2013年10月04日12時21分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201310041221415

文化

【核を詠う】(125)『平和万葉集 卷三』から原爆・原発詠を読む(4) 「詠まずにはゐられで詠みし正田篠枝描(か)かずにゐらで描きし丸木俊はや」   山芳彦

 『平和万葉集 卷三』を読んできたが、今回で終ることになる。原爆、原発に関して詠われた作品を抄出、記録させていただいたが、13年前に編まれたこの作品集を、現在の政治・社会の状況を踏まえて読んで深く共感する短歌作品の多くに出会えたと思っている。 
 
 平和、核、憲法、歴史認識をはじめ、とりわけ原子力の問題では2011年3・11の福島原発事故によって核兵器であるかエネルギー源としての利用(原発)であるかに関らずに持っている人間、自然とは共存する事が出来ない危険な本質が深刻な形で明かされているということも含め、きわめて大変な事態が進んでいることを、13年前の短歌作品を読みながら、いろいろな意味で、改めて痛感させられた。 
この『平和万葉集 卷三』が編まれた2000年当時には、「戦争法」(新ガイドライン法)、周辺事態法、盗聴法、国旗国家法、憲法調査会設置などが進められ、人々の生活権の根底が切り崩されつつあった。そのような危険な国家権力の策動への抵抗、異議申し立ての一つとしての『平和万葉集』の編纂、刊行であった。もちろん意義あることであった。しかし、それでも権力を握る勢力は、彼らの目指す道を進み続けてきたことも、確かである。単純に言うのではないが、平和、基本的人権、国民主権、憲法の精神を掘り崩す、計画的な策動が今日に至るまで続けられている。安倍政権の政治姿勢と政策はまさにその歩みを大きく進めているといえよう。 
 
 筆者自身にとって、この13年どのように生きてきたのか、そして今どのように生きなければならないかを問われているような思いを、強く持った。 
 ついにここまで来てしまったのか、と愚かにも、今このような危うい状況に至って強い危機感を感じている。安倍政権の出現を許してしまうような、これまでの時代状況の延長上にあるのだけれど、そこは底知れない危機の淵であるというべきところに、私たちは立っているのではないだろうか。 
 
 今、『平和万葉集』が編まれたら、歌壇に限らず多くの詠う人はどのような作品によって現在を表現し、平和への思い、願いを訴えるであろうかなどと思ったりもしている。もちろん、拙いながら詠うものの一人としての自分への問いかけでもある。詠うことと生きることは、もちろん切り離せないと思っている。どのように、今を生きるか、抽象的、観念的にではなく考えなければならないと、『平和万葉集』を読んで、強く思っている。 
 
 なにやら、具体的なことに触れないままに抽象的なことを記してしまったが、今は『平和万葉集』の作品を読むことにしたい。今回記録した作品のなかに、著名な歌人の一人である来嶋靖生氏の「詠まずにはゐられで詠みし正田篠枝描(か)かずにゐられで描きし丸木俊はや」の一首があり、強くひびいた。筆者はこの連載の中で(13〜29回)正田篠枝さんの広島原爆被爆からの生涯を追うかたちで作品を記録したこともあり、来嶋さんの一首に共感する事が大であった。 
 今回はかなり多くの作品になるが、お許しください。 
 
 
  〇核なき世紀を(抄)◆察
 
▼人類が核廃絶を遂ぐる日よ喝采のための吾が掌は老いず(笠原さい子) 
 
▼地下核実験重ねてゆかば此の地球は流星群となりて消えなむ 
                            (金井節子) 
 
▼老いたれば孫の代おもく想いつつ反核平和の初志たしかめる 
                            (金子良一) 
 
▼陽に灼くる原爆ドームの骨組を二十世紀の語り部とせむ (鹿子茂雄) 
 
▼荊冠の原爆ドームオブジェめき遠き眼ざしに若きら見上ぐ 
                            (神谷佳子) 
 
