2013年06月16日13時07分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(111)『東日本大震災歌集』(現代歌人協会編)から原発詠を読む(3)「原発の五十基超ゆる現実にひしがるるのみ未だ間に合ふか」   山芳彦

 「命より金」「人間より経済成長」の安倍政権の本質をもっとも象徴的に明らかにしていることの一つは、その原発政策であるといっていいだろう。地球規模で人間の未来を暗黒の中に陥れる安倍政権の原発政策である。6月2日の全国規模での反原発行動の中での、芝公園の抗議集会で大江健三郎氏が「政権は政治的・経済的な根拠ですべてを進め、『倫理的』ということを考えない。核不拡散条約未加盟のインドと原子力協定を結ぶのは、広島・長崎への裏切りであり、国内の原発再稼働推進が福島原発事故で苦しんでいる人々への裏切りであるのと同じことだ。次の世代が生き延びることのできる世界を残すことを何よりも根本の倫理的根拠としてやっていくことが自分の仕事だと考えている。・・・」と語るのを聞きながら、筆者は高木仁三郎氏の著書『プルトニウムの恐怖』(岩波新書)に書かれている内容を思い起こしていた。 
 
 同書の第4章の「供.廛襯肇縫Ε爐罰乏隼供廚旅爐髻国会包囲行動の後に帰宅して、読み返した。 
 「核社会のパラドックス」に「いつかは起るだろう、と危惧されていることが、もっとも深刻な危惧をした人びとの予測すら超えて、早々と実現していく。現代はそんな時代なのだろうか。」として、1981年6月7日のイスラエル空軍機によるイラク原子炉の爆破のニュースについて記し「はからずもこの事件は、核社会の現実を明るみに出した。」と重要な指摘をしている。 
 
「一つは、原子力開発という名において核拡散が進んでいるという現実である。・・・そのテンポの速さとそれをめぐる緊張の激しさを、この事件はあらためて教えてくれたのだった。」 
 
 「もう一つは、通常兵器による攻撃によっても、核社会はたちまち核戦争の様相を呈するということだった。原子炉が爆破されれば、放射能の点では核戦争なみの状況が確実に出現する。たとえ原子炉格納庫が助かっても、冷却系に破断が生じ、停電が重なったら、メルトダウンは避けられない。核廃器物施設や再処理工場が狙われてもそうだ。」(爆撃ではなく大地震、大津波で福島第一原発は同じような事態になった。―筆者) 
 
 「仮に核兵器生産のための原子炉が破壊され、その内蔵する放射能がまき散らされたとしたら、その『核』はまさに自国を襲うことになる。これほど過酷な逆説もないだろう。これこそ核文明社会のかかえるジレンマである。」 
 
 つづけて、「インド核実験の衝撃」についても述べている。 
 
 「原子力開発が原爆製造計画として始まり、原子力潜水艦や核兵器技術の発展と密接に一体のものとして原子力開発が進んできた以上、商業利用が核拡散をうながす可能性は、歴史とともに常に存在してきた。・・・しかも技術的に考えれば、核分裂をより高度に制御し、安全性や経済性の制約も厳しい商業利用に対して、軍事利用の方がより安易であり、技術が前者から後者に流れるのは、純技術的には水が低きに流れるような側面を持っている。」 
 
 「・・・原子力発電によって否応なしに量産されるプルトニウムは、初期の頃からより大きな核拡散の危険性を秘めていた。その歯どめを米ソは核拡散防止条約に求めたが、この条約は核保有国の現状―したがっていわゆるタテの拡散―を固定化したことや、加盟・脱退に強制力がないことなどから、当初から有効性が疑問視されていた。」 
 
 「そんなもとで行われた1974年5月のインドの核実験は、核拡散への懸念を現実のものとした。・・・ほんのわずかな『平和利用』の施設を用いて、核爆発装置ができることをインドは立証してみせたわけであり、各国は核防条約の無力さを知らされることになった。」 
 
 インドは核保有国でありながら核不拡散条約に加盟していない。そのインドと原子力協定を締結することを安倍首相は急いでいる。インドの原発市場の大きさに、よだれを流さんばかりに、20基の建設計画があるとされるインド市場との原発ビジネスをすすめるために不可欠だからである。 
 
 日本はすでに、米、英、カナダ、オーストラリア、フランス、中国、EU、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシアの12国と原子力協定を締結しているが、さらに政府間で署名しているトルコ、アラブ首長国連邦があり、またブラジル、南アフリカ、インドと交渉中である。 
 
 このような中で、原発大国のフランスやアメリカとの提携を強め、フランスとの間では次世代原発の高速炉の共同開発にまで歩を進めようとしている。政府・民間原子力関連企業が密接な連携で進めているものであり、核燃サイクル事業の再構築もめざしている。アベノミクスでめざす経済成長戦略の中核的な位置に原発の国内での再稼働と海外への輸出を据えている。「原子力・核拡散大国」になろうとしている。その先に、なにがあるのか、核保有国を目指す危険性は大きい。改憲、国民支配の体制構築、逆コースの歴史認識の醸成、その他の現政権の姿勢を考える時、その原子力政策はにわかにどす黒い、反人間の色彩を明らかにするものであることを隠さない。 
 
 歯止めのないといえる安倍首相の原発セール外交、核拡散外交は、もとより日本自身の核保有、原発活用・依存のエネルギー政策なしに行われているはずはないのである。福島の経験、現実はすでに実質的に意識的な忘却の彼方であり、パフォーマンスと言葉の遊びの道具だてに落としこめられている。 
 
