2013年07月07日13時14分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201307071314100

文化

【核を詠う】(114)三原由起子歌集『ふるさとは赤』から原発詠を読む(2) 「福島を学ばぬままに再稼働を求める人らは富しか見えず」  山芳彦

 7月4日に参院選が公示され、21日の投開票に向けて選挙戦がたたかわれている。参院選だから政権を争う選挙ではないのだが、選挙の争点を考えればやはりきわめて重要な選挙である。参議院でも安倍政権の与党勢力が過半数を占め、万が一にも3分の2に達するようなことがあれば、この国はきわめて危険な状況を迎えることになるだろう。 
 
 憲法をはじめ、この国の現在と将来に関る諸問題を考えれば、安倍政権が掲げている政策方針は、どのように言葉を飾り、理屈立てをしようとも反人間の悪意に満ちた本質を持つものだ。 
 
 ここでは、安倍政権の原子力政策、原発政策について言うが、既に原発再稼働、推進、原発の海外への輸出などが、福島第一原発の収束の見通しも、被災者の惨憺たる現状も無視して進められているのである。経済成長戦略のきわめて重要な基礎的資源として原発を位置づけているのだから、もし参院選でも大きな議席増を得るようなことになれば、主権者の支持を得たと強弁して、動きに拍車をかけることになるであろう。その一方で原発事故による被災者に対してだけでなく広くこの国の人びとを、核放射能に関して欺瞞と隠蔽の「原子力ムラ」体制を従来にも増して強化し、巧妙かつ権力的に統制するような方向に進むことになろう。安倍自民党の「改憲草案」の内容を見れば、彼らが決める「公共の福祉」「社会の秩序」「公益」によって実質的に国民主権は制約されることになる。そういう社会をめざす政府のもとで、原発問題がどのように扱われるか、脱原発、原子力文明の克服をめざす人々の要求を実現していくことが困難になることは、いま安倍政権が進めている原発政策を考えても明らかだろう。「改憲草案」、まだ改憲が行われていないからといって甘く見るわけには行かない。現実に、現憲法に反することがさまざまに行われていることを直視しなければならない。 
 
 いずれにせよ、これ以上安倍自民党政権にとって有利になる政治状況を作ってはならないだろう。先ず、この参院選挙で彼らの望む結果を与えてはならない。もちろん、選挙がすべてではなく、選挙結果によって一切が左右されるものではない。主権の行使が選挙における投票行動に限定されるものではないのだが、いま、参院選を目前にして結果的に安倍政権を利するような愚は避けなければならないだろう。 
 
 かつて高木仁三郎さんは「原子力というものは体制そのもの」であり「国と大資本の中心戦略になっている」ことを指摘したが、いままさにそのことがより鮮明になっている。そして、原発事故は、原発が存在する限り必ず起きる。核開発が為されてから今日まで、どれ程の経験と教訓を重ねてきたかを思えば、そしてその人間の現在と未来を否定するような惨禍を考えるとき、原子力エネルギーとの決定的な離別を選択しなければならないということを、今回の参院選における投票行動の基準にすべきだと、筆者は強く考える。これまで原爆、原発にかかわる短歌作品を読み続け、それにかかわってさまざまな文献や資料からも、不十分ながら学ばせてもらったが、切実にそう考えている。 
 
 本連載の前々回で、筆者が『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店刊)を読み始めたことを書いたが、同書の「著者一同」による「日本語版あとがき チェルノブイリからフクシマへ」の中から一部を引用したい。 
 
「本書の著者一同、日本国民に心からお見舞を申し上げると同時に、その苦しみを少しでも回避し、軽減し、放射能汚染の被害を可能な限り抑え込むために、日本が一刻も早く、確実に、チェルノブイリの教訓から学ぶことが重要だと確信している。チェルノブイリから25年のあいだに、ベラルーシ、ウクライナ、ロシアには放射能汚染地域の被災者に対する支援や生活・経済の再建について、非常に多くの経験が(良いものも悪いものも含めて)蓄積されてきた。この経験が日本で役立つかも知れない。」 
 「チェルノブイリの経験は、高濃度の放射能に汚染された地域で、近い将来に元の暮らしに戻ることは不可能だと教えている。その地で安全な生活を送るためには、日常生活や農業・漁業・狩猟において特別な安全対策を講じなければならない。必要不可欠な安全策には以下のようなものがある。 
・土壌中で、植物の根圏層から長寿命の放射性核種の除去を促す方策を案出すること。 
・安全な(放射性核種を含まない)食品の生産技術や、工芸作物など食用以外の農作物の生産技術を開発すること。 
・福島第一原発事故由来の放射性核種による影響を避けるため、体内に放射性核種を入れないため、そして取り込んだ放射性核種を排出するために、人びとが積極的に行動すること(放射能の防護や吸着の手立てを広めること)。 
・政府と自治体は、大規模な医療支援や社会的施策など、汚染地域における生活再建計画を策定すること。」 
 「そして、このような悲劇を二度とくり返さないためにも、勤勉で才知あふれる日本国民が、危険きわまりない原子力エネルギーの使用をやめ、自然がみなさまのすばらしい国に与えた枯渇することのない地熱や海洋のエネルギーを発電のために利用することを願っている。」 
 
