2013年06月05日13時26分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(109)『東日本大震災歌集』(現代歌人協会編)から原発詠を読む(1)「ヒロシマの廃墟と重ね東北の原発事故のぬけがらの街」    山崎芳彦

 全国の歌人780人を会員とする現代歌人協会(佐佐木幸綱理事長)が刊行した『東日本大震災歌集』(2013年3月11日付発行)は、同協会が去る3月9日に福島市の福島テルサで開催した「現代短歌フォーラム イン福島」―3・11はどう表現されたか―の企画とともに、それに先立って全会員に呼びかけ作品を募り(1人1首、483名が出詠)まとめたアンソロジーである。 
 
 同協会は、結社を越えた歌人の団体として、さまざまな活動を行なっているが、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故を受けた被災地支援企画として福島においてこのフォーラムを開催した。全国各地から355名の歌人が参加して、歌人が3・11をどう表現してきたか、さらに今後どう向き合い詠っていくかについて、また被災地と非被災地、被災者と非被災者の文学表現のありようなどについて、活発な討論、意見交換がおこなわれたことは意味深いことであったと言える 
 
 さらに、『東日本大震災歌集』を刊行し、483人の会員の出詠作品をまとめたわけだが、佐佐木幸綱理事長は同歌集のまえがきで次のように記している。 
 
 「二〇一一年三月十一日の東日本大震災の日から二年が経った。まだまだ現地では辛い状況が続いている。壊れてしまった福島原発の後始末もまだ行く先が見えない。 
そんな中で、私たち現代歌人協会は『現代短歌フォーラム イン福島』というイベントを企画し、合わせてこの『東日本大震災歌集』刊行を企画した。現会員七八〇人に呼びかけたところ、四八三人の会員が賛同してくれた。こうして一冊にまとめたのがこの歌集である。 
 短歌には機会詩の一面がある。たとえば関東大震災、第二次世界大戦等、歴史的な場面で先輩歌人たちは数多くの短歌作品を残した。歴史の曲がり角が個人にどう見えたか。震災や戦争が個人の心にどんな波紋を広げたか。マスメディアのとらえ方とはちがう、個人的、文芸的な視点でとらえた各場面が短歌作品として歴史にのこされ、多くの人に読まれてきた。この歌集も、多くの人に読んでいただければありがたいと思う。 
 また、短歌には古代から鎮魂・祈りの一面があった。多くの荒魂が短歌によって鎮められ、救済されたことご存知のとおりである。ここに収録した四八三人が心をこめて歌った四八三首が、大震災による不運な荒魂を鎮める言霊をいささかなりとも発揮してくれればと願うものである。」(二〇一三年一月十六日) 
 
 この歌集は、フォーラムの資料としても使われた。 
 本稿では、収録作品の中から原発にかかわって詠われたと筆者が読んだ作品を抄出し、記録することになるが、いうまでもなく、歌集の全ての作品が貴重であると考える。この連載の意図によって記録できない作品が少なくないのはやむをえないとはいえ、心残りとなる。また筆者の読みが作者の意図に沿わないことがあればお詫びしたい。同歌集で、作者氏名の五十音順に作品が排列されているのにしたがって、ここでもそのとおりに記録していく。 
 
 ▼あ行 
◇犬のマスクをネット販売で買はむかと娘が言ひぬ放射線分布図(ぶんぷづ)見つつ              亞川マス子(神奈川県) 
 
◇しづかなる力の壁に群衆の声うちしぶきうちあふところ 
(首相官邸前大飯原発再稼働抗動)        阿木津 英(東京都) 
 
◇蜃気楼のやうに映りてわが国の原発建屋消えてはくれぬ 
                      足立敏彦 (北海道) 
 
◇新聞の疎開の文字に六十年前のものなき疎開思ひ出づ 
                      阿部栄蔵 (群馬県) 
 
◇水清き井の頭公園歩みゐて色も匂ひもなき毒想ふ 
                      青木春枝 (東京都) 
 
◇ニッポンの魚は一切ありませんノッティング・ヒルの寿司レストラン 
                      秋山周子 (東京都) 
 
◇平和ぼけしたる我らか五十基の原発易く諾いて来ぬ 
                      朝井恭子(神奈川県) 
 
◇隧道の入り口深き闇ありて抜け出づるすべありや この春 
                      穴澤芳江 (東京都) 
 
◇風評を恐れず来たる木更津に大きはまぐりざくざく出でぬ 
                      井口世津子(東京都) 
 
◇ブレーキの利かなくなりて震災に狂ふ原発放射能撒く 
                      井上まさみち(和歌山県) 
 
◇「いまだ見ざる遺伝子破壊」を起こすものメルトダウン後も建屋に潜む 
                      井上美地 (兵庫県) 
 
◇積みておく他にすべなし常ならば堆肥となさむに今年の落葉 
                      石川勝利 (埼玉県) 
 
◇東京に空が無いと言ふほんたうの智恵子の空を奪ひしわれら 
                      石川洋一(神奈川県) 
 
◇ヒロシマの廃墟と重ね東北の原発事故のぬけがらの街 
                      石橋妙子 (兵庫県) 
 
