことが必要だし、短歌文学を担う一人として恥じない作品を残していきたいと思いながら、これからもこの「核を詠う」連載を、非力を承知しながらだが続けたい。 
 
 今回が最後になるが『平成大震災』の原発詠を読みたい。 
 
 
  ◇長野・山梨・石川・新潟・富山編◇ 
 
<長野> 
▼被災地を遠く思ひてわがくらしいくばく変化の現はれてをり 
                          青柳富子 
 
▼馬鈴薯の種選りにつつ津波禍と放射能及ぶ農家を思ふ 
                          小林英子 
 
▼予期をせぬ災害次々おこりきて日ごとに心は重くなりたり 
                          中澤千恵子 
 
<石川> 
▼一か月経しに余震の収まらぬ地にて原発の事故のひろがる 
                          金津淑子 
 
▼シーベルトなどといふ知らぬ単位にて原発汚染の追ひ打ち報ず 
                          小牧澄子 
 
自らの被曝いとはず携はる人の勇気ぞ尊く思ふ 
                          高沢紀子 
 
▼避難地に防護服着て線量計の音をききつつ娘仕事す 
 
大震災の原発事故にてをさな孫思へばわれの心みだるる 
 
避難して人無き町に仕事にて娘ゆき放射線量はかる 
 
放射線量高き町にて仕事して覚悟のありと娘のいひつ 
                       4首 山元暢子 
 
<新潟> 
▼悩みつつ居し事いつか原発より漏るる放射能にて忘る 
                          田中茂雄 
 
▼原子力建屋の傷みあらはなり映像揺れて恐怖を誘ふ 
 
不具合の又もや生じ原子炉の廃炉に至る先行き怪し 
 
冷やすのに海水注ぎいよいよとなれば海にし廃液流す 
 
高きより見下ろす原子力発電所さざ波の寄る浜に迫(せ)り出す 
                       4首 柳 照雄 
 
<富山> 
▼目に見えぬ放射線量の恐ろしさ野菜畑のかたへに立てば 
                          稲葉千恵子 
 
 ◇静岡・愛知・岐阜・三重編◇ 
<静岡> 
▼被災地の人々の苦悩思ふときわれの憂など微々たるものぞ 
 
便利さに慣れて来りしわれ等にて如何に受けとめん子の大震災を 
                          太田たみゑ 
 
 
▼天災と原発事故は人間の未だ及ばぬ領域と知る 
                          鬼丸早苗 
 
▼わが耳の衰へしかど放送の計画停電しつかりときく 
                          渡辺さち子 
 
<愛知> 
震災に加へて原発事故起こり計画停電子等にも及ぶ 
                          三輪嘉子 
 
<三重> 
▼姿なく音も臭も無く迫る放射能防ぐ英知ぞあれよ 
                          乾 定子 
 
▼高度なるミリシーベルトに避難せし人ら思ひつつ早苗植ゑをり 
                          宇野公子 
 
▼原子力災害防がんと挑みたる人を思へば心のたぎつ 
                          辻田悦子 
 
▼放射能無しのデーター添へられし香にたつ会津のあかき桃食ふ 
                          山口さよ 
 
 ◇京都・兵庫・和歌山・奈良・大阪編◇ 
 
<京都> 
▼目に見えぬ放射能ゆゑ不気味にて遠き地なれど恐れて暮らす 
 
シーベルトメルトダウンと聞き馴れぬ言葉怖るる日常にして 
                       2首 小山孝子 
 
▼避難民五十七万人といふいかにならんか個々の人生 
 
原発の事故の処理にし携はる人の言葉に危局をおぼゆ 
                      2首 中川愛子 
 
▼放射能を怖れずひたすら原子炉に働きくるると聴くにをろがむ 
                           中埜由季子 
 
▼人間の不安は科学の発展によると言ひたる漱石遠し 
                           長谷川淳子 
 
 <兵庫> 
▼次々と起る原子炉の爆発事故人間の驕りを見る思ひする 
                           井上博子 
 
▼パソコンにて同志を集め被災地の児童に卒業式送りし若きら 
 
卒業のけぢめ待ちゐし飯舘の子ら卒業式贈られ喜ぶ 
                           坂口すみ子 
 
 <和歌山> 
▼作業員の被曝を聞けばわれの病む暗き後遺症の勿(なか)れと祈る 
 
被曝の後二十余年経て発症する放射線後遺症を余人は知らず 
 
次第なく拡がりてゆく放射能汚染にわれの悩みは尽きず 
                        3首 岩前洋子 
 
▼蝋燭の明かりたよりに被災地のニュースラジオに一人聞きをり 
                           新家 隆 
 
▼天災の再び迫り東北の避難勧告悲しみて聞く 
                           和田美喜子 
 
  ◇島根・鳥取・広島・山口編◇ 
 
 <島根> 
▼遠き地の福島原発の事故により沃素わが街に風に乗り来る 
                           池野國子 
 
▼放射線防御に日夜作業する人らの心中思へばいたし 
                           大久保達子 
 
▼耳慣れぬ言葉を日々にわれは聞くシーベルト建屋冷たきひびき 
                           小田裕候 
 
▼原発の知識とぼしく過ぎしわれセシウムなるもの知りて驚く 
                           水津正夫 
 
 <広島> 
