2013年06月25日11時00分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(112)『東日本大震災歌集』(現代歌人協会編)から原発詠を読む(4)「燃え滓の始末も出来ぬ原発なれど買ふてくだされ 技術でござる」   山芳彦

 『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店 2013.4.16発行)を読み始めた。同書は1986年4月26日のチェルノブイリ原子力発電所第4号炉の爆発事故による大惨事の影響を観察し、記録した研究者達の研究成果を5000点以上の文献・資料に基づいて系統的にまとめたものであり、膨大なデータと検証研究論文で構成されている。著者は、アレクセイ・V・ヤブロコフ博士ほか3氏、翻訳は星川淳氏を中心とするチェルノブイリ被害実態レポート翻訳チームによる。貴重な報告書であると思う。 
 
 300頁を越えるB5版の大冊にびっしりと組まれた研究・分析・記録の広範囲にわたる論文と、豊富な資料を読みこなせる自信は無いのだが、読まないでどうする、と自らを叱咤して読み始めたばかりである。「読んでどうする」と問われたら答えに窮するし、ましてや「理解できるのか」と問われても同様かも知れない。 
 いずれにしても、いまは同書についてなにかを記すところまで読み進んでいないのだが、「日本語版序:いま、本書が翻訳出版されることの意味」(翻訳チーム専門家アドバイザー 崎山比早子)の記述から、次の部分を引用しておきたい。 
 
「福島第1原発事故より2年が経過したいま、早くも人々は当初のあの大きな衝撃を忘れ去っているかのように見える。一方、住む家や生業を失い、避難生活を強いられている方は17万人以上とも言われており、不安な生活を強いられている。その上、原発の事故現場は依然として不安定であり、大きな余震が来た時に燃料冷却プールは倒壊しないのか、傷だらけの原子炉への冷却水注入に支障は生じないのか、溜まる一方の高濃度汚染水をどう処理するのか、累積する原発作業者の被曝をどうするのか等々、解決困難な問題は山積しているが、安心材料は1つとしてないといって良い。それにもかかわらず、政府は原発の再稼働にむけて準備をしている。 
 このような時期にチェルノブイリ事故による健康被害の実態が世に紹介され、被曝のリスクを軽視すれば25年後にどうなるのか、学ぶべきデータが示されたことの意味は大きい。」 
 
 もう一つ、「序論 チェルノブイリについての厄介な真実」(アレクセイ・V・ネステレンコ、ヴァシリー・B・ネステレンコ、アレクセイ・V・ヤブロコフ)の一部分も引用しておきたい。 
 
 「1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所4号炉の爆発は、地球上の何百万、何千万もの人びとにとって、人生を二分するものになった。『事故前』と『事故後』である。・・・チェルノブイリは人間の苦しみと同義になり、われわれの生きる世界に新しい言葉を付け加えた。チェルノブイリのリクビダートル(*現場の事故処理作業員)、チェルノブイリの子どもたち、チェルノブイリ・エイズ(*免疫系の疾患)、チェルノブイリの放射能汚染、チェルノブイリ・ハート(*心血管系の疾患)、チェルノブイリ・ダスト(*ウラン燃料その他の放射性核種が溶け合った固形の粒子、放射性微粒子)、そしてチェルノブイリの首飾り(甲状腺外科手術後の傷跡のこと)などである。」(括弧内の*印のことばは筆者が同書中に記載の説明により加えたものである。筆者注) 
 
 「この25年間で、原子力には核兵器より大きな危険が潜んでいることが明らかになった。チェルノブイリのたった1つの原子炉からの放射性物質の放出は、広島と長崎に投下された爆弾による放射能汚染を数百倍も上回った。どこの国の市民もだれ1人として、自分を放射能汚染から守れるという確証を得られなかった。1つの原子炉だけでも地球の半分を汚染できるのだ。チェルノブイリ由来の放射性降下物は北半球全体を覆った。」 
 
 以上の引用にとどめるが、既に同書を読まれた方にとっては不用のものであるがお許し願いたい。 
 
 「チェルノブイリ前」、「チェルノブイリ後」という言い方からすれば、私たちは「福島前」、「福島後」の「後」の日本で放射能と付き合いながら生きていくことになる。チェルノブイリの25年からすれば、まだ、2年である。福島原発の周辺地域の人びとの2年、そしてさらにこれから続いていく将来は言いあらわしようのないほどの苦痛、苦悩、不安を抱かせるとともに、しかし、再生への暁光のあることを願わせもする。もちろん、これは原発周辺だけのことではなく、この国に住み生活しているすべての人の問題である。抽象的にではなく、原発列島が再稼動に向って、プルサーマルの推進も含めて、政府・経済界によって現実のものになろうとしている。 
 やはり、筆者は『チェルノブイリの被害の全貌』をしっかりと読もうと思っている。そのことがこの連載「核を詠う」にどんなかたちかで生かされればとも考える。 
 
