2013年09月15日12時19分掲載  無料記事
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文化

【核を詠う】(122)『平和万葉集 卷三』から原爆・原発詠を読む(1)「人智もて星の滅びに勤(いそ)しむや兵器にあらぬ核も怖るる」  山芳彦

 今回から読む『平和万葉集 卷3』は2000年8月15日に刊行されたアンソロジーだが、書名が明かしているように「平和を愛するという一点での共同とその発展」という目的に賛同する短歌人をはじめ文化・芸術の各分野で活動する有志の協力によって刊行されたものであることが、刊行発起人(加藤克己、近藤芳美、中野菊夫、武川忠一、碓田のぼる)による序文に記されている。 
 
 その序文では、 
「地球上には、今なお、多数の核兵器が存在しているばかりでなく、核保有国は、五カ国から七か国に増えております。」 
「日本でも昨年は、いわゆる『戦争法』や『盗聴法』、『日の丸・君が代』法などの諸法が、国民の広範な批判や反対の声を無視して、国会の多数の力で押し切るという事態が相次ぎました。」 
「さらに憲法調査会が国会に設置され、憲法九条など狙い撃ちに憲法『改正』への地ならしが進められようとしています。日本はいま、『戦争をしない国』から『戦争をする国』へと、大きく変容しようとしており、きわめて憂慮すべき状況となっています。」・・・と、新しい世紀を迎えようとしているなかで平和をめぐる厳しく危険な情勢に直面している危機感を表明し、 
平和をめぐるさまざまな問題に国民的な関心を草の根から発展させることが緊要になっていると述べている。 
 
 そのうえで「短歌は『万葉集』の時代以来、日本文学の大きな動脈として脈々として流れつづけ、愛好されてきた、民族的な詩形式」であり、「この短歌に、それぞれの熱い思いを託したアンソロジー『平和万葉集』は、新しい世紀にむけての平和のメッセージ」と強調し、「二十一世紀の激動の時代を生きる人びとに、これらのメッセージが正当に届き、引き継がれ、読みつがれ、癒しをあたえ、励ましを与えるものとなることを、心から願ってやみません。」と序文を結んでいる。刊行発起人に名を連ねた歌人をはじめ同書刊行の賛同者には故人となられた方が少なくない。平和を脅かす時代の流れを憂え、警鐘を鳴らした故人の「遺言」とも言えるし、いまも生きて詠い、各分野で活躍している有志の平和を求めて生きる意志、決意の表明でもあると思う。 
 
 同書が刊行されて13年を経た現在のこの国の状況はどうであろうか。いま読んだ序文の内容より、さらに平和をめぐるこの国の情勢は危機的な様相を呈しているのではないかだろうか。 
 いま、この国で何が起こっているのか、憲法の精神、内容がさまざまな手段で傷つけられ、空洞化されつつあること、平和、国民主権、基本的人権、生存権、思想信条・表現の自由、人間の尊厳が脅かされている、いま安倍政権の振る舞いを見れば、再び、危険な大国主義志向の道へと進むのではないかと考えることは、決して杞憂、故なき危惧だとはいえないと、思わないではいられない。いま、権力を持つ勢力が行っていること、行おうとしていることを真剣に知らなければならないし、それにどう向かい合うかを、詠う人も考えなければならない段階に来ていると、筆者は考えている。 
 『平和万葉集』を読みながら、また政治や社会の動きに意識的に気を配り、関り、為すべきことを為していくことに、筆者も努めたいと考えている。 
 
  ○疼きは消えず(抄)○ 
 
▼テレビ見つ広島長崎六・九日涙新たに平和の鐘聞く   (岩切正人) 
 
▼ガラス片今も体内めぐれると被爆者の友静かに語る 
  助け乞う友置き去りにせしことを語る被爆者の暗き眸よ (岡村安子) 
 
▼長崎の母校と共に消えし学友(とも)忘るることなし原爆の日くる                          (小野忠男) 
 
▼「原爆の子の像」埋める折り鶴は翔べぬまま言う「ノーモア・ヒロシマ」 
  遠き日の母の繰り言原爆に逝きたる叔父の叶わざる夢 (小野三枝子) 
 