▼目に見えず音なき香なき原子炉の知らぬ事多し畏れつのり来 
                           早川政子 
 
▼福島の米が出荷さるるといふ故なくうれし農民われは 
 
仙台の親戚より新米届きたり袋の中に安全の証あり 
                        2首 古屋敷和也 
 
 <山口> 
▼単一の電池と水を送りたり計画停電実施と聞きて 
 
痩せ細りし牛群るるさま痛ましき立ち入り禁止の福島の地に 
                        2首 林 真須美 
 
▼数頭の牛らさまよふ被災せる原発五キロの無人の町は 
                           三井文恵 
 
  ◇四国各県編◇ 
 
 <愛媛> 
▼計画停電に備へ懐中電灯と携帯ラジオを子に送りやる 
                           安藤美津子 
 
▼茶を摘みてその葉すなはち廃棄する放射能の害をおそれて 
                           河野真一 
 
▼房総の最南端にわが立ちてこの海に続く原発うれふ 
                           佐々木加代子 
 
▼限りなき恩恵を受けし原発の事故にて恐怖は限りもあらず 
                           檜垣文子 
 
▼原発の事故に余儀なく避難せし人等の苦痛いつまで続く 
                           別府美枝子 
 
▼原発の被災の海に寄り添ひて産卵をする河豚をあはれむ 
                           村上時子 
 
▼原子炉を鎮圧せんと身を賭して放水をする人のたふとし 
 
原発に対する不安不信感対応まずく不安のつづく 
                        2首 柚山サツキ 
 
 <徳島> 
▼原発の日々変りゆく恐怖感四国に住みゐるわれもをののく 
                           藤本ひさ子 
 
▼原発の被害報道もどかしくその内容に真偽うたがふ 
 
放射能に避難の範囲広がりて数十万人その土地を去る 
                        2首 嶺 敬二 
 
  ◇九州各県・米国編◇ 
 
 <福岡> 
▼大津波に原子炉壊れ放射能世界にばら撒く日本となれり 
 
放射能の被爆を受けし国ながらなほ原発にすがらんとする 
                        2首 大津留 敬 
 
▼想定といふ言葉など自然界にあらずと聞けばこよひ諾ふ 
 
メルトダウンといふ言葉さへ聞き慣れて原発事故のまち人離る 
                       2首 草葉玲子 
 
▼震災の地より移り来し隣家の老二人病み心を閉ざす 
                          古賀泰子 
 
▼新聞の一面埋むる原発を案じて今日も祈りつつ見る 
 
終息はいつの日ならん今日もまた地震を告ぐるテロップ流る 
                       2首 財前 操 
 
▼放射能の汚染聞きつつ庭の梅漬けんとへたを丹念に取る 
 
この冬の節電思ひ綿入れの久留米襦袢捨て難くをり 
                       2首 白土久美子 
 
▼父母が広島にて守りくれしこと東北震災見つつ身にしむ 
                          津田成子 
 
 <大分> 
▼原発の地にて農をぞする人ら思ひて葉煙草の手入れ進むる 
                          足立セツ子 
 
▼日すがらの風をさまりし夕庭に被曝せし人しきりに思はる 
                          衛藤次子 
 
▼原発の岬に近き大分の安全思ふこの震災に 
 
原発の汚染に苦しむ被災地に風評被害は更に重たし 
                       2首 大塚信子 
 
▼原発の災害知ればわが国の電力のこと改め思ふ 
                          森田暢子 
 
▼放射能汚染広がる農地にて米も野菜も作れぬといふ 
                          渡邉政秀 
 
 <宮崎> 
▼震災の津波原発事故のさま映像見つつ心ふるへる 
 
原発事故の避難地域に残されし牛の餓死せる哀れを思ふ 
                     2首  安部洋子 
 
▼被災地の一時帰宅の酪農家制限時間に牛捜しをり 
                         永山秀男 
 
▼此の広き空の果てより放射能降ると思へば身の毛の弥立つ 
                         本多茂雄 
 
<熊本> 
▼目に見えぬ体内被曝いかにせん汚染されゆくうつつ恐るる 
                         中山弘子 
 
▼トマト苗植ゑつつ思ふ放射能被災地農家のなげきといかりと 
                         森田素子 
 
<鹿児島> 
▼原発の放射能漏れくり返し報ずるを聞く腹立つ思ひに 
                         木場克子 
 
▼かつてなき原発の事故安全に戻る日待ちて日々祈りをり 
                         永吉 進 
 
<長崎> 
▼被曝せし身はこの度の原発の事故に共振し古傷疼く 
                         六田正英 
 
<佐賀> 
▼原発の近くに住むわれ福島の原発事故は他人事(ひとごと)ならず 
                         山下和子 
 
 歌集『平成大震災』には「第二章 書き残す」10篇があり、原発について書かれた貴重な文章も含まれていることを附記しておく。 
次回も原発にかかわって詠われた短歌作品を読んでいく。 (つづく) 


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