 ここまで記したところで、自民党の高市早苗政調会長のまことに許し難い発言を知らされた。自民党兵庫県連で17日に行った講演の中で原発問題について言及し、「福島原発事故によって死亡者が出ている状況にもない。そうすると、やはり最大限の安全性を確保しながら活用するしかないだろうという状況だ。」と原発再稼働を目指す考えを示したというのである。 
 言うべき言葉もない。そして、これが、あの毒々しい雰囲気を持つ高市早苗という政治家の本性を示すだけではなく、いま自民党の安倍政権の進めている原発政策の中での、嘘偽りのない本音であること、原発事故の被災者に対するまぎれもない向かい合いの姿勢であることを、確認するしかない。「命より金」の反人間的な経済成長至上主義とは、アベノミクスとは、こういうものであることを、私たちは認識するしかないし、そうであれば、どう立ち向かうかを問われているということだろう。それにしても、この国を人間が生きやすくすることは、人としての自らを確かめ、励まし、鍛え、同様につとめる人びととつながり、力を合わせることによるしかないのだと思い知らされる。 
 
 現代歌人協会が編んだアンソロジー『東日本大震災歌集』から原発詠を読んできて今回が最後になるが、改めて同協会と出詠歌人に敬意と感謝の意を記したい。 
 
 
は行◆
 
◇忘れるな3・11を忘れるな怒濤のやうな海を見詰めず 
                     疋田和男 (長野県) 
 
◇カンヴァスの裏から透かし見るやうな虚(うつ)ろな街に黄の蝶のとぶ                    兵頭なぎさ(香川県) 
 
◇回覧板に線量計のついてくる日常に慣れ静かなる友 
                     平野久美子(神奈川県) 
 
◇想定外・単純が生んだ放射能漏れ・人間の遺伝子が晒さるる世紀 
                     平山良明 (沖縄県) 
 
◇藍白きあじさいの朝の露に触れ深き災禍に目を閉じており 
                     藤井 霞 (東京都) 
 
◇経帷子(シュラウド)・水の柩(ウォーター・コフィン)とぞ はじめよりこの用の具を人は名付けき       藤井幸子 (兵庫県) 
 
◇明日はわが身、火山列島に身をかたく国の先行きを憂ひて止まず 
                     藤井玉子 (岡山県) 
 
◇政府の言信じてはならぬ福島の人達すぐに郷土離れよ 
                     藤本 啓 (兵庫県) 
 
◇アイ・ロボット社のロボット建屋に作業する「人間の危機を看過せぬ」ため                    藤原龍一郎(東京都) 
 
◇原発の無防備われらの話題なりもうじき死ぬから声上げるべく 
                     古木さよ子(静岡県) 
 
◇鍬の手を休めて仰ぐ陸奥の炉より延び来る高圧架線 
                     古屋正作 (山梨県) 
 
◇さらさらさらさらさらさらさらさらさらさら牛が粉ミルクになってゆく                    穂村 弘 (東京都) 
 
◇大惨事に言葉は無力さればとて如何なる言葉あるか解らぬ 
                     細井 剛 (北海道) 
 
◇災害にふるさとを去る決意せし男の肩に粉雪の降る 
                     堀江玲子 (東京都) 
 
◇見えぬもの測る科学は 白秋のまなこ聴きけむつきかげのこゑ 
                     本田一弘 (福島県) 
 
 
ま行 
◇遠巻きにながむる原子炉建屋なりいまだ絶えせぬ火種ありせば 
                     前川斎子(神奈川県) 
 
◇背後より近づいてくる靴音に怪雨(あやしあめ)ふる水無月の夜 
                     前川佐重郎(神奈川県) 
 
◇アネクメネ・エクメネ双葉の夜(よ)の森に記憶をひろげさくら咲きたり                    前田えみ子(千葉県) 
 
◇起こりしこと起こらむことを想へとや余震しばしば揺すぶりやまぬ 
                     蒔田さくら子(東京都) 
 
◇広辞苑五版になくて六版に「風評被害」あるをかなしむ 
                     松尾祥子 (東京都) 
 