▼原爆に飛び来し八月の皮膚あれば石塀を高く百日紅(さるすべり)咲けり                       (鴨志田峰雄) 
 
▼爆風に海に飛ばされし班長の柩ゆ一夜したたる雫 
  原爆ドーム映る川面に灯籠の祈りを乗せて闇に吸はれゆく(川口 豊) 
 
▼原発へ百キロ基地へ十五キロ個の死ときに憧れに似る  (桐生 栄) 
 
▼「原爆(ピカ)は人が落とさにゃあ落ちてこん」広島の媼しずかに言いぬ                       (小池左加江) 
 
▼戦いの風化に楔打ち込まん原爆ドーム世界遺産に   (小林智恵子) 
 
▼かの日屍体川面に満ちし元安川光る流れに魚跳びはねる 
額づきて眼あぐれば炎の彼方直線上にドーム黒く立つ  (坂本栄子) 
 
▼原爆の落ちし年より変わりたる吾の一生と思ふことあり 
  弁当を持たざる人も数多居て原爆の地にわれら学びき  (櫻尾道子) 
 
▼原爆てふ人智が無辜(むこ)の人民(たみ)殺す戦争と言ふ名の殺人装置                        (幸本保廣) 
 
▼原爆のドームを軸に二羽の鳶緩く舞いおり平和のひと齣 (佐藤節子) 
 
▼新世紀にあってはならぬと「原爆の図」世界に遺し俊さんの逝く 
                            (杉原宣代) 
 
▼六十余トンのプルトニウムを備蓄して非核を国是という欺瞞 
                            (須田林平) 
 
▼人智もて星の滅びに勤(いそ)しむや兵器にあらぬ核も怖るる 
                           (瀬良垣克夫) 
 
▼被爆者の手帳持つ君はピカドンを浴びし人らの看護り尽くしぬ 
                            (多賀芳美) 
 
▼戦(いくさ)と核に怯え来し年月(とき)の長かりき安らけき世来よ新千年紀                      (高田 力) 
 
▼召されしはただ一人のみ原爆の重き灼け野の七万の哭  (田川初義) 
 
▼鳩がゐて幼児がゐて早春の風うごきゐる広島平和公園 
  あの日あの時さらせしままの原爆ドームと一日の旅の記念に撮らる 
                            (武井綾子) 
 
▼わが受くる火刑なるべし壱岐島に韓国人徴用工の骨を灼きいつ 
                            (深川宗俊) 
 
▼巡り来る原爆の日よ向日葵の黄の花描く大皿飾る   (増田美津子) 
 
▼被爆をば語るは辛く黙しおれど心の焔(ほむら)消すすべはなく 
  これは夢 と思いながらヒロシマの人間襤褸(らんる)いまも夢みる 
                            (岡野絢子) 
 
▼陽炎のもえたつ彼方被爆せしヒロシマの電車せりあがりくる 
  熱線に灼かれしときのひろき洞抱きつづけてユーカリ繁る(三原豪之) 
 
▼被爆せし火傷の痛みを壕内に堪える外なかりき十二の夏に 
  止め得ざる核拡散の世紀末今こそ歌え「原爆許すまじ」 (森 篤行) 
 
▼実験だったといふ原爆に数多死せり二十世紀の罪に首垂る 
(山本かね子) 
 
 
  ○いのち輝け(抄)○ 
 
▼教わりながら鶴を折りいる少年のその手のひらに生まれたての祈り 
  戦争を知らぬ共通点われはもち生徒らと頭垂れる公園  (氏家長子) 
 
▼原爆忌かの日小脇に我をかかえ壕に走りし母の尊さ 
 ピカドンも大水害も受けし身よ終の日までを笑みつつ生きむ 
                          (浦川ミヨ子) 
 
▼祖母と母を原爆の日に亡くせしと九のつく日には水とらぬ人 
 海峡を越えて漂流する残滓核実験は見えず聞こえず   (岡田泰子) 
 