 筆者は同書の全体をまだ読みきれていないし、読んだ部分についても十分には理解しきれていないが、事故の態様や、事故後の対応その他に違いがあるとしても、同書に記されている内容から学ばなければならないことは多いと思う。福島原発事故から二年余が過ぎたが、国や電力企業、関連大企業は果たして何を為してきたのか、事故後のこの国がどのような状況にあり、これからどうなっていくのか。放射能汚染の影響は、これから世代を越えて長い期間に渡って受け継がなければならない負の遺産であり、それと向かい合いながら生きていかなければならないことを考えれば、さらに加えての原発リスクを背負うことは、断固として拒否しなければならない。 
脱原発、存在する原発の廃炉や核廃棄物の安全な処理・無害化に向けてのみに限定した原子力に関する研究と技術の促進、そして再生可能な自然エネルギーへの転換、過度にエネルギーに依存しない文化、社会の構築などに向かうことこそが求められている。 
 
 三原由起子さんの歌集『ふるさとは赤』の作品を読んでいるのだが、参院選の公示ということもあって、私感を連ねてしまったがご容赦をお願いしたい。 
 
 
◇同心円の日常◇ 
 
▼「正月をふるさとで過ごす帰省客」になれないわれらは前を向くのみ 
 
休止中と地図に書かれし常磐線浪江駅より実家をなぞる 
 
三重(さんじゅう)の同心円の中にある町にいくつもの日常ありき 
 
ふるさとの空高くあり「カグノワダヤ、家具の和田屋」と振りまける声 
 
食堂に鍋焼きうどんの煮えるまで母と語りて窓は眩しき 
 
キヨスクのいつものおばちゃん見当たらず次は会えると改札を過ぐ 
 
お土産に「なみえ焼そば」携えて車窓より見る手を振る母を 
 
めずらしく雪が積もってめずらしく母と出かけて最後のふるさと 
 
走らないスーパーひたちは雑草に襲われてゆく駅のホームに 
 
避難先のお祭りで会うふるさとの人と話せば心は戻る 
 
子どもにも恋心はあり学び舎を追われてもなお想い続けむ 
 
除染という仕事を与え福島の人らを集めて二度傷つける 
 
「仕方ない」という口癖が日常になり日常をなくしてしまった 
 
 
  ◇一生(ひとよ)をかけて◇ 
 
▼あぶくまの山なみ太平洋の海近くにありき生まれしところ 
 
教育と洗脳の違い考えることなくのどかに日々を過ごしき 
 
海沿いの広すぎる空広すぎる灰色の土地 それでも故郷 
 
誰もいない請戸の川に鮭のよは知らないままにのぼりいるらむ 
                 (鮭のよ=方言で鮭のこと) 
 
夢に見る浪江町には目に見えぬものを恐れず生きてゆきたし 
 
しんしんと心の底にたまりゆく浪江の人の声を掬いつ 
 
廃炉まで四十年の知らせにてわれら長生きせむと誓いぬ 
 
 
  ◇重みを思え◇ 
 
▼除染をも背負わせ民を惑わししこの一年の重みを思え 
 
当たり前のように浪江に集う日は一人ひとりの夢に現る 
 
 
  ◇心を持ちて◇ 
 
▼島人(しまんちゅ)と原発について語りしが突き刺す一言「対岸の火事」 
 
東京生まれ東京育ちの人は言う君のふるさとは貧しかったと 
 
何をもって貧しいというか東京のインテリ気取りの貧しき心 
 
「うちの息子(放射能)浴び浴び(原発に)行ってるわ」というある母のこえ 
 
「くれぐれも身体を大切にしてね」ってメールを送ることくらいしか 
 
「元気だよ、被曝してるけどね」って笑顔の絵文字の返信メール 
 
  四号機建屋を映像に見る 
人影に驚きてなお現実を直視するべし心を持ちて 
 
 
 ◇桜を求む◇ 
 
▼「二〇一一年三月十二日浪江町死者一名」は大伯母だった 
 
乳ガンを闘い抜きしが地震来て逃るる時に胸打ちて死す 
 
「おばんです」大伯母の声が玄関に響きしわが家は幻影となる 
 
(浜通り元通り)というステッカーを疑えたやすく元通りなど 
 
海沿いの日々の欠片は校庭に学び舎の高さ越えて聳える 
 
さまざまな苦しみの人らが集いしが心裂かれてなお苦しみぬ 
 
満開の桜のときに生まれたというわれ浪江の桜を求む 
 
 
 ◇声を束ねて◇ 
 
▼将来を語れば誰かが言っていた「原発爆発したら死ぬ」って 
 
充血の眼をまっすぐにわれに向け除染の仕事を友は語りぬ 
 
むき出しの原子炉建屋に作業する人らがありて続く日本(にっぽん) 
 
福島を学ばぬままに再稼働を求める人らは富しか見えず 
 
空がただ明るい真昼 真夜中が永遠に続くようなふるさと 
 
沈黙は日ごとに解(ほど)けていくように一人ひとりと声を束ねて 
 
 
 次回も三原さんの作品を読み継ぎたい。     (つづく) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。