▼魂もはらわたもなき千羽鶴捧げて原爆碑立ち去りがたし (苅部雪江) 
 
▼詠まずにはゐられで詠みし正田篠枝描(か)かずにゐられで描きし丸木俊はや                       (来嶋靖生) 
 
▼被爆五十二年核兵器廃絶への方途なお冥(くら)く鬼哭啾々も幻ならず 
                            (北岡忠憲) 
 
▼被爆者へわが胸底の鎮魂歌(レクイエム)託して友を焼津へ送る 
                           (熊木勢代子) 
 
▼ひろしまのほのほのなかにゆきくれてすべなく死にし子らの偲ばゆ 
                            (栗原克丸) 
 
▼菩提樹の国の地下核実験の巨大暗愚よ ぼだいじゅの花 
 時じくの核の木の実はアジアにも実りぬインド・パキスタン・中国 
(小島ゆかり) 
 
▼原爆の碑に祈る子ら誓いおり二十一世紀は平和の時代ぞ (坂本宜夫) 
 
▼千羽鶴に幼き文字みな記されてうずたかくあり三吉の碑の前 
                           (佐久間佐紀) 
 
▼核廃絶訴えつづけしヒロシマの爆心地より翔ぶ白鳩の一群 
  原爆に焼き爛れたるロザリオのくるすに熱き祷り聴ゆる 
                           (佐藤智恵子) 
 
▼ヒロシマの魂鎮めんと黙祷すその一分間の重く過ぎたり (佐藤靖彦) 
 
▼原爆資料館/小学校の修学旅行で見た/爪先に皮ぶら下げて立つ/母子のマネキン 
 原爆ドーム見上げ/慰霊碑に手を合わせた日が/宮島よりも心に染みた/修学旅行                      (階見善吉) 
 
▼広島と長崎・ビキニ/三度もの/被爆忘れぬ、慟哭日本 (芝川 学) 
 
▼地の民の十度(とたび)を誅しなお余る「核」も世紀を越えゆくらんか 
                           (鈴木諄三) 
 
▼原爆を生みし人々逝きにけり核廃絶の願い託して 
 いましばし生き継ぎ核の廃絶を見届けむとす果敢無けれども 
                           (鈴木忠衛) 
 
▼英訳の原爆の詩集を朗読す吉永小百合はまなこうるませ (鈴木りえ) 
 
▼片脚となりし鳥居が風雪に耐えし歳月原爆のあと 
 戦いの終りて春はいくたびか「永井隆」の終焉の家   (関田昌江) 
 
▼「0(ゼロ)」という美徳のありぬ豪州のテレビが示す原子施設数 
                           (高倉洋子) 
 
▼惨状を見るに耐えかね原爆の資料館を出しという白い顔して 
 助け求む人の声する心地せり白き夾竹桃の花散る広島  (角田満江) 
 
▼軍国主義に染められ被爆せし国ぞ子孫へ平和を守りゆくべし 
                          (外山とく子) 
 
▼時たてど忘れ難かり長崎の坂に運びし瀕死の被爆者 
 雲の峰わく空見れば長崎の被爆の死臭甦りくる     (西村康次) 
 
▼声静め原爆詩集読み終えし吉永小百合目を閉じて立つ  (野田忠昭) 
 
▼涙ながし被爆の街を語りたるガイドの話し洩らさじと聞く(花井一男) 
 
▼手さぐりに核兵器まであらしめしホモ・サピエンスこのろくでなし 
                          (浜田蝶二郎) 
 
▼平和像描ける子らの画用紙に鳩の三羽も並んで居たり 
 祈念像と共に濡れゐる花束の平和の色を滲ませてをり (原岡八千代) 
 
▼二十世紀一番の悪を問われれば原爆投下と応えて已まず 
                         (ふくだみのる) 
 
▼原爆忌めぐれば祖母は口癖に生命の重みを繰り返し問う (本間礼子) 
 
▼目には目を 核には核を、ノーモアの声は届かず 啼きめぐれ鳩! 
                          (松下紘一郎) 
 