◇出荷停止になるやも知れぬ水田に植ゑしばかりの苗が震へる 
                      磯田ひさ子(東京都) 
 
◇成田より見捨つるやうに帰国する人らを見てをり晴れぬ念ひに 
                      市原友子 (東京都) 
 
◇手作りの菠薐草(はうれんさう)を持ち来しにセシウムの不安はなきかと問はる 
                    市村八洲彦(東京都) 
 
◇天がけり通へるは何 君の辺に雲流れゆけばすこやかにあれ 
                      櫟原 聰 (奈良県) 
 
◇人力も科学も非力(ひりき) 祈るよりすべのなければ蒼穹あふぐ―原発事故― 
                      岩田記未子(石川県) 
 
◇子を連れて逃げ惑う母たちの後姿(うしろで)のだれもだれも私の娘 
                      宇都宮とよ(東京都) 
 
◇放射線量怪しみもせでわが庭に季節外れのすみれが咲けり 
                      上田一成 (兵庫県) 
 
◇放射能濃度マップにひしめきて緋の色濃ゆく咲く彼岸花 
                      植松法子 (静岡県) 
 
◇深海に命の起源を見て来しか烏賊よセシウムを体に溜めるや 
                      内田 弘 (北海道) 
 
◇マツモトキヨシの店内中央ポップ付き線量計の値段をみたり 
                      浦河奈々 (茨城県) 
 
◇此処だって安全地帯とは言えぬ日が来るかも 蛍とびかう棚田 
                      江副壬曳子(佐賀県) 
 
◇ことごとく汚染されたる地のさくら咲き初めて会ふことしの春に 
                      遠藤たか子(福島県) 
 
◇誰が何を如何に言ふとも現実に君は放射能を怖れつつ生く 
                      小畑庸子 (兵庫県) 
 
◇皮をはがれ泣きたる兎を直(ただ)にみる除染の山の赤剥ぎのはだ 
                      大井 学 (東京都) 
 
◇子の好きな屈折放水車塔車けふ絵本を飛び出し福島へゆく 
                      大口玲子 (宮崎県) 
 
◇原子炉の数は五十を越えゐたり黙ってゐたのは荷担したこと 
                      大崎瀬都 (千葉県) 
 
◇放射能浴びてゴジラの生れしこと五十年経て現実となる 
                      大下一真(神奈川県) 
 
◇使用済み核燃料処理できぬまま再稼働許すは罪ではないか 
                      大畑悳子 (埼玉県) 
 
◇よごれてはゐないだらうかみづからを怖ぢつつやうやう茶の芽出できぬ 
                      大原葉子 (静岡県) 
 
◇強制退避の集落は闇となり果てて見捨てられたる牛の尻写る 
                      大平修身 (三重県) 
 
◇堪へ忍ぶヨブ記思はす原発の事故処理ならず人智たたかふ 
                      岡本瑤子 (福岡県) 
 
◇どこまでが人の領域どこからが神の領域弥生十一日 
                      沖ななも (埼玉県) 
 
◇放射能汚染の水を幾百年溜めおく地下の闇に怯ゆる 
                      萩本清子 (埼玉県) 
 
◇陸奥の安達ケ原の黒塚の夜をはたらく自衛隊放射能除染部隊 
                      奥田亡羊(神奈川県) 
 
◇千早振る神の暗喩かこの辺で引き返さねば羯諦羯諦波羅羯諦 
                      落合けい子(兵庫県) 
 
 
  か行 
 
◇西へ西へ避難する者寡黙なり混沌の静けさ東京駅は 
                      春日いづみ(東京都) 
 
◇原爆は許すまじ 原発は許し来し わが闘争史恥づ 
                      金子貞雄 (埼玉県) 
 
◇歴史書に 引揚者につぎて書かるべし。福島避難民 一人をわが知る 
                      上條通雅 (埼玉県) 
 
◇自らの制御の出来ぬもの作り滅びてゆくかホモ・サピエンス 
                      雁部貞夫 (東京都) 
 
◇爆風のやうに桜花は白く咲き三度目の原爆かくもしづけき 
                      川野里子 (千葉県) 
 
◇君も電気使ってるでしょと言いながら同僚が原発を弁護してくる 
                      川本千栄 (京都府) 
 
◇空うつりきて稲藁にひそむもの牛の肌骨をむしばむらしも 
                      菊澤研一 (岩手県) 
 
◇列島の壊滅を生む直下震、原発、闇の未来はだかる 
                      菊池映一 (岩手県) 
 
◇低線量被曝キャベツを食むやうにけふがあしたを蝕むだらう 
                      菊池 裕 (千葉県) 
 
◇核戦争の「渚にて」絵空ごとならず福島がそしてつぎにどこかが 
                      岸本節子(神奈川県) 
 
◇刈られざる麦の畑にざんざんと雨降り誰も勝たない戦 
                      久久湊盁子(千葉県) 
 
◇福島の歌友(とも)が発行の同人誌繰(く)れば起(た)ちくるベクレルの歌 
                    工藤邦男 (青森県) 
次回も『東日本大震災歌集』の原発詠を読み続ける。   (つづく) 


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