2013年09月29日01時53分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201309290153190

文化

パリの散歩道  シャルルビル=メジエール

  パリから東に240キロ離れた街、シャルルビル=メジエール。日本人にはあまりなじみのない名前かもしれないが、人形劇の国際フェスティバルが2年に一回開かれている。9月20日から29日の10日間の公演期間に世界中から人形劇団が集まってくる。実は世界的に有名な祭典で1961年に始まり、今年で17回目。かつては3年毎だったのが2009年から2年毎になり、フェスティバルの規模も年々発展しているようだ。今回、パリで取材中のアーチストがこのフェスティバルに参加することになり、取材でついていった。 
 
  シャルルビル=メジエールはベルギー国境から10キロ、ルクセンブルクから5キロである。フランスから見れば辺境だが、周辺国から見れば近い場所なのだ。街並みは建物が三階建と比較的低層で、中心街の外壁は黄土色で統一されている。パリに比べて古風な印象だ。人口は約5万人。産業は金属産業が伝統的に強い地域で、またルノーの組立工場もあるそうだ。この界隈アルデンヌ地方は猪でも知られ、車でパリからシャルルビル=メジエールに向かっていると巨大な猪の立体彫刻がある。猪と鉄鋼をかけあわせたオブジェだ。この街が2年に一度、人形劇フェスティバルの期間になると、街中の商店のショーウインドウに操り人形が並ぶ。 
 
  今年の出し物は中国の人形劇団による「セチュアンの影」、チリの人形劇団の「おもちゃは嘘をつかない」、南アフリカの人形劇団の「ウロボロス」、カナダの人形劇団の「無知」、ブルガリアの人形劇団の「タンバ・ルンバ」、ベルギーの人形劇団の「アトリエで」、フランスの人形劇団の「エデンの園」など。街中の30箇所の施設を使って入れ替わり、上演を行う。1つの舞台のチケットは大人18ユーロ、子供10ユーロが基本料金だ。 
 
  街の広場や通りのあちこちでも人形使いが様々なパフォーマンスをして観光客や市民の注目を集めている。自転車のチューブを使い、ピンポン球で目をつけ犬の人形を作り、ハーモニカでブルース調のけだるい見世物をしていた男がいた。パリからやってきたフランソワ・モネスチエ氏だ。こうした街角での見世物は無料で気に入ったらチップを払う。 
 
  類人猿が火に近づき、やがて歩行を始め、だんだん人間になる様子を表現する人形使い、人形とともにダンスをする女性、あるいは色彩のついたセロファンで形を作り、そこに光を投影して白幕で森と少女と動物たちの冒険物語をする劇団もあった。人形劇という古来から存在する極めてローテクの技がかえって新しい。人間が集まり、息を潜めてすぐ目の前のスペクタクルに注目する、これこそきっと劇の基本なのだから。 
 
  世界中から集まってくる人形劇団のスタッフは民家に分散して無料で泊めてもらう。すべてボランティアで、150軒くらいこういう家があるそうだ。実は筆者も取材ということで人形劇のアーチストと同じ民家に泊めさせていただいた。ルシューさんご夫妻で、3人の子供はすでに巣立っており、今年初めて家の空き部屋をフェスティバル参加者のために提供したのだという。「私たちにとって、こうして人を招くことは喜びなんですよ」と言われると嬉しくなる。 
 
  夜、取材から帰ると、家で地ビールやワイン、ウイスキーなどを飲みながら、日本の風物、地理、漢字と日本語の関係、文楽や気候などについてとめどなく話をする。テレビの画像を通してより、こうして人と直接対面して話をするのが楽しみなのだという。それは僕も同じだった。また僕はご夫婦に夏のバカンスはどこに行くのか?と訪ねてみた。 
 
  「海外だと、フランス領のグアドループ(島)とレユニオン(島)に行きました。素晴らしい楽園です。魚も美味しいですよ」 
 
  ご主人がメガネを取り出したと思うと、奥から世界地図を持ってきてくださった。グアドループはカリブ海に、レユニオンはマダガスカルの近くにある。また、フランス南部の地中海沿いや、中部の山にテントを携えていくことも多いようだ。このテントはご主人が実際に奥から持ってきて居間で組立てて見せてくださったが、わずか1分で立てられる驚きのテントである。これを海水浴にも、山にも持っていくのだそうだ。うらやましいのは平均5週間夏休みがあり、電気会社に務めるルシューさんのご主人の場合は8週間まで取れたそうだ。 
 
  朝起きると、庭のりんごの樹と桜の樹を見せていただいた。このりんごでコンポートと呼ばれるジャム状の菓子を作っていただいた。トマトや木の実など身近な食材を活用し、菓子も作っているようだ。それがとても美味い。この街の人はこういうものを食べて大人になっていくのだろう。地元の人には当たり前の生活かもしれないが、どこの産地の産物かわからないものを日頃食べている僕から見ると、すごく新鮮である。リンゴは日本のリンゴより一回り小さい。庭で成るので農薬の心配もゼロだ。 
 
  全体に街の人々のゆとりを感じることができた。街の建物には乱雑な看板や広告がなく、街並みはいたって美しい。ルシューさんご夫妻に案内されて街を歩くと、ムーズ河が蛇行して流れ、白鳥たちや鴨たちが水面に浮かんでいる。その脇にアルチュール・ランボー博物館がある。ここは詩人ランボーが生まれた街としても知られているのだ。 
 
■人形劇の国際フェスティバルのウェブサイト 
http://www.festival-marionnette.com/ 
 
■街角で上演され好評を博していた影絵芝居の1コマ 
http://a133.idata.over-blog.com/4/43/78/43/La-Luciole-ecarlate/5794h-DSC04965.JPG 
  アヴェイロンを拠点にしているLa compagnie La Lucioleによる<Bavard'ages>という影絵三部作。ユーチューブの紹介映像がある。観衆はあまりの美しさに絶句。 
http://theatredombres-actu.over-blog.com/article-bavard-ages-par-la-compagnie-la-luciole-ecarlate-79973232.html 
 
 
■パリの散歩道11 パリのブッキッシュな青春「1969年」  村上良太 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201009182202136 
 
 
■パリの散歩道5 個性的なパリの書店に忍び寄る危機  村上良太 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201004041428370 
 
 
■パリの文化の危機  家賃の高騰で書店が閉店  芸術家は郊外へ 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201310262321046 
 
 
■パリの散歩道12 詩人プレヴェールと「自由の街」  村上良太 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201009190518140 
 
 
■フランスのレピュブリック広場で続く人々の大討論会 'Nuitdebout'(立ち上がる夜) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201605261957504 
 
 
■フランスの現地ルポ 「立ち上がる夜 <フランス左翼>探検記」(社会評論社)  村上良太 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201807202152055 
 
 
■レイラの4度目の挑戦〜欧州議会議員に当選〜   村上良太 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201905281430292 
 
 
■画廊主コリーヌ・ボネ氏 Corinne Bonnet(la galerie Corinne Bonnet) 芸術家と今の世界 Artists and the world 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201602231840342 
 
 
■パリの画家/漫画家のオリビア・クラベルさんにインタビュー Interview Olivia Clavel 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201603151831552 
 
 
■【フランスからの手紙】(1)パリは生きているか?〜パリの春・本の見本市〜Le printemps a Paris : le Salon du Livre  パスカル・バレジカ 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201003272121136 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。