 原発を商品としながらの国際的規模での「核のセンター」にこの国をしようとしている日々の安倍政権の政策執行を止めなければならない。あらためて、行動し、声を上げ、近づいている参議院選挙での自民党勢力の地すべり的敗北を実現しなければならないのだろう。 
 
 短歌を読みながら、今を生きている筆者であるから、いろいろなことを思うのであるが、詠うものの一人として、政治や社会の現実と向かい合い、詠うことのできる力をわがものにしたいと願うが容易ではない。励みたい。 
 『東日本大震災歌集』から原発詠を読みながら、思うことは、政治や経済が、なんと私たちから遠くとらえどころがないものなのかという無力感に囚われてはなるまいということだ。なぜ詠うのだろうかとも、改めて考える。 
 
 
 た行◆
 
◇<心まで汚染されてたまるか>さうだとも、わたくしたちは真っ白な帆                     高木佳子 (福島県) 
 
◇線量はそちこちに満ち寄辺なき未来の闇をひたすら目指す 
                      高安 勇 (千葉県) 
 
◇方言が辛さ酷さをやはらげる農の顔なる一人に礼(ゐや)す 
                      武下奈々子(福井県) 
 
◇放射能含める土を削り削り削り削りて捨てん場所なし 
                      武田弘之(神奈川県) 
 
◇逃げられぬ樹木の立てりセシウムの濃度をはかる人のかたわら 
                      玉井清弘 (香川県) 
 
◇子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え 
                      俵 万智 (沖縄県) 
 
◇原発の熱き火ならぬ熱なき火ホタルの放つ冷光恋ほし 
                      丹波真人 (埼玉県) 
 
◇原発の放射能なほ増す村を見捨ててゆくほかなき老いの顔 
                      筒井早苗 (奈良県) 
 
◇原子核融合体なる日輪を神とあがめて人は怖じたり 
                      寺尾登志子(神奈川県) 
 
◇ジグザグに裁ち切られたる布ならず3・11前の空あとの空 
                      寺島博子 (栃木県) 
 
◇初めての計画停電実施にてひと日報導に振り回さるる 
                      戸田佳子 (千葉県) 
 
◇よしゑやし活断層はそこここにありとし聞けど棲まざらめやも 
                      遠山利子 (滋賀県) 
 
◇置き去りにされたる牛の虚ろな目眺めてあれば涙零るる 
                      時田則雄 (北海道) 
 
 
 な行 
 
◇「セシウムがヨウ素がなんでェ・・・北茨の沖に上りし鮟鱇のツラ 
                      奈良達雄 (茨城県) 
 
◇独り居の母に日本は計画の停電の闇割り振ってくる 
                      中川佐和子(神奈川県) 
 
◇澄みきった空の青さえ信じがたく襤褸となりし原発建屋 
                      中里茉莉子(青森県) 
 
◇放射能だらけの村をさまよへる犬の幽霊、牛の幽霊 
                      中地俊夫 (東京都) 
 
◇「フクシマ」と書き記さるるや「ヒロシマ」と同じカタカナ四文字に「フクシマ」と               中野照子 (京都府) 
 
◇原発のまえへを飛びて水放ちゐる自衛隊のヘリに涙流れき 
                      長岡千尋 (奈良県) 
 
◇原発の五十基超ゆる現実にひしがるるのみ未だ間に合ふか 
                      永井正子 (石川県) 
 
◇風評の被害といふが時をへて事実に変はる不安をふくむ 
                      永島道夫 (栃木県) 
 
◇セシュームを含むなら含め果物をショッピングカーに詰めて帰り来 
                      永平 緑(神奈川県) 
 
◇原発に追われ追われてゆく牛のふと振り向きしその目忘れず 
                      波汐國芳 (福島県) 
 
◇熔融の原発の向かうに凪げる海生命、方便(たづき)を呑みて鎮もる 
                      西村恭子 (滋賀県) 
 
 
 は行 
 
◇電気にも「高品質」があることを教へてくれしテレビを切りぬ 
                      馬場昭徳 (長崎県) 
 
◇放射能浴びし馬酔木も陽のひかり揺らしてしろき花垂れをらむ 
                      萩岡良博 (奈良県) 
 
◇地震国日本にして原発の恐怖発生人智を砕く 
                      萩本阿以子(大阪府) 
 
◇みづからが招きしもあれこの今の傷だらけなる日本を愛す 
                      橋本喜典 (東京都) 
 
◇被災せし人は誰も見ず 鳥瞰的津波映像を見るはわれらのみにて 
                      花山多佳子(千葉県) 
 
◇あの頃は地獄だったと息をつく今が地獄でないかのように 
                      浜名理香 (熊本県) 
 
◇憂悲苦悩逆巻くなかをひたすらに耐ふる民あり言葉少く 
                      原田禹雄 (京都府) 
 
◇目を剥(む)いて怒る入道雲立ちて入道雲よりをらぬ街あり 
                      日置俊次 (東京都) 
 
◇臨界への意思もつごとき原子炉の後をしづかに恐怖が追へり 
                      日高堯子 (千葉県) 
 
 
 次回も『東日本大震災歌集』の原発詠を読む。最後の回になるが、しかし、原発短歌を読むことは続けて行く。         (つづく) 


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