◇フクシマは福の島なりき むかしむかしのよき日本の謂 
                     松川洋子 (北海道) 
 
◇安全と言えば即座に負けになる原発しりとり 危険でも負け 
                     松本 秀 (北海道) 
 
◇除染済とうも解(ほど)けぬ<安全>の後遺症、いまだ尖る矛先 
                     松下紘一郎(熊本県) 
 
◇インサイドそこに立ち入る勇気なく園芸スコップ握っていたり 
                     松平盟子 (東京都) 
 
◇ぶつちやけて経済とるか安全かどうするおまへ 両方だつぺ 
                     松谷東一郎(千葉県) 
 
◇ゆくみちの未だ定まらず福島の桃あがないて雫し食むに 
                     松村あや (岐阜県) 
 
◇詩もパンも祈りと気づく深き闇あなたへ光届けるための 
                     松村由利子(沖縄県) 
 
◇こころまで壊されまいと籠る日のそれでも雛罌粟ひらく卓のうへ 
                     松本典子(神奈川県) 
 
◇放射性物質ひそみいんとても涼しくなびく月夜のすすき 
                     丸山三枝子(千葉県) 
 
◇原発への通勤圏にほかならず避難退避のあの半円は 
                     三浦 武 (東京都) 
 
◇原子炉をかかへて被災せし街のかすかなる灯も闇となりたり 
                     三崎 澪 (京都府) 
 
◇避難するを選ばざるを得ずして避難せし人ら放射能ゆえ帰れる日不明 
                     水落 博 (香川県) 
 
◇町ぐるみ立ち入り禁止のままの秋泡立草のみ風にそよぐ田 
                     水野昌雄 (埼玉県) 
 
◇朝刊の折りたたまれしすき間よりセシウムのウムがこぼれさうなり 
                     宮本永子 (埼玉県) 
 
◇「土下座せよ」言ふ人も言はれて為す人も既に復する無きを知りゐて 
                     村岡嘉子 (東京都) 
 
◇エレミアの哀歌流るる焼け跡を歩みし戦後いまに還るを 
                     森 淑子 (東京都) 
 
◇まづ何を誰を思ふか自らの揺れみつめつつ地震列島に住む 
                     森利恵子 (東京都) 
 
 
  や行 
 
◇燃え滓の始末もできぬ原発なれど買ふてくだされ 技術でござる 
                     安江 茂 (愛知県) 
 
◇シーベルト新聞と首っぴき朝々を原発神話はやはりなかった 
                     山川純子 (北海道) 
 
◇みちのくの鮭を食ひたしとりわけて大槌川をさかのぼる鮭 
                     山田富士郎(新潟県) 
 
◇地図上に犖胸厠和辞瓩聾当たらずストロンチウムのごとく浮遊せる 
                     山本 司 (北海道) 
 
◇乳呑み児の孫のためペットボトルの水お一人様に一本を買ふ 
                     山本登志枝(神奈川県) 
 
◇「水棺」とならむ原子炉幾基暮れ終末に似て海の残照 
                     結城千賀子(神奈川県) 
 
◇鎧袖一触海魔(リヴァイアサン)に拉がれて錆腕(さびわん)アトム昏々の眠(みん)             依田仁美 (茨城県) 
 
◇原発をめぐる政府の答弁はムーンウォークを見るごとくなり 
                     横山三樹 (東京都) 
 
◇天皇が原発をやめよと言い給う日を思いおり思いて恥じぬ 
                     吉川宏志 (京都府) 
 
◇がんばろうフクシマ産の顔ほどのずしりと重い梨をほおばる 
                     吉沢あけみ(埼玉県) 
 
◇かすかなる夜の地震を捉えたりふるさと福島に呼応するかに 
                     吉田恵子 (東京都) 
 
◇想定を遥かに越えしなどと言ふ都合よく過小に評価しておいて 
                     吉村睦人 (東京都) 
 
◇産むからだ産みたいからだ産むかもしれないからだ 怖れるからだ夏を白くす                 米川千嘉子(茨城県) 
 
 
 わ行 
 
◇放置されさまよふ黒毛の牛三頭テレビ画面の奥に消えゆく 
                     和田親子 (千葉県) 
 
◇防護服の白さまなこを去らぬ夜の月の中にもひとうごくなり 
                     鷲尾三枝子(東京都) 
 
◇福島のニュース見るたびわれが持つ国外逃亡者のごとき錯覚 
                     渡辺孝一(イギリス) 
 
 
 次回からも原発を詠った短歌作品を読み続けたい。   (つづく) 


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