▼四度征き被爆せし夫をねぎらはむ思ひ一途に言葉とならざり 
                           (岡部かず) 
 
▼被爆者を卒論と決めて二世我母と異なる論理書きゆく 
 被爆後を生きたる証 生徒らの語り部として母壇上に上る(小川知子) 
 
▼原爆忌黙祷のみでは詮なくてバイクを飛ばして献血にゆく(小川壽子) 
 
▼原爆忌風化させじと子どもらに体験集読む声も強まる 
 登校日水着姿でかげおくりちいちゃん偲ぶ八月六日   (奥宮直樹) 
 
▼非核宣言平和を誓ひブロンズの母子像の立つ品川駅広場 
 ブロンズの母に抱かるる幼な児のモデルとなりし孫も高校生に 
                          (片山ちょう) 
 
▼去年までは被爆地に発つ夫病みて蝉時雨降る秩父の宿に (佐藤和子) 
 
▼四歳で被爆二世児を亡くしたる叔母は再び母とはならず (佐藤洋子) 
 
▼いくさ多き歴史の中にもことさらに核の惨禍は来世紀にも伝えん 
                           (四方温子) 
 
▼ヒロシマより帰り作文書きておりわが幼子は頭(こうべ)ならべて 
                           (実盛和子) 
 
▼父母(ちちはは)も還らぬ兄も安らかに眠れといわず核絶ゆるまで 
                          (田賀おとめ) 
 
▼太鼓に合わせ嬉々と踊れる少女等に平和よつづけ今日原爆忌 
                           (高杉淺子) 
 
▼原爆に息子(こ)をうばわれて哀しみの果てに阿修羅となりしわが姑 
 蝉哭きぬ狂いて哭きぬ哭きやまぬ八月六日惨忘れえぬ  (玉川良子) 
 
▼寂しげなドームを見上ぐ妻も子も黙然と立ち安けきと息吐く 
                           (中城 司) 
 
▼ヒロシマの土を埋めし父の墓ぬかづく母の背中丸まり(父爆心地に死す) 
まちんとと言いつつ逝きし児の童話ヒロシマに涙す五十年過ぎても(まちんと=もう少し)                (長田和子) 
 
▼学徒兵原爆に逝く涙こらへ思ひ出重き初恋といふ    (箱崎初枝) 
 
▼「生きたし」と詠みし女人の被爆短歌閃光の如く我を打ちたり 
                           (広瀬満智子) 
 
▼原爆展中止となりて辞職せし米国人あり原爆忌に来る 
  広島に修学旅行にゆく孫よ被爆のさまをしかと見て来よ 
                           (藤田喜美子) 
 
▼見上げたる原爆ドーム無音にて血の夕焼に背筋が揺れる 
  亡友の声 古ぼけた靴で踏まないで全身熱傷(やけど)が痛むから 
                            (村本節子) 
 
▼「核武装すべし」と本音ポロリ吐き失職せしは笑えぬ漫画 
                            (山城 繁) 
 
▼被爆者に餅手渡すを妻と終え夕べやすらぎ街の灯点る  (横田 正) 
 
▼宮参りの初孫胸にあたたかしつつしみ思う今日原爆忌  (横溝和子) 
 
▼長崎に平和を誓うと今年また孫旅立ちぬ休暇をとりて  (吉岡よし) 
 
▼広島の川で泳ぎを覚えたる母が今年も「もしも」を言えり 
                            (吉田恵子) 
 
▼被爆の死者ひとり蔵へる一年にひっそりつづき来る二〇〇〇年 
                           (米川千嘉子) 
 
▼慰霊塔の銅版に刻まれし兄の名を屈みていくども夫は撫でおり 
  河川敷にボール蹴りあふ少年ら原爆ドーム見て来しまなこに 
                            (和田親子) 
 
 
 『平和万葉集』に収録されている作品は、平和の問題をテーマにしつつ、さまざまに詠われているもので、貴重な作品のなかから「核を詠う」のこの連載のテーマに沿って抄出することは、やむをえないとはいえ残念だがお許しを願うしかない。次回もこの歌集の作品を読みたい。  (つづく) 


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