▼この夏もひまわり咲けば話しておこう広島のこと長崎のこと 
                           (松本信子) 
 
▼自衛の核標榜しつつ狂ひ行くフランスに凌辱されつぐムルロア 
 被爆死の幾十人戸籍上死者たらず 眩む 八月のそらの藍青 
(水落 博) 
 
▼息をのみ原爆資料館巡りけりこの憤りたれにつげなむ 
 被爆して逝きし人らの名簿干され烈日の空また巡り来る (水澤正夫) 
 
▼平和をと吉永小百合朗読す「第二楽章」命のひびき 
 二〇〇〇年非核平和の日めくりに応募の一言掲載される (光田正男) 
 
▼ジュネーブの原爆展で鶴折れば吾を呼びとめる難民の子は 
                           (美帆シボ) 
 
▼新たなる四千九百余柱の加わりし原爆碑 五十三年めぐる夏の日 
                           (宮野 素) 
 
▼CTBT批准せざりしアメリカに物言わざりし被爆国日本 
                          (宮本加津子) 
 
▼原爆のふかき疵痕晒しつついまだ生きつぐ梧桐の幹 
 惨害の原爆ドーム見据えつつ一振りつよく平和の鐘打つ (村本化石) 
 
▼夾竹桃の花あかあかと炎えさかる然(しか)くひろしま原爆忌にて 
 かの惨をあますなくなほ陽に曝す原爆ドーム視野のかぎりに 
                          (持田三枝子) 
 
▼飢えし日よ焼かれし友よ原爆よ痛恨の八月きょう断食す (森 文子) 
 
▼五十年経しヒロシマに来ぬ慰霊碑に立てば新たなる涙は湧くも 
                           (矢農リン) 
 
▼「全世界核なき願ひ文化の日」父の残せし一句貴ぶ   (山内陽子) 
 
▼原爆忌同胞のなきがら偲びつつ八時の時報に時計を合わす(山崎孤蘆) 
 
▼閃光に天地くだけて五十年ことしも空の青かわりなく (山原健二郎) 
 
▼原爆ドーム空に映して五十余年思いはつきずヒロシマの夏 
(山本あや子) 
 
▼壁に黒き雨あと残る焼けただれし人らが口に求めたる雨 (渡辺仁八) 
 
 
  〇意志をあらたに(抄)〇 
 
▼反核の祈りをこめて黙祷す原爆忌の来て五十四回目の夏 (飯島陽子) 
 
▼『はだしのゲン』に声上げ泣きし吾子は今声もなく観入れり映画『黒い雨』                   (市野すなを) 
 
▼若きらが「反核署名」肯ずる姿頼もし成人式の朝    (今井孝子) 
 
▼累累たる屍の重なる太田川爆死せるうからよいづこの水底 
 
 動乱の時期(とき)を過ごせし半世紀核廃絶の街頭に立つ(岩田瑠璃子) 
 
▼君の名が核廃絶を促すと高校前に説く元教師     (大久保文子) 
 
▼陽に焼けし顔輝きて反核の通し行進のロマン語りぬ 
 足癒えて踏み出す平和行進に旗は時折り頬撫づるなり (大久保禮吉) 
 
▼「僕広島」反核署名にかけよりて友にすすめし青年の顔(小原喜代子) 
 
▼核実験強行したるパキスタンにファックス送る「返事下さい」 
                            (梶田敏子) 
 
▼原爆を許すまじと集うピースジャム世界に響け若人の声(加藤トシ子) 
 
▼「生存の罪」贖うはただ一つ語り部の道と被爆者が言う 
  五十年後(のち)の日射しかくあらん朝顔萎ゆる八月六日  (角川洋一) 
 
▼金もなき名もなき吾等集いして数もて迫る核兵器廃絶  (金沢邦臣) 
 
▼葉を垂れし欅に夏陽照りつけて切せつときょう反核集会 (冠木京太) 
 
▼原爆展声無く巡り折り鶴を家族の数だけ折りて手向けぬ (川目 孝) 
 
▼降り立ちし夏広島の灼ける道を「世界大会」へと心高ぶらせゆく 
                            (菊池基子) 
 
▼「核兵器なくせ」のゼッケン背に着けて愛犬タローの平和行進 
  賑やかにルーズソックスの一団来て核廃絶の署名してゆく 
(熊沢淳子) 
 
▼核廃絶の話に聞きいる膝の上にそっと廻りくる原爆写真 (小西壽子) 
 
▼二〇〇〇年のきさらぎに古希迎う吾れ 核廃絶を 生きがいにして 
                            (小森香子) 
 
▼さくらばな吹きくる中を「核廃絶」の集会いよよ熱をおびてき 
                            (佐藤阿幾) 
 
▼広島へと猛暑の中を行進するしたたる汗も爽快なりき  (杉田香織) 
 
▼関ヶ原へ反核の列のぼりつめ梅雨に重たき「旗」手わたしぬ 
                            (杉原恭三) 
 
▼反核のこころ込めたる折鶴を集いてつなぐ色とりどりに (鈴木園子) 
 
▼反核のデモ短けれど若き等と肩寄せゆけばこころ弾みぬ (鈴木頼恭) 
 
▼毎年の平和行進に汗流す夫の被爆後五十有余年     (妹尾清子) 
 
▼夏、ポートタウンゼントに韻かいし原爆詩朗読をアメリカ人が聴く 
                            (太宰璃維) 
 
▼人智より生れしものなる核兵器無き日来るまで生きてありたし 
                            (玉垣 遼) 
 
▼久保山さんの遺言空し三度また放射能浴び亡き人の出る (手島久子) 
 
▼建て前は核積まずとぞ入港のモービル・ベイに子も連れ厳寒のデモ 
                            (棟 幸子) 
 
▼生きていまあるゆえ暑しナガサキの灼くる舗道に非核訴う 
                           (長崎田鶴子) 
 
▼核反対署名して来て滾る鉄打てば怒りの火花散り飛ぶ  (野尻 供) 
 
▼核兵器廃絶ねがひ校門に署名あつめぬわが名も記し   (日上久子) 
 
▼半世紀癒ゆることなき被爆者の叫びを伝えん核持つ国に 
(平松千恵子) 
 
▼夏至れば今年も子らに「ひろしまのピカ」を読みやる執念のごと 
                            (廣田禎子) 
 
▼駅頭でピカ廃絶を呼びかければ世界の草の根声響き合う (藤本次郎) 
 
▼五千百万の核廃絶署名たずさえる使者なる吾らおし黙りいつ 
                           (三崎ミチル) 
 
▼眼の手術受けたる義母のなしくるる反核署名はたどたどしかり 
                           (宮地さか枝) 
 
▼燃ゆる雲に三吉を思う人間の命おもほゆ八月の空    (森松文雄) 
 
▼核兵器とわに爆ずるな幼子の手にくるくると青き地球儀 
                           (吉村キクヨ) 
 
▼反核を共に唱えし亡妻に告げて孫ら二人とヒロシマへ発つ 
(若林義文) 
 
▼核廃絶なしとげてこそ新しき世紀とよびて子らに託さん 
 反核の署名なしいる若者の茶色の髪に夕陽かがやく   (脇山靖子) 
 
 
『平和万葉集 卷三』から核を詠った短歌作品を抄出して読んできた。このアンソロジーは平和を求める作品を、二十一世紀を迎える2000年に、刊行発起人の呼びかけに応えて応募した1638人を越える作者の3274首によって編まれたものであり、多彩なテーマの作品が寄せられている。その中から、筆者がこの連載の「核を詠う」作品として読んだ作品を抄出させていただいたのだが、すべてを誤り無く収載できたか不安なしとしない。誤りがあればお詫びしてご容赦をお願いするしかない。 
 
 次回も核・原子力に関る作品を読んでいきたい。     (